キケロ『喜劇俳優ロスキウス弁護』

対訳版


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PRO ROSCIO COMOEDO ORATIO M. TULLI CICERONIS

キケロ『喜劇俳優ロスキウス弁護』(前76年、30歳)

I. [1] (これ以前の原文散逸)どうしてこんなに性格の悪い人の言うことが信じられるだろうか。高い信用があって性格の立派な人なら、当然自分の帳簿を証拠として裁判に提出しようとするだろう。

 正直な人間に帳簿を作らせて支出額を記入する人なら、ほぼ常に次のように言うものである。「こんな正直な人間を買収して、私のために帳簿に嘘を書かせたり出来たでしょうか。」

 だから、ガイウス・ファンニウス・カエレアが次のようなことを言うのが私は待ち遠しい。「この偽りに満ちたこの手とこの指で、私は嘘の金額を書き込めたでしょうか」と。

 しかし、もしファンニウスが帳簿を提出したら、ロスキウスさんも自分の帳簿を提出するだろう。彼の帳簿にはその金額が書いてあるだろうが、ロスキウスさんの帳簿には書いてはいないだろう。

[2] ロスキウスさんの帳簿よりもファンニウスの帳簿の方がどうして信用できるだろうか。ロスキウスさんはファンニウスには書き込みを許していないのに、ファンニウスは自分の帳簿に支出額を書き込んだのだろうか。それとも、ロスキウスさんはファンニウスには書き込みを許したのに自分の帳簿には書き込まなかったのだろうか。

 貸していない金額を帳簿に書くのは恥知らずなことだが、それと同じように、借りた金額を帳簿に書かないのは恥知らずなことだ。本当のことを書かない人の帳簿は、嘘を書く人の帳簿と同じく非難される。

 さあ、我々の言い分に有力な根拠に自信のある私がどこまで行けるか見ておけ。我々はもしファンニウスが入出金帳簿を提出するなら、そこに自分の為に好き勝手なことが書いてあって、皆さんが彼に有利な判決を下しても異議を唱えたりはしない。

[3] 兄が弟を、父が息子をどんなに信用していても、弟や息子が帳簿を好き勝手に書くことを認めたりはしない。しかし、ロスキウスさんは認めると言っている。だから、ファンニウスよ、帳簿を提出しなさい。お前が信じていることをロスキウスさんも信じると言っておられるのだ。お前が正しいと思っていることをロスキウスさんも正しいと思うと言っておられるのだ。

 少し前に私たちはマルクス・ペルペンナ氏(=法律顧問)とパウルス・サトゥリウス君(=敵方の証人、弁護人)の帳簿の提出を求めたが、今回はガイウス・ファンニウス・カエレアよ、お前一人の帳簿を要求する。そして、その帳簿に基づいて訴訟が結審しても、我々は異議を唱えないのだ。それなのにどうしてお前は帳簿を提出しないのか。あの男は帳簿を作っていないのだろうか。

[4] とんでもない。彼は帳簿を几帳面に付けている。では少ない金額は帳簿に書かないだろうか。そんな事はない。どんな金額でも書いている。ではこの金額は些細な金額だろうか。10万セステルティウスだ。こんなとてつもない大金をお前はどうして書かないことがあるだろうか。どうして入出金帳簿に10万セステルティウスが書いていないことがあるだろうか。

 一体全体、こんな図々しい人がいるだろうか。自分の帳簿に記入するのをためらうような金を人に要求するとは。宣誓の不要な帳簿に記入する気になれなかった金を、法廷で堂々と宣誓して要求するとは。自分で信じてもいないことを他人に信じ込ませようとするとは。

II. [5] 二 あの男は言う。「彼が帳簿の事で非難するのはまだ早い。確かにこの金額を入出金帳簿に書いていないことは認めるが、手帳にははっきり書いてある」と。お前は帳簿ではなく手帳を根拠に金を要求するほど自惚れて思い上がっているのか。証拠の代わりに帳簿を読み上げるだけでも厚かましいことだ。自分で書いたり消したりできる手帳を証拠に提出するとは頭がおかしいのではないか。

[6] もし手帳に帳簿と同じだけの正確さと信頼性があるなら、帳簿を作って記録したり、整理したり長く保存することに、どんな意味があるのか。しかし、もし手帳に書いた事は信頼性に欠けるから帳簿を付けるようになったのなら、誰もが信頼性に欠けると思う物を裁判長は極めて信頼性があると思うだろうか。

[7] 我々が手帳にぞんざいに書くのはどうしてか。帳簿には丁寧に書くのはどうしてか。それは何のためか。それは手帳は短期のものであるのに対して、帳簿は永遠に残るものだからだ。手帳はすぐに捨てるものであるのに対して、帳簿は大切に保存するものだからだ。手帳には束の間の記憶が託されるのに対して、帳簿には尊敬と信頼に満ちた永遠の名声が託されるからだ。手帳はばらばらに書かれるのに対して、帳簿は順序立てて書かれるからだ。だから、法廷に帳簿を持ち出して読み上げる人はいても、手帳を法廷に持ち出す人はいない。

III.三 裁判長(ガイウス・ピソー)殿、あなたのように信用と威厳と権威のある人でも、手帳を根拠に金を要求する勇気はないはずです。

[8] 私は習慣上明白な事をこれ以上長々と言う気はありません。問題の核心に関わることを質問しましょう。

 ファンニウスよ、お前がこの金額を手帳に書き込んだのはどれくらい前のことだ。あの男は赤面している。どう答えたらいいか分からないのだ。どうごまかせばいいか咄嗟に思い付かないのだ。彼は今から二ヶ月前だと言うかもしれない。しかし、彼はそれを入出金帳簿に記録すべきだった。

 いや半年以上も前だと彼は言うかもしれない。では、そんなに長い間その金額をどうして手帳に書いたままにしていたのか。三年以上も前だとしても同じことだ。帳簿を作って記録する人なら誰でも月々の金額を帳簿に書き写すのに、どうしてお前はこの金額を手帳の中にそのままにしていたのか。

[9] お前は他の金額は入出金帳簿に整理して書いていないのか。どうなんだ。もし書いていないのなら、何のために帳簿を作ったのか。もし書いているなら、他の金額は帳簿に順序立てて書いたのに、どうしてこんな大きな金額を手帳の中に放置していたのか。

 ロスキウスさんがお前に負債があることを、お前は人に知られたくなかったと言う。ではお前は何故手帳に書いたのか。お前は帳簿に書かないように頼まれたと言う。では何故手帳には書いたのかね。

 ロスキウスさんはファンニウスに債務がないことは明白だと思うが、その証言をファンニウス本人から引き出すまで私は満足しない。私がやろうとしている事は大変な仕事だ。私が約束しているのは困難な仕事だ。しかし、ロスキウスさんが敵方を証人として喚問するまでは、私は彼には勝って欲しくないのだ(=十三章)。

IV. [10] 四 お前は(=調停によって)確定した債権があるし、その要求のために裁判を起こしたのであり、法の定める保証金の手続きもした。その場合、もしお前が要求する金額がお前の債権より1セステルティウス多くても、この裁判はお前の負けだ。なぜなら裁判と調停は全く別物だからだ。

 裁判は確定した金額を争うものだが、調停は確定していない金額を争うものだ。我々は裁判に臨むときには完全に勝つか負けるかだと思っている。それに対して、調停に臨むときは要求を全部勝ち取れなくても手ぶらで帰ることはないと思っている。

[11] この事は手続きの様式を見れば明らかだ。裁判の様式はどうなっているか。正確で厳密で簡素だ。例えば「五万セステルティウスが支払われるべきであることが明らかなら」という具合だ。この場合、原告はきっかり五万セステルティウスの債権があることを証明できないと訴訟は負けになる。

 調停の様式はどうか。大まかで柔軟だ。例えば「より正当で公正に近い金額が返還されるべきである」という具合だ。この場合、申立て人は自分の債権より多めに要求していることを認めるが、調停官が承認する金額で充分満足だと言う。だから、訴訟の場合、原告は訴えに自信を持っているが、調停の場合、申立て人に確信はない。

[12] 以上のような次第だ。それなのに、どうしてお前は帳簿を証拠としながらこの五万セステルティウスについて調停を申し出たのか、どうして調停官を選任して、より正当で公正に近い金額の返還を求めたのか、私は聞きたい(=37節参照)。

 この件の調停官は誰だったのか。ローマの人ならと思うと、ローマの人だ。この法廷にいる人ならと思うと、この法廷にいる人だ。この裁判長の法律顧問の中の人ならと思うと、この裁判長(ガイウス・ピソー)その人なのだ。

 お前は調停官と裁判長に同じ人を選んだのか。お前は調停官として無限の裁量権を与えたのと同じ人を、保証金の厳格この上ない様式に閉じ込めたのか。

 これまで調停で誰が自分が要求しただけの金額を手に入れた人がいるか。誰もいない。なぜなら、申立て人はより公正に近い金額の返還しか要求しないからだ。ところがお前は調停で争ったのと同じ金額を裁判でも争っている。

[13] 他の人たちは裁判で自分の言い分が危ういと見て調停に逃げ込むのに、この男は大胆にも調停をしてから裁判に来たのだ。しかし、この男は帳簿を証拠としながらこの金額について調停を求めた時に、自分にはそんな債権はないと分かっていたのだ(=帳簿に自信があれば裁判するはず)。

 すでにこの訴訟は三分の二が終了した。彼は帳簿を証拠として提出しなかった時点で、自分は金を支出していなかったし、債権額を帳簿に書いていなかったと言っているのと同じだからだ。

 彼に残されているのは、ロスキウスさんに返済の誓約を取り付けたと言うことだけだ。なぜなら、確定した金額を要求する方法は他には見当たらないからである。

V. 五 ではお前はいつ何日のどの時点で誰の同席のもとでロスキウスさんに返済の誓約を取り付けたのか。当方がそんな誓約をしたと証人の誰かが言っているのか。そんな証人はいない。

[14] もし我々がここで弁論を終えても、私は我々の信頼性と正確さを充分に証明したし、我々の立場と主張を充分に述べ、保証金の様式についても充分に話したので、ロスキウスさんに有利な判決を下すべき理由を裁判長に対して充分に話したと思う。

 確定した金額が要求され、三分の一の保証金が支払われた。この金額は実際に支出したか、支出の記録があるか、返済の誓約を取り付けたかのどれかでなければならない。ところが、ファンニウスはその金額を支出していないことを自白している。また、ファンニウスの帳簿からその金額を支出した記録がないことは確実である。また、その金額の返済の誓約を取り付けていないことは証人たちの沈黙から明らかだ。

[15] このうえ何を言うことがあるだろうか。というのは、被告人は金のことなど何とも思っていない高潔極まりない人物だし、裁判長は我々に対して有利な判決を下すだけでなく我々を高く評価して欲しいと思うような人物だ。また法律顧問の皆さんは優れた裁判長と同じだけの尊敬を払うに値する素晴らしい人たちなのだから、私はこの裁判の様式(=11節 actio certae creditae pecuniae)の中に、あらゆる法的な判断とあらゆる法務官の裁定とあらゆる個人的な使命が含まれているものとして、以下の弁論を行うことにする。

 これまでの弁論が必然的なものだとすれば、これからの弁論は自発的なものである。また、これまでの弁論が裁判長に向けたものだとすれば、これからの弁論はガイウス・ピソー氏個人に向けたものであり、これまでの弁論が被告人のためだとすれば、これからの弁論はロスキウス氏個人のためであり、これまでの弁論が勝つためのものだとすれば、これからの弁論は世間の良い評判を得るためのものである。

VI. [16] 六 ファンニウスよ、お前はロスキウスさんに金を要求している。それはどういう金だ。遠慮せずはっきり言ってみろ。それは共有財産から貸した金なのか、それともロスキウスさんが気前よくお前にやると約束した金なのか。

 もし後者なら大した問題ではないが、もし前者なら深刻な問題だ。それは共有財産から貸した金なのか。どうなんだ。これは軽々しく扱うべきではないし、軽率に主張すべきでもない。

 個人の名誉に関わるいわば命取りとなるような民事訴訟があるとすれば、それは次の三つである。つまり、信用に関するもの、後見に関するもの、共有財産に関するものだ。人々の絆である信用を毀損する行為、自分の後見下にある人間を騙す行為、事業に参加している共同経営者を欺く行為は、どれも等しく悪質な裏切り行為である。

[17] この場合、共同経営者を騙したり欺いたりしたのは二人のうちのどちらかか考えてみよう。その人の人生を振り返れば、暗黙のうちにそれはどちらなのかはっきり分かるはずだ。それはロスキウスさんなのか。それともファンニウスよ、お前なのか。

 火は水に投げ込まれると途端に消えて冷たくなってしまうものだが、それと同じように、煮えたぎる讒訴も清潔で汚れのない人にぶつかると途端に精気を失って消えてしまうのではないだろうか。

 ロスキウスさんが共同経営者を騙しただと! この人がそんな罪を犯すことがあり得るものか。敢えて言うなら、彼は芸の人というよりは信念の人、物知りというよりは真実の人だ。だからローマの民衆は彼のことを俳優というよりは人格者と見ているし、その芸ゆえに舞台にふさわしい人であるだけでなく、その無欲ゆえに元老院にふさわしい人なのだ。

[18] しかし、どうして私は愚かにもピソー氏の前でロスキウスさんのことを話しているのか。無名な人間なら当然もっと長々と褒めるところだろう。ピソー殿、あなたがこの人以上に素晴らしいと考える人が誰かいるでしょうか。この人以上に清潔で慎み深く情に厚く律儀で気前のいいとあなたが思う人が誰かいるでしょうか。

 ロスキウスさんを訴えているサトゥリウス君はどうだ。君の意見は違うだろうか。君はこの裁判でこの人の名前に言及するたびに、この人は立派な人だと敬意を込めて呼んでいたではないか。こんな事は親友や信頼している人に対する以外にはしないものだ。

[19] だから、君がこの人を褒めたり貶したり、立派な人と言ったり極悪人と言ったりするその一貫性のなさは実に滑稽だ。君はこの人を敬意を込めて呼んだり、第一級の人間だと言っておきながら、その同じ人を共同経営者を騙した罪で告発したのかね。

 しかしながら、君がこの人を賞賛したのは本心からであり、この人を告発したのは付き合いからだと私は思う。ロスキウスさんのことを褒める時は心からそうしていたが、ロスキウスさんを告発したのはファンニウスの言いなりになったからだ。

VII. 七 ロスキウスさんが誰かを騙すだと! そんな事は誰に聞いても誰が考えてもあり得ない。たとえ相手が訴訟など起こせない気の弱い愚かな金持ちだとしてもあり得ない事だ。

[20] そんな事はあり得ない。それにも関わらず、彼が騙したという相手に会いたいものだ。ロスキウスさんがガイウス・ファンニウス・カエレアを騙しただと!

 みなさんの中で、二人のことをよく知る人には是非お願いしたい。二人の人生を比べてみて欲しい。また、二人のことをよく知らない人は、二人の顔をよく見て頂きたい。あの頭と眉毛を完全に剃った顔はいかにも悪そうで、狡猾そうではないか。

 人間の物言わぬ外見から人間の中身を推測することが出来るなら、あの男はつま先から頭のてっぺんまで全身が詐欺と嘘とペテンの固まりのように見えるではないか。頭髪も眉毛も剃っているような人は毛一筋ほども善い人だと言われたくない人だ。そんな役をロスキウスさんは舞台上でいつも見事に演じているが、その親切があの男から相応の感謝の言葉で報われたことはない。

 かのプラウトゥスに出てくる悪辣極まるポン引きバリオーをロスキウスさんが演じる時は、ファンニウスを演じているのである。この汚ならしい嫌われ者はまさにファンニウスの性格と立ち居振る舞いと生き方を表わしている。ファンニウスはどうしてロスキウスさんが自分を真似て悪質な詐欺を働くと考えたのか不思議だ。しかし、それもロスキウスさんがポン引き役を演ずるときに自分を真似ていることにあの男が気づいたのなら説明がつく。

[21] ガイウス・ピソー殿、誰が誰を騙したと言われているか、くれぐれもよく考えて頂きたい。ロスキウスさんがファンニウスを騙しただなんて! これはどういう事だろうか。正直者が悪党を騙したのだろうか。恥を知る人間が恥知らずを騙したのだろうか。高潔な人間が嘘つきを騙したのだろうか。悪事に疎い人が悪事に通じた人間を騙したのだろうか。気前のいい人間がドケチな人間を騙したのだろうか。そんな事はあり得ないことだ。

 だから、ファンニウスがロスキウスさんを騙したというのなら、ファンニウスがその悪辣さのためにロスキウスさんを騙し、ロスキウスさんがうっかり騙されるのは、二人の性格からして大いににありそうなことだ。しかし、ロスキウスさんがファンニウスを騙したといくら言い張っても、ロスキウスさんが貪欲に何かを欲しがり、ファンニウスがお人好しのために何かを失うとは信じがたいことである。

VIII. [22] 八 主な事柄は以上である。その他の事柄を見てみよう。ロスキウスさんは五万セステルティウスのためにファンニウスを騙したと言うなら、それは何のためか。サトゥリウス君は笑っている。彼は自分でも言うように老獪な弁護士だ。ロスキウスさんはまさに五万セステルティウスのためにファンニウスを騙したと彼は言う。なるほど。しかし私が聞いているのは、ロスキウスさんはどうしてその五万セステルティウスを欲しがったのだろうか。

 ガイウス・ピソー殿、そして法律顧問のペルペンナ殿、あなた方にとって五万セステルティウスは共同経営者を騙すほど大きな金額ではありますまい。それがどうしてロスキウスさんにとっては大きな金額だったと言えるのか、その理由を私は尋ねている。

 彼はお金に困っていたのか。とんでもない。彼はお金持ちだった。彼は借金をしていたのか。とんでもない。彼の家はお金で溢れていた。彼は強欲だったのか。とんでもない。お金持ちになる前から、彼ほど気前がよく金離れのいい人はいなかったのだ。

[23] 神に誓って言うが、ロスキウスさんは三十万セステルティウスの稼ぎを断った人だ。女優のディオニュシアが二十万稼げるのだから、ロスキウスさんが三十万稼ぐのは当然のこと。その人が悪辣にも人を騙してまで五万セステルティウスを欲しがっただろうか。

 しかも、三十万は大金だが、この五万は些細な額。三十万は真っ当な金だが、この五万は汚れた金だ。三十万は稼いで嬉しい金だが、この五万は面倒な金だ。三十万はすぐに自分のものになるが、この五万は訴訟でどうにかしようという金なのだ。

 この十年で彼はまっとうな手段で六百万セステルティウスを稼ぐことができたのに、彼はそれを断った人だ。彼は自分の生業の苦労は引き受けるのに、その苦労から得られる稼ぎは断ったのだ。彼は今までローマの民衆に奉仕することを怠らないが、自分自身に奉仕することはとっくの昔にやめている。

[24] ファンニウスよ、お前はこの人のような事をしたことがあるのか。もしこんな大金が得られたら、お前なら芝居をやり過ぎて死んでしまうのではないか。ロスキウスさんはこんな大金を怠け心のためではなく計り知れない気前のよさのために断ったのだ。お前はそんな人に五万セステルティウスを騙し取られたと言うがいい。

 皆さん、私は皆さんの心に浮かんでいることが何であるか、もう分かっています。それをあえて言う必要があるでしょうか。ロスキウスさんが共同経営でお前を騙しただなんて。損害の種類と訴訟の方法を間違わないようにと、どんな訴訟にも法律と様式が定められている。損害と苦痛と不利益と被災と傷害にはそれぞれ法務官によって定められた様式があって、民事訴訟はそれに合わせて行われる。

IX. [25] 九 それなのにお前はどうしてロスキウスさんを共同経営者のための調停官のもとに呼び出さなかったのか。そこを聞きたい。様式を知らなかったのか。それは有名なものだ。相手を厳格な裁きにかけるのが嫌だったのか。どうしてだ。ロスキウスさんは昔なじみだからか。それならどうして今になってロスキウスさんを困らせるのだ。彼が完璧な人だからか。

 ではどうしてロスキウスさんを告訴するのか。彼の犯した罪の大きさのためか。本当にそうなのか。お前はこの事件の管轄の調停官に訴えてもどうせ勝てないので、この訴訟を調停する権限が全くない裁判官に告発するのか。こんな告発を然るべきところへしないのなら、出来ないところへ持ち込むのはやめておくことだ。もっとも、お前の告発はお前の証言によって、とっくに無効になっているのだ。

 なぜなら、お前が共同経営者を訴える様式を使おうとしなかった時点で、ロスキウスさんが共同経営者に詐欺を働いていないことをお前は明らかにしているからだ。お前は帳簿を持っているのかいないのか言いたまえ。もし持っていなければどうやって和解(=以下参照)できたのか。もし持っているなら、さっさと出したまえ。

[26] さあここで、ロスキウスさんが自分の友人を調停人にするように君に頼んだのだと言いたまえ。しかし、そんな事はしていない。ロスキウスさんは告発を免れるためにお前と和解したと言いたまえ。しかし、彼はそんな和解などしていない。彼に対する告発が無効な理由を聞きたまえ。それは彼が清廉潔白だからだ。

 実際には何があったのか。お前が自分からロスキウスさんの家に出かけて行って謝ったのだ。「急に訴訟を起こしてあなたに出廷させることになったのを許してほしい。私は出廷しない。共同事業であなたには私に対する負債は全くない」とはっきり言ったのだ。だからロスキウスさんは裁判長にこの事を届け出た。だから告発は無効なのだ。それなのに詐欺だ盗みだのと厚かましくもお前は言うのか。あの男は厚かましくも次のように言い張るのだ。「ロスキウスさんが私と和解したのは告発を免れるためだ。なぜ告発を恐れたのか。その理由は明白だ。着服したことが明らかだからだ」と。

[27] 何を着服したというのだ。あの男は大いなる期待をこめて、今は亡き役者についての共同事業のことを説明し始める。

X. 十 「パニュルグスはファンニウスの奴隷だった。それがロスキウス氏と共有になった」。この点がまずサトゥリウス君の大いに不満なところだ。ファンニウスが金で買った奴隷をロスキウスさんはただで共有したのだと。さしずめ気前がよくて金に鷹揚なファンニウスは親切心に溢れていたので、ロスキウスさんにただで共有させた。そうに違いない。

[28] この点についてサトゥリウス君が詳しく話していたので、私も少し話させて頂く。サトゥリウス君、君はパニュルグスは元はファンニウスのものだったと言う。しかし、私はパニュルグスは全部ロスキウスさんのものだったと主張する。ファンニウスの持ち分は何だったのか。それはパニュルグスの肉体だった。ではロスキウスさんの持ち分は何だったか。それはパニュルグスが受けた訓練だった。そして値打ちがあったのは外見ではなく芸だったのだ。

 ファンニウスの持ち分は四千セステルティウスもなかったのに対して、ロスキウスの持ち分は十万セステルティウス以上の値打ちがあった。なぜなら、パニュルグスの値打ちが彼の肉体にあるという人は誰もいないからだ。彼は役者の芸によって評価されたのだ。パニュルグスが自分の肉体だけで稼げた金はせいぜい十二アスだった。ロスキウスさんから受けた訓練のおかげで十万セステルティウスも稼ぐようになったのだ。

[29] 一方は四千セステルティウスを、他方は十万セステルティウスの値打ちのものを出資するような事業が、共同事業などと言うのはおかしな不当なことだ。もちろん、お前が自分の金庫から出した金は四千セステルティウスなのに、ロスキウスさんが芸の訓練によって十万セステルティウスもの金をもたらしたことが気に入らないとお前が言うなら話は別だ。

 パニュルグスはロスキウスさんの弟子になったおかげで、大きな期待と大きな熱狂と大きな人気を舞台で手にしたのだ。ロスキウスさんのファンがパニュルグスのファンになり、ロスキウスさんを褒める人がパニュルグスを褒めるようになった。ロスキウスさんの名前を聞いた人が、パニュルグスのことをよく訓練された完璧な芸人だと思ったのだ。それが大衆なのだ。彼らは真実によって判断することは稀で、たいていは評判で判断するからだ。

[30] パニュルグスがどれほどの役者か判断できる人は少なかった。誰もがパニュルグスはどこで訓練されたかを聞いた。そして、ロスキウスさんが教えたことに手抜かりはないと誰もが考えたのだ。もしパニュルグスがスタティリウスの弟子なら、仮にロスキウスさんより芸がまさっていても、誰もそれを見抜けないはずだ。なぜなら、悪い親からいい息子が生まれないように、下手な役者の弟子がうまい役者だとは誰も思わないからだ。パニュルグスはロスキウスさんの弟子だからこそ実際よりもうまい役者と思われたのだ。

XI. 十一 最近、エロスという喜劇役者の身に起きたこともこれと同じだ。彼は野次と罵倒を浴びてやむなく舞台から下がると、祭壇に逃げ込むようにロスキウスさんの名声と保護と訓練を求めて彼の家に駆け込んだ。そして短期間の間に、最低以下の役者から最高クラスの役者になったのだ。

[31] パニュルグスを無名から引き上げたのは何だったのか。それはただ一つロスキウスさんの推薦だった。しかし、ロスキウスさんはパニュルグスを自分の弟子と言われるために自分の家に住まわせただけてなく、苛立ちながらも苦労して彼を仕込んだのだ。実際、才能ある名人ほど、人に教える時にはイライラして苦労する。名人は自分が簡単に身に着けたことを生徒がなかなか出来ないのを見ると苛立つからだ。

 この問題について私の話は少々長くなってしまった。それもこの共有財産の性格をよく知って欲しいからだ。

[32] ファンニウスは次にどう言っているか。それはこうだ。「この共有財産である奴隷パニュルグスはタルクイニーのフラウィウスという男に殺されてしまった。この問題であなたは私を代理人に指名した。審理が行われ損害賠償の裁判が行われることに決まった。ところが、あなたは私の知らない所でフラウィウスと和解してしまった」と。

 ではその和解は共有財産のうちの半分の持ち分のためなのか、共有財産全体のためなのか。もっとはっきり言おう。それは我々のためだけだったのか、それとも我々とお前の両方のためだったのか。それは我々のためだけだった。多くの前例から我々にはそうする事ができた。それは合法的なことだ。多くの人がそうしてきた。この事で我々はお前に何の損害も与えていない。お前も自分の債権を要求して取り立てればいいのだ。各々誰もが自分の権利を持っていて、それを追求していいのだ。

 「あなたはうまくやった」と彼は言う。お前もうまくやればいい。「あなたは半分の持ち分で大儲けした」。お前も半分の持ち分で大儲けすればいい。「あなたは十万セステルティウスもせしめた」。もしそうなら、お前も十万セステルティウスせしめたらいい。

XII. [33] 十二 お前がロスキウスさんの和解をうわさ話を使って誇張するのは自由だ。しかし実際はこの和解は取るに足らない地味なものだったことが今に分かる。

 ロスキウスさんが土地を受け取った時は土地の値段が下がっている時だった。その土地には家もなくどこも荒れ放題だったのだ。それが今では当時より価値が上がっている。それも不思議ではない。当時は国が荒廃して所有権が曖昧になっていた。今では神さまのおかげで財産権も保証されている。あの土地も当時は家もなく荒れ放題だったが、今ではよく手入れされて立派な家も立っている。

[34] しかし、君は生まれついてのひねくれ者だから、我々がいくら言っても腹立ちはおさまることはないだろう。ロスキウスさんはうまく交渉して実り豊かな土地を手に入れた。それが君と何の関係があるのか。君の半分の持ち分は君が好きなように交渉すれはいい。するとあの男は作戦を変更して、自分で証明できない話をでっち上げようとする。彼は言う。「あなたは共有財産全体について交渉したのだ」と。

 こうして今や全ての問題は、ロスキウスさんがフラウィウスと共有財産のうちの自分の持ち分だけについて和解したのか、それとも共有財産全体について和解したのかに掛かっている。

[35] もしロスキウスさんが共有財産のために何かを受け取っていたのなら、彼はそれを共有財産に返す必要があることは私も認める。

―ロスキウスはフラウィウスから土地をもらった時に、自分の財産についてではなく共有財産について和解したのだ。

―しかし、その場合、なぜロスキウスさんは他の共同経営者が後で金を要求しないことを保証しなかったのか。自分の持ち分だけ交渉する場合、訴訟の権利は手付かずで他の人に残しておくが、共同事業を代表して交渉する場合には、他の共同経営者があとで要求しないことを保証するものだ。どうしてフラウィウスはこの用心に思い至らなかったのか。きっとパニュルグスが共有財産であることをフラウィウスは知らなかったのだ。いや、それは知っていたが、ファンニウスがロスキウスさんの共同経営者であることを知らなかったのだ。

―いや、はっきり知っていた。なぜなら、当時フラウィウスはファンニウスとの審理に応じていたからだ。

[36] それなら、どうしてフラウィウスは和解に応じてその代わりに後から誰も要求しないという保証を取らないのか。どうしてフラウィウスは土地を手放しながら訴訟を免れていないのか。どうしてフラウィウスはロスキウスさんに保証を要求せずに、ファンニウスからまた訴えられるという馬鹿なことになっているのか。

[ 37] 以上の論点(=なぜフラウィウスはロスキウスから保証を取らなかったのか)は法の規定からも保証の慣習からも我々の主張(=フラウィウスはロスキウスを共同事業の代表とは思わなかった)の第一の最も説得力のある重要な証拠である。私はもしこの訴訟でもっと明確な証拠がなかったなら、この論点をさらに長々と追求するところだ。

XIII. 十三 私がこんな事を言うのはハッタリだと君は言うだろうが、ここで、ファンニウスよ、お前をお前自身に対する反対証人として喚問する。お前の告発内容は何だ。ロスキウスさんは共有財産のためにフラウィウスと和解したというものだ。それは何時のことだ。十五年前の事だ。

 我々の主張は何だ。ロスキウスさんは自分の持ち分についてフラウィウスと和解したというものだ。お前は三年前にロスキウスさんと約束している。何の約束か。その契約書を大きな声で読み上げてくれ。

 裁判長殿、よくお聞きください。嫌がるファンニウスに、言い逃ればかりするファンニウスに、自分に不利な証言を無理やりさせるのですから。その契約書には何が書いてあるかね。「私はフラウィウスから手に入れるものは何であれ、その半分はロスキウスに与えることを約束するものなり」。ファンニウスよ、これはお前がした約束だ。

[38] しかし、もしフラウィウスに(=ロスキウスと共有財産について和解して)もう債務がなければ、お前はフラウィウスから何を手に入れられるだろうか。ロスキウスさんは昔取り立てた金額についてどうして今頃になって契約するだろうか。フラウィウスはロスキウスさんに自分の負債を全部返してしまっていたら、君に何を返すだろうか。

 あんな古い取引き、もう完了した取引きで共有財産について解決していたら、どうして新たにこんな契約をするだろうか。

 この契約書を書いたのは誰だろうか。この契約書の証人、仲裁人は誰だろうか。それはピソー殿、あなたです。というのは、代理人として法廷に何度も出廷した報酬としてファンニウスに十万セステルティウス払うことをあなたはロスキウスさんに求めたからです。ただしそれには、ファンニウスがフラウィウスからいくらか取り立てたらその半分をロスキウスさんに支払うという条件がついていました。この契約書から、ロスキウスさんは自分のためだけに和解したことが充分明らかだとあなたには思えないでしょうか。

[39] しかしながら、ファンニウスがフラウィウスからいくらか取り立てたら、その半分を渡すとロスキウスさんに約束したが、ファンニウスは何も取り立てられなかったと、あなたは考えているかもしれません。

 それがとうだと言うのでしょう。あなたは取り立ての結果ではなく契約の原因について考えるべきなのです。ですから、ファンニウスが自分の持ち分の取り立てをやろうとしなかったとしても、それはロスキウスさんが和解で取り戻したのは自分の持ち分ではなく共有財産だったと彼が考えていたことにはなりません。

 しかし、ロスキウスさんの昔の和解の後だけでなく、ファンニウスの最近のこの契約の後で、ファンニウスがパニュルグスの件でフラウィウスから十万セステルティウスを受け取っていることをもし私が証明したら、どうだろうか。彼はこれ以上ロスキウスという立派な人間の名誉をもてあそぶつもりだろうか。

XIV. [40] 十四 先に私が質問したことは事の本質にとって非常に重要だ。すなわち、どうしてフラウィウスが全体の訴訟で和解しておきながら、ロスキウスさんから保証を取らず、ファンニウスの訴えを免れていないのか。

 さらに私は質問する。実に奇妙で信じがたいことだが、どうしてフラウィウスはロスキウスさんと全体の訴訟で和解しておきながら、別にファンニウスに十万セステルティウスを支払ったのか。

 サトゥリウス君、君はこの点にどう答えるつもりか私は知りたい。ファンニウスはフラウィウスから十万セステルティウスを受け取ってはいないのか、それとも別の件、別の理由で受け取ったのかね。

[41] もし別の理由で受け取ったというなら、フラウィウスは君たちとどんな関係だったのかね。何の関係もない。フラウィウスは君たちに借金があって君たちの言いなりだったのかね。違う。これでは時間の無駄だ。

 彼は言う。「ファンニウスはフラウィウスから十万セステルティウスをパニュルグスの件でも誰の件でも受け取ってはいない」。もし最近のロスキウスさんとの契約のあとで、君たちが十万セステルティウスをフラウィウスから受け取ったと私が証明したら、裁判に負けてこの法廷から惨めに帰ることにならないために、君たちはどんな理由を言うつもりかね。私は誰を証人としてこれを証明すべきだろうか。

[42] 確かこれは法廷で扱われた事件だった。原告は誰だったか。ファンニウスだった。被告は誰だったか。フラウィウスだった。裁判長は誰だったか。クルウィウス氏だった。私はそのうちから一人、この金額が渡されたことを証言してくれる人を証人として喚問しよう。

 誰がこの中で一番信用できるだろうか。それは誰もが推薦するような人だ。ではこの三人のうち私は誰を証人にすると君は思うかね。原告だろうか。それだとファンニウスだ。彼は自分に不利な証言はけっしてすまい。被告だろうか。それだとフラウィウスだ。彼はもうとっくに死んでいる。もし生きていれば、彼の証言を君たちは聞けるところだが。それとも裁判長だろうか。それだとクルウィウス氏だ。

 彼はどう言っているか。パニュルグスの件でフラウィウスはファンニウスに十万セステルティウス支払ったと言っている。市民名簿を見るとクルウィウス氏はローマ騎士階級だ。その人生を見ると彼は著名人だ。その信頼性を見ると彼は裁判長に選ばれるような人だ。その正直さを見ると、彼は真実を言う人だ。

[43] ローマ騎士階級の人間、正直な人間、お前が裁判長に選んだ人間、その人の言うことを信じてはならないと、君は言うしかないのだ。あの男は回りをきょろきょろ見回して動揺して、我々がクルウィウス氏の証言を朗読などするはずがないと言っている。しかし、我々は朗読する。お前の勘違いだ。お前は根拠のない望みで自分を励ましているだけだ。クルウィウス氏の証言を聞いてきた二人の元老、優れたお二人、ティトゥス・マニリウス氏とガイウス・ルスキウス・オクレア氏の証言を朗読してくれたまえ。[ティトゥス・マニリウスとガイウス・ルスキウス・オクレアの証言の朗読]。君はルスキウス氏とマニリウス氏を信用できないと言うのか。それとも、クルウィウス氏を信用できないと言うのか。

XV. 十五 もっとはっきり言おう。ルスキウス氏とマニリウス氏が十万セステルティウスのことをクルウィウス氏から聞いたとしても、クルウィウス氏は彼らにに嘘をついたということだろうか。この点について私は安心している。お前がどう答えるか私は少しも心配していない。最高の人たちの揺るぎない神聖な証言によってロスキウスさんの立場は強化されたのだ。

[44] 誰が偽証していると言うつもりか決心がついたら、答えてくれ。マニリウス氏とルスキウス氏は信用できないと言うのかね。勇気を出して言いたまえ。それはお前の頑固さと傲慢さと生き方全体の表れだ。

 何を待っているのか。私がルスキウス氏とマニリウス氏は元老であり、高齢であり、性格は高潔かつ敬虔であり、家計の蓄えは豊かであると言うとでも思ったか。私はそんな事はしない。私は彼らが潔癖に過ごした人生の当然の報酬を彼らに与えるような、思い上がったことはしない。私のような若造には彼らの賞賛が必要だとしても、立派に老いた彼らにとって私の賞賛など必要ではないからだ。

[45] ピソー殿、あなたにはじっくり考えていただかねばなりません。自分のための裁判で宣誓していないファンニウスを信用すべきか、他人のための裁判で宣誓して証言したマニリウス氏とルスキウス氏を信用すべきか、どちらでしょうか。

 ファンニウスに残されているのは、クルウィウス氏がルスキウス氏とマニリウス氏に嘘を言ったと主張することだけだ。厚顔な男だからやりそうだが、もしそんな事をすれば、以前に自分の裁判長に選んだ人の証言を信用すべきでないと言うことになるが、それでいいのだろうか。あの男はかつて自分が信用した人を信用すべきでないと言うのだろうか。かつてその信用と高潔さのために裁判長と仰いでその前で証言した、その人の証言を信用できないと、裁判長の前で言うのだろうか。もし裁判長として紹介したらその人の言うことに従うべきだと考えるのに、その人を証人として紹介したらその人の言うことにケチをつけるのだろうか。

XVI. [46] 十六 「クルウィウス氏はルスキウスとマニリウスに対して証人として発言していない」とあの男は言う。では、クルウィウス氏が宣誓して証言したら、お前は信用するのか。しかし、偽証と嘘の間に何の違いがあるのかね。いつも嘘をつく人間はいつも偽証するものだ。嘘を頼める人に、偽証するよう頼むことは簡単だ。なぜなら、一旦真実の道から外れた人間は、嘘をつくときに良心の呵責を感じないが、それと同じく偽証するときにも良心の呵責を感じないからだ。

 良心の呵責に苦しまない人間が神の罰を恐れるだろうか。神は偽証した人間を、嘘つきと同じように罰するものだ。なぜなら、人間に対する神の怒りは、宣誓を含む言葉の形式ではなく、人に対して陰謀をたくらむ悪意と裏切りに向けられるからである。

[47] しかし、私は彼の意見の逆だと言いたい。つまり、もしクルウィウス氏が証人として発言したら、その発言は今より軽いものになってしまうと私は思うのだ。というのは、裁判長として自分が扱った問題について後から証人となったら、よこしまな心の持ち主には、おそらくひどく不公平な人に見えるからだ。しかし、今回自分が知っているままを自分の友人に語るクルウィウス氏を、どの市民も汚れのない真っ正直な人間だと考えるはずである。

[48] さあ、事実と状況が許すものなら、そして、お前に出来るものなら、クルウィウス氏は嘘をついていると言いたまえ。クルウィウス氏は嘘をついたのだろうか。彼の話が真実であると思うからこそ、私はここに留まって話し続けているのだ。

 一体そんな嘘がどこから出てくると言うのか。お前の意見では、さしずめロスキウス氏はずる賢い人なのだ。そして、最初にロスキウスさんはこう考えた。「ファンニウスは私に五万セステルティウスを要求しているから、クルウィウス氏というローマ騎士階級の優れた人に私のために嘘をついてもらおう。ありもしない和解があったと言ってもらおう。フラウィウスからファンニウスに十万セステルティウスが手渡されたと嘘をついてもらおう」と。これは邪悪な心、哀れな性格、思慮を欠く人間が最初に考える事だ。

[49] 次にどうする。彼は元気を出してクルウィウス氏の所に行く。クルウィウス氏はどんな人か。軽薄な人か。とんでもない。とても真面目な人だ。移り気な人か。とんでもない。一貫性のある人だ。ロスキウスさんの友人か。とんでもない。赤の他人だ。ロスキウスさんはこの人に挨拶してから、言葉巧みに次のように頼み始める。「私のために、君の立派な友人たちの目の前で嘘をついて欲しい。パニュルグスの件でフラウィウスがファンニウスと和解したと嘘を言って欲しい。フラウィウスはファンニウスに十万セステルティウスを払ったと嘘を言って欲しい」と。

 クルウィウス氏はどう答えただろうか。「私は喜んであなたのために嘘をつこう。そしてもしよければ、あなたが少し利益を得るために偽証して欲しいのなら喜んで偽証しよう。あなたはわざわざ私の家にまで足を運ぶことはなかった。こんな簡単な事は伝令で言ってくれれば解決できたのだ」と。

XVII. [50] 十七 一体全体、ロスキウスさんは裁判で一億セステルティウス手に入るなら、クルウィウス氏にこんな事を頼んだろうか。あるいは、クルウィウス氏はこの儲けを山分けできるならロスキウス氏の頼みに応じただろうか。きっと、ファンニウスよ、お前でもバリオーみたいなワルを相手にわざわざこんな頼みはしないだろうし、してもうまく行かないだろう。実際には、こんな話は嘘だし、常識から見てあり得ない。私はロスキウスさんとクルウィウス氏が第一級の人物であることを忘れて、いま便宜上お二人を悪人だと想定しただけだ。

[51] ロスキウスさんがクルウィウス氏に偽証させるために買収しただなんて。どうして今頃になってか。どうして一回目の支払いの時ではなく二回目めの支払いの今になってか。と言うのは、ロスキウスさんはファンニウスにすでに五万セステルティウスを払っているからだ。第二に、契約で半分がロスキウスさんに渡ることになっていたのなら、もしクルウィウス氏に偽証を頼んだとしても、どうしてフラウィウスがファンニウスに支払ったのは三十万セステルティウスではなく十万セステルティウスだったと言わせようとしたのか。

 ガイウス・ピソー殿、ロスキウスさんは自分のためだけにフラウィウスに要求したのであって、共有財産のためには一銭も要求しなかったことが、もうあなたにはお分かりでしょう。これが明らかなのはサトゥリウス君も気づいています。彼は真実に逆らう勇気がないので、すぐさま別のやり方を見つけました。

[52] 彼は言います。「ロスキウスさんがフラウィウスに要求したのが自分の持ち分だけだったことは私も認める。ファンニウスの分は手付かずで丸ごと残してあることも認める。しかし、ロスキウスさんが自分のために取り立てた物は共有財産になると私は主張する」と。

 これ以上に恥ずべき詭弁があるでしょうか。君に尋ねたい。ロスキウスさんは共有財産の中の自分の持ち分だけ要求することが出来たのか出来なかったのか。もし出来なかったのなら彼はどうして金を手に入れたのか(=彼は手に入れていない)。もし出来たのなら、どうして自分のために取り立てなかっただろうか(=当然自分のために取り立てた)。なぜなら、自分のために要求したものを、他人のために取り立てることはないからだ。

[53] それとも次のようなことだろうか。もしロスキウスさんが共有財産全体に属する物を要求したのなら、手に入れた物は全部平等に分けるべきだろう。しかし、実際にロスキウスさんが要求したのは自分の持ち分だったのだから、彼が受け取った物は自分のためだけに取り立てた物ではないのだろうか。

XVIII. 十八 自分で訴訟を起こす人と代理人に任命された人との違いは何だろう。自分で訴訟を争う人は、自分のために要求するのであって、代理人でない限り、他人のために要求することはない。そうだろう。もしロスキウスさんがお前の代理人だったら、彼が裁判で勝ち取った物を君は自分の物にしただろう。しかし、自分のために要求して手に入れた物は、自分のためではなくお前のために取り立てた物なのだろうか。

[54] しかし、もし代理人でない人間が他人のために要求することが出来るなら、パニュルグスが殺されてフラウィウスに対して損害賠償を要求する訴訟が起こされた時、どうしてその裁判でお前はロスキウスさんの代理人になったのか聞きたい。お前の説では、(=代理人にならなくても)お前は自分のために要求した物はロスキウスさんのために要求することであり、お前が自分のために取り立てた物は共有財産になるというのに。しかし、もしロスキウスさんがお前を自分の裁判の代理人にしなければ、お前がフラウィウスから受け取った物はロスキウスさんには全く渡らないのなら、ロスキウスさんが自分のために手に入れた物がお前の手に渡るはずはない。なぜなら、ロスキウスさんはお前の代理人ではないからだ。

[55] ファンニウスよ、次のことにお前はどう答えるのか。ロスキウスさんが自分の持ち分についてフラウィウスと和解した時、訴訟の権利は君に残されていたのか、残されていなかったのか。もし残されていなかったのなら、どうやって後でフラウィウスから十万セステルティウスを手に入れたのか。もし残されていたのなら、どうして自分で訴訟を起こして要求すべき物をロスキウスさんに要求しているのか。

 共有財産と相続財産は非常によく似ている。共同経営者にとっての共有財産の持ち分は、相続人にとっての相続財産の相続分と同じ関係にある。相続人が共同相続人のためではなく自分のためだけに相続分を要求するように、共同経営者は他の共同経営者のためではなく自分のためだけに持ち分を要求する。そして、両方とも自分の持ち分を要求するように、自分の持ち分の範囲で支払いをする。つまり、相続人は自分が相続した範囲で支払い、共同経営者は自分が出資した範囲で支払いをするのだ。

[56] ロスキウスさんは自分の持ち分をフラウィウスに対して放棄することもできたし、その場合ファンニウスにはロスキウスさんの持ち分を要求する権利はない。それと同じように、ロスキウスさんは自分の持ち分を取り立てて、訴訟の権利をお前に手付かずに残した場合には、取り立てた分をお前に分け与える義務はないのだ。もちろん、あらゆる慣習に反して、お前が自分の持ち分を別の人から請求出来ないときには、ロスキウスさんの持ち分を奪い取れるというなら話は別だが。

 それでもサトゥリウス君は共同経営者が自分のために要求する物は共有財産になると主張する。もしそうなら、法律の専門家の意見に従って、ファンニウスがフラウィウスから取り立てた物の半分を自分に渡すように、ファンニウスと真面目に契約したロスキウスさんは何と馬鹿を見たことか。サトゥルニウスの言うとおりなら、契約などしなくてもファンニウスがフラウィウスから取り立てた物は共有財産になるし、つまりはロスキウスさんに半分渡ることになるからだ。(以下原文散逸)

Text from The Latin Library The Classics Page,modified by Loeb Classical Library

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