テレンティウス作『アンドロスの女』

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登場人物


シモン 大旦那 パンフィロスの父親

パンフィロス 坊ちゃん シモンの息子、グリュケリウムの恋人

ソシアス 番頭 シモンの世話役

ダヴォス 召使 パンフィロスの世話役

クレメース 隣に住む旦那、フィロメーナの父、実はグリュケリウムの父でもある

カリーヌス 若旦那 フィロメーナの恋人

ビュリア 召使 カリーヌスの世話役

グリュケリウム お嬢様、アンドロス島から来た花魁(おいらん=娼婦)のクリュシスの妹と思われている、実はクレメースの娘

ミュシス 女中 グリュケリウムの世話役

レスビア 産婆

クリトン 旦那 クリュシスの従兄弟、クリュシスの遺産を受け取りに来る

ドロモン 召使

アルキュリス グリュケリウムの家の女中頭。


あらすじ

若いパンフィロスの恋人グリュケリウムはアンドロス島からアテナイに来て住んでいるが、親がなく世間には娼婦クリュシスの妹と思われている。パンフィロスは妊娠したグリュケリウムのことを秘密にしていたが、生まれてくる子は二人の子として育てる約束をしていた。一方、パンフィロスの父親のシモンは、幼なじみのクレメースから娘のフィロメーナを息子の妻にやろうと言われて縁談を進めているが、彼女にはカリーヌスという恋人がいる。クリュシスが亡くなり葬儀が営まれたとき、パンフィロスとグリュケリウが恋人であることがみんなに分かってしまう。その結果、クレメースは恋人がいる若者に娘を嫁がせることは出来ないと縁談を撤回する。このことがこの劇の第1場で語られるが、それにも関わらずシモンはこの日にニセの結婚式をしようとする。息子が父の言いつけに逆らうかどうかによって息子の本心を知りたいのである。


しかし、パンフィロスの情事の手助けをして全てを知っていた召使のダヴォスは、結婚式に相応しいような準備が何もなされていないことを知ると、息子を叱る理由を父親に与えないためにも、また父親に別の縁談を急がせないためにも、結婚に同意するようパンフィロスにすすめる。この結果、シモンに懇願されたクレメースは気持ちを変えて、また娘を嫁がせる気持ちになる。ダヴォスのまずい助言によって困ったことになったパンフィロスとカリーヌスの二人は、はげしい口論をする。才気煥発の召使ダヴォスはこの危機から抜け出る方法を考えだすことを約束する。やがてグリュケリウムが子供を出産するが、ダヴォスはその子を自分の主人シモンの屋敷の前に置いてこさせる。クレメースがたまたまその子を見つけて真相に気づくようにするためである。


あらためてクレメースはこの縁談を断ると、ダヴォスは怒ったシモンによって罰を受ける。そのとき、クリュシスのいとこのクリトンが相続のためにアンドロス島からやってきて重大な知らせをもたらす。それによって、グリュケリウムは海で遭難してアンドロス島に一人とり残された子で、クレメース本人の娘だということが明らかになる。こうして最後にはすべてがめでたしめでたしで終わる。恋人たちの願いどおりに二つの結婚式が行われ、ダヴォスはいましめを解かれる。(ウィキ・ラテンより)


G.スルピキウス・アポリナリスによるあらすじ

アンドロス島生まれの花魁の妹と誤解されているグリュケリウムという女性とパンフィロスは深い仲になる。彼女が妊娠するとパンフィロスは結婚の約束をする。しかし、彼の父親はクレメースの娘との縁談を進める。父親は息子に恋人がいることを見つけると結婚式をするふりをして、息子の本心を知ろうとする。召使のダヴォスの忠告を受けたパンフィロスは縁談を断らない。しかし、グリュケリウムの生んだ子を見たクレメースは、パンフィロスを婿とするのを拒否して結婚式を断る。やがてクレメースはグリュケリウムが自分の娘であることを知ると、グリュケリウムをパンフィロスと、もう一人の娘をカリーヌスと結婚させる。


プロローグ 略


舞台はアテナイ、シモンとグリュケリウムの家が並ぶ。舞台右手が広場とクレメースの家。左手が港とカリーヌスの家。


第1幕 第1場 シモン、ソシアス(シモンが息子のために嘘の結婚式をする計画を語る場面)(28-)

(シモンが左手、広場の方角からソシアスと登場。食糧を運ぶ召使いたちを連れている)

シモン お前たち、それは中へ片付けちゃってくれ。もう行ってもいいぞ。ソシアス、お前は、ちょっとここに残ってくれ。ちょっと話があるんだ。

ソシアス また同じ話ですか。きっと、これをしっかりやれってお話でござんしょう。

シモン いいや、別のことなんだ。

ソシアス 何です。あっしのこの技量で、ほかにどんなお役に立てましょうか。

シモン わしが今考えていることに必要なのはお前のその技量ではないんだ。わしはお前を信用できる口の堅い男だといつでも思っている。そこを見込んでの頼みなんだ。

ソシアス 何なりとおっしゃってください。

シモン お前がわしのところに奉公に来た頃は小さな子供だったが、それ以来これまでの間ずっとわしはお前に対して理不尽な要求をしたり無茶な仕事をさせたことはなかったな。わしがお前を丁稚の身分から番頭にとりたててやったのも、お前のいつもの立派な勤めぶりを見ていたからだ。それにはわしも出来る限りのお礼をさせてもらったつもりなのだよ。

ソシアス 御恩は忘れません。

シモン これからも頼みますよ。

ソシアス あっしの仕事ぶりが大旦那さまのお気に召しますなら喜んで。大旦那さまに喜んで頂くことがあっしの喜びなんですから。でも今回は心配になってきました。大旦那さまがそんな思い出話をなさるんで、恩知らずとのお叱りを受けるんじゃねえかと。どうか早くおっしゃってくだせえ。あっしに何をお望みなんですか。

シモン では、手短にやらせてもらおう。お前に打ち明けていうんだが、お前は今から結婚式があると思っているだろう。だがこの結婚式はなあ、嘘なんだよ。

ソシアス で、なんで嘘の結婚式をするんですか。

シモン 全部話すから最初から聞いてくれるか。それで、息子の暮らしぶりと、わしの考えと、わしがお前にして欲しい事がわかるはずだ。というのは、ソシアスよ、あの子が兵役を終えてから、前より自由な生活が出来るようになっている。(その前だと人の本性はなかなか分からないものなんだよ、先生の目があったり幼なさやおびえのために、何かと抑制が効くからね)。

ソシアス そのとおりで。

シモン 解放的になるのは若者にはよくあることなんだ、そして何かに夢中になる。馬や猟犬を飼うのに夢中になる子もいれば哲学に夢中になる子もいる。もっともあの子は何かに特に夢中になることはなかった。むしろ何でも適度にやっていたな。それは喜ばしいことだった。

ソシアス ごもっともで。私もそう思いますね。生きていく上で何事もほどほどにしておくのはとても大切なことですからな。

シモン あの子の生活ぶりはこうだった。あの子は誰といても我慢のできる子で、いっしょにいる人と仲良くなって、相手の趣味に合わせていくし、人に逆らうような事はせず、けっして人を差し置いて出しゃばるようなことはしない。こうして息子は易々と世間の評判を勝ち取り、人から恨みを買うこともなく、友達を作っていった。

ソシアス 賢い生き方ですな。いまどき友達を作りたかったら人に調子を合わせておくに限りますな。本音を言ったりしたら嫌われるだけですから。

シモン ところが、そうこうするうちに3年前にある女性がアンドロス島からこの近所へ引っ越してきたんだ。貧乏なうえに親類筋からも見捨てられて仕方なくということだが、それがとびきりの美人で女盛りと来てるんだよ。

ソシアス おやまあ、その女が災の種にならなきゃいいですが。

シモン 初めはその女も男を入れずに慎ましい暮らしをしていたんだ。生活の糧は糸巻きと機織りで得ていた。ところが、交際目当てに援助を申し出る男たちが次々に彼女に近づいてくるようになると、苦よりも楽な方に傾くのが人間の性(さが)で、男の援助を受け入れるようになって、その後はそれを商売にしはじめたんだ。その頃よくあるように、彼女の愛人たちが、わしの息子をたまたま彼女のところへ連れていって仲間に引き入れたんだ。わしはすぐに思ったものだ「きっと息子は取り込まれて、女のものになっているにちがいない」と。わしは朝から恋人たちの召使が行き帰りする様子を見ていて聞いたものだ。「おいおい、君、よかったら教えてくれないか。昨晩のクリュシスの相手をしたのは誰だった?」これがアンドリアの女の名前なんだ。

ソシアス そうですか。

シモン 召使はファイドロスとクリニアとニケラトスの名前をあ げた。この三人がその時の彼女の恋人だったんだ。「で、パンフィロスはどうだ」「どうだって、割り前を払って食事はしてましたが」。わしは嬉しかった。それから別の日にも尋ねてみた。うちの息子が深入りしている様子はなかった。わしはあの 子が試練に立派に耐えて真面目な男の手本となったと思ったのだ。というのはな、ああいう連中と付き合っていながら、それでも、そうしたことに溺れることがなかったのだから、誰だってあの子はちゃんと節度のある生活をおくられると思うところじゃないか。あの子のこうした暮らしぶりをわしが喜んで いると、そのうち世間があの子を口を揃えて褒め始めた。そしてわしのことを幸せ者だと言い出した。こんなによく出来た息子に恵まれてと。もう言わなくても分かるだろう。この評判を聞いたクレメースさんが自らわしのところへ出向いてきて、一人娘を最高額の持参金をつけて息子に嫁がせたいと言い出したのだ。わしは承諾して、婚約を結んだ。その結婚式の日取りが今日なのだ。

ソシアス それで、どうしてその結婚式が出来なくなったんですか。

シモン 聞いてくれ。式を挙げるまであと数日という時に、近所のあのクリュシスさんが亡くなったんだ。

ソシアス ああ、それはようございました。お喜び申し上げます。私もその女の存在が心配になっていましたので。

シモン すると息子はクリュシスの恋人たちと頻繁に会って一緒に葬式の手はずを整えた。その間、悲しそうな顔をしていたし、時には一緒に泣いてもいた。それでもわしは安心していたんだ。わしはこう考えた。「この子はこんな短い付き合いでもあの女の死をこんなに身近なものとして受け止めている。もしこれが愛する女だったらどうだろう。もし父親のわしが死んだらどうだろう」と。わしは息子のこの様子のすべてを見ていて、これはやさしい心の持ち主なら当たり前のことだと思ったんだ。さあ、ここから話は核心に向かうぞ。わしもまた息子のために葬儀に出向いた。あんなことが待っているなんて思いもよらなかった からだ。

ソシアス どういうことですか。

シモン いま教える。野辺の送りになって、葬列にわしも加った。その列にいる女たちの中にたまたま一人の娘がわしの目に止まった。その姿は、 

ソシアス 美形だったでしょう。

シモン そして彼女の表情には、このうえなく上品な魅力がある。見ているとその子はほかの女たちより激しく泣いていたが、その顔はほかの女たちよりも凛々しくしとやかでもある。わしは世話係の女のところへ行って彼女は誰なのか尋ねた。するとクリュシスの妹だと言うんだ。わしはその場で愕然とした。なんとこの女だったのだ。これが息子の涙の理由だったんだ。これが息子の哀れみの原因だったのだ。

ソシアス とても心配です。話はどこへいくかと。

シモン 葬式の行列が進んでいくので我々もついて行くと墓地についた。遺体が荼毘に付されると、みんなが声を上げて泣き出した。するといま言った娘が身の危険も顧みずに炎に近づいていったのだ。そのときだった。我を忘れたパンフィロスがこれまでうまく隠していた恋心を見せてしまったのだ。走りよった息子は彼 女の腰に腕を回して抱きよせた。それからこう言った「僕のグリュケリウム、何をするんだ。どうして死のうとするんだ」。すると彼女は、深い付き合いだということがすぐに分かるように、あの子の腕の中に泣きながら崩れ落ちたんだ。その親しげなことはなかった。

ソシアス それでどうなりました。

シモン わしは機嫌が悪くなって家に帰ったよ。だが、わしが息子を叱る理由はない。叱ったところで「僕が何をしました。どんな間違いを犯しましたか。お父さん。火の中に飛び込もうとする女性を止めて助けはしましたが」。まさにそのとおりだ。

ソシアス ご明察。なにせ人助けをした人間を叱りつけたら、悪いことをした人間に何が出来るでしょう。

シモン 翌日クレメースさんがわしのところに来て大きな声で言うんだよ。「破廉恥だ。けしからん。パンフィロスがあの異国の女を妻としているのを見つけたぞ」と。わしは必死になってそんなことはないと言う。相手はいやそうだという。とうとう別れ際に、この縁談はなかったことにすると言われたのさ。

ソシアス それでも大旦那さまは坊ちゃんをお叱りには・・。

シモン これではあの子を叱る理由として弱いんだ。

ソシアス どうしてですか。お教えを。

シモン あの子の恋が終わる日は、父であるわしがすでに決めている。あの子が生き方を改める日はもうすぐなんだ。それまでしばらくの間はあの子の生き方を許すしかないんだよ。

ソシアス では、どんな時に叱ることが出来るんです?

シモン それは恋人のためにあの子が結婚を拒否してきた場合だ。それは何より彼の場合叱責に価する親不孝となる。だから、嘘の結婚式をするのも、あの子を叱る正当な理由がほしいからなんだ。それはあの子が拒否した場合だが。同時に、ずるがしこい召使のダヴォスがなにか策略を考えていたら、それを使わせてしまいたいんだ。今回なら無駄打ちになるからな。あいつは口八丁手八丁の男で何でも全力でやってくる男だ。おかげでわしはいつも迷惑してるんだが、それで息子の機嫌をとるんだよ。

ソシアス どうして迷惑なんですか。

シモン わかるだろ。心が卑しくて腹黒いやつだからさ。わしはあいつの存在に気づいたら・・。だが、もう充分話したな。わしの狙いどおりにいけば、そして倅のパンフィロスの側に文句がなければ、あとはクレメースさんを説き伏せるだけだ。それはなんとかなると思うんだ。そこで、お前の仕事だが、この結婚式の芝居 をうまくやることと、ダヴォスを脅しつけて追い払うことなんだ。そしてよく観察するんだ。息子がどんな反応を見せるか、ダヴォスと一緒になって何を企んでいるかを。

ソシアス わかりました。しっかりやらせて頂きます。

シモン もう中へ入ろう。お前は先に行け、わしは後から行く。(ソシアス、シモンの家に入る)


第1幕 第2場 シモン、ダヴォス(シモンがダヴォスに結婚の妨害をしたら罰をあたえると脅しをかける場面)(175-)

(ダヴォスがシモンの家から出てくる)

シモン(独白) 息子に結婚する気がないのは明らかなんだ。結婚式があるとさっき聞いたときのダヴォスの心配ぶりは並大抵のものではなかったからな。おや、そのダヴォスが出てきたぞ。

ダヴォス(傍白) 驚いた。あのことがあれですむとは。大旦那さまのあの穏やかな態度が何を意味するのか、ずっと戦々恐々だったんだ。大旦那さまは坊ちゃんの縁談が断られたときから、俺たちとは一言も口を利いていないが、腹を立てている様子でもない。

シモン(傍白) ところが、今からその大旦那が口を利くのだ。お前には災難だな。

ダヴォス 大旦那さまの狙いは俺たちをぬか喜びで油断させて、安心して気を緩めているときに、あの縁談を一気に進めてこっちが対抗手段を考える暇を与えないようにするんじゃないか。抜け目のない大旦那さまだから。

シモン(傍白) この悪党は何を言ってるんだ。

ダヴォス(シモンを見つけて) あ、大旦那さまだ。気がつかなかった。 

シモン ダヴォスじゃないか。

ダヴォス そうです。なんでしょうか。

シモン ちょっと来てくれ。

ダヴォス(傍白) 何の用だろう。

シモン どうなんだ。

ダヴォス 何がですか。

シモン わかるだろ。噂では息子には恋人がいるそうだが。

ダヴォス 確かに、世間じゃそんなこと言ってますね。

シモン わしの質問を聞いてるのか。

ダヴォス ちゃんと聞いてます。

シモン こんな質問は嫌な父親のすることだ。というのは、これまでは息子のすることに興味はなかった。そういうことが許される年頃には好きにさせておいたんだ。しかし、今日からは別の人生が始まるのだから別の生き方をしてもらう。だから、ダヴォスよ、お前には息子が正しい道に戻れるようにしてほしいのだ。いやむしろお願いする。これはどういうことかというと、恋人のいる男は縁談を嫌がるものなんだ。

ダヴォス そういいますね。

シモン こういう時にこういう問題で間違った忠告を受けると、恋に悩む心は間違った方向に進んでしまうものなんだ。

ダヴォス 何のことかわかりませんが。

シモン 分からん? 本当か。

ダヴォス はい。私は謎解きの得意なオイディプスではございませんので。

シモン つまり、はっきり全部言ってほしいのか。

ダヴォス そのとおりです。

シモン お前がもし今日の結婚式で何かこの式をぶち壊すようなペテンをやろうとしているのが分かったら、あるいは、この件でお前が抜け目のないことを見せようとしたら、わしはお前をムチでしばいて粉挽き小屋に死ぬまで閉じ込めるぞ。お前を許すくらいなら、お前の代わりにこのわしが粉挽きをする覚悟だ。どうだ、わかったか。それともまだ分からないか。

ダヴォス よくわかりました。実にストレートに言いたいことだけをおっしゃっていただけました。周りくどい言い方は一切なしで。

シモン わしはこの件でだけはお前のペテンにかかるわけにはいかないんだ。

ダヴォス そんな縁起でもない。お願いしますよ。

シモン わしを馬鹿にしているな。分かるんだぞ。お前に言っておくが、馬鹿なまねをするんじゃないぞ。そんなことは聞いていないとあとで言ってもだめだぞ。気を付けろ(広場の方向に退場。ダヴォスが一人残る)。


第1幕 第3場 ダヴォス(パンフィロスに子供がいることを観客に明かす場面)(206-)



ダヴォス(独白) これはもうぐずぐずと引き伸ばしている場合ではない。結婚式についての大旦那さまの考えをいま聞いた限りでは、この結婚式をうまく切り抜けないと、この俺かパンフィロス坊ちゃんのどちらかが一巻の終わりだ。だが、どうしたら良いか、まだよく分からない。坊ちゃんを助けるべきか、大旦那さまの言いつけに従うべきか。坊ちゃんを見捨てたら坊ちゃんの命が心配だ。かと言って坊ちゃんの側についたら、大旦那さまの脅しが恐ろしい。大旦那さまを騙すのは難しいのだ。第一もう大旦那さまは坊ちゃんの女のことを見つけてしまっている。おれが結婚式で何かペテンを働きはしないかと、おれのことを敵意をもって見張っているんだ。だから、大旦那さまに気づかれたら俺はおしまいだ。それに、その気になれば、俺を粉挽き部屋に送り込む理由なんていくらでも見付け出してしまわれるだろう。厄介なことはこれだけではない。あのアンドロスから来た女は、坊ちゃんの妻か愛人かは知らないが、坊ちゃんの子を宿しているのだ。二人のだいそれた考えは決して聞き逃せるものではない。それは愛ゆえとはいえ、もはや正気の沙汰ではないんだ。生まれた子供を二人は自分たちの子として育てると決心 している。そして二人内緒で作り話をこしらえている。彼女はアテナイ生まれだというのだ。「昔々ある老いた商人がいました。その人はアンドロス島で船が難破して亡くなりました」と。そして島に打ち上げられた孤児(みなしご)の幼い彼女はクリュシスの父親が受け入れましたと。そんな馬鹿な!とても本当とは思えない。ところが、二人はこの話がお気に入りだ。おや、ミュシスが坊ちゃんの女のところから出てきた。おれは広場に行って、坊ちゃんに会ってこよう。結婚式の件を大旦那 さまが坊ちゃんに知らせる先回りをしなければ。


第1幕 第4場 ミュシス(出産が近いことを観客に知らせる場面)(228-)

(ミュシス、グリュケリウムの家から登場)

ミュシス(家の中に向かって) さっき聞きましたよ、アルキュリスさん。産婆のレスビアさんを呼んでくるんですよね。(出て来ながら)ほんとにあの産婆さんは酒飲みで頼りないんだから、初めてのお産を任せるのは心もとないわねえ。それでもレスビアさんを呼んでくるんですね。(独白)女中頭もいい加減なもんですよ。レスビアさんが飲み友達だから呼ぶんですからね。ああ、お嬢さんが何とか軽いお産で済みますように。産婆さんが何かでしくじるならそれはよその家で起きますように。あら、いったいどうしたのかしら。パンフィロスさんが来るわ。何か取り乱してる。何があったのかしら。待っていて、何か悲しい事の前触れじゃないか確かめてみましょう。


第1幕 第5場 パンフィロス、ミュシス(父親に結婚を告げられたパンフィロスが真に受けてミュシスにそれを教える場面)(236-)

(パンフィロスが広場の方向から興奮した様子で登場)

パンフィロス(独白) これが人間のすることだらうか。これが父親としての務めなのだろうか。

ミュシス(傍白) どうしたのかしら。

パンフィロス(独白) いやはや、これが屈辱でなくて何だろう。今日僕を結婚させると決めただなんて。だけど僕が知らないうちに事を進めるなんておかしいよ。僕にあらかじめ相談してくれるべきじゃないか。

ミュシス(傍白) まあ、大変。何ていうことを聞いてしまったのかしら。

パンフィロス(独白) どうしてなんだ。クレメースさんは、娘さんを僕に嫁がせるのに反対していたのに、その気持ちが変わったのは、僕の行いが改まらない事を知ったからなのか。あの人はそんなに熱心なのか、あのかわいそうなグリュケリウムから僕を引き離すことに。もしそんなことになったら僕は完全におしまいだよ。僕は不幸な恋をしなければならない運命なのか。こんな男がほかにいるだろうか。ああ、神様! どうやっても僕はクレメースさんの婿になることから逃げられないのか。いったいどれほど僕はないがしろにされ馬鹿にされるのか。もう、万事休すだ。いったん拒否された僕がまた呼び戻された。何のためだ。もし僕の想像通りなら、あの家は化け物を育ててしまったが、そんなものを誰にも押し付けることはできないので、僕にお鉢が回ってきたのさ。

ミュシス(傍白) こんなことを聞いてしまって、私はもう不安で不安で死にそうだわ。

パンフィロス(独白) 父さんのことを一体どう考えたらいいんだ。ああ、こんな大事なことをこんなにいい加減なやり方で伝えるなんて。さっき広場で通りすがりに僕に「パンフィロスよ、今日お前は結婚することになった」と言って「準備をするために家に帰れ」と。これじゃあ「早く帰って首をくくって死ね」と言うようなもんじゃないか。呆然自失だよ。僕にいったい何が言えたというんだ。どんな逃げ口上でも嘘でも出鱈目でも言えばよかったのに何も言えなかった。あらかじめ知っていたって何もできなかったかもしれない。でもそれならそれで、結婚しないですむように何かしただろう。しかし、こうなった以上は何をするのが一番いいんだ。たくさんの色んな心配事で僕の心は千々に乱れるばかりだ。恋と、女への同情と、式への不安と、それから僕がしたいことをするのをこれまで優しく見守ってくれていた父さんに対する孝行の気持ちもある。あの父さんにどうして逆らえるものか。いったいどうすればいいのかまったくわけがわからない。

ミュシス(傍白) まあ、「迷う」だなんて、それがどっちに転ぶか心配だわ。いま何より必要なのは、あの人をお嬢様に会わせるか、お嬢様のことをあの人にお伝えすることだわ。気持ちが迷っているときには、ちょっとしたきっかけでどっちにでも傾いてしまうものだから。

パンフィロス 誰だろう、ここで話しているのは。ミュシスか、やあ、こんにちは。

ミュシス パンフィロスさん、こんにちは。

パンフィロス 彼女はどうしてる。

ミュシス お分かりでしょ。お可哀想に、お嬢様は陣痛で苦しんでおられるだけでなく、かつて結婚式の日取りが今日に決まったことによる心労が加わっています。それに何よりあなたに捨てられるのではと気が気でないご様子です。

パンフィロス 馬鹿な、僕にそんなことが出来るものかい。僕が自分の利益のためにかわいそうな彼女を騙すなんてことが出来るわけがない。彼女は身も心も全てこの僕に預けているんだよ。僕は彼女を自分の妻として誰よりも大切に思っているんだ。教育もあり躾も行き届いた彼女を貧困のために卑しい仕事に追いやるなんて、そんなことをこの僕がするわけがない。

ミュシス それをあなたが全部一人で決められるなら心配はないのですが、あなたがお父様の強制に抵抗できるかどうか心配です。

パンフィロス 僕がそんなに弱虫でそんなに恩知らずで人でなしの冷たい男だと思っているのか。僕には彼女を思う気持ちと彼女との強い絆と廉恥心があるんだ。僕が約束を違えることはないよ。

ミュシス 一つ確かなことは、うちのお嬢様は決して見捨ててはならない方だということですわ。

パンフィロス 僕が彼女を見捨てるわけがない。ああ、ミュシス よ、ミュシスよ、クリュシスがグリュケリウムについて語ったあの言葉は今でも僕の心に刻まれている。僕はいまわの際のクリュシスに呼ばれたんだ。枕元に着くと、お前たちは人払いされて、二人だけになると、彼女は言ったんだ、「パンフィロス さん、この子の若さと美しさを見れば、あなたも気づいているでしょう、この二つは富と純潔を守るためには役立たないことを。あなたのこの右手とあなたの守り神にかけて、あなたの信義とみなしごのあの子にかけて、あなたにお願いしますわ。決してこの子をその手から放したり見捨てたりしないで下さいね。私はあなたのことを自分の弟のように思っていますし、あの子はあなたを誰より尊敬して、どんなことでもあなたの言うとおりにしてきたのですから、私はあなたをあの子の夫であり友でもあり教師であり父でもあると思っているのです。それにここにある私の財産はすべてあなたに委ねますので、あなたが責任をもって守って下さい」。彼女は僕の手にグリュケリウムを委ねたんだ。その時急に彼女は事切れたんだよ。僕は彼女をお預かりしたんだ。だから僕は彼女を守り続けるよ。

ミュシス そうあってほしいですわ。

パンフィロス ところで、お前は何のために彼女のところから出てきたんだい。

ミュシス 産婆さんを呼びに行くのです。

パンフィロス それは急がないと。あ、ちょっと待って。今日の結婚式のことは絶対に口にしないようにするんだよ。それでお産にさわりが出てはいけないから。

ミュシス わかりました。


第2幕 第1場 カリーヌス、ビュリア、パンフィロス(パンフィロスの結婚話を知ってカリーヌスがパンフィロスに結婚を延期してくれと懇願する場面)(301-)

(カリーヌスとビュリアが広場の方向から登場)

カリーヌス どうなってんだよ、ビュリア。おれの彼女は今日パンフィロスと結婚するらしいじゃないか。

ビュリア そうなんです。

カリーヌス どうして分かったんだ。

ビュリア 広場でダヴォスからさっき聞きました。

カリーヌス ああ、おれは終わりだ。さっきまで希望と不安の間で揺れ動いていたんだが、希望が失われたあとでは、心がぐったりとして何も感じることができないよ。

ビュリア 若旦那、どうかお願いですから、望むことが叶わないのなら、叶うことを望んでくださいな。

カリーヌス 僕の望みはフィロメーナだけなんだ。

ビュリア 本当に、そんなことを言って無駄に恋心をかきたてるより、その恋を心から追い払うように努力するほうがいいですよ。

カリーヌス 健康な人間が病人にアドバイスをするのは簡単だからな。お前もおれの立場なら違うことを言うだろうさ。

ビュリア はい、はい、好きにしてください。

カリーヌス おい、パンフィロスの奴が来てるぞ。おれは自分の負けを認める前に何でもやってみるぞ。

ビュリア(傍白) この人は何をなさるつもりだろう。

カリーヌス 彼に直接頼んでみるんだ。土下座してもいい。彼女に対する僕の気持ちを聞いてもらうんだ。そうすれば、最低でも何日か結婚式を延期してくれるはずだ。その間に何か手を打てるかもしれない。

ビュリア(傍白) そんなことは無理でしょ。

カリーヌス ビュリアよ、君はどう思う。パンフィロスに話しかけるのを。

ビュリア それ以外に何があります。もしそれが失敗してもね、あの人が彼女と結婚したら若旦那という間男がついてくることに気づくでしょうよ。

カリーヌス 何を縁起の悪い事を言い出すんだ、馬鹿野郎、やめてくれ。

パンフィロス おや、カリーヌスが来た。こんちわ。

カリーヌス 機嫌はどうだい、パンフィロス。君に頼みがあって来たんだ。おれを助けてくれよ。おれに希望を与えてくれよ。おれに知恵を貸してくれよ。

パンフィロス 残念ながら僕には知恵はないし、誰も助けられない。でも一体どうしたんだ。

カリーヌス 君は今日結婚するのかい。

パンフィロス そういう話だね。

カリーヌス パンフィロスよ、もしそうなら、君が僕の顔を見るのは今日が最後だ。

パンフィロス どうしてそうなるんだ。

カリーヌス ああ、だめだ。僕の口からはとても言えない。ビュリアよ、頼むからお前が言ってくれ。

ビュリア 私から言いましょう。

パンフィロス 何なんだ。

ビュリア この人はあなたの花嫁に恋してるんでさあ。

パンフィロス 僕と彼とでは好みのタイプが違うらしいね。いや、ちょっと待て、フィロメーナと君との間はもっと深い付き合いはないのかい。カリーヌス?

カリーヌス 何もないさ。

パンフィロス あったらよかったのに。

カリーヌス 頼むよ、友情と愛情にかけて君にお願いする。とにもかくにも結婚しないでくれ。

パンフィロス 頑張ってはみるよ。

カリーヌス でもそれがうまくいかなったから、いや君が本当はこの結婚に乗り気だとしても・・。

パンフィロス おれが乗り気だと?

カリーヌス 何日でもいいから日延べしてくれ。その間におれはどこかへ行って結婚式を見ないようにするよ。

パンフィロス まあ聞けよ、カリーヌス。こんなことは立派な人間が言うべきことじゃないし、僕はその立場じゃないから、君に対する親切で言うんじゃないが、君があの娘と結婚したがっているそれ以上に、僕はあの娘との結婚から逃げたいんだよ。

カリーヌス おかげでおれは一息つけたよ。

パンフィロス さあ、君とビュリアで何かできるか、策略知略陰謀、どんなことでもやってみてくれよ、彼女が君のものになるためにね。僕の方でも色々やってみるよ、彼女が僕のものにならないためにね。

カリーヌス それで充分だ。

パンフィロス ちょうどいいところにダヴォスが来た。あいつの知恵が僕の頼みの綱なんだ。

カリーヌス(ビュリアに) お前はおれが知りたくないことしか言わないよなあ。もうお前は消えてしまえ。

ビュリア(独白) おれだって願ったり叶ったりだ。


第2幕 第2場 ダヴォス、カリーヌス、パンフィロス(ダヴォスが結婚式は嘘だと知らせる場面)(338-)

(ダヴォスが興奮した様子で広場の方向から登場)

ダヴォス(独白) こりゃまた何ともいい知らせをもってきたぞ。坊ちゃんはどこへ行ったんだろう。坊ちゃんの不安を取り除いて、その代わりに喜びで心を一杯にしてあげられるのに。

カリーヌス(パンフィロスに) ダヴォスのやつ、なにやら嬉しそうじゃないか。

パンフィロス(カリーヌスに) まさか。まだこの災いのことを知らないんだな。

ダヴォス 結婚式の準備が整ったということを聞いていたなら、今頃坊ちゃんはさぞかし・・、

カリーヌス(パンフィロスに) おい、今のを聞いたか。

ダヴォス 意気消沈して、おいらのことを街中さがしていることだろうな。でもどこをさがしゃいいんだ。どっちへ行こうかな。

カリーヌス(パンフィロスに)さっさと話しかけろよ。 

ダヴォス(去りかける) 行くとするか。

パンフィロス ダヴォス、待てよ、こっちへ来いよ。

ダヴォス おれを呼ぶのは誰だろう? ああ、パンフィロス坊ちゃん、あなたを探してたんですよ。こりゃよかった、カリーヌスの若旦那も。お二人ともいいところへ。ちょっと用があるんです。

パンフィロス ダヴォスよ、おれは弱ってるんだ。

ダヴォス まあ聞いてくださいよ。

カリーヌス おれはもう終わりだ。

ダヴォス 何を心配しておられるか存じておりますよ。

パンフィロス 僕の人生は本当に最大のピンチに陥っているんだ。

ダヴォス 坊ちゃんの心配の種も存じております。

パンフィロス 僕の結婚式が・・ 

ダヴォス 知っていますって。

パンフィロス 今日・・

ダヴォス 私は存じてますと言っておりますのに、まだおっしゃいますか。坊ちゃんはあの女性と結婚してしまうんじゃないかと心配しておられるし、若旦那は恋人と結婚出来なくなるんじゃないかと心配しておられる。

カリーヌス よくわかってるじゃないか。

パンフィロス そう、そのことだ。

ダヴォス そしてそのことに何の心配もいりません。私の目を見てくださいよ。

パンフィロス ねえ、早く僕を安心させてくれよ。

ダヴォス ええ、ご安心を。クレメースさんは坊ちゃんとの縁談を進める気はないんですよ。

パンフィロス それはどうして分かった。

ダヴォス 私はさっきまで大旦那さまに捕まっていましたが、その時、大旦那さまは今日坊ちゃんを結婚させるとおっしゃいました。ほかの事も色々おっしゃいましたがそれは今はどうでもいいでしょう。すぐにお知らせせねばと広場まで急いで行きましたが、そこには坊ちゃんはおられないので高台に登って見渡しましたが、どこにもおられません。たまたまそこにこの方の召使のビュリアくんが居ましたので、尋ねましたが、見かけなかったといいます。困り果てた私は、どうすればいいか考えました。帰り道に例の件について疑問が浮かびました。「どうも少なすぎる食事代。暗すぎる大旦那さまの顔。唐突すぎる結婚式。しっくりこない」とね。

パンフィロス それでどうしたんだ。

ダヴォス 私はクレメースさんの家に行きました。着いて目にしたのはひっそりとした玄関でした。しめたと思いましたね。

カリーヌス ご明察。

パンフィロス 続けてくれ。

ダヴォス 待っていても、人の出入りは一切ありません。花嫁の介添えも一人も見えません。飾り付けもなし。まったく静まり返っていました。近づいて中を覗いてみました。

パンフィロス わかったぞ。それで決まりだ。

ダヴォス これが花嫁がいる家なのか。

パンフィロス 違うかも知れないね、ダヴォス。

ダヴォス 「かもしれない」とおっしゃいますか。まだよくお分かりでない。もうはっきりしてますよ。帰りしなにクレメースさんのボーイを見かけましたが、クレメースの旦那の食事のための野菜と安物の小魚を抱えるばかり。

カリーヌス おれは助かった、ダヴォス、君のおかげだ。

ダヴォス そうとはいえませんよ。

カリーヌス どうして? 彼女がパンフィロスくんに嫁がないのは確かなのに。

ダヴォス 気楽な人ですね。うちの坊ちゃんに嫁がないとしても、あなたに嫁ぐと決まったわけではありませんよ。クレメースの旦那のお知り合いに会ってお願いして回らないと。

カリーヌス いい忠告だ。そうするよ。おれの希望は今まで何度も裏切られて来たけれど。さらば(広場の方向に退場、パンフィロスとダヴォスが残る)。


第2幕 第3場 パンフィロス、ダヴォス(ダヴォスがパンフィロスに縁談を断らないのが上策だと教える場面)(375-)

パンフィロス おやじの狙いは何なんだろう。どうして結婚の芝居をするんだ。

ダヴォス 教えて差し上げましょう。クレメースさんが縁談を進める気がなくなったからといって、もし大旦那さまが腹を立てたら、この破談は大旦那さまの責任になってしまいます。そりゃそうです。なぜって、まだこの縁談に対する坊ちゃんの気持ちをまだ確かめていないからです。ですが、もし坊ちゃんが断ってきたら、この破談の責任は坊ちゃんのせいにできます。そうなりゃ一悶着起こせるという寸法です。

パンフィロス 僕は何があっても平気さ。

ダヴォス 坊ちゃん、お父様は一筋縄ではいきませんぜ。しかも、グリュケリウム奥様は孤立無援ときています。奥さんを町から追い出す理由を見つけるくらい朝飯前でしょう。

パンフィロス 追いだすって? 

ダヴォス すぐになさいますよ。

パンフィロス で、ダヴォスよ、おれにどうしろって言うんだい。

ダヴォス お父様に、結婚しますっておっしゃるんです。

パンフィロス えっ。

ダヴォス どうかしましたか。

パンフィロス 僕がそんな事を言うのかい。

ダヴォス そうですよ。

パンフィロス だって僕は結婚しないじゃないか。

ダヴォス 断っちゃダメなんですよ。

パンフィロス そんな事言ってもダメだよ。

ダヴォス 私の言うとおりにしたらどうなるか聞いて下さいよ。

パンフィロス 彼女の家から追い出されて、ここに閉じ込められるんだろ。

ダヴォス そんなことにはなりません。私の考えはこうです。お父様は「今日、お前は結婚するんだ」とおっしゃる。坊ちゃんは「わかりました」と言うんです。さあ、お父様は何を理由にしてあなたを叱れますか。こうなりゃよく練り上げたお父様の作戦はすべて水泡に帰して、おまけに結婚のリスクも回避できるというわけです。なぜっていうと、クレメースの旦那が坊ちゃんに娘をやらないことは疑いなしだからです。だから坊ちゃんは今の不品行を改めちゃいけません。クレメースの旦那が気を変えないためにね。その一方でお父様が坊ちゃんを叱りたくても叱ることは出来ないようにするために、坊ちゃんはお父様にこの縁談に乗り気だと言わないといけません。なぜって、もし坊ちゃんが「自分の不品行をもってしたらどんな縁談も簡単に壊せるし、誰も縁談をもちかけてこないだろう」などと思って断ったりすると、お父様は貧乏な娘を嫁に見つけてきて坊ちゃんの不品行をやめさせようとするでしょうからね。しかし、坊ちゃんがこの嘘の縁談を平気で受け入れるのを見たら、お父様も気を緩めて、時間をかけて別の縁談を探すことでしょう。その間にこちらに幸運が転がり込んでくることもあるというものです。

パンフィロス それがお前の考えかい。

ダヴォス そうなることは疑いなしです。

パンフィロス お前の言うとおりにしたら、おれはどうなることやら。

ダヴォス 安心してくださいよ。

パンフィロス おやじにはそう言うよ。でも、僕と彼女の間に子供がいることはばれないようにしないと。だって、あの子を僕の子として育てるって彼女に約束したんだから。

ダヴォス 何という大それた企みですか。

パンフィロス 彼女がどうしてもこの約束はしてほしいとせがんだんだよ。そうすりゃ自分が捨てられることはないと思ったんだろうな。

ダヴォス それはわかってます。おや、お父様がいらした。気をつけてくださいよ、坊ちゃんが取り乱してるところを見られないようにね(二人、舞台の隅に移動)。


第2幕 第4場 シモン、ダヴォス、パンフィロス(父親の登場に備えてパンフィロスが心の準備をする場面)(404-)

(シモン、広場の方向から登場)

シモン(独白) わしはやつらが何をしているか、何を考えているか探りを入れるために戻ってきた。

ダヴォス(パンフィロスへ)お父様は坊ちゃんが結婚を断るに違いないと思っておられます。それで、どこか人気のないところへ行って、どう言えばいいか考えて来られたのですよ。坊ちゃんをうろたえさせる言い方を見つけてこられたのです。ですから、坊ちゃんもしっかりしないとだめですよ。

パンフィロス ダヴォス、おれに出来るかなあ。

ダヴォス 坊ちゃん、ここは私の言ったおりに結婚しますとおっしゃって下さい。そうすればお父様は今日のところはもう坊ちゃんに対して一言も言えないはずです。


第2幕 第5場 ビュリア、シモン、ダヴォス、パンフィロス(パンフィロスが父シモンに結婚を受けると嘘を付く場面)(412-)

(ビュリアがシモンを探して右手から登場、端で止まる)

ビュリア(シモンのあとをついてくる、独白) うちの若旦那が、ほかの事はほっといて今日はパンフィロスさんのことをよく見張って、結婚の事がどうなるか調べてこいとおっしゃるので、この旦那の後について行くことにした。ちょうど今ここにパンフィロス坊ちゃんがダヴォスといっしょに居る。耳をすましてみよう。

シモン(パンフィロスとダボスを見つけて) 二人とも揃っているな。

ダヴォス(パンフィロスに) ほら、気をつけて。

シモン せがれじゃないか。

ダヴォス(パンフィロスに) 思いがけないふりをして、お父様の方を見てください。

パンフィロス おや、お父さん。

ダヴォス(パンフィロスに) その調子。

シモン さっき言ったとおり、今日はお前の結婚式だぞ。

ビュリア(傍白) こちらとしても、この人が何て答えるか、気になるところなんだ。

パンフィロス その事でも他のどんな事でも、僕はお父さんの言うとおりにしますよ。

ビュリア(傍白) えっ。

ダヴォス(傍白) 大旦那さまはびっくりして言葉もないぞ。

ビュリア(傍白) 何て言ったんだ。

シモン それこそお前に相応しい行動だ。わしの要求に進んで応じてくれるとはな。

ダヴォス(パンフィロスに) ね、私は嘘は言わないでしょ。

ビュリア(傍白) いま聞いた限りでは、うちの若旦那は結婚し損なうようだな。

シモン もう中へ入れ。わしが呼んだらすぐに来るんだぞ。

パンフィロス わかりました。

ビュリア(傍白) 何一つ誰一人信用出来ない。一般に言われていることは本当だ。誰も我が身が一番可愛いとね。おれも花嫁を見たけれど、とても美人だったのをよく覚えている。それだけにパンフィロス坊ちゃんの気持ちがよくわかる。あの女と夜を共にしたい、あの女をうちの若旦那に渡したくないと思ったにちがいない。これはお知らせしてこよう。「悪い知らせをもって来た」と、またお叱りを受けても仕方がない(右手へ退場、ダヴォスとシモンが残る)。


第2幕 第6場 ダヴォス、シモン(シモンがダヴォスの腹の中を探ろうとする場面)(432-)


ダヴォス(傍白) 大旦那さまはおれが何か企んでると思っておられる。その疑いを晴らすために、おれはここに居残ったってわけだ。

シモン(ダヴォスに近づきながら) ダヴォスは何を一人で言ってるんだ。

ダヴォス 何も変わったことはありませんよ。

シモン 何もないとな。

ダヴォス 確かに何もありません。

ダヴォス(傍白) 予想外だったようだな。困っておられるのが手に取るようだ。

シモン この結婚は息子にとっては迷惑なんだろ。あの外国女との色恋があるからな。

ダヴォス そんなことはありませんよ。仮にそうだとしても、坊ちゃんがお困りなるのは数日のことですよ。ご存知のように、それも終わる時が来るんです。だって、坊ちゃんも自分でよく考えて、正しい道に戻っておられます。

シモン それはよかった。

ダヴォス 坊ちゃんは大旦那さまのお許しがある間だけ、若気の至りが許される間だけ色恋沙汰にふけっておられますが、それも世間体を考えて、一人前の男にふさわしい範囲でやっておられます。今では坊ちゃんにも奥さんが必要ですし、ご本人も結婚する気になっておられます。

シモン でもわしには息子が何か取り乱したように見えたな。

ダヴォス それは結婚のことじゃないですよ。旦那さまに何かで腹を立てていらしゃるんですよ。

シモン 一体何だ。

ダヴォス 子供じみたことです。

シモン それは何なんだ。

ダヴォス 何でもありません。

シモン 言わないか。何なんだ。

ダヴォス あんまりしみったれてると。

シモン おれがか。

ダヴォス そうです。「お父様は食事代に十ドラクマも使わないんだ」とおっしゃています。「これでは息子の結婚式とは思えない。披露宴に招待するのに仲間の中から誰を選んだらいいんだ」と。この件では言っちゃ何ですが、大旦那さまは始末しすぎです。感心しませんなあ。

シモン うるさい。

ダヴォス(傍白) 痛いところをついたようだな。

シモン 式の方はちゃんと挙げるように手配するさ。(傍白) いったいどうなっているんだ。このペテン師は何を企んでいるんだ。この家で何か悪いことがあるときは、その裏に決まってこいつがいるんだから。


第3幕 第1場 ミュシス、シモン、ダヴォス、レスビア(グリュケリウム)(パンフィロスの子供が生まれるところにシモンとダヴォスが居合わせる場面)(459-)

(ミュシスが広場の方向から、産婆のレスビアを連れて登場)

ミュシス(産婆をつれて戻る) レスビアさん、本当にあなたの言ったとおりですわ。女に嘘をつかない男なんていないものですわね。

シモン この女中もアンドロスから来たのか? どう思う? 

ダヴォス そうですよ。

ミュシス でもパンフィロスさんは・・

シモン 何て言っているんだ? 

ミュシス 約束を守ってくれましたわ。

シモン えっ。

ダヴォス(傍白) 大旦那さまの耳と目をなんとか塞げないものか。

ミュシス だって、生まれた子をちゃんと育てるように言って下さったんですもの。

シモン どうなってんだ、妙なことを言うじゃないか。これが本当ならまさにゲームセットだ。

レスビア ご主人はとても良い方のようですね。

ミュシス こんな良い人はいませんわ。さあ、中へついてきて下さい。お嬢さんを待たせないでくださいね。

レスビア はいはい。

ダヴォス(傍白) この窮地をどう挽回すりゃいいんだ。

シモン(傍白) これはどういうことだ。息子はそこまであの女に惚れているのか。外国女と子供をつくるほどに。(間があって)。ああ、わかったぞ。いくら鈍いわしでも何とか分かったぞ。

ダヴォス(傍白) 何が分かったと言うんだろう。

シモン これはわしをペテンにかけるこの男の作戦の第一弾なのだ。ここの女はお産の芝居をしているのだ。それでクレメースさんに思いとどまらせようとしてな。

グリュケリウム(家の中から) 神様、お助けを。お救いを。お願いです。

シモン えっ、もう生まれたのか。そんな馬鹿な。わしが戸口に来ていると聞いたので急いだのか。セリフの配分のタイミングが悪いな。ダヴォスよ、お前としたことが。

ダヴォス 私がですか。

シモン お前の生徒はセリフ覚えが悪いのか。

ダヴォス(傍白) 何と言えばいいか分かったぞ。

シモン もし今日の結婚式が本当で、わしが何も知らずにこいつの罠にかかっていたら、わしは笑い者になるところだったわい。ところが実際にはピンチに陥ったのはこいつで、わしは順風満帆というところだな。


第3幕 第2場 レスビア、シモン、ダヴォス(パンフィロスの子供が生まれたことをシモンが芝居だと確信する場面)(481-)

(レスビア、グリュケリウムの家から出てくる)

レスビア(出がけに家の中に向かって)アルキュリ スさん、今までのところ、彼女の症状はどれも普通に安産であることを示すものばかりよ。今はまず彼女をお風呂に入れて下さいね。そのあとで、飲み薬を指定した量だけ飲ませてあげてね。私はすぐに戻って来ますわ。パンフィロスさんに何という可愛い赤ちゃんが生まれたことでしょう。きっと元気な子に育つでしょうね。パンフィロスさんは性格がいいし、あの素敵な女性をひどい目に合わせることはないはずですわ。

シモン お前を知ってる者なら誰でも、これはお前の差金だと思うはずだ。

ダヴォス いったい何をおっしゃってるんですか。

シモン 妊婦に対して言うべきことを面と向かって言わずに家の外へ出てから言うとはな。中にいる人に向かって外から大きな声で話しかけるとはな。ああ、ダヴォスよ、わしはお前からそんなに甘く見られているのか。わしはこんな見え透いたインチキで騙せるような男に見えるのか。このわしをなめるなよ。わしにバレたら恐いんだぞ。

ダヴォス(傍白) 何と大旦那さまはこちらが何もしていないのに自分自身でペテンかかってしまわれた。

シモン わしはお前に言ったな。やるなよと警告したな。少しは恥ずかしくないのか。何が狙いなんだ。この娘とせがれの間に子供が生まれるなんて、こんな芝居をわしが信じると思うのか。

ダヴォス(傍白) 大旦那さまが何を勘違いしておられるか、それに対してあっしはどうすればいいか分かったぞ。

シモン なぜ黙ってる。

ダヴォス どうして「信じる」などとおっしゃるんですか。大旦那さまはこんなことがあると聞いて来られたのではないのですか。

シモン 誰から聞いたというんだ。

ダヴォス すると、大旦那さまはこれを芝居と見抜かれたのですか。

シモン 馬鹿にしよって。

ダヴォス やっぱり聞いて来られたんですね。でなけりゃ、どうして大旦那さまにそんな疑いが浮かんだりしましょうか。

シモン どうしてかって? それは、わしはお前というものをよく知っているからだよ。

ダヴォス それではまるであっしがこれを仕組んだみたいじゃないですか。

シモン いや、そうにちがいない。

ダヴォス 大旦那さま、あなたはあっしのことをまだ充分にご存じありませんね。

シモン わしがか。

ダヴォス だとすると、あっしが口を開くときはいつも大旦那さまを騙すためだとお考えなのですね。

シモン わしのこの考えが間違いだと?

ダヴォス それだと、もうあっしは大旦那さまの前では口を開くことができませんや。

シモン 一つわしに分かっていることは、ここでは誰も赤ん坊を産んではいないということだ。

ダヴォス ご明察。でも、そのうちに誰かが赤ん坊がもってきて大旦那さまの家の前に置いていきますよ。これは大旦那さまにお知らせしときますから、覚えておいてくださいよ。あとでこれはダヴォスの策略だなんて言わないでくださいよ。そしてあっしに対する偏見をきっぱりと捨てていただきたいものです。

シモン で、そんなことがお前にどうしてわかるんだ。

ダヴォス これは噂ですが本当のことだと思います。色んな事が 一度に起こって、それを考え合わせるとこういう結論になります。前はあの女性はパンフィロスの子を身ごもったと言いいました。これは芝居で嘘でしょう。次に彼女は、この家で結婚式の準備が進んでいることを知ると、産婆を呼びに世話係の女 を送り出して、その時に赤ん坊を持ち来んだんです。その赤ん坊を大旦那さまに見せないと、結婚式の邪魔ができないじゃないですか。

シモン じゃあねえ、女がそんな事を考えてると分かったら、お前、どうしてすぐにせがれにそれを教えてやらなかったんだ。

ダヴォス 私以外の誰が坊ちゃんに女とのことを諦めさせたと思ってるんです。だって誰でも知ってるでしょう、以前の坊ちゃんの女へのみじめな惚れ込みようは。それが今では嫁をもらおうとおっしゃってるんです。要するにこの事はあっしにお任せ下さい。大旦那さまは前と同じように結婚式の準備を続けてください。きっと事はうまく運びますよ。

シモン いいからお前は中へ入ってろ。中でわしが来るのを待つんだ。そして必要な準備をするんだぞ。(ダヴォス、シモンの家に入る)(独白)やつがあんなことを言ったってそれをそのまま信用する気にはなれんのだ。あいつの言うことが全部本当かも知れないが、かまうものか。わしにとって一番大事なのは息子がわしにした約束の方だ。まずはクレメースさんに会いに行って、嫁をくれるように頼んでこよう。それがうまく行ったら、今日は結婚式を挙げるには最高の日じゃないか。というのも、息子が約束をたがえた場合には、無理やり結婚させたって構わないんだから。ちょうどいい時にクレメースさんがあそこに来たぞ。


第3幕 第3場 シモン、クレメース(縁談を断ったのに結婚式があると聞いてやってきたクレメースに、シモンが縁談を復活するようにたのんで成功する場面)(533-)

(クレメースが広場の方向から興奮した様子で登場)

シモン クレメースさんにどうしてもして欲しいことがあるんだ。

クレメース ああ、私もあんたを探しているところだったんだよ。

シモン 私もなんですよ。

クレメース いいところに来てくれた。何人もの人が私の家に来て、今日私の娘がおたくの息子さんと結婚するとあんたから聞いたと言うんだ。それで確かめに来たんだ。あの人達がいい加減なことを言ってるのか、それともあんたの頭がどうかしたのかを。

シモン ちょっと聞いてくださいな。そうすれば私の考えもわかってもらえるだろうし、あなたの疑問にも答えることが出来ると思うんだ。

クレメース じゃあ、聞かせてもらおう。あんたは何がしたいのかを言ってくれ。

シモン クレメースさん、お願いだ。おれたちは長い付き合いじゃないか。子供のころから大人になってもずっと付き合ってきた仲だろ。お互いにお前は 一人娘、おれは一人息子を育ててきた。そのおれの息子を救えるかどうかは、ひとえにあんたの肩にかかっているんだ。そのために結婚式が予定通り行われるように私を助けて欲しい。

クレメース 私に懇願などしないでくれ。これはあんたが懇願したからをどうなるような問題じゃない。私は娘の縁談を君に申し込んだ時と変わらず同じ気持ちだよ。結婚式を挙げるのが二人のためになるのなら、娘を迎えに行くように言ってくれたらいい。だが、それが二人にとって不幸になるのなら、頼むから、みんなにとってどうすればいいかをよく考えてくれ。例えば、もし立場が逆で、花嫁があんたの娘でパンフィロスが私の子だとしたらどうする。

シモン もちろん二人の幸福を望んでいるからこそ、式を挙げようと言ってるんだよ、クレメースさん。もちろん状況が変わってきたからこそお願いしているんだ。

クレメース どういうことだ。

シモン せがれは女と仲違いしたんだ。

クレメース それで?

シモン あれだけ仲の悪い二人なら、別れさせられると思うんだよ。

クレメース たわごとを言うなよ。

シモン 大丈夫だ。

クレメース いいことを教えてやろう。喧嘩するたびに恋人たちの愛は深まるものなんだよ。

シモン だからこそお願いしているんだ。まだ間に合う内に、こちらから先手を打ちたいんだ。悪口を言い合って息子の恋が弱まっている間に、ずるい女の偽りの涙がせがれの倦んだ心を同情に変えないうちに、息子を結婚させてしまいたいんだ。クレメースさん、あの子も社会の習慣とちゃんとした結婚によって縛り付けられたら、あの女のしがらみから容易に抜け出すことが出来ると思うんだ。

クレメース それが君の考えなのか。私は君の息子がその女とずっと暮らしていくとも思わないが、私がそれまで耐えられるとも思わないんだ。

シモン 試してもみずに、そんなことがどうしてわかるんだ。

クレメース だが、それを私の娘で試すのは困る。

シモン 確かに色々不都合はあるが、要するに、離婚さえしなければいいんだろ。離婚はしないさ。だが、わしのせがれが生き方を改めた場合の利点がどれほど沢山あるか考えてみてくれ。まず第一にあんたの友人である私は息子をとりもどすことができるし、あんたはしっかりした婿を、あんたの娘は夫を手に入れることができる。

クレメース わかったよ。君がそれでいいというなら、僕は君の幸福の邪魔をするつもりはないよ。

シモン わしがあんたをいつも親友だと思ってきただけのことはあるよ、クレメースさん。

クレメース でもねえ。

シモン なんだい。

クレメース どうして二人が仲違いしていることが分かったんだい。

シモン ダヴォスがそう言ったんだ。あいつは二人が考えていることに詳しいんだそうだ。そのダヴォスが結婚式をできるだけ早めることを勧めてくれたんだ。それは息子が結婚を望んでいることを知っているからじゃないか。あんたも自分でダヴォスの言うことを聞いてみるがいい。(家の中へ)ダヴォスをここに呼びだしてくれ。ほら、彼が出てくるぞ。


第3幕 第4場 ダヴォス、シモン、クレメース(クレメースが変心して本当に結婚式が行われることをダヴォスが知る場面)(580-)

(ダヴォスがシモンの家から登場)

ダヴォス ちょうど大旦那さまのところに行くところでした。

シモン どうしたんだ。

ダヴォス どうして花嫁を迎えにやらないのですか。もう夕方ですよ。

シモン 聞いてくれるか。さっきからわしは心配しているんだ、ダヴォス。召使いたちがよくやるように、お前、息子の恋を助けようとして、わしをペテンに掛けようとしてるんじゃないかとね。

ダヴォス 私がそんなことをするとお考えですか。

シモン 前はそうだった。お前たちが怖くて、これから言うこともお前には言わずにいたんだ。

ダヴォス どんなことですか。

シモン 今から言うよ。いまはお前のことを信用しているからな。

ダヴォス やっと分かってくださったんですね、私という男のことが。

シモン 実はな、結婚式なんかしないんだよ。

ダヴォス 何ですって? しないんですか?

シモン お前たちをテストするために結婚式をするふりをしたのさ。

ダヴォス まさか。

シモン これは本当の話のことなんだ。

ダヴォス 見事ですねえ、私には全然わかりませんでした。実にうまい考えですね。

シモン これだけは聞いてくれ。わしがお前に家の中へ入るように言った時、うまい具合にこの人がわしに会いに来たんだ(とクレメースを指す)。

ダヴォス(傍白) これはまずいことになったのかもしれん。

シモン それでお前がさっきわしに言ったことをこの人に話したんだ。

ダヴォス(傍白) 何を言い出すんだろう。

シモン そして娘さんを嫁にくれるように頼んだのさ。すると何とかOKが出たんだよ。

ダヴォス(傍白) くそ。

シモン なんて言った?

ダヴォス それはよかったと申しました。

シモン もうこの人は反対していないんだ。

クレメース 私は家へ帰って準備をするように言ってくるよ。そしてまたここに戻ってきて知らせるよ。

シモン ダヴォス、この結婚式ができることになったのはお前一人の手柄だよ。だから、一つ頼みがある。

ダヴォス(傍白) 私一人の手柄とはね。

シモン 息子を立ち直らせるために頑張って欲しいんだ。

ダヴォス 精一杯やらせて頂きます。

シモン 息子が女に腹を立てている今なら出来るよ。

ダヴォス 安心してください。

シモン じゃあ、がんばってくれ。息子は今どこにいる? 

ダヴォス 家じゃないですか。

シモン わしは息子のところに行って、今言ったことを自分で伝えてくるよ。(シモン、自分の家に入る)

ダヴォス(独白) 参ったな。どうしたらおれは粉挽き小屋に直 行せずに済むんだ? 泣きついてどうにかなる状況ではない。全部ぶち壊してしまったんだから。おれが大旦那さまを騙したおかげで、坊ちゃんは無理やり結婚させられることになってしまった。大旦那さまの予期に反して、そして坊ちゃんの意に反して、今日こうなってしまったのは、全部おれの責任だ。おれは策に溺れたらしい。おれが何もしなければ、こんなひどい事にはならなかったんだ。ああ、坊ちゃんが出ていらした。もうだめだ。まさに穴があったら入りたい。


第3幕 第5場 パンフィロス、ダヴォス(ダヴォスが次の作戦を考える場面)(607-)

(パンフィロスがシモンの家から怒った表情で出てくる)

パンフィロス 僕を無茶苦茶にした馬鹿野郎はどこだ。

ダヴォス(傍白) 参ったな。

パンフィロス しかし、こうなったのも仕方がない。僕はまったく知恵もなければ思慮もないときているんだから。自分の運命をあんなやくざな召使に委ねるなんて! 自業自得というところだ。しかし、あいつは絶対にただでは済まさないからな。

ダヴォス(傍白) いま罰を受けずに切り抜けたら、あとはきっと大丈夫なはずだ。

パンフィロス いったい僕はおやじになんて言えばいいんだ。一度は結婚すると約束したけど、結婚するのはやっぱりいやだと言おうか。しかし、どの面下げてそんなことが言えるというんだ。もう僕はどうしたらいいか分からないよ。

ダヴォス(傍白) おれも分からないが、精一杯やるしかない。何かいい方法を見つけますとでも言っておこう。それで当分は罰を受けずに済むだろう。

パンフィロス(ダヴォスを見つけて) おい。

ダヴォス(傍白) 見つかった。

パンフィロス おい、大将、どうなってるんだい。お前の悪知恵のせいで僕はひどい事になっているのが分かっているのか。

ダヴォス でも何とかしてあげますよ。

パンフィロス 何とかするだって? 

ダヴォス そうです、坊ちゃん。

パンフィロス どうせ前と同じなんだろ。

ダヴォス もっとうまい方法がありますよ。

パンフィロス お前の言うことを信じろというのか。この悪党め。お前がこの絶望的な状況を一気に解決できるとでもいうのか。お前を信じたばっかりに平穏無事だったこの俺が今日は無理やり結婚させられる破目になったのだ。きっとこうなると僕はお前に言わなかったか。

ダヴォス おっしゃいました。

パンフィロス この失敗の償いはどうするんだ。

ダヴォス 磔(はりつけ)にでも何でもして下さい。ただその前に、ちょっとの間だけ落ち着いて考えさせてください。すぐにいい考えを見つけますから。

パンフィロス 畜生、お前に罰を与えたいけれど、そんな余裕は今の僕にはない。今はお前に仕返しをするどころか自分のことを心配するのに精一杯だ。


第4幕 第1場 カリーヌス、パンフィロス、ダヴォス(パンフィロスがカリーヌスの恋人フィロメーナと結婚するという話を聞いて抗議しに来る場面)(624-)

(カリーヌスが広場の方向から興奮した様子で登場)

カリーヌス(独白) こんなことが信じられるだろうか。誰の心にも生まれつき狂気が住みついていて、悪事を楽しみ、人の不幸を利用して自分の幸福を手に入れようとするとうが、これは事実なのか。こんなことは最低の人間のすることだろう。断るべき時には体裁をつけて断われず、あとで約束を果たすべき時が来ると、今度は必要に迫られて本心を明かすのだ。その場で断る勇気がなくて、あとで仕方なく断ってくる。そんな時にやつらは偉そうに言うものだ。「お前は誰だ、私と何の関係があるんだ。なぜおれの女をお前にやる必要があるんだ。誰でも我が身が一番かわいいものだ」と。「約束はどうなった」と聞いても、恥ずかしがりもしない。こんな時こそ恥を知るべき時だ。ところが、恥ずかしがる必要のない時に恥ずかしがる、そういう連中なのだ。しかし、僕はどうしたらいいんだ。あいつの家に行ってあいつに対してこの約束違反をとがめようか。そしてさんざ悪口を浴びせてやろうか。そんなことをして何になるという人がいるかもしれないが、僕として充分 だ。これであいつに嫌な思いをさせたら自分としては満足なんだ。

パンフィロス カリーヌス君、このままいくと僕のせいで君も僕もひどい事になってしまいそうだけど、僕に悪気はないんだよ。

カリ-ヌス 「悪気はない」だって?、とうとう言い訳を始めたな。約束を反故にしといて。

パンフィロス 「とうとう」ってどういうことだ。

カリーヌス そんなこと言って僕をごまかせると思っているのか。

パンフィロス それはどういう意味なんだ。

カリーヌス 僕が彼女を愛していることを聞いた途端に君も彼女を好きになったのさ。君も僕と同じようにちゃんと行動するはずだと思った僕が馬鹿だったんだ。

パンフィロス それは誤解だ。

カリーヌス 君は今ある喜びに満足できずに、恋する僕を出しぬいて、その上、いつわりの希望で僕に気をもたせることにしたのかい。もういいよ。彼女は君にやるよ。

パンフィロス 彼女を僕にくれる? 君は知らないんだね。惨めな僕がどんなひどい災難に巻き込まれているかを。あのろくでなしの悪知恵のせいで僕がどんなに悩み苦しんでいるかを。

カリーヌス ダヴォスは君を手本にして行動しているのに、どうしてそんな妙なことを言うんだ。

パンフィロス もし僕の本当の気持ちがわかったら、君だってそんなことは言わないさ。

カリーヌス 分かってるよ。君はずっと父上と仲違いをしていて、父上は君を今日彼女と結婚させられることが出来なかったので、君にご立腹だとでも言うんだろ。

パンフィロス そうじゃないだよ。君は僕の苦しみを何も知らないよ。僕の結婚式の準備なんかされてはいなかったし、誰も僕に嫁をやりたいなんて言っていなかったんだよ。

カリーヌス 分かってるよ。君は自分の意志でこの強制結婚を選んだのさ。

パンフィロス 待ってくれ。まだ君は分かっていない。

カリーヌス 分かってるよ。君は彼女といまから結婚するのさ。

パンフィロス なんでそんなに僕を困らせるんだ。これだけは聞いてくれよ。こいつが僕に父親に結婚すると言えとせがんで止めなかったんだよ。しつこく何度も言い続けたので僕はこいつの言うとおりにしただけなんだよ。

カリーヌス 誰がそんなことを言うんだよ。

パンフィロス ダヴォスさ。

カリーヌス ダヴォス? 

パンフィロス やつが横槍を入れてくるんだよ。

カリーヌス どうして。

パンフィロス 知るもんか。ただ分かってるのは、やつの言うとおりにしたのは大失敗だったということさ。

カリーヌス これは事実なのか、ダヴォスよ。

ダヴォス そうです。

カリーヌス ひどいな。お前どう弁解するんだ、この悪党め。そんなことして只で済まないぞ! おい、答えろ。彼を陥れようとして無理やり結婚させようとする人なら、誰だってお前と同じアドバイスをするんじゃないのかね。

ダヴォス これは見込み外れでした。でも、まだ諦めてません。

カリーヌス そうだろうよ。

ダヴォス(パンフィロスに) これは失敗しましたが、別のやり方でやりましょう。最初のが失敗して、もうこの災いが福に転じる可能性がないと坊ちゃんが思われるのでなければ。

パンフィロス もちろん、そんなことは思わないさ。だって、わかってるんだよ。もし君がぬかりなくやれば、さぞかしもう一つ結婚式をこしらえて来るんだろうよ。

ダヴォス 私は坊ちゃんにお仕えする以上は昼も夜も一日中、持てる限りの力を尽くして坊ちゃんのお役に立つために、この命をかける覚悟です。期待通りにいかなくても、それはご容赦頂かなくてはいけません。私のすることがうまく行かなくても、私は精一杯やってるんです。それでも駄目だとおっしゃるなら、私を首にして、ご自分でもっといい方法が考えて下さい。

パンフィロス そうしたいところだが、その前にお前が口出しするまえの状態に僕をもどしてくれないか。

ダヴォス そうします。

パンフィロス いまやってくれ。

ダヴォス(時間稼ぎをする) はい、でもちょっと待って下さい。グリュケリウムさんの家の扉ががたがた言っていますよ。

パンフィロス お前には関係ないだろ。

ダヴォス 何かいい方法は・・。

パンフィロス まだ考えてるのか。

ダヴォス すぐに坊ちゃんのためにいい方法を見つけてさしあげますよ。


第4幕 第2場 ミュシス、パンフィロス、カリーヌス、ダヴォス(パンフィロスがミュシスにグリュケリウムを絶対に捨てることはないと誓う場面)(683-)

(ミュシスがグリュケリウムの家から出てくる)

ミュシス(中のグリュケリウムに) どこであろうと、パンフィロスさまを見つけてお連れしてきます。すぐですので、お嬢様はご心配なさらないでください。

パンフィロス ミュシスか。

ミュシス どなたですか。ああ、パンフィロス様。ちょうどいい時に来てくださいました。

パンフィロス どうしたんだ。

ミュシス あなたがお嬢様を愛しておられるならすぐに来て下さるようお願いして来なさいとの、お嬢様のお言いつけなのです。あなたに会いたがっておられます。

パンフィロス(傍白) ああ、くそ。こっちでもやっかないことになってきた。(ダヴォスに) こうやってお前の悪知恵のせいで僕と彼女はみじめな事になっているじゃないか。だって、彼女は僕の結婚式の準備が進んでいることを知ったから僕を呼びに来たんだからな。

カリーヌス(ダヴォスを指して) この男が何もしなきゃ、君もこうしたごたごたからもっとすんなり免れれていたのになあ。

ダヴォス(カリーヌスに) 坊ちゃんはただでもあっしに怒っておられるのに、それでも物足りないと言うなら、そうやってけしかけたらいいですよ。

ミュシス その事ですよ。そのためにお嬢さんは身も世もあらず嘆き悲しんでおられます。

パンフィロス ミュシスよ、八百万の神に僕は誓うよ、僕が彼女を見捨てることは絶対にないって。たとえ全人類を敵に回しても僕が彼女を見捨てることはない。僕は彼女に求婚して、それが叶ったんだ。彼女と僕は一心同体なんだ。だから、二人の仲を裂こうとする者たちはくたばればいい。僕は死ぬまで彼女と離れることはないんだ。

ミュシス 私は一息つけましたわ。

パンフィロス 神アポロンの答えだってこれ以上の真実はない。この結婚式が出来ないのは僕のせいじゃないことを親父が分かってくれるといいのだが、それが出来なきゃ、いっそのこと僕のせいだと思っても構わない。(カリーヌスに) 僕はどう見える? 

カリーヌス 僕と同じぐらい不幸だな。

ダヴォス 私がいい方法を考えてみましよう。

パンフィロス 頼もしいやつだな。お前の努力はよく知っている。

ダヴォス これできっとうまくいくと思います。

パンフィロス よしそれで行こう。

ダヴォス 準備完了です。

カリーヌス どうするんだい。

ダヴォス うちの坊ちゃんのための計画で若旦那のためではござんせん。お間違いなきよう。

カリーヌス わかったよ。

パンフィロス どうしようってんだ。言ってくれ。

ダヴォス これをするには丸一日かかるかも知れないので、今はお話ししている時間はないんです。ですから、お二人ともこの場からお引き取り願います。お二人は今の私にとっては足手まといなのですから。

パンフィロス 僕は彼女に会いに行こう。

ダヴォス こっちの若旦那は? どちらへ行かれますか。

カリーヌス 本当のことが聞きたいのか? 

ダヴォス もちろんです。(傍白) こりゃ泣き言が始まるぞ。

カリーヌス 僕には何をしてくれるんだい。

ダヴォス 厚かましい人ですね。結婚式が先延ばしになって余裕ができただけでは、若旦那は満足しないんですか。

カリーヌス だって、ダヴォス。

ダヴォス 私にどうして欲しいんですか。

カリーヌス 僕が結婚できるようにしてほしいんだよ。

ダヴォス 馬鹿馬鹿しい。

カリーヌス(帰りながら) お前に何か出来ることがあったら僕の家まで来て欲しいんだ。

ダヴォス どうして私が。何も出来ませんよ。

カリーヌス だって、何かあるだろ。

ダヴォス はいはい、行きますよ。

カリーヌス 何かあったら、家に居るから。

ダヴォス(ダヴォス、グリュケリウムの家に入りながら) ミュシス、僕が出てくるまでここでちょっと待っててくれ。

ミュシス 何のために? 

ダヴォス こうすることが必要なんだ。

ミュシス 急いで下さいね。

ダヴォス ほんとに、すぐに戻ってくるよ。(ダヴォス、グリュケリウムの家に入る)


第4幕 第3場 ミュシス、ダヴォス(ダヴォスがパンフィロスの赤ん坊をミュシスにシモンの家の前に捨てさせる準備をする場面)(716-)

ミュシス やれやれ、世の中に変わらない物なんて どこにもないのね。パンフィロスさんはお嬢さんには最高のお相手だと思っていたのに。友情、愛情、どの点をとっても欠点のない人だと思っていたのに。ところが、お可哀想にいまお嬢さんはあの人のせいでどんなに悲しんでおられることでしょう。以前の幸せは今の不幸によってあっさりとくつがえってしまいましたわ。(戸が開いてダヴォスが赤ん坊をもって出てくる) おや、ダヴォスが出てきた。ねえ、あんた、いったい何をしてるの。赤ちゃんをどこへ持っていくの? 

ダヴォス ミュシスよ、これを手伝ってくれ。今こそ君の頭のよさと機敏さを発揮する時だよ。

ミュシス 何を始めるつもりなの。

ダヴォス さあ、この子を受け取って、うちの大旦那さまの家の前に置いて来るんだ。

ミュシス まあ、地べたに? 

ダヴォス 祭壇の榊(さかき)を何本かもらって下に敷いたらいい。

ミュシス 何であんたが自分でしないの。

ダヴォス そりゃ、おれが置いたんじゃないと大旦那さまに言う時に、嘘をつかなくていいようにするためさ。

ミュシス 分かったわ。急にそんなふうに心を入れ替えたというわけね。渡して!(赤ん坊を受け取ってシモンの家の前に行く)

ダヴォス さっさと行けよ、次にすることを教えるから。しまった!

ミュシス どうしたのよ。

ダヴォス 悪い時に花嫁の父がやってきた。最初に考えていた計画は変更だ。

ミュシス 何を言ってるの。

ダヴォス おれはどこか右手の方からここに来たふりをするからね。お前は適当におれの話に調子を合わせてくれ。(左手に退場)

ミュシス 何をしたらのいいのか分からないわ。でも、あんたの方がよくわかってるから、お手伝いするためにここにいるわ。あんたの計画の邪魔だけはしたくないから。


第4幕 第4場 クレメース、ミュシス、ダヴォス(クレメースがグリュケリウムとパンフィロスの赤ん坊を見つけて縁談を断る決心をする場面)(740-)

(クレメースが右手の自分の家から登場)

クレメース 娘の結婚式のために必要な準備が終わったので、娘を呼び出しに来いと言うために戻ってきたんだが、これは何だ。何と、赤ん坊じゃないか。(ミュシスに)あんたが置いたのか。

ミュシス(傍白) あの人はどこかしら?

クレメース 私の質問には答えないのか。

ミュシス(傍白) どこにもいないわ。いやよ、どうしましょう。あの人は私を置いて行ってしまったわ。

ダヴォス(右手から再登場) いやはや、広場はひどい人混みだったな。なんていう騒がしさだ。それに物の値段の高いことよ。(傍白) ほかに何を言えばいいかな。

ミュシス(ダヴォスに) ねえ、どうして私を一人にしたのよ。

ダヴォス(大声で) こらっ、何を馬鹿なことしてるんだ。おい、ミュシス、この子はどこの子だ。どうしてこんなところに持ってきたんだ。

ミュシス 頭がどうかしたのかい。そんなことを私に聞くなんて。

ダヴォス(大声で) ほかの誰に聞くんだよ。ここにはお前しか居ないじゃないか。

クレメース(傍白) いったいどこの子だろう。

ダヴォス(ミュシスに) おれが聞いていることに答えるんだ。

ミュシス(ダヴォスに腕を掴まれる)まあ。

ダヴォス(小声で) もっと右の方へ行くんだ。

ミュシス ぼけてんの、あんたが自分で・・ 

ダヴォス(小声で) 俺が聞いていることだけ言えばいいんだ。(大声で)怒ることはない。どこの子なんだ。大きな声で言うんだ。

ミュシス うちの子ですよ。

ダヴォス(大声で) おやおや、驚くねえ、商売女の恥知らずなやりようは。

クレメース(傍白) たぶんあれはアンドロスの女のところの女中だな。

ダヴォス(大声で) お前たちは私たちをそんなことで騙せると思っているのか。

クレメース(傍白) いい時に来たようだ。

ダヴォス 早く戸口からその赤ん坊を拾い上げろ。(小声で)止まれ、そこからどこへも動くんじゃない。

ミュシス(拾い上げろと言われたことに対して) 畜生、びっくりするじゃないか。もう、わけがわからない。

ダヴォス(大声で) お前、聞こえてるのか、どうなんだ。

ミュシス どうしろって言うのよ。

ダヴォス わかってるだろ。さあ、お前がここに捨てた子は誰の子なんだ。言え。

ミュシス あんた知らないの? 

ダヴォス(小声で) おれが知ってるかどうかじゃないんだ。聞かれたことに答えろ。

ミュシス おたくの坊ちゃんの子ですよ。

ダヴォス うちのだれの子だって?

ミュシス パンフィロスさんの。

ダヴォス えっ、何だって、パンフィロスさんの子だって?

ミュシス だって、そうじゃないの。

クレメース(傍白) だからわしはこの結婚には反対だと言ったんだ。

ダヴォス(大声で) 何と言ういまわしき犯罪だ。

ミュシス 何でそんな大きな声を出すのよ。

ダヴォス その子は昨日の夕方お前の家に持ってこられた子じゃないか。

ミュシス(傍白) 恥知らず。

ダヴォス 本当だ。おれはお腹の大きな婆さんが来たのを見たぞ。

ミュシス ほんとに良かったわ。出産の時にちゃんとした立会人がたくさんいて。

ダヴォス(クレメースに聞こえるように傍白) 相手のことをよく知りもせずにあの女はこんなことをしたんだな。この子が家の前に置かれているのクレメースさんが見たら、娘をこの家に嫁(とつ)がせるのをやめるだろうと思ったんだろうが、かまわずに嫁がせるさ。

クレメース(傍白) いや、絶対に娘はやらんぞ。

ダヴォス(ミュシスに) よく覚えておけ、お前がその子を拾いあげないのなら、おれがその子を道の真中まで転ばせてやる。お前も一緒にそのぬかるみの中に転ばせてやるぞ。

ミュシス 何を言うの、この酔っ払い!

ダヴォス 次から次へと嘘のオンパレードだ。いまや女がアテナイ生まれだとまで囁いている。

クレメース(傍白) なんだって。

ダヴォス 坊ちゃんは法律に従って彼女と結婚しなければならないと。

ミュシス まあ、なんてことを、お嬢さんはアテナイ市民じゃないとでも。

クレメース(傍白) 何も知らずに馬鹿々々しい罠に危うくはまるところだった。

ダヴォス いましゃべっている人は誰だろう。(振り向いて)ああ、クレメースの旦那、いい時にいらっしゃいました。よく聞いてください。

クレメース もう全部聞かせてもらったよ。

ダヴォス これを全部?

クレメース 最初から聞いた。

ダヴォス ええ? もうお聞きになったんですか。本当に? この悪事のすべてを! この女を逮捕して磔の刑にすべきです。(ミュシスに) これがあの方だよ。この俺をからかうのとはわけが違うんだぞ。

ミュシス まあ、どうしましょう。(クレメースに)私は決して嘘は申しておりません。大旦那さま。

クレメース もう全部わかっている。(ダヴォスに)シモンは中にいるか。

ダヴォス いらっしゃいます。(クレメース、シモンの家の中に入る)

ミュシス 私に触らないで。悪党。このことをお嬢様に全部話してやるからね。

ダヴォス ほんとに馬鹿だな、俺たちがいま何をしたかわからないのか。

ミュシス さっぱりだわ。

ダヴォス あの人が花嫁の父じゃないか。ああやって何とかあの人に知って欲しいことを伝えたというわけさ。

ミュシス 先に教えてくれてたら良かったのに。

ダヴォス 心のままに自然にやるのと、知って演技するのとでは全然違うことぐらいわかるだろ。


第4幕 第5場 クリトン、ミュシス、ダヴォス(クリュシスのいとこのクリトンが登場する場面)(796-)

(クリトン、左手、港の方向から登場)

クリトン(独白)クリュシスは確かこの通りに住んでいたと聞いている。彼女は田舎でつつましく貧しい暮らしを続けるよりも、恥を捨ててここでお金儲けをする道を選んだらしいのだ。彼女が亡くなったとき、遺産は法的には私のものになった。(ダヴォスとミュシスを見つける)だが、くわしいことをあの人に尋ねてみよう。こんにちは。

ミュシス(傍白) おやまあ、あの人はどなたかしら。あの人はクリュシスのいとこのクリトンさんかしら。そうだわ。

クリトン おお、ミュシスじゃないか、こんにちは。

ミュシス こんにちは、クリトンさん。

クリトン クリュシスは本当に? やっぱり。

ミュシス ほんとうに彼女は私たちを深い悲しみの中に置いていってしまいましたわ。

クリトン それでお前たちはどうしている。ここで何をしているんだ。ちゃんとやっているのか。

ミュシス 私たちですか。好きなように出来ないときは、出来ることをするしかありませんわ。

クリトン グリュケリウムはどうしている。親は見つかったのか。

ミュシス それが出来たらいいのですけれど。

クリトン まだなのか。じゃあ、私は悪い時に来たな。それを知っていたら、ここには決して足を向けなかったんだが。グリュケリウムはクリュシスの妹でずっと通っているから、クリュシスの遺産はグリュケリイムのものになっているはずだ。それに私のような外国人が訴訟を起こすことがどれほど容易でどれほど有利なことかは、ほかの人の例を見れば分かる。それに、思うに、今ではもう彼女にも誰か支援者かパトロンがいるはずだ。というのは、アテネを出た頃には彼女はもうかなり成長していたからだ。世間は私のことをペテン師だとか遺産狙いのたかり屋だとか言って、うるさいことだろうよ。確かに、グリュケリウムの財産を奪って丸裸にするのは好ましくない。

ミュシス クリトンさんは最高のお客さんですわ。昔と何も変わっておられませんのね。

クリトン 彼女のところに連れて行ってくれ。彼女に会うためにここに来たんだから。

ミュシス もちろんですわ(二人、グリュケリウムの家の中へ入る)。

ダヴォス 二人のあとについて行こう。今はまだおれは大旦那さまには会いたくないんだ(グリュケリウムの家の中へ入る)。


第5幕 第1場 クレメース、シモン(赤ん坊を見たクレメースに縁談を断られたシモンがねばる場面)(820-)

(クレメースとシモン、シモンの家から出てくる)

クレメース もういい、もうたくさんだ、シモン。君に対する私の友情の程はもう分かっただろう。私はずいぶん危ない橋を渡ったんだ。もう俺に頼むのはやめてくれ。君の言う通りにしているうちに、私はあやうく娘の人生を無茶苦茶にするところだったんだぞ。

シモン そんな事を言うなよ。今こそ君に最大の援助を頼みたいんだ。君の言う友情が口先だけでないことを今こそ行動で見せて欲しいんだ。

クレメース 君は自分のしつこさのためにどれほど嫌なやつになっているか分からないのか。何でも君の言うとおりになってやっていると、君は人の好意に限度があることを忘れてしまう。君は私に何を求めているのか自分でもわかっていないんだよ。もしわかっていたら、こんなけしからん事で私を困らせることはとっくにやめているはずだ。

シモン 何がけしからんのだ。

クレメース 分かってるだろ。君は、別の恋に夢中になっている若者、結婚を嫌がっている若者に、娘をやれと僕に要求しているんだぞ。喧嘩の絶えない不安定な結婚をするために、娘の苦労と涙によってあんたの息子の品行を治すために、娘をやれとな。君の説得を受け入れたときにはまだ状況は良かった。だが、いまは違う。それを君も考えて欲しい。噂では息子さんの彼女はアテナイ生まれというじゃないか。それに子供も出来ている。だからうちの娘のことはもう忘れてくれ。

シモン 神かけてのお願いなのだ、奴らのことは信用しないでくれ。奴らにとってはうちの息子が最低の人間であることが好都合なんだよ。やつらはこの縁談を妨害するために、こんなペテンをしかけているんだよ。だから縁談が妨害できないと分かったら全部やめてしまうんだよ。

クレメース そんなことはないさ。私はこの目で見たんだ、ダヴォスとグリュケリウムの女中が喧嘩しているのを。

シモン そうだろうよ。

クレメース 二人は本気で喧嘩していた。私が近くにいることに二人とも気づかなかったほどだ。

シモン そうだろう。それはそうなるとダヴォスが前に言っていたんだから。そのことを今日君に言おうと思っていたんだが、なぜか忘れていたんだよ。


第5幕 第2場 ダヴォス、クレメース、シモン、ドロモン(ダヴォスがグリュケリウムの家から出てくるところをシモンに見つかり捕まって監禁される場面)(842-)

(ダヴォス、グリュケリウムの家から出てくる)

ダヴォス(中のグリュケリウムに対して) もう余計な心配しちゃいけないよ。

クレメース(シモンへ) おや、君の家のダヴォスが出てきたぞ。

シモン あいつ、どこから出てきたんだ。

ダヴォス(中に向かって) あんたのことは僕とあのお客さんが守っているから。

シモン いったい何悪さをしてるんだろ。

ダヴォス(中に向かって) こんなにうまい時に都合のいい人が来たのを見たことがない。

シモン あの悪党め、いったい誰のことを褒めてるんだ。

ダヴォス(中に向かって) 大船に乗ったつもりでいたらいい。

シモン さっさと奴に話を聞こう。

ダヴォス 大旦那さまだ。どうしよう。

シモン よう、大将、ごきげんだな。

ダヴォス 大旦那さま。それにクレメースの旦那、式の準備は全部整いましたよ。

シモン よくやった。

ダヴォス いつでも花嫁を呼びにやってください。

シモン ご苦労さん。それですべて完了だな。じゃあ、この質問に答えなさい。お前、そこで何をしていたんだ。

ダヴォス わ、私ですか。

シモン そうだ。

ダヴォス 私ですか。

シモン お前だよ。

ダヴォス ちょっと中に入ってました。

シモン ちょっとかどうかは聞いていない。

ダヴォス 坊ちゃんと一緒でしたが。

シモン 中に息子がいるだって? そんな馬鹿なことがあってたまるか! おい、おまえ、二人は仲違いしたと前に言わなかったか。この嘘つきめ。

ダヴォス 仲違いはほんとです。

シモン じゃあ、なぜ息子がここにいるんだ。

クレメース 何をしてるって? そりゃ彼女と喧嘩してるのさ。

ダヴォス それはないです。それより、クレメースさん、僕から悪い知らせをお聞かせしなきゃいけません。誰か知らない旦那がさっきやって来まして、この家の中にいらっしゃるんですよ。頭のいい堂々とした人です。一目見たら分かりますが、あの人はかなり立派な人のようですよ。顔つきも真面目で言葉にも嘘がありませんから。

シモン いったい何が言いたいんだ。

ダヴォス その方からいま聞いたばかりのことなんです。

シモン その人は一体何を言ったんだ。

ダヴォス グリュケリウムさんがアテナイ生まれだという事をその方はご存知だとおっしゃっています。

シモン 嘘をつけ。ドロモン! ドロモンよ。

ダヴォス 何ですか。

シモン ドロモン!

ダヴォス 聞いて下さい。

シモン もう一言でも言ってみろ、ドロモン!

ダヴォス お願いですから、聞いて下さい。

ドロモン 何の御用ですか。

シモン さっさとこいつを捕まえて吊るしあげろ。

ドロモン 誰をですか。

シモン ダヴォスだ。

ダヴォス 何でですか。

シモン わしがそう決めたからだ。捕まえろと言ってるだろ。

ダヴォス 私が何をしましたか。

シモン 捕まえろ。

ダヴォス 私が何か嘘をついた事を発見したというなら、殺されたっていいです。

シモン お前の意見は聞いていない。今から忙しくさせてやる。

ダヴォス だけどこれは本当の事ですよ。

シモン(ドロモンに) かまわん。縛り上げて厳重に監視しろ。手足を縛るんだ。さあ、やるんだ。今日こそはっきりと見せてやる。息子が父親をだましたり召使が主人をだますことがどれほど危険なことかを。

クレメース そんなに厳しくしなくても。

シモン ああ、クレメースよ、なんて親不孝な息子だと思うだろ。なんて情けない父親だと思うだろ。あんな息子のためにこんな苦労をさせられるとは。(パンフィロスに) おい、息子よ、パンフィロスよ、出てこい。恥ずかしくないのか。


第5幕 第3場 パンフィロス、シモン、クレメース(シモンが女の家から出てきた息子を叱る場面)(872-)

(パンフィロスがグリュケリウムの家から出てくる)

パンフィロス(グリュケリウムの家から出てくる) 私を呼んだのは誰だろう。しまった。親父だ。

シモン どうなってるんだ、よりによって? 

クレメース 怒鳴りあいはいいから事実だけを話しなさい。

シモン こいつにはいくら厳しく言っても言い足りないんだよ。さあ、答えろ、お前の女はアテナイ市民だと言うんだな。

パンフィロス みんなそう言ってます!

シモン 「みんなそう言ってます」だと? 何という生意気な奴だ。この子は自分の言っていることが分かってるのか。そもそも自分のしたことを悔いているのか。見ろ、この顔を、羞恥心というものがこの顔のどこにある? この子は自分を完全に見失ってしまって、社会の規律も法律も父親の気持ちもまったく眼中に無いんだ。どんなに堕落してもあの女にご執心なのだ。

パンフィロス ああ、僕は情けないですよ。

シモン 何だって? せがれよ、お前今頃になってやっとその事に気づいたのか。その情けないという言葉は、お前が欲しいと思ったものを何としても手に入れると決心したまさにその日のお前のことなんだよ。しかし、このわしはどうなんだ。なぜこのわしが苦しんでいる。こいつの愚かな行いのためにどうしてわしの老後が掻き乱されねばいけないんだ。こいつの不品行の罰をおれが受けるためなのか。いや、もういい。お前は彼女とずっと暮らしたらいい。おれはもう知らん。

パンフィロス お父さん。

シモン どうしてわしを「お父さん」と呼ぶんだ。お前にはこんな父親は必要ではあるまい。お前は家も妻も子供も、父親にさからって自分で見つけてきたじゃないか。女がアテナイ市民であると証言する人間まで連れてきた。もう、お前の勝ちだ。

パンフィロス お父さん、ちょっとだけいいですか。

シモン わしに何を言うことがあるんだ。

クレメース シモンさん、そう言わずに、まあ、聞いてやりなさい。

シモン 聞いてやるべきだって? 何を聞くんだよ、クレメース?

クレメース まあ、彼の言い分を聞きましょう。

シモン さあ、言え。いいぞ。

パンフィロス 僕が彼女を愛していることは認めます。それが罪だというのなら、罪も認めす。お父さん、僕はもうあなたに降参します。どんな事を言われても僕はそれを受け入れる覚悟です。女と別れて結婚することをお望みなのですか。それも何とかやってみます。でも、これだけはお願いです、今から紹介する人を私の手先だとは決して思わないで下さい。その人をここで紹介させて下さい。そして僕の濡れ衣を晴らせて下さい。

シモン 紹介するだって? 

パンフィロス お父さん、お願いです。

クレメース 正当な要求だ。認めてやりなさい。

パンフィロス お願いします。

シモン じゃあ、許すよ。(パンフィロスが家の中に入っている間に) クレメースさん、もしこれであの子がわしをペテンにかけていないことがはっきりするようだったら、何でもあなたの望み通りにしますよ。

クレメース 父親というものは息子がどんな大きな間違いを犯してもすぐに許してやるものですよ。


第5幕 第4場 クリトン、クレメース、シモン、パンフィロス(グリュケリウムがアテナイ生まれであることをクリトンが証明する場面)(904-)

(パンフィロスとクリトン、グリュケリウムの家から出てくる)

クリトン(パンフィロスに) そんなに私にお願いしないでください。あなたのためにも真実のためにもグリュケリウムのためにも、いやそのうち一つの理由だけでも充分にやってあげますよ。

クレメース あの人はアンドロス島のクリトンじゃないか。やっぱりそうだ。

クリトン 元気そうだね、クレメース。

クレメース めずらしいな、君はアテナイに何しに来たんだ。

クリトン たまたまだよ。おや、ここにいるのはシモンさんじゃないですか。

クレメース そうだ。

クリトン シモンさん、私のことをお探しですか。

シモン おい、あんたか、あの女がアテナイ生まれだと言っているのは。

クリトン 違うというのですか。

シモン あんたは頼まれてここに来たんだろう。

クリトン 何をですか。

シモン 知ってるくせに。こんなことしてただで済むと思っているのか。あんたは立派な教育を受けた世間知らずの若者を悪事に引きずりこもうとしているんだ。夢と希望を振りまいて彼らの精神を堕落させようとしているんだ。

クリトン あなたは気が確かですか。

シモン そうやって花魁との色恋を結婚の絆で固めようとしているんだろ。

パンフィロス(傍白) まいったな! この客人はこの侮辱にこれ以上耐えられるだろうか。

クレメース シモンさん、あなたもこの人のことがよくわかれば、そんなふうには思いませんよ。この人は立派な人ですよ。

シモン この人が立派な人だって? こんなにうまい偶然があるものか。それまでぜんぜん来なかった人が、まさに結婚式がある今日この日に来るなんて。クレメースよ、そんな人を信じろっていうのかい。

パンフィロス(傍白) 親父のこの剣幕が恐くなけりゃ、この件では僕にも言いたいことがあるんだけど。

シモン このペテン師!

クリトン なんだって。

クレメース クリトンよ、この人はこういう人なんだ、気にするな。

クリトン この人は自分の言動に注意したほうがいい。この人がこの調子で言いたい放題続けるなら、この人が聞きたくないことを言うまでだな。(シモンに)あんたの問題は私の知ったことかね。私がどうこうする問題じゃないだろ。あんたは自分の災難を黙って耐えることができないのかね。私がこれから言う話が嘘か本当かはすぐにわかることだ。むかしアテナイの男が船で難破してアンドロス島に打ち上げられた。そのとき一緒だったのがあの娘で、まだ小さかった。全てを失ったその男がその時たまたま最初に助けを求めたのがクリュシスの父親だったのだ。

シモン ほら、作り話を始めたぞ。

クレメース やらせておきなさい。

クリトン そうやって邪魔する気なのか。

クレメース 続けて下さい。

クリトン その時、アテナイの男を受け入れたのが私の親類だった。だから、私はその家で彼からアテナイ生まれだと言うことを聞いたのだ。彼はそこで亡くなったんだよ。

クレメース その男の名は? 

クリトン もう名前を聞くのかい? ファニアスといったか。ええと、こまった。いや確かにファニアスだったと思うよ。間違いない。ラムヌス地区の出身だと言っていたな。

クレメース これはどういうことだろう。

クリトン これは私だけでなくアンドロス島で沢山の人が聞いたことだ。

クレメース これはひょっとして。おい、聞かせてくれないか。その娘のことだが、自分の娘だと言っていたのか? 

クリトン いいや。

クレメース では、誰の子だと。

クリトン 兄の子だと。

クレメース もう間違いない、その子は私の娘だ。

クリトン 何を言うんだ。

シモン 何を言うんだ。

パンフィロス(傍白) よく聞いておけよ、パンフィロス。

シモン どうしてそう思うんだ。

クレメース そのファニアスは私の弟なのだ。

シモン それはおれも知っている。そのとおりだ。

クレメース 弟は戦火を避けて小アジアにいる私のあとを追ってここから旅立ったんだ。その時あの子のことが心配でここに残していけなかったんだ。そのあと弟がどうなったか今日初めて聞いたよ。

パンフィロス(傍白) 突然のこの驚くべき朗報に嬉しさと恐ろしさでどきどきして、じっとしていられない。

シモン(クレメースに) 何はともあれ、あなたの娘さんが見つかったことは喜ばしい。

パンフィロス(傍白) きっとそうでしょうねえ、お父さん。

クレメース ただひとつ引っかかることがあって、どうもすっきりしなんだが。

パンフィロス(傍白) 几帳面な人らしいが、いやな人だ。それこそ贅沢な悩みだよ。

クリトン それはどんなことだい?

クレメース 名前が合わないんだよ。

クリトン たしか子供の頃は別の名前だったはずだ。

クレメース クリトンさん、どんな名前だったか覚えているかい? 

クリトン なんだったかなあ。

パンフィロス(傍白) この人の記憶力のせいで僕の喜びを邪魔されてたまるもんか。このごたごたから僕はやっと救われるというのに。あの、クレメースさん、あなたが知りたいのは、パーシビュラという名前でしょう。

クレメース そう、そのとおりだ。

クリトン そうだ。

パンフィロス 僕は彼女から1000回も聞かされましたよ。

シモン クレメースよ、わたしたちは皆がこのことを喜んでいるんだよ。君はもう分かっているだろ。

クレメース そりゃもちろん、分かっているよ。

パンフィロス あとに残ったことは・・、お父さん。

シモン こんなにはっきりしたんだから、わしも鉾を納めるよ。

パンフィロス なんて素敵な父親なんだろう。クレメースさん、すでに僕のものになっているわたしの妻はこのままでいいんですよね。

クレメース 君の権利は折り紙つきだ。君のお父上にご異存がない限りね。

パンフィロス お父さんはもちろん・・。

シモン もちろんだ。

クレメース パンフィロス君、持参金は十タラントだ。

パンフィロス 頂戴しますとも。

クレメース 急いで娘のところへ行こう。クリトンさんもご一緒に。だって、彼女は私のことを知らないはずだから。

シモン それより彼女にここに来てもらおう。

パンフィロス それはいい考えですね。その仕事をダヴォスに言いつけていいですか。(クレメースとクリトン、グリュケリウムの家に入る)

シモン それはだめだ。

パンフィロス どうしてですか。

シモン ダヴォスは別のもっと大事な仕事をしているんだ。

パンフィロス いったいどういうことですか。

シモン やつは手足を縛られてるんだよ。

パンフィロス お父さん、縛るなんて間違ってますよ。

シモン 正しく縛れと命じてある。

パンフィロス お願いだから解いてやって下さい。

シモン よし、解いてやれ。

パンフィロス 急いでください。

シモン 私が中へ行くよ。

パンフィロス よかった、よかった。


第5幕 第5場 カリーヌス、パンフィロス(パンフィロスが自分の喜びに耽る場面)(957-)

(カリーヌス、左手、自分の家の方向から登場、舞台の端に止まる)

カリーヌス(独白) パンフィロスがどうしているか見に来たんだが、おや、やつが来たぞ。

パンフィロス(独白) こんな話はうますぎて、本人である僕自身も信じられないんじゃないかと思う人がいるかもしれないが、僕はこれを本当のことだと思うことにしたんだ。神様の命が永遠に続くのは彼らの喜びが永遠に続くからだと僕は思う。きっと、どんな悲しみもこの喜びを邪魔することがない限り、僕にも永遠の命が手に入ったにちがいない。僕はこの話をいの一番に誰に聞いてもらおうか。

カリーヌス(傍白) こいつ何をそんなに喜んでいるんだろう。

パンフィロス(シモンの家の扉が開く) ダヴォスが来た。あいつこそ誰よりもいま一番会いたい人間だ。僕の喜びを心から分かち合ってくれるのはあいつだけなんだから。


第5幕 第6場 カリーヌス、パンフィロス、ダヴォス(パンフィロスがダヴォスに嬉しい知らせを伝えて劇が終わる場面)(965-)

(ダヴォス、シモンの家から登場)

ダヴォス パンフィロス坊ちゃんはどこへ行ったんだろう。

パンフィロス ダヴォスよ。

ダヴォス 誰だろう。

パンフィロス 僕だよ。

ダヴォス ああ、坊ちゃん。

パンフィロス 僕の身の上に何が起こったか知らないんだね。

ダヴォス そうです知りません。自分の身の上に何が起こったかは知ってますが。

パンフィロス それは僕も知ってる。

ダヴォス 世の中こんなものですよ。坊ちゃんのいい知らせが私に届くよりも、私についての悪い知らせが坊ちゃんに届くほうが早いんですから。

パンフィロス 僕の妻が自分の親を見つけたんだよ。

ダヴォス よございました。

カリーヌス(傍白) なんだって。

パンフィロス 彼女の父親は我が家の最も大切な人だったんだよ。

ダヴォス 誰のことですか。

パンフィロス クレメースさんだ。

ダヴォス それは素晴らしいニュースですね。

パンフィロス もう僕は彼女とすぐにでも結婚できるんだ。

カリーヌス(傍白) この男は夢でも見ているのだろうか。願いが叶ったという白日夢を。

パンフィロス それから、ダヴォスよ、赤ん坊のことも・・

ダヴォス ああ、そのへんにしておきなさいませ。あの子はきっと運のいい子ですよ。

カリーヌス(傍白) これがもし本当なら僕は助かるんだが。話しかけてみよう。

パンフィロス 誰だい。カリーヌスか。本当にいいところに来たね。

カリーヌス よかったな。

パンフィロス 聞いたのかい。

カリーヌス 全部聞いた。僕も君のしあわせの仲間にしてくれよ。いまや君はクレメースさんを味方につけたんだね。あの人が君の望みは全部叶えてくれるはずだ。(976)

パンフィロス 君のことは忘れていないさ。クレメースさんが出てくるまでもう待っていられないよ。僕について来い、こっちだよ。クレメースさんはぼくの妻の家の中だ。ダヴォスよ、君は僕の家へ行ってくれ。そして、花嫁を迎えに行く人を急いで呼び出してくれ。何をつっ立ってんだ。何をぐずぐずしているんだ。

ダヴォス 行きますよ。(観客に)みなさんは彼らが出てくるまで待たないでください。結婚式は中でとり行われます。残りの次第も中で全部行われますので。全員 拍手を。(終わり)



別の結末(偽作)


パンフィロス、カリーヌス、クレメース、ダヴォス(カリーヌスとフィルメーナの結婚が認められる場面)(977- )


パンフィロス(ちょうど出てきたクレメースに) クレメースさん、あなたの家のことでお話ししたいことがあって、あなたを待っていました。僕はあなたのもう一人の娘さんのことをけっして忘れていないことをお知らせしたいんです。僕はあなたとあなたの娘さんにとって相応しい花婿を見つけました。

カリーヌス ああ、参った、ダヴォス、僕の恋はどうなるんだ、僕の人生はどうなるんだ。

クレメース パンフィロス君、のぞむらくは、その結婚相手は私の知らない人ではないだろうねえ。

カリーヌス ダヴォス、参ったな。

ダヴォス 待って下さい。

カリーヌス 参った。

クレメース そのお相手にわたしが賛成しなかったわけをお話ししよう。私はその人が婿に相応しく無いと思ったわけではないんだ。

カリーヌス なんだって。

ダヴォス 黙って。

クレメース 先祖から受け継できた私たちの友情関係が子供たちにも受け継がれて発展することを望んだからなんだ。しかし、この機会に運命にしたがって、二人の娘の意志を尊重することにしたよ。私はこの結婚を許すことにしたんだ。

パンフィロス よかった。

ダヴォス さあ、この人に感謝なさいませ。

カリーヌス こんばんわ、クレメースさん。あなたは今では僕のどの友達よりも大切な人です。あなたは私が熱心に求めているものをこの手にすることを許して下さった。本当にうれしい限りです。でも、以前からあなたが僕をどう思ってくださっていたかが分かったことは、それと同じくらいにうれしいことなのです。

クレメース カリーヌスくん、君が何に夢中になるにしろ、その熱意がどんなものであるかによって君がどんな人であるかは分かるんだよ。これが間違っていないことは、わたし自身の経験から確かだ。君はわたしの友人でないが、わたしは君の人柄を知っているんだよ。

カリーヌス そういうものですね。

クレメース 私は娘のフィロメーナを君の妻として持参金六タラントをつけて嫁がせることにするよ。(了)


ANDRIA
P. TERENTI AFRI

Argumentum

Pamphilus adulescens Glycerium amat, puellam sine parentibus ex Andro Athenas migratam, quae vulgo creditur soror Chrysidis meretricis. Quam praegnantem clam reddidit(秘密にする) ac ei promisit infantem futurum suscepturum. At pater Simo Pamphilo filiam veteris amici Chremis uxorem dare vult quae et ipsa ab adulescentulo Charino amatur. Chryside mortua, in exsequiis(葬儀) celebrandis Pamphilus et Glycerium palam omnibus amantes esse visi sunt. Quapropter nunc negat Chremes sese filiam Philomenam daturum adulescenti aliam amanti. Quibus narratis prima scaena huius fabulae, nihilominus Simo simulare decernit tamquam hoc ipso die nuptias celebraturus sit : animum filii experiri cupit, num negaturus an obtemperaturus(従う) patri sit.

若いパンフィロスの恋人グリュケリウムはアンドロス島からアテナイに来て住んでいるが、親がなく世間には娼婦クリュシスの妹と思われている。パン フィロス は妊娠したグリュケリウムのことを秘密にしていたが、生まれてくる子は二人の子として育てる約束をしていた。一方、パンフィロスの父親のシモンは、幼なじ みのクレメースから娘を息子の妻にやろうと言われて縁談を進めているが、彼女にはカリーヌスという恋人がいる。クリュシスが亡くなり葬儀が営まれたとき、 パンフィロスとグリュケリウが恋人であることがみんなに分かってしまう。その結果、クレメースは別に恋人がいる若者に娘のフィロメーナを嫁がせることを断 る。このことがこの劇の第1場で語られるが、それにも関わらずシモンはこの日にニセの結婚式をしようとする。息子が父の言いつけに逆らうかいなかによって 息子の本心を知りたいのである。

Sed Davos, familiaris servus, adiutor et conscius Pamphili in amoribus, intelligit non omnia sic esse parata ut veras nuptias decet, et domino minori(若旦那) consilium dat ut promittat uxorem ducere, ne pater causam habeat cur irascatur neve properet aliam uxorem quaerere. Quo facto Chremes, a Simone oratus, sententiam mutat atque filiam dare rursus paratus est. Tum ambo adulescentes, Pamphilus et Charinus, miserrimi apud Davum de malo consilio acerbe queruntur. Callidus servus pollicetur sese ex discrimine(危機) tanto exitum inventurum esse. Mox Glycerium infantem parit quem Davos in limine aedium eri sui adponi iubet, ita ut Chremes in eum quasi forte incurrat(遭遇する) atque veritatem percipiat.

しかし、パンフィロスの情事を手助けをして全てを知っていた召使のダヴォスは、結婚式に相応しいような準備が何もなされていないことを知ると、息子を叱る 理由を父親に与えないためにも、また父親に別の縁談を急がせないためにも、結婚に同意するようパンフィロスにすすめる。この結果、シモンに懇願されたクレ メースは気持ちを変えて、また娘を嫁がせる気持ちになる。ダヴォスのまずい助言によって困ったことになったパンフィロスとカリーヌスの二人は、はげしい口 論をする。才気走る召使ダヴォスはこの危機から抜け出る方法を考えだすことを約束する。やがてグリュケリウムが子供を出産するが、ダヴォスはその子を自分 の主人シモンの屋敷の前に置いてこさせるのである。クレメースがたまたまその子を見つけて真相に気づくようにするのである。

Denuo(改めて) Chremes filiam dare recusat et Davos ad supplicium(処罰) ab irato Simone mittitur. Tum vero Crito, sobrinus(いとこ) Chrysidis, ex Andro ad hereditatem(相続) venit et magnum nuntium adfert : Glycerium, quae ex naufragio in insula Andro sola relicta erat, filia ipsius Chremis(属格) reperitur. Ita omnia in fine fauste(願いがなかって) feliciterque eveniunt : duo matrimonia(結婚) ad libidinem amantium parantur et Davos catenis(いましめ) liberatur.

改めてクレメースはこの縁談を断ると、ダヴォスは怒ったシモンによって罰を受ける。そのとき、クリュシスのいとこのクリトンが相続のためにアンドロス島か らやってきて重大な知らせをもたらす。それによって、グリュケリウムは海で遭難してアンドロス島に一人残された子で、クレメース本人の娘だということが明 らかになる。こうして最後にはすべてがめでたしめでたしで終わる。恋人たちの願いどおりに二つの結婚式が行われ、ダヴォスはいましめを解かれる。

Hoc genus argumenti tritum volgatumque in antiqua comoedia erat.

DIDASCALIA

INCIPIT ANDRIA TERENTI
ACTA LVDIS MEGALENSIBVS
M. FVLVIO M'. GLABRIONE AEDILIB. CVRVLIB.
EGERE L. AMBIVIVS TVRPIO L. HATILIVS PRAENESTINVS
MODOS FECIT FLACCVS CLAVDI
TIBIS PARIBVS TOTA
GRAECA MENANDRV
FACTA PRIMA
M. MARCELLO C. SVLPICIO COS.

PERSONAE

PROLOGUS
SIMO sene
SOSIA livertus
DAVOS servos
MYSIS ancilla
PAMPHILVS adulescens
CHARINVS adulescens
BYRRIA servos
LESBIA obstetrix
GLYCERIVM mulier
CHREMES senex
CRITO senex
DROMO lorarius


シモン 大旦那 パンフィロスの父親
ソーシア 番頭 シモンの世話役
ダヴォス 召使 パンフィロスの世話役
ミュシス 女中 グリュケリウムの世話役
パンフィロス 坊ちゃん シモンの息子、グリュケリウムの恋人
カリーヌス 若旦那 フィロメーナの恋人
ビュリア 召使 カリーヌスの世話役
レスビア 産婆
グリュケリウム お嬢様、アンドロス島から来た女クリュシスの妹、実はクレメースの娘
クレメース 隣に住む旦那、フィロメーナの父、実はグリュケリウムの父
クリトン 旦那 クリュシスの従兄弟、クリュシスの遺産を受け取りに来る
ドロモン 召使
アルキュリス グリュケリウムの家の女中頭。

PERIOCHA G. SVLPICI APOLLINARIS
あらすじ 作 G.スルピキウス・アポリナリウス

Sororem falso creditam meretriculae
Genere Andriae, Glycerium, uitiat Pamphilus
Grauidaque facta dat fidem, uxorem sibi
Fore hanc; namque aliam pater ei desponderat(結婚の約束をする),
Gnatam Chremetis, atque ut amorem comperit,
Simulat futuras nuptias, cupiens suus
Quid haberet animi filius cognoscere.
Daui suasu(アドバイス) non repugnat Pamphilus.
Sed ex Glycerio natum ut uidit puerulum
Chremes, recusat nuptias, generum(婿) abdicat(拒否).
Mox filiam Glycerium insperato adgnitam
hanc Pamphilo, aliam dat Charino coniugem(配偶者).

アンドロス島生まれの娼婦の妹と誤解されているグリュケリウムという女性とパンフィロスは深い仲になる。彼女が妊娠するとパンフィロスは結婚の約束をす る。しかし、彼の父親はクレメースの娘との縁談を進める。父親は息子に恋人がいることを見つけると結婚式をするふりをして、息子の本心を知ろうとする。召 使のダヴォスの忠告を受けたパンフィロスは縁談を断らない。しかし、グリュケリウムの生んだ子を見たクレメースは、パンフィロスを婿とするのを拒否して結 婚式を断る。やがてクレメースはグリュケリウムが自分の娘であることを知ると、グリュケリウムをパンフィロスと、もう一人の娘をカリーヌスと結婚させる。

PROLOGVS

Poeta quom primum animum ad scribendum adpulit,
id sibi negoti credidit solum dari,
populo ut placerent quas fecisset fabulas.
verum aliter evenire multo intellegit;
nam in prologis scribundis operam abutitur, 5
non qui argumentum narret sed qui malevoli
veteris poetae maledictis respondeat.
nunc quam rem vitio dent quaeso animum adtendite.
Menander fecit Andriam et Perinthiam.
qui utramvis recte norit ambas noverit: 10
non ita dissimili sunt argumento, [s]et tamen
dissimili oratione sunt factae ac stilo.
quae convenere in Andriam ex Perinthia
fatetur transtulisse atque usum pro suis.
id isti vituperant factum atque in eo disputant 15
contaminari non decere fabulas.
faciuntne intellegendo ut nil intellegant?
qui quom hunc accusant, Naevium Plautum Ennium
accusant quos hic noster auctores habet,
quorum aemulari exoptat neglegentiam 20
potius quam istorum obscuram diligentiam.
de(h)inc ut quiescant porro moneo et desinant
male dicere, malefacta ne noscant sua.
favete, adeste aequo animo et rem cognoscite,
ut pernoscatis ecquid spei sit relicuom, 25
posthac quas faciet de integro comoedias,
spectandae an exigendae sint vobis prius.

ACTVS I

Simo Sosia
第1幕 第1場 シモン、ソーシア(シモンが息子のために嘘の結婚式をする計画を語る場面)

SI. Vos istaec intro auferte: abite.-- Sosia,
シモン お前たち、それは中へ片付けちゃってくれ。もう行ってもいいぞ。ソーシア、
ades dum: paucis(少しの言葉) te volo. SO. dictum puta:
お前は、ちょっとここに残ってくれ。ちょっと話があるんだ。ソーシア また同じ話ですか。
nempe ut curentur recte haec? SI. immo aliud. SO. quid est 30
きっと、これをしっかりやれってお話でござんしょう。シモン いいや、別のことなんだ。
quod tibi efficere hoc possit amplius?
ソーシア 何です。あっしのこの技量で、ほかにどんなお役に立てましょうか。
SI. nil istac opus est arte ad hanc rem quam paro,
シモン わしが今考えていることに必要なのはお前のその技量ではないんだ。
sed eis quas semper in te intellexi sitas,
わしはお前を信用できる口の堅い男だといつでも思っている。
fide et taciturnitate. SO. exspecto quid velis.
そこを見込んでの頼みなんだ。ソーシア 何なりとおっしゃってください。

SI. ego postquam te emi, a parvolo ut semper tibi 35
シモン お前がわしのところに奉公に来た頃は小さな子供だったが、
apud me iusta et clemens fuerit servitus
それ以来これまでの間ずっとわしはお前に対して理不尽な要求をしたり無茶な仕事をさせたことは
scis. feci ex servo ut esses libertus mihi,
なかったな。わしがお前を丁稚の身分から番頭にとりたててやったのも、
propterea quod servibas liberaliter:
お前のいつもの立派な勤めぶりを見ていたからだ。
quod habui summum pretium persolvi tibi.
それにはわしも出来る限りのお礼をさせてもらったつもりなのだよ。

SO. in memoria habeo. SI. haud muto factum. SO. gaudeo 40
ソーシア 御恩は忘れません。シモン これからも頼みますよ。
si tibi quid feci aut facio quod placeat, Simo,
ソーシア あっしの仕事ぶりが大旦那さまのお気に召しますなら喜んで。
et id gratum fuisse advorsum te habeo gratiam.
大旦那さまに喜んで頂くことがあっしの喜びなんですから。
sed hoc mihi molestumst; nam istaec commemoratio
でも今回は心配になってきました。大旦那さまがそんな思い出話をなさるんで、
quasi exprobratiost inmemoris benefici.
恩知らずとのお叱りを受けるんじゃねえかと。
quin tu uno verbo dic quid est quod me velis. 45
どうか早くおっしゃってくだせえ。あっしに何をお望みなんですか。

SI. ita faciam. hoc primum in hac re praedico tibi:
シモン では、手短にやらせてもらおう。お前に打ち明けていうんだが、
quas credis esse has non sunt verae nuptiae.
お前は今から結婚式があると思っているだろう。だがこの結婚式はなあ、嘘なんだよ。
SO. quor simulas igitur? SI. rem omnem a principio audies:
ソーシア で、なんで嘘の結婚式をするんですか。シモン 全部話すから最初から聞いてくれるか。
eo pacto et gnati vitam et consilium meum
それで、息子の暮らしぶりと、わしの考えと、
cognosces et quid facere in hac re te velim. 50
わしがお前にして欲しい事がわかるはずだ。
nam is postquam excessit ex ephebis, Sosia, et
というのは、ソーシアよ、あの子が兵役を終えてから
liberius vivendi erat potestas (nam antea
前より自由な生活が出来るようになっている。(その前だと
qui scire posses aut ingenium noscere,
人の本性はなかなか分からないものなんだよ、
dum aetas metus magister prohibebant?) SO. itast.
先生の目があったり幼なさやおびえのために、何かと抑制が効くからね)。ソーシア そのとおりで。

SI. quod plerique omnes faciunt adulescentuli, 55
シモン 解放的になるのは若者にはよくあることなんだ、
ut animum ad aliquod studium adiungant, aut equos
そして何かに夢中になる。馬や猟犬を
alere aut canes ad venandum aut ad philosophos,
飼うのに夢中になる子もいれば哲学に夢中になる子もいる。
horum ille nil egregie praeter cetera
もっともあの子は何かに特に夢中になることはなかった。
studebat et tamen omnia haec mediocriter.
むしろ何でも適度にやっていたな。それは
gaudebam. SO. non iniuria; nam id arbitror 60
喜ばしいことだった。ソーシア ごもっともで。私もそう思いますな。
adprime in vita esse utile, ut ne quid nimis.
生きていく上で何事もほどほどにしておくのはとても大切なことですからな。

SI. sic vita erat: facile omnis perferre ac pati;
シモン あの子の生活ぶりはこうだった。あの子は誰とで我慢のできる子で、
cum quibus erat quomque una eis sese dedere,
いっしょにいる人と仲良くなって、
eorum obsequi studiis, adversus nemini,
相手の趣味に合わせていくし、人に逆らうような事はせず、
numquam praeponens se illis; ita ut facillume 65
けっして人を差し置いて出しゃばるようなことはしない。こうして息子は易々と
sine invidia laudem invenias et amicos pares.
世間の評判を勝ち取り、人から恨みを買うこともなく、友達を作っていった。
SO. sapienter vitam instituit; namque hoc tempore
ソーシア かしこい生き方ですな。いまどき
obsequium amicos, veritas odium parit.
友達を作りたかったら人に調子を合わせておくに限りますな。本音を言ったりしたら嫌われるだけ。
SI. interea mulier quaedam abhinc triennium
シモン ところが、そうこうするうちに3年前にある女性が
ex Andro commigravit huc viciniae, 70
アンドロス島からこの近所へ引っ越してきたんだ。

inopia et cognatorum neglegentia
貧乏なうえに親類筋からも見捨てられて
coacta, egregia forma atque aetate integra.
仕方なくということだが、それがとびきりの美人で女盛りと来てるんだよ。
SO. ei, vereor ne quid Andria adportet mali!
ソーシア おやまあ、その女がわざわいの種にならなきゃいいですが。
SI. primo haec pudice vitam parce ac duriter
シモン 初めはその女も男を入れずに慎ましい
agebat, lana ac tela victum quaeritans; 75
暮らしぶりでいたんだ。生活の糧は糸巻きを機織りで得ていた。

sed postquam amans accessit pretium pollicens
ところが、交際目的に援助を申し出る男たちが
unus et item alter, ita ut ingeniumst omnium
次々に彼女に近づいてくるようになると、
hominum ab labore proclive ad lubidinem,
苦よりも楽な方に傾くのが人間のさがで、
accepit condicionem, dehinc quaestum occipit.
男の援助を受け入れるようになって、その後はそれを商売にしはじめたんだ。
qui tum illam amabant forte, ita ut fit, filium 80
その頃、彼女の愛人たちが、よくあるように、たまたまわしの息子を
perduxere illuc, secum ut una esset, meum.
彼女のところへ連れていって仲間に引き入れたんだ。
egomet continuo mecum "certe captus est:
わしはすぐに思ったものだ「きっと息子は取り込まれて、
habet". observabam mane illorum servolos
女のものになっているにちがいない」と。わしは朝から恋人たちの召使が
venientis aut abeuntis: rogitabam "heus puer,
行き帰りする様子を見ていて聞いたものだ。「おいおい、君
dic sodes, quis heri Chrysidem habuit?" nam Andriae 85
よかった教えてくれないか、昨晩のクリュシスの相手をしたのは誰だったのか」
illi id erat nomen. SO. teneo. SI. Phaedrum aut Cliniam
これがアンドリアの女の名前なんだ。ソーシア そうですか。シモン 召使はファイドロスとクリニアと
dicebant aut Niceratum; nam hi tres tum simul
ニケラトスの名前をあげた。この三人がその時の彼女の
amabant. "eho quid Pamphilus?" "quid? symbolam
恋人だったんだ。「で、パンフィロスはどうだ」「どうだって、割り前を払って
dedit, cenavit." gaudebam. item alio die
食事はしてましたが」。わしは嬉しかった。それから別の日に
quaerebam: comperibam nil ad Pamphilum 90
も尋ねてみた。うちの息子が深入りしている
quicquam attinere. enimvero spectatum satis
様子はなかった。というのは、わしは息子が試練に立派に耐えて
putabam et magnum exemplum continentiae;
真面目な男の手本となったと思ったのだ。
nam qui cum ingeniis conflictatur eiusmodi
というのは、ああいう連中と付き合っていながら、
neque commovetur animus in ea re tamen,
それでも、そうしたことに溺れることがなかったのだから、
scias posse habere iam ipsum suae vitae modum. 95
息子はちゃんと節度のある生活をおくれると誰でも思うところだ。
quom id mihi placebat tum uno ore omnes omnia
息子のこうした暮らしぶりをわしが喜んでいると、そのうち世間が息子を口を揃えて
bona dicere et laudare fortunas meas,
褒め始めた。そしてわしのことを幸せものだと言い出した、
qui gnatum haberem tali ingenio praeditum.
こんなよく出来た息子に恵まれてと。
quid verbis opus est? hac fama inpulsus Chremes
もう言わなくても分かるだろう。この評判を聞いたクレメースさんが
ultro ad me venit, unicam gnatam suam 100
自らわしのところへ来て、一人娘を
cum dote summa filio uxorem ut daret.
最高額の持参金をつけて息子に嫁がせたいと言い出したのだ。
placuit: despondi. hic nuptiis dictust dies.
わしは承諾して、婚約を結んだ。その結婚式の日取りが今日なのだ。
SO. quid obstat quor non verae fiant? SI. audies.
ソーシア それで、どうしてその結婚式が出来なくなったんですか。シモン 聞いてくれ。
ferme in diebus paucis quibus haec acta sunt
式を挙げるまであと数日という時に、
Chrysis vicina haec moritur. SO. o factum bene! 105
近所のあのクリュシスさんが亡くなったんだ。ソーシア ああ、それはよございました。
beasti; ei metui a Chryside. SI. ibi tum filius
お喜び申し上げます。私もその女の存在が心配になっていましたので。
cum illis qui amabant Chrysidem una aderat frequens;
シモン すると倅はクリュシスの恋人たちと頻繁に会って
curabat una funus; tristis interim,
一緒に葬式の手はずを整えたんだ。その間、悲しそうな顔をしていたし、
nonnumquam conlacrumabat. placuit tum id mihi.
時には一緒に泣いてはいた。それでもわしは安心していたんだ。
sic cogitabam "hic parvae consuetudinis 110
わしはこう考えた。「この子はこんな短い付き合いでも
causa huius mortem tam fert familiariter:
あの女の死をこんなに身近なものとして受け止めている。
quid si ipse amasset? quid hic mihi faciet patri?"
もしこれが愛する女だったらどうだろう。もし父親のわしが死んだらどうだろう」と。
haec ego putabam esse omnia humani ingeni
わしは息子のこの様子のすべてを見ていて、これはやさしい
mansuetique animi officia. quid multis moror?
心の持ち主なら当たり前のことだと思ったんだ。さあ、ここから話は核心に向かうぞ。
egomet quoque eius causa in funus prodeo, 115
わしもまた息子のために葬儀に出向いた。
nil suspicans etiam mali. SO. hem quid id est? SI. scies.
あんな災難が待っているなんて思いもよらなかったんだ。ソーシア どういうことですか。シモン いま教える。
ecfertur; imus. interea inter mulieres
野辺の送りになって、葬列にわしも参加した。その列にいる女たちの中に
quae ibi aderant forte unam aspicio adulescentulam
たまたま一人の娘がわしの目に止まった。
forma . . SO. bona fortasse. SI. et voltu, Sosia,
その姿は、 ソーシア 美形だったと。シモン そして彼女の表情には、

adeo modesto, adeo venusto ut nil supra. 120
この上ない上品な魅力がある。
quia tum mihi lamentari praeter ceteras
見ているとその子はほかの女たちより激しく泣いている。
visast et quia erat forma praeter ceteras
その顔はほかの女たちよりも凛々しくしとやかでもある。
honesta ac liberali, accedo ad pedisequas,
わしは世話係の女のところへ行って
quae sit rogo: sororem esse aiunt Chrysidis.
彼女は誰なのか尋ねた。するとクリュシスの妹だと言うんだ。
percussit ilico animum. attat hoc illud est, 125
わしはその場で愕然とした。なんとこれだったのだ。
hinc illae lacrumae, haec illast misericordia.
これが息子の涙の理由だったんだ。これが息子の哀れみの原因だったのだ。

SO. quam timeo quorsum evadas! SI. funus interim
ソーシア とても心配です。話はどこへいくかと。シモン 葬式の行列が
procedit: sequimur; ad sepulcrum venimus;
進んでいくので我々もついて行くと、墓地についた。
in ignem inpositast; fletur. interea haec soror
遺体が荼毘に付されると、みんなが声を上げて泣き出した。するといま言った妹が
quam dixi ad flammam accessit inprudentius, 130
身の危険も顧みずに炎に近づいていったのだ。
satis cum periclo. ibi tum exanimatus Pamphilus
そのときだ。我を忘れたパンフィロスが
bene dissimulatum amorem et celatum indicat:
これまでうまく隠していた恋心を見せてしまった。
adcurrit; mediam mulierem complectitur:
息子は走りよって彼女の腰に腕を回して抱きよせたんだ。

"mea Glycerium," inquit "quid agis? quor te is perditum?"
それからこう言った「僕のグリュケリウム、何をするんだ。どうして死のうとするんだ」
tum illa, ut consuetum facile amorem cerneres, 135
すると彼女は、長い付き合いだとすぐ分かるように、
reiecit se in eum flens quam familiariter!
せがれの腕の中に泣きながら崩れ落ちたんだ。その親しげなこと。
SO. quid ais? SI. redeo inde iratus atque aegre ferens;
ソーシア それでどうなりました。シモン わしは機嫌が悪くなって家に帰ったよ。
nec satis ad obiurgandum causae. diceret
だが、せがれを叱る理由はない。叱ったところで
"quid feci? quid commerui aut peccavi, pater?
「僕が何をしました。どんな間違いを犯しましたか。お父さん。
quae sese in ignem inicere voluit, prohibui 140
火の中に飛び込もうとする女性を止めて
servavi." honesta oratiost. SO. recte putas;
助けはしましたが」。まさにそのとおりだ。ソーシア ご明察。
nam si illum obiurges vitae qui auxilium tulit,
なにせ人助けをした人を叱りつけたら、
quid facias illi qui dederit damnum aut malum?
悪いことをした人に何が出来るでしょう。
SI. venit Chremes postridie ad me clamitans:
シモン 翌日クレメースさんがわしのところに来て大きな声で言うんだよ。
indignum facinus; comperisse Pamphilum 145
破廉恥だ。けしからん。おれは見つけたぞ。パンフィロスが
pro uxore habere hanc peregrinam. ego illud sedulo
あの異国の女を妻としているのを。わしは必死になって
negare factum. ille instat factum. denique
そんなことはないと言う。相手はいやそうだという。
ita tum discedo ab illo, ut qui se filiam
とうとう別れ際にこの縁談はなかったことにすると言われたのさ。
neget daturum. SO. non tu ibi gnatum . . ? SI. ne haec quidem
ソーシア それでも大旦那さまは坊ちゃんをお叱りには・・。シモン これでは
satis vehemens causa ad obiurgandum. SO. qui? cedo. 150
あの子を叱る理由として弱いんだ。ソーシア どうしてですか。お教えを。
SI. "tute ipse his rebus finem praescripsti, pater:
シモン あの子の恋が終わる日を、父であるわしがすでに決めたんだ。
prope adest quom alieno more vivendumst mihi:
あの子が生き方を改める日はもうすぐなんだ。
sine nunc meo me vivere interea modo."
それまでしばらくの間はあの子の生き方を許すしかないんだよ。
SO. qui igitur relictus est obiurgandi locus?
ソーシア では、どんなときに叱ることが出来るんです?

SI. si propter amorem uxorem nolet ducere: 155
シモン それは恋愛のために結婚を拒否した場合だ。
ea primum ab illo animum advortenda iniuriast;
それは何より彼の場合叱責に価する親不孝となる。
et nunc id operam do, ut per falsas nuptias
だから、嘘の結婚式をするのも、
vera obiurgandi causa sit, si deneget;
あの子を叱る正当な理由がほしいからなんだ。あの子が拒否した場合だが。
simul sceleratus Davos si quid consili
同時にずるがしこいダヴォスがなにか策略を考えていたら、
habet, ut consumat nunc quom nil obsint doli; 160
それを使わせてしまいたいんだ。今回なら無駄になるからな。
quem ego credo manibus pedibusque obnixe omnia
あいつは口八丁手八丁の男で何でも全力でやってくる男だ。
facturum, magis id adeo mihi ut incommodet
おかげでわしはいつも迷惑してるんだが、
quam ut obsequatur gnato. SO. quapropter? SI. rogas?
それで息子の機嫌もとるんだよ。ソーシア どうして迷惑なんですか。シモン わかるだろ。

mala mens, malus animus. quem quidem ego si sensero . .
心が卑しくて腹黒いやつだからさ。わしはあいつに気づいたら・・。
sed quid opust verbis? sin eveniat quod volo, 165
だが、もう充分話したな。わしの狙いどおりにいけば、
in Pamphilo ut(=provided for) nil sit morae, restat Chremes
そしてパンフィロスの側に文句がなければ、あとはクレメースを
qui mi exorandus est: et spero confore.
説き伏せるだけだ。それはなんとかなると思うんだ。
nunc tuomst officium has bene ut adsimules nuptias,
そこで、お前の仕事だが、この結婚式の芝居をうまくやって、
perterrefacias Davom, observes filium
ダヴォスを脅しつけて追い払うことだ。そしてよく観察するんだ。
quid agat, quid cum illo consili captet. SO. sat est: 170
息子がどんな反応をするか、ダヴォスと何を企んでいるかを。ソーシア わかりました。
curabo. SI. eamus nunciam intro: i prae, sequar.
しっかりやらせて頂きます。シモン もう中へ入ろう。お前は先に行け、わしは後から行く。(ソーシア、シモンの家に入る)

Simo Davos
第1幕 第2場 シモン、ダヴォス(シモンがダヴォスに結婚の妨害をしたら罰をあたえると脅しをかける場面))

SI. Non dubiumst quin uxorem nolit filius;
シモン(独白) 息子に結婚する気がないのは明らかなんだ。
ita Davom modo timere sensi, ubi nuptias
結婚式があるとさっき聞いたときのダヴォスの心配ぶりは
futuras esse audivit. sed ipse exit foras.
並大抵のものではなかったからな。おや、そのダヴォスが出てきたぞ。

DA. mirabar hoc si sic abiret et eri semper lenitas 175
ダヴォス(傍白) 驚いた。あのことがあれですむとは。大旦那のあの穏やかな態度が
何を意味するのか、ずっと戦々恐々だったんだ。
verebar quorsum evaderet.
qui postquam audierat non datum iri filio uxorem suo,
大旦那は坊ちゃんの縁談を断られたときから、
numquam quoiquam nostrum verbum fecit neque id aegre tulit.
俺たちとは一言も口を利いていないが、腹を立てている様子でもない。

SI. at nunc faciet neque, ut opinor, sine tuo magno malo.
シモン(傍白) ところが、今からその大旦那が口を利くのだ。お前には災難だな。
DA. id voluit nos sic necopinantis duci falso gaudio, 180
ダヴォス 大旦那の狙いは俺たちをぬか喜びで油断させて、
sperantis iam amoto metu, interoscitantis opprimi,
安心して気を緩めているときに、あの縁談を一気に進めて
ne esset spatium cogitandi ad disturbandas nuptias:
こっちが対抗手段を考える暇を与えないようにするんじゃないか。
astute.
抜け目のない大旦那だから。

SI. carnufex quae loquitur? DA. erus est neque provideram.
シモン(傍白) この悪党は何を言ってるんだ。ダヴォス(シモンを見つけて) あ、大旦那だ。気がつかなかった。 
SI. Dave. DA. hem quid est? SI. eho dum ad me. DA. quid hic volt?
シモン ダヴォスじゃないか。ダヴォス そうです。なんでしょうか。シモン ちょっと来てくれ。ダヴォス(傍白) 何の用だろう。
SI. quid ais? DA. qua de re? SI. rogas?
シモン どうなんだ。ダヴォス 何がですか。シモン わかるだろ。
meum gnatum rumor est amare. DA. id populus curat scilicet. 185
うわさでは息子には恋人がいるそうだが。ダヴォス 確かに、世間じゃそんなこと言ってますね。

SI. hocine agis an non? DA. ego vero istuc. SI. sed nunc ea me exquirere
シモン わしの質問を聞いてるのか。ダヴォス ちゃんと聞いてます。シモン こんな質問は
iniqui patris est; nam quod antehac fecit nil ad me attinet.
嫌な親父のすることだ。というのは、これまでは息子のすることに興味はなかった。
dum tempus ad eam rem tulit, sivi animum ut expleret suom;
そういうことが許される年頃には好きにさせておいたんだ。
nunc hic dies aliam vitam defert, alios mores postulat:
しかし、今日からは別の人生が始まるのだから別の生き方をしてもらう。
dehinc postulo sive aequomst te oro, Dave, ut redeat iam in viam. 190
だから、ダヴォスよ、お前には息子が正道に戻れるようにしてほしいのだ。いやむしろお願いする。
hoc quid sit? omnes qui amant graviter sibi dari uxorem ferunt.
これはどういうことかというと、恋人のいる男は縁談を嫌がるものなんだ。

DA. ita aiunt. SI. tum siquis magistrum cepit ad eam rem inprobum,
ダヴォス そういいますね。シモン こういう時にこういう問題で間違った忠告を受けると、
ipsum animum aegrotum ad deteriorem partem plerumque adplicat.
恋に悩む心は間違った方角に進んでしまうものなんだ。
DA. non hercle intellego. SI. non? hem. DA. non: Davos sum, non Oedipus.
ダヴォス 何のことかわかりませんが。シモン 分からん? 本当か。ダヴォス はい。私は謎解きの得意なオイディプスではございませんので。
SI. nempe ergo aperte vis quae restant me loqui? DA. sane quidem. 195
シモン つまり、はっきり全部言ってほしいのか。ダヴォス そのとおりです。
SI. si sensero hodie quicquam in his te nuptiis

シモン お前がもし今日の結婚式で何か
fallaciae conari quo fiant minus,
この式をぶち壊すようなペテンをやろうとしているのが分かったら、
aut velle in ea re ostendi quam sis callidus,
あるいは、この問題でお前が抜け目のないことを見せようとしたら、
verberibus caesum te in pistrinum, Dave, dedam usque ad necem,
わしはお前をムチでしばいて粉挽き小屋に死ぬまで閉じ込めておくぞ。
ea lege atque omine ut, si te inde exemerim, ego pro te molam. 200
お前を許すくらいなら、お前の代わりにこのわしが粉挽きをする覚悟だ。
quid, hoc intellexti? an nondum etiam ne hoc quidem? DA. immo callide:
どうだ、わかったか。それともまだ分からないか。ダヴォス よくわかりました。
ita aperte ipsam rem modo locutu's, nil circumitione usus es.
実にストレートに言いたいことだけをおっしゃいました。周りくどい言い方は一切せずに。

SI. ubivis facilius passus sim quam in hac re me deludier.
シモン わしはこの件でだけはお前のペテンにかかるわけにはいかないんだ。
DA. bona verba, quaeso! SI. inrides? nil me fallis. sed dico tibi,
ダヴォス そんな縁起でもない。お願いしますよ。シモン わしを馬鹿にしているな。分かるんだぞ。お前に言っておくが、
ne temere facias; neque tu haud dicas tibi non praedictum: cave! 205
馬鹿なまねをするんじゃないぞ。聞いてないとあとで言ってもだめだぞ。気を付けろ。

Davos
第1幕 第3場 ダヴォス(パンフィロスに子供がいることを観客に明かす場面)

Enimvero, Dave, nil locist segnitiae neque socordiae,
ダヴォス(独白) これはもうぐずぐずと引き伸ばしている場合ではない。
quantum intellexi modo senis sententiam de nuptiis:
結婚式についての大旦那の考えをいま聞いた限りでは、
quae si non astu providentur, me aut erum pessum dabunt.
この結婚式をうまく扱わないと、この俺かパンフィロス坊ちゃんのどちらかが一巻の終わりだ。
nec quid agam certumst, Pamphilumne adiutem an auscultem seni.
だが、どうしたら良いかまだはっきりしない。坊ちゃんを助けるべきか、大旦那の言いつけに従うべきか。

si illum relinquo, eius vitae timeo; sin opitulor, huius minas, 210
坊ちゃんを見捨てたら坊ちゃんの命が心配だ。かと言って坊ちゃんについたら、大旦那の脅しが恐ろしい。
quoi verba dare difficilest: primum iam de amore hoc comperit;
大旦那をだますのは難しいのだ。第一もう大旦那は坊ちゃんの女のことを見つけてしまっている。
me infensus servat ne quam faciam in nuptiis fallaciam.
おれが結婚式で何かペテンを働きはしないかと、おれのことを敵意をもって見張っているんだ。
si senserit, perii: aut si lubitum fuerit, causam ceperit
だから、大旦那に気づかれたらおれはおしまいだ。それに、その気になれば、
quo iure quaque iniuria praecipitem in pistrinum dabit.
俺を粉挽き部屋に送り込む理由なんていくらでも見付け出すだろう。

ad haec mala hoc mi accedit etiam: haec Andria, 215
厄介なことはこれだけではない。あのアンドロスから来た女は、
si ista uxor sive amicast, gravida e Pamphilost.
坊ちゃんの妻か愛人かは知らないが、坊ちゃんの子を宿しているのだ。
audireque eorumst operae pretium audaciam
二人のだいそれた考えは決して聞き逃せるものではない。
nam inceptiost amentium, haud amantium.
それは愛情ゆえとはいえ、もはや正気の沙汰ではないんだ。

quidquid peperisset decreverunt tollere.
二人は生まれた子供を自分たちの子として育てると決心した。
et fingunt quandam inter se nunc fallaciam 220
そして内緒で作り話をこしらえている。
civem Atticam esse hanc: "fuit olim quidam senex
彼女はアテナイ生まれだという話だ。「昔々ある老いた商人がいました。
mercator; navim is fregit(<frango) apud Andrum insulam;
その人はアンドリア島で船が難破して
is obiit mortem." ibi tum hanc eiectam Chrysidis
亡くなりました」と。そして島に打ち上げられたみなしごの幼い彼女は
patrem recepisse orbam parvam. fabulae!
クリュシスの父親が受け入れたと。そんな馬鹿な!
miquidem hercle non fit veri simile; atque ipsis commentum placet. 225
とても本当とは思えない。ところが、ふたりはこの話がお気に入りだ。
sed Mysis ab ea egreditur. at ego hinc me(=dabo) ad forum ut
おや、ミュシスが彼女のところから出てきた。おれは広場に行って、
conveniam Pamphilum, ne de hac re pater inprudentem opprimat.
坊ちゃんに会ってこよう。結婚式の件を大旦那が坊ちゃんに知らせる先回りをするんだ。

Mysis
第1幕 第4場 ミュシス(出産が近いことを観客に知らせる場面)

Audivi, Archylis, iamdudum: Lesbiam adduci iubes.
ミュシス(家の中に向かって) さっき聞きましたよ、アルキュリスさん。産婆のレスビアさんを呼んでくるんですよね。
sane pol illa temulentast mulier et temeraria
(出て来ながら) ほんとにあの産婆さんは酒飲みで頼りないんだから、
nec satis digna quoi committas primo partu mulierem. 230
初めてのお産を任せるのは心もとないわねえ。
tamen eam adducam? inportunitatem spectate aniculae
それでもレスビアさんを呼んでくるんですね。(観客に) 女中頭もいい加減なもんですよ。
quia compotrix eius est. di, date facultatem obsecro
レスビアさんが飲み友達だから呼ぶんですからね。ああ、お嬢さんが
huic pariundi atque illi in aliis potius peccandi locum.
何とか軽いお産で済みますように。産婆さんが失敗するならそれはよその家で起きますように。
sed quidnam Pamphilum exanimatum video? vereor quid siet.
あら、いったいどうしたのかしら。パンフィロスさんが来るわ。何か取り乱してる。何があったのかしら。
opperiar, ut sciam numquidnam haec turba tristitiae adferat. 235
待っていて、何か悲しい事の前触れじゃないか確かめてみましょう。

Pamphilvs Mysis
第1幕 第5場 パンフィロス、ミュシス(父親に結婚を告げられたパンフィロスが真に受けてミュシスにそれを教える場面)

PA. Hocinest humanum factu aut inceptu? hocin officium patris?
パンフィロス(独白) これが人間のすることだらうか。これが父親としてのつとめなのだろうか。
MY. quid illud est? PA. pro deum fidem quid est, si haec non contumeliast?
ミュシス(傍白) どうしたのかしら。パンフィロス(独白) いやはや、これが屈辱でなくて何だろう。
uxorem decrerat dare sese mi hodie: nonne oportuit
今日僕を結婚させると決めただなんて。だけど僕が知らないうちに事を進める
praescisse me ante? nonne prius communicatum oportuit?
なんておかしいよ。僕にあらかじめ相談してくれるべきじゃないか。
MY. miseram me, quod verbum audio! 240
ミュシス(傍白) まあ、大変。何ていうことを聞いてしまったのかしら。
PA. quid? Chremes, qui denegarat se commissurum mihi
パンフィロス(独白) どうしてなんだ。クレメースさんは、娘さんを僕に嫁がせるの
gnatam suam uxorem, id mutavit quia me inmutatum videt?
に反対していたのに、その気持ちが変わったのは、ぼくの行いが改まらない事を知ったからなのか。
itane obstinate operam dat ut me a Glycerio miserum abstrahat?
あの人はそんなに熱心なのか、あのかわいそうなグリュケリウムから僕を引き離すことに。
quod si fit pereo funditus.
もしそんなことになったら僕は完全におしまいだよ。
adeon hominem esse invenustum aut infelicem quemquam ut ego sum! 245
僕は不幸な恋をしなければならない運命なのだろうか。こんな男がほかにいるだろうか。
pro deum atque hominum fidem!
ああ、神様!
nullon ego Chremetis pacto adfinitatem effugere potero?
どうやってもぼくはクレメースさんの婿になることから逃げられないのか。
quot modis contemptus spretus! facta transacta omnia. hem
いったいどれほど僕はないがしろにされ馬鹿にされるのか。もう、万事休すだ。
repudiatus repetor. quam ob rem? nisi si id est quod suspicor:
いったん拒否されたぼくがまた呼び戻された。何のためだ。もしぼくの想像通りなら、
aliquid monstri alunt: ea quoniam nemini obtrudi potest, 250
あの家は化け物を育ててしまったが、そんなものを誰にも押し付けることはできないので、
itur ad me. MY. oratio haec me miseram exanimavit metu.
ぼくにお鉢が回ってきたのさ。ミュシス(傍白) こんなことを聞いてしまって、私はもう不安で不安で死にそうだわ。
PA. nam quid ego dicam de patre? ah
パンフィロス あの父親のことを一体どう考えたらいいんだ。ああ、
tantamne rem tam neglegenter agere! praeteriens modo
こんな大事なことをこんないい加減なやり方でするなんて。さっき広場で通りすがりに
mi apud forum "uxor tibi ducendast, Pamphile, hodie" inquit: "para,
僕に「パンフィロスよ、今日お前は結婚することになった」と言って「準備のために
abi domum." id mihi visust dicere "abi cito ac suspende te." 255
家に帰れ」と。これじゃあ「早く帰って首をくくって死ね」と言ってるようなものだ。
obstipui. censen me verbum potuisse ullum proloqui? aut
呆然自失だよ。ぼくにいったい何が言えたというんだ。
ullam causam, ineptam saltem falsam iniquam? obmutui.
どんな逃げ口上でも嘘でも出鱈目でも言えばよかったのに、何も言えなかった。
quod si ego rescissem id prius, quid facerem siquis nunc me roget:
あらかじめ知っていたらどうするかって聞く人がいれば、それは、こうならないように
aliquid facerem ut hoc ne facerem. sed nunc quid primum exsequar?
何かはするだろう。しかし、こうなった以上は何をするのが一番いいんだ。
tot me inpediunt curae, quae meum animum divorsae trahunt: 260
たくさんの色んな心配事でぼくの心は千々に乱れるばかりだ。
amor, misericordia huius, nuptiarum sollicitatio,
恋と、女への同情と、結婚式への不安と、
tum patris pudor, qui me tam leni passus est animo usque adhuc
それからぼくがやりたいようにするのをこれまで優しく見守ってくれていた
quae meo quomque animo lubitumst facere. eine ego ut advorser? ei mihi!
父親に対する孝行の気持ちもある。あの父親にどうして逆らえるものか。
incertumst quid agam. MY. misera timeo "incertum" hoc quorsus accidat.
いったいどうすればいいかまったく迷うばかりだ。ミュシス(傍白) 「迷う」だなんて
sed nunc peropust aut hunc cum ipsa aut de illa aliquid me advorsum hunc loqui: 265
それがどっちに転ぶか心配だわ。いま何より必要なのは、あの人をお嬢様に会わせるか、あの人にお嬢様のことをお伝えすることですわ。
dum in dubiost animus, paullo momento huc vel illuc impellitur.
気持ちが迷っているときには、ちょっとしたきっかけでどっちにでも傾いてしまうものですから。
PA. quis hic loquitur? Mysis, salve. MY. o salve, Pamphile. PA. quid agit? MY. rogas?
パンフィロス 誰だろう、ここで話しているのは。ミュシスか、こんにちは。ミュシス パンフィロスさん、こんにちは。パンフィロス 彼女はどうしてる。ミュシス お分かりでしょ。
laborat e dolore atque ex hoc misera sollicitast, diem
お可哀想に、お嬢様は陣痛の苦しんでおられるだけでなく、
quia olim in hunc sunt constitutae nuptiae. tum autem hoc timet,
かつて結婚式の日取りが今日に決まったことによる心労が加わっています。それに何よりあなたに捨てられるのでは
ne deseras se. PA. hem egone istuc conari queam? 270
と心配しておられるのです。パンフィロス 馬鹿な、僕にそんなことが出来るかい。
egon propter me illam decipi miseram sinam,
僕が自分自身のためにかわいそうな彼女を騙すなんてできるかね。
quae mihi suom animum atque omnem vitam credidit,
彼女は身も心も全てこのぼくに預けているんだよ。
quam ego animo egregie caram pro uxore habuerim?
僕は彼女を自分の妻として誰よりも大切に思っているんだ。
bene et pudice eius doctum atque eductum sinam
教育もあり躾も行き届いた彼女を貧困のために卑しい仕事に
coactum egestate ingenium inmutarier? 275
追いやっていいとでもいうのか。
non faciam. MY. haud verear si in te solo sit situm;
そんなことをするわけがない。ミュシス それをあなたが全部を決められるなら心配はないのですが。
sed vim ut queas ferre. PA. adeon me ignavom putas,
あなたがお父様の強制に抵抗できるかどうか心配です。パンフィロス ぼくがそんなに弱虫で
adeon porro ingratum aut inhumanum aut ferum,
そんなに恩知らずで人でなしの冷たい男だと思っているのか。
ut neque me consuetudo neque amor neque pudor
僕には彼女を思う気持ちと彼女との強い絆と廉恥心があるんだ。
commoveat neque commoneat ut servem fidem? 280
僕が約束を違えることはない。
MY. unum hoc scio, hanc meritam esse ut memor esses sui.
ミュシス 一つ確かなことは、うちのお嬢様は決して見捨ててはならない方だということですわ。
PA. memor essem? o Mysis Mysis, etiam nunc mihi
パンフィロス 僕が彼女を見捨てるわけがない。ミュシスよ、ミュシス、
scripta illa dicta sunt in animo Chrysidis
クリュシスがグリュケリウムについて語ったあの言葉は今でも僕の心に刻まれている。
de Glycerio. iam ferme moriens me vocat:
僕は今わの際にあったクリュシスに呼ばれたんだ。
accessi; vos semotae: nos soli: incipit 285
枕元に着くと、お前たちは人払いされて、二人だけになると、彼女は
"mi Pamphile, huius formam atque aetatem vides,
「パンフィロスさん、この子の若さと美しさを見れば、
nec clam te est quam illi nunc utraeque inutiles
あなたも気づいているでしょう、この二つは
et ad pudicitiam et ad rem tutandam sient.
富と純潔を守るためには役立たないことを。
quod ego per hanc te dexteram et genium tuom,
あなたのこの右手とあなたの守り神にかけて、
per tuam fidem perque huius solitudinem 290
あなたの信義とみなしごのあの子にかけて、
te obtestor ne abs te hanc segreges neu deseras.
あなたにお願いします。けっしてこの子を手元から放したり見捨てたりしないで下さい。
si te in germani fratris dilexi loco
私はあなたのことを自分の弟のように思い、
sive haec te solum semper fecit maxumi
あの子はあなたをもっとも尊敬して、
seu tibi morigera fuit in rebus omnibus,
あの子はあらゆることであなたに従ってきたのですから、
te isti virum do, amicum tutorem patrem; 295
私はあなたをあの子の夫であり友人であり教師であり父であると思っています。
bona nostra haec tibi permitto et tuae mando fide(Dat.)."
私の財産はあなたに委ねますのであなたが責任をもって守って下さい」
hanc mi in manum dat; mors continuo ipsam occupat.
彼女は僕の手にグリュケリウムを委ねたのです。突然死が彼女を襲いました。
accepi: acceptam servabo. MY. ita spero quidem.
僕は彼女をお預かりしたのです。だから僕は彼女を守り続けるのです。ミュシス そうあってほしいですわ。
PA. sed quor tu abis ab illa? MY. obstetricem accerso. PA. propera. atque audin?
パンフィロス ところで、あなたは何のために彼女のところから出てきたのですか。ミュシス 産婆さんを呼びに行くのです。パンフィロス 急いで下さい。あ、待って下さい。
verbum unum cave de nuptiis, ne ad morbum hoc etiam . . MY. teneo. 300
今日の結婚式のことは絶対に口にしないでくださいね。それでお産にさわりが出てはいけませんから。ミュシス わかりました。

ACTVS II

Charinvs Byrria Pamphilvs

第2幕 第1場 カリーヌス、ビュリア、パンフィロス(パンフィロスの結婚話を知ってカリーヌスがパンフィロスに結婚を延期してくれと懇願する場面)

CHA. Quid ais, Byrria? daturne illa Pamphilo hodie nuptum? BY. sic est.
カリーヌス どうなってんだよ、ビュリア。おれの彼女は今日パンフィロスと結婚するらしいじゃないか。ビュリア そうなんです。
CHA. qui scis? BY. apud forum modo e Davo audivi. CHA. vae misero mihi!
カリーヌス どうして分かったんだ。ビュリア 広場でダヴォスからさっき聞きました。カリーヌス ああ、おれはもうだめだ。
ut animus in spe atque in timore usque antehac attentus fuit,
さっきまで希望と不安の間で揺れ動いていたんだが、
ita, postquam adempta spes est, lassus cura confectus stupet.
希望が失われたあとでは、心がぐったりとして何も感じることができないよ。

BY. quaeso edepol, Charine, quoniam non potest id fieri quod vis, 305
ビュリア 若旦那、どうかお願いですから、望むことがかなわないのなら、
id velis quod possit. CHA. nil volo aliud nisi Philumenam. BY. ah
かなうことを望んでくださいな。カリーヌス 僕の望みはフィロメーナだけなんだ。
quanto satiust te id dare operam qui istum amorem ex animo amoveas,
ビュリア 本当に、そんな恋は心から追い払うように努力するほうがいいですよ。
quam id loqui quo mage lubido frustra incendatur tua!
そんなことを言って恋心を無駄にかきたてるよりは。
CHA. facile omnes quom valemus recta consilia aegrotis damus.
カリーヌス 健康な人間が病人にアドバイスをするのは簡単だからな。
tu si hic sis aliter sentias. BY. age age, ut lubet. CHA. sed Pamphilum 310
お前もおれの立場なら違うことを言うだろうさ。ビュリア はい、はい、好きにしてくだせえ。
video. omnia experiri certumst prius quam pereo. BY. quid hic agit?
カリーヌス おい、パンフィロスの奴が来てるぞ。おれは負けを認める前に何でもやってみるぞ。ビュリア(傍白) この人は何をなさるつもりだろう。


CHA. ipsum hunc orabo, huic supplicabo, amorem huic narrabo meum:
カリーヌス おれは彼に直接頼んでみるよ。土下座してもいい。彼女へのおれの気持ちを聞いてもらうんだ。
credo impetrabo ut aliquot saltem nuptiis prodat dies:
そうすれば、最低でも何日か結婚式を延期してくれるはずだ。
interea fiet aliquid, spero. BY.id "aliquid" nil est. CHA. Byrria,
その間に何か手を打てるかもしれない。ビュリア(傍白) そんなことはないでしょ。カリーヌス ビュリアよ
quid tibi videtur? adeon ad eum? BY. quidni? si nil impetres, 315
君はどう思う。パンフィロスに話しかけるのを。ビュリア それ以外に何があります。
ut te arbitretur sibi paratum moechum, si illam duxerit.
もし失敗しても、あの人は彼女と結婚したら若旦那という間男がついてくることを知るでしょう。
CHA. abin hinc in malam rem cum suspicione istac, scelus?
カリーヌス 何を縁起の悪い事を言い出すんだ、馬鹿野郎、くたばっちまえ。

PA. Charinum video. salve. CHA. o salve, Pamphile:
パンフィロス おや、カリーヌスが来た。こんちわ。カリーヌス 機嫌はどうだい、パンフィロス。
ad te advenio spem salutem auxilium consilium expetens.
君に頼みがあって来たんだ。おれを助けてくれよ。おれに希望を与えてくれよ。おれに知恵を貸してくれよ。
PA. neque pol consili locum habeo neque ad auxilium copiam. 320
パンフィロス 残念ながら僕には知恵はないし、誰も助けられない。sed istuc quidnamst? CHA. hodie uxorem ducis? PA. aiunt. CHA. Pamphile,
でも一体どうしたんだい。カリーヌス 君は今日結婚するのかい。パンフィロス そういう話だね。
si id facis, hodie postremum me vides. PA. quid ita? CHA. ei mihi,
カリーヌス パンフィロスよ、もしそうなら、君が僕の顔を見るのは今日が最後だ。パンフィロス どうしてそうなるんだ。
vereor dicere: huic dic,quaeso, Byrria. BY. ego dicam. PA. quid est?
カリーヌス ああ、だめだ。僕の口からはとても言えない。ビュリアよ、頼むからお前が言ってくれ。ビュリア 私から言いましょう。パンフィロス 何なんだ。

BY. sponsam hic tuam amat. PA. ne iste haud mecum sentit. eho dum dic mihi:
ビュリア この人はあなたの花嫁に恋してるんでさあ。パンフィロス ぼくと彼とでは好みのタイプが違うらしいね。
numquid nam amplius tibi cum illa fuit, Charine? CHA. ah, Pamphile, 325
いや、ちょっと待て、フィロメーナと君との間はもっと深い付き合いじゃないのかい。カリーヌス?
nil. PA. quam vellem! CHA. nunc te per amicitiam et per amorem obsecro,
カリーヌス 何もないさ。パンフィロス あったらよかったのに。カリーヌス 頼むよ、友情と愛情にかけて君にお願いする。
principio ut ne ducas. PA. dabo equidem operam. CHA. sed si id non potest
とにもかくにも結婚はしないでくれ。パンフィロス 頑張ってはみるよ。カリーヌス でもそれがうまくいかなったから、
aut tibi nuptiae hae sunt cordi, PA. cordi! CHA. saltem aliquot dies
いや君が本当はこの結婚に乗り気だとしても・・。パンフィロス おれが乗り気だと?
profer, dum proficiscor aliquo ne videam.PA. audi nunciam:
カリーヌス 何日でもいいから日延べしてくれ。その間におれはどこかへ行って結婚式を見ないようにするよ。パンフィロス まあ聞けよ、
ego, Charine, neutiquam officium liberi esse hominis puto, 330
カリーヌス。こんなことは立派な人間が言うべきことじゃないし、
quom is nil mereat, postulare id gratiae adponi sibi.
僕はそんな立場じゃないから、君に対する親切で言うんじゃないが、
nuptias effugere ego istas malo quam tu adipiscier.
君があの娘と結婚したがっているそれ以上に、僕はあの娘との結婚から逃げたいんだよ。

CHA. reddidisti animum. PA. nunc siquid potes aut tu aut hic Byrria,
カリーヌス おかげでおれは一息つけたよ。パンフィロス さあ、君とビュリアで何かできるか
facite fingite invenite efficite qui detur tibi;
、策略知略陰謀、どんなことでもやってみてくれよ、彼女が君のものになるためにね。
ego id agam mihi qui ne detur. CHA. sat habeo. PA. Davom optume 335
僕の方でもやってみるよ彼女が僕のものにならないためにね。カリーヌス それで充分だ。パンフィロス ちょうどいいところに
video, quoius consilio fretus sum. CHA. at tu hercle haud quicquam mihi,
ダヴォスが来た。あいつの知恵が僕の頼みの綱なんだ。カリーヌス(ビュリアに) お前は
nisi ea quae nil opus sunt scire. fugin hinc? BY. ego vero ac lubens.
おれが知りたくもないことしか言わないよなあ。もうお前は消えてしまえ。ビュリア(独白) おれだって願ったり叶ったりだ。

Davos Charinvs Pamphilvs
第2幕 第2場 ダヴォス、カリーヌス、パンフィロス(ダヴォスが結婚式は嘘だと知らせる場面)

DA. Di boni, boni quid porto? sed ubi inveniam Pamphilum,
ダヴォス(独白) こりゃまた何ともいい知らせをもってきたぞ。坊ちゃんはどこへ行ったんだろう。
ut metum in quo nunc est adimam atque expleam animum gaudio?
坊ちゃんの不安を取り除いて、その代わりに喜びで心を一杯にしてあげられるのに。
CHA. laetus est nescioquid. PA. nil est: nondum haec rescivit mala. 340
カリーヌス(パンフィロスに) ダヴォスのやつ、なにやら嬉しそうじゃないか。パンフィロス(カリーヌスに) まさか。まだこの災難のことは知らないんだな。
DA. quem ego nunc credo, si iam audierit sibi paratas nuptias . .
ダヴォス 結婚式の準備が整ったということを聞いていたなら、今頃坊ちゃんはさぞかし・・、

CHA. audin tu illum? DA. toto me oppido exanimatum quaerere.
カリーヌス(パンフィロスに) おい、いまのを聞いたか。ダヴォス 意気消沈して、おいらのことを街中さがしていることだろうな。
sed ubi quaeram? quo nunc primum intendam? CHA. cessas alloqui?
でもどこをさがしゃいいんだ。どっちへ行こうかな。カリーヌス(パンフィロスに)さっさと話しかけろよ。 
DA. abeo. PA. Dave, ades resiste. DA. quis homost, qui me . . ? o Pamphile,
ダヴォス(去りかける) 行くとするか。パンフィロス ダヴォス、待てよ、こっちへ来いよ。ダヴォス おれを呼ぶのは誰だ? ああ、パンフィロス坊ちゃん、
te ipsum quaero. eugae, Charine! ambo opportune: vos volo. 345
あなたを探してたんですよ。こりゃよかった、カリーヌスの若旦那も。お二人ともいいところへ。ちょっと用があるんです。

PA. Dave, perii. DA. quin tu hoc audi. CHA. interii. DA. quid timeas scio.
パンフィロス ダヴォスよ、おれは弱ってるんだ。ダヴォス まあ聞いてくださいよ。カリーヌス おれはもう終わりだよ。ダヴォス 何を心配しておられるか存じておりますよ。
PA. mea quidem hercle certe in dubio vitast. DA. et quid tu, scio.
パンフィロス ぼくの人生は本当に大ピンチに陥っているんだ。ダヴォス 坊ちゃんの心配の種も存じております。
PA. nuptiae mi . . DA. etsi scio? PA. hodie . . DA. obtundis, tam etsi intellego?
パンフィロス 僕の結婚式が・・ ダヴォス 知ってますって。パンフィロス 今日・・
ダヴォス 私は存じてますと言っておりますのに、まだ言いますか。
id paves ne ducas tu illam; tu autem ut ducas. CHA. rem tenes.
坊ちゃんはあの女性と結婚してしまうんじゃないかと心配しておられるし、若旦那は恋人と結婚出来なくなるんじゃないかと心配しておられる。カリーヌス よくわかってるじゃないか。

PA. istuc ipsum. DA. atque istuc ipsum nil periclist: me vide. 350
パンフィロス そうそのことだ。ダヴォス そしてそのことに何の心配もいりません。私の目を見てくださいよ。
PA. obsecro te, quam primum hoc me libera miserum metu. DA. em
パンフィロス ねえ、早く僕を安心させてくれよ。ダヴォス ええ、ご安心を。
libero: uxorem tibi non dat iam Chremes. PA. qui scis? DA. scio.
クレメースさんは坊ちゃんとの縁談を進める気はないですよ。パンフィロス それがどうして分かった。
tuos pater modo me prehendit: ait tibi uxorem dare
ダヴォス 私はさっきまで大旦那に捕まっていましたが、その時、大旦那は今日坊ちゃんを結婚させるとおっしゃいました。
hodie, item alia multa quae nunc non est narrandi locus.
ほかの事もいろいろおっしゃいましたがそれは今はどうでもいいでしょう。
continuo ad te properans percurro ad forum ut dicam haec tibi. 355
すぐにお知らせせねばと広場まで急いで行きましたが、そこには
ubi te non invenio ibi escendo in quendam excelsum locum,
坊ちゃんはおられないので高台に登って
circumspicio: nusquam. forte ibi huius video Byrriam;
見渡しましたが、どこにもおられません。たまたまそこにこの方の召使のビュリア
rogo: negat vidisse. mihi molestum; quid agam cogito.
くんが居ましたので、尋ねましたが、見かけなかったといいます。困り果てた私は、どうすればいいか考えました。
redeunti interea ex ipsa re mi incidit suspicio "hem
帰り道で例に件について疑問が浮かびました。「どうも
paullulum opsoni; ipsus tristis; de inproviso nuptiae: 360
少なすぎる食事代。暗すぎる大旦那の顔。唐突すぎる結婚式。
non cohaerent." PA. quorsus nam istuc? DA. ego me continuo ad Chremem.
しっくりこない」とね。パンフィロス それでどうしたんだ。ダヴォス 私はクレメースさんの
quom illo advenio, solitudo ante ostium: iam id gaudeo.
家に行きました。着いて目にしたのはひっそりとした玄関でした。しめたと思いましたね。

CHA. recte dicis. PA. perge. DA. maneo. interea intro ire neminem
カリーヌス そのとおりだ。パンフィロス 続けてくれ。ダヴォス 待っていても、
video, exire neminem; matronam nullam in aedibus,
人の出入りは一切ありません。花嫁の介添えも一人もいません。
nil ornati, nil tumulti: accessi; intro aspexi. PA. scio: 365
飾り付けもなし、まったく静まり返っていました。近づいて中を覗いてみました。
magnum signum. DA. num videntur convenire haec nuptiis?
パンフィロス わかったぞ。それで決まりだ。ダヴォス これが花嫁がいる家なのか。
PA. non opinor, Dave. DA. "opinor" narras? non recte accipis:
パンフィロス ちがうかも知れないね、ダヴォス。ダヴォス 「かもしれない」とおっしゃいますか。
certa res est. etiam puerum inde abiens conveni Chremi:
まだよくお分かりでない。もうはっきりしてますよ。帰りしなにクレメースさんの
holera et pisciculos minutos ferre obolo in cenam seni.
ボーイを見かけましたが、クレメースの旦那の食事用の野菜と安物の小魚を抱えるばかり。

CHA. liberatus sum hodie, Dave, tua opera. DA. ac nullus quidem. 370
カリーヌス おれは助かったよ、ダヴォス、君のおかげだ。ダヴォス そうとはいえませんよ。
CHA. quid ita? nempe huic prorsus illam non dat. DA. ridiculum caput,
カリーヌス どうして? 彼女がパンフィロスに嫁がないのは確かなのに。ダヴォス 気楽な人ですね。
quasi necesse sit, si huic non dat, te illam uxorem ducere,
うちの坊ちゃんに嫁がないとしても、あなたに嫁ぐと決まったわけではありませんよ。
nisi vides, nisi senis amicos oras ambis. CHA. bene mones:
クレメースの旦那のお知り合いに会ってお願いして回らないと。カリーヌス いい忠告だ。
ibo, etsi hercle saepe iam me spes haec frustratast. vale.
そうするよ。おれの希望はいままで何度も裏切られて来たけれど。さらば。

Pamphilvs Davos
第2幕 第3場 パンフィロス、ダヴォス(ダヴォスがパンフィロスに縁談を断らないのが上策だと教える場面)

PA. Quid igitur sibi volt pater? quor simulat? DA. ego dicam tibi. 375
パンフィロス おやじの狙いはなんなんだろう。どうして結婚の芝居をするんだ。ダヴォス 教えて差し上げましょう。
si id suscenseat nunc quia non det tibi uxorem Chremes,
クレメースの旦那が縁談を進める気がないからといって、もし大旦那が腹を立てたら、
ipsus sibi esse iniurius videatur, neque id iniuria,
この破談は自分の責任になってしまいます。そりゃそうです。
prius quam,tuom ut sese habeat(~の状態である) animum ad nuptias,perspexerit:
なぜって、まだこの縁談に対する坊ちゃんの気持ちを確かめていないからです。
sed si tu negaris ducere, ibi culpam in te transferet:
ですが、坊ちゃんが断ってきたら、この破談の責任は坊ちゃんのせいにできるんです。

tum illae turbae fient. PA. quidvis patiar. DA. pater est, Pamphile: 380
そうなりゃ一悶着あるという寸法です。パンフィロス ぼくは何があっても平気さ。ダヴォス 坊ちゃん、お父様は
difficilest. tum haec solast mulier. dictum factum invenerit
一筋縄ではいきませんぜ。しかも、グリュケリウム奥様は孤立無援ときている。
aliquam causam quam ob rem eiciat oppido. PA. eiciat? DA. cito.
奥さんを町から追い出す理由を見つけるくらい朝飯前でしょう。パンフィロス 追いだすって? ダヴォス すぐにやりますよ。

PA. cedo igitur quid faciam, Dave? DA. dic te ducturum. PA. hem. DA. quid est?
パンフィロス で、ダヴォスよ、おれにどうしろって言うんだい。ダヴォス お父様に結婚しますって言うんです。パンフィロス えっ。ダヴォス どうかしましたか。
PA. egon dicam? DA. quor non? PA. numquam faciam. DA. ne nega.
パンフィロス おれがそんな事を言うのかい。ダヴォス そうですよ。パンフィロス だって僕は結婚しないじゃないか。ダヴォス 断っちゃダメなんですよ。
PA. suadere noli. DA. ex ea re quid fiat vide. 385
パンフィロス そんな事言ってもダメだよ。ダヴォス 私の言うとおりにしたらどうなるか聞いて下さいよ。

PA. ut ab illa excludar, hoc concludar. DA. non itast.
パンフィロス 彼女の家から追い出されて、ここに閉じ込められるんだろ。ダヴォス そんなことにはなりません。
nempe hoc sic esse opinor: dicturum patrem
私の考えはこうです。お父様は
"ducas volo hodie uxorem"; tu "ducam" inquies:
「今日、お前は結婚するんだ」とおっしゃる。坊ちゃんは「わかりました」と言うんです。
cedo quid iurgabit tecum? hic reddes omnia
さあ、お父様は何を理由にしてあなたを叱れますか。
quae nunc sunt certa ei consilia incerta ut sient 390
こうなりゃよく練り上げたお父様の作戦はすべて水泡に帰して
sine omni periclo. nam hoc haud dubiumst quin Chremes
おまけに、結婚のリスクも回避できるというわけです。なぜっていうと、クレメースの旦那が坊ちゃんに娘をやらないことは疑いなしだからです。
tibi non det gnatam; nec tu ea causa minueris
だから坊ちゃんは今の不品行を改めちゃいけません。
haec quae facis, ne is mutet suam sententiam.
クレメースの旦那が気を変えないためにね。

patri dic velle, ut, quom velit, tibi iure irasci non queat.
その一方で坊ちゃんはお父様にはこの縁談に乗り気だと言わないといけません。お父様が坊ちゃんを叱りたくても叱ることは出来ないようにするためにね。
nam quod tu speres "propulsabo facile uxorem his moribus; 395
なぜって、もし坊ちゃんが「自分の不品行をもってしたらどんな縁談も簡単に壊せるし、
dabit nemo": inveniet inopem potius quam te corrumpi sinat.
誰も縁談をもちかけてこないだろう」などと思って断ったりすると、お父様は貧乏な娘を嫁に見つけてきて坊ちゃんの不品行をやめさせようとするでしょうね。
sed si te aequo animo ferre accipiet, neglegentem feceris;
しかし、坊ちゃんがこの嘘の縁談を平気で受け入れるのを見たら、
aliam otiosus quaeret: interea aliquid acciderit boni.
お父様も気を緩めて、時間をかけて別の縁談を探すことでしょう。その間にこちらに幸運が転がり込んでくることもあるというものです。

PA. itan credis? DA. haud dubium id quidemst. PA. vide quo me inducas. DA. quin taces?
パンフィロス それがお前の考えかい。ダヴォス そうなることは疑いなしです。パンフィロス お前の言うとおりにしたら、おれはどうなることやら。ダヴォス 安心してくださいよ。
PA. dicam. puerum autem ne resciscat mi esse ex illa cautiost; 400
パンフィロス おやじにはそう言うよ。でも、ぼくと彼女の間に子供がいることをはバレないようにしないと。
nam pollicitus sum suscepturum. DA. o facinus audax! PA. hanc fidem
だって、あの子は俺の子として育てるって彼女に約束したんだから。ダヴォス なんという大それた企みですな。パンフィロス 彼女がどうしてもこの約束は
sibi me obsecravit, qui se sciret non deserturum, ut darem.
してほしいとせがんだんだよ。そうすりゃ自分が捨てられることはないと思ったんだろうな。
DA. curabitur. sed pater adest. cave te esse tristem sentiat.
ダヴォス それはわかってます。おや、お父様がいらした。気をつけてくださいよ、坊ちゃんが取り乱してるところを見られないようにね。

Simo Davos Pamphilvs
第2幕 第4場 シモン、ダヴォス、パンフィロス(父親が登場するのにパンフィロスが心の準備をする場面)

SI. Reviso quid agant aut quid captent consili.
シモン(独白) やつらが何をしているか何を考えているか探りを入れるために戻ってきた。
DA. hic nunc non dubitat quin te ducturum neges. 405
ダヴォス(パンフィロスへ)お父様は坊ちゃんが結婚を断るに違いないと思っておられます。
venit meditatus alicunde ex solo loco:
それで、どこか人気のないところへ行って、どう言えばいいか考えて来られたのですよ。
orationem sperat invenisse se
坊ちゃんをうろたえさせる言い方を見つけているようです。
qui differat te: proin tu fac apud te ut sies.
ですから、坊ちゃんもしっかりしないとだめですぜ。
PA. modo ut possim, Dave! DA. crede inquam hoc mihi, Pamphile,
パンフィロス ダヴォス、おれに出来るかなあ。ダヴォス 坊ちゃん、ここは私の言ったおりに結婚しますとおっしゃって下さい。
numquam hodie tecum commutaturum patrem 410
そうすればお父様はもう今日のところは坊ちゃんに対して
unum esse verbum, si te dices ducere.
一言も言うことはないはずです。

Byrria Simo Davos Pamphilvs
第2幕 第5場 ビュリア、シモン、ダヴォス、パンフィロス(パンフィロスが父シモンに結婚を受けると嘘を付く場面)

BY. Erus me relictis rebus iussit Pamphilum
ビュリア(シモンのあとをついてくる) うちの若旦那が、ほかのことはほっといて今日はよくパンフィロスさんのことを
hodie observare, ut quid ageret de nuptiis
見張って、結婚のことがどうなるか調べてこいとおっしゃるので、
scirem: id propterea nunc hunc venientem sequor.
この旦那の後について行こう。
ipsum adeo praesto video cum Davo: hoc agam. 415
ちょうどパンフィロス坊ちゃんが今ここにダヴォスといっしょに居る。聞いてみよう。

SI. utrumque adesse video. DA. em serva. SI. Pamphile.
シモン 二人とも揃っているな。ダヴォス ほら、気をつけて。シモン せがれじゃないか。
DA. quasi de inproviso respice ad eum. PA. ehem pater.
ダヴォス 思いがけない振りをしてお父様の方を見てください。パンフィロス おや、お父さん。
DA. probe. SI. hodie uxorem ducas, ut dixi, volo.
ダヴォス その調子。シモン さっき言ったとおり、今日はお前の結婚式だぞ。
BY. nunc nostrae timeo parti quid hic respondeat.
ビュリア こちらとしても、この人がなんて答えるか、心配なところなんだ。
PA. neque istic neque alibi tibi erit usquam in me mora. BY. hem. 420
パンフィロス そのことでも他のどんな事でもぼくはお父さんの言うとおりにします。ビュリア えっ。

DA. obmutuit. BY. quid dixit? SI. facis ut te decet,
ダヴォス(傍白) 大旦那はびっくりして言葉もないぞ。ビュリア 何て言ったんだ。シモン それこそお前に相応しい行動だ。
quom istuc quod postulo impetro cum gratia.
わしの要求に進んで応えてもらえるとはな。
DA. sum verus? BY. erus, quantum audio, uxore excidit.
ダヴォス(パンフィロスに) ね、私は嘘は言わないでしょ。ビュリア(傍白) いま聞いた限りでは、うちの若旦那は結婚し損なうようだな。
SI. i nunciam intro, ne in mora, quom opus sit, sies.
シモン もう中へ入れ。わしが呼んだらすぐに来るんだぞ。

PA. eo.-- BY. nullane in re esse quoiquam homini fidem! 425
パンフィロス わかりました。ビュリア(傍白) 何一つ誰一人信用出来ないぞ。
verum illud verbumst, volgo quod dici solet,
一般に言われているあの格言は本当だ。
omnis sibi malle melius esse quam alteri.
誰も我が身が一番可愛いとね。
ego illam vidi: virginem forma bona
おれも花嫁を見たけど、とても美人だったのを
memini videri: quo aequior sum Pamphilo,
よく覚えている。それだけにパンフィロス坊ちゃんの気持ちがよくわかる。
si se illam in somnis quam illum amplecti maluit. 430
あの女と夜を共にしたい、あの女をうちの若旦那に渡したくないと思ったんだな。
renuntiabo, ut pro hoc malo mihi det malum.
これはお知らせしてこよう。悪い知らせをもってきたとまたお叱りを受けるだろうが。

Davos Simo
第2幕 第6場 ダヴォス、シモン(シモンがダヴォスと腹の中を探ろうとする場面)

DA. Hic nunc me credit aliquam sibi fallaciam
ダヴォス(傍白) 大旦那はおれが何か企んでると思ってる。
portare et ea me hic restitisse gratia.
それでここに居残ったってわけさ。
SI. quid Davos narrat? DA. aeque quicquam nunc quidem.
シモン(ダヴォスに近づきながら) ダヴォスは何を言ってるんだ。ダヴォス 何も変わったことはありませんぜ。
SI. nilne? hem. DA. nil prorsus. SI. atqui exspectabam quidem. 435
シモン 何もないとな。ダヴォス 確かに何もありません。
DA. praeter spem evenit, sentio: hoc male habet virum.
ダヴォス(傍白) 予想外だったようだな。困ってるのが手に取るようだ。

SI. potin es mihi verum dicere? DA. nil facilius.
シモン 本当のことを教えてくれないか。ダヴォス お安い御用で。
SI. num illi molestae quidpiam haec sunt nuptiae
シモン この結婚は息子にとっては迷惑なんだろ。
propter huiusce consuetudinem hospitae?
あの外国女との色恋があるからな。
DA. nil hercle; aut, si adeo, biduist aut tridui 440
ダヴォス そんなことはありませんよ。仮にそうだとしても、二三日のことですよ、
haec sollicitudo: nosti? deinde desinet.
坊ちゃんが困るのは。ご存知のように、それも終わる時が来ます。
etenim ipsus secum id recta reputavit via.
だって、坊ちゃんも自分でよく考えて、正道にもどっておられますよ。

SI. laudo. DA. dum licitumst ei dumque aetas tulit,
シモン それはよかった。ダヴォス 坊ちゃんは旦那さまのお許しがある間だけ、若気の至りが許される間だけ
amavit; tum id clam: cavit ne umquam infamiae
色恋沙汰にふけっておられますが、それも世間体を考えて、
ea res sibi esset, ut virum fortem decet. 445
一人前の男にふさわしい範囲でやっておられますね。
nunc uxore opus est: animum ad uxorem adpulit.
いまでは坊ちゃんにも奥さんが必要ですし、本人も結婚する気になっておられます。
SI. subtristis visus est esse aliquantum mihi.
シモン でもわしには息子が何かで取り乱しているように見えたな。
DA. nil propter hanc rem, sed est quod suscenset tibi.
ダヴォス 結婚のことじゃないですよ。旦那さまに何かで腹を立てていらしゃるんでしょ。

SI. quidnamst? DA. puerilest. SI. quid id est? DA. nil. SI. quin dic, quid est?
シモン 一体何だ。ダヴォス 子供じみたことで。シモン それは何なんだ。ダヴォス 何でもありません。シモン 言わないか。何なんだ。
DA. ait nimium parce facere sumptum. SI. mene? DA. te. 450
ダヴォス あんまりしみったれてると。シモン おれがか。ダヴォス そうです。
"vix" inquit "drachumis est opsonatum(=obsonatum) decem:
「お父様は食事代に10ドラクマも使わないんだ」とおっしゃています。
non filio videtur uxorem dare.
「これでは息子の結婚式とは思えない。
quem" inquit "vocabo ad cenam meorum aequalium
披露宴に招待するのに仲間の中から誰を
potissumum nunc?" et, quod dicendum hic siet,
選んだらいいんだ」と。この件では言っちゃ何ですが、
tu quoque perparce nimium: non laudo. SI. tace. 455
旦那さまは始末しすぎです。感心しませんな。シモン うるさい。

DA. commovi. SI. ego istaec recte ut fiant videro.
ダヴォス(傍白) 痛いところをついたようだな。シモン 式の方はちゃんと挙げるように手配するさ。
quidnam hoc est rei? quid hic volt veterator sibi?
(傍白) いったいどうなっているんだ。このペテン師は何を企んでいるんだ。
nam si hic malist quicquam, em illic est huic rei caput.
なぜなら、この家で何か悪いことがあるときには、その裏には決まってこいつがいるんだから。

ACTVS III


Mysis Simo Davos Lesbia (Glycerivm)

第3幕 第1場 ミュシス、シモン、ダヴォス、レスビア(グリュケリウム)(パンフィロスにこどもが生まれるところにシモンとダヴォスが居合わせる場面)

MY. Ita pol quidem res est, ut dixti, Lesbia:
ミュシス レスビアさん、本当にあなたの言ったとおりですわ。
fidelem haud ferme mulieri invenias virum. 460
女に嘘をつかない男なんていないものですわね。
SI. ab Andriast ancilla haec? quid narras? DA. ita est.
シモン この女中もアンドリアから来たのか? どう思う? ダヴォス そうですよ。
MY. sed hic Pamphilus . . SI. quid dicit? MY. firmavit fidem. SI. hem.
ミュシス でもパンフィロスさんは・・シモン 何て言っているんだ? ミュシス 約束を守ってくれましたわ。シモン えっ。
DA. utinam aut hic surdus aut haec muta facta sit!
ダヴォス 大旦那の耳と目をなんとか塞げないものか。
MY. nam quod peperisset iussit tolli. SI. o Iuppiter,
ミュシス だって、生まれた子をちゃんと育てるように言って下さったんですもの。
quid ego audio? actumst, siquidem haec vera praedicat. 465
シモン どうなってんだ、妙なことを言うじゃないか。これが本当ならまさにゲームセットだ。
LE. bonum ingenium narras adulescentis. MY. optumum
レスビア ご主人はとても良い方のようですね。ミュシス こんな良い人いませんわ。
sed sequere me intro, ne in mora illi sis. LE. sequor.--
さあ、中へついてきて下さい。お嬢さんを待たせないでくださいね。レスビア はいはい。
DA. quod remedium nunc huic malo inveniam? SI. quid hoc?
ダヴォス(傍白) この窮地をどう挽回すりゃいいんだ。シモ(傍白) これはどういうことだ。
adeon est demens? ex peregrina? iam scio: ah
息子はそこまであの女に惚れているのか。外国女と子供をつくるほどに。
vix tandem sensi stolidus. DA. quid hic sensisse ait? 470
(間があって)。ああ、わかったぞ。いくら鈍いわしでも何とか分かったぞ。ダヴォス(傍白) 何が分かったと言うんだろう。
SI. haec primum adfertur iam mi ab hoc fallacia:
シモン これはわしをペテンにかけるこの男の作戦の第一弾なのだ。
hanc simulant parere, quo Chremetem absterreant.
ここの女はお産の芝居をしているのだ。それでクレメースさんに思いとどまらせようとな。

GL. (intus) Iuno Lucina, fer opem, serva me, obsecro.
グリュケリウム(家の中から) 神様、お助けを。お救いを。お願いしますわ。
SI. hui tam cito? ridiculum: postquam ante ostium
シモン え、もう生まれたのか。そんな馬鹿な。わしが戸口に来ていると
me audivit stare, adproperat. non sat commode 475
聞いたので急いだのか。セリフの配分のタイミングが悪いな。
divisa sunt temporibus tibi, Dave, haec. DA. mihin?
ダヴォスよ、お前としたことが。ダヴォス 私がですか。
SI. num inmemores discipuli? DA. ego quid narres nescio.
シモン お前の生徒はセリフ覚えが悪いのか。ダヴォス(傍白) 何と言えばいいか分かったぞ。
SI. hicin(asseverative -ne) me si inparatum in veris nuptiis
シモン もし結婚式が本当で、わしが何も知らずにこいつの
adortus esset, quos mihi ludos redderet!
罠にかかっていたら、わしは笑い者になるところだったわい。
nunc huius periclo(at his risk) fit, ego in portu navigo. 480
ところが実際にはピンチに陥ったのはこいつで、わしは順風満帆というところだな。

Lesbia Simo Davos
第3幕 第2場 レスビア、シモン、ダヴォス(パンフィロスにこどもが生まれるところにシモンとダヴォスが居合わせるがシモンはこれが芝居だと思う場面)

LE.(出がけに家の中に向かって) Adhuc, Archylis, quae adsolent quaeque oportent
レスビア アルキュリスさん、今までのところ、彼女の症状はどれも普通に安産であることを
signa esse ad salutem, omnia huic esse video.
示すものばかりよ。
nunc primum fac istaec ut lavet; poste(=post) deinde,
今はまず彼女を入浴させてね。そのあとで、
quod iussi dari bibere et quantum imperavi,
飲み薬を指定した量だけ
date; mox ego huc revortor. 485
飲ませてあげてね。私はすぐ戻ってくるわ。
per ecastor scitus puer est natus Pamphilo.
パンフィロスさんには、なんて可愛い赤ちゃんが生まれたことでしょう。
deos quaeso ut sit superstes, quandoquidem ipsest ingenio bono,
きっと元気な子に育つでしょう。パンフィロスさんは性格がいいし、
quomque huic est veritus optumae adulescenti facere iniuriam.--
あの素敵な女性をひどい目に合わせることはないはずだわ。
SI. vel hoc quis non credat, qui te norit, abs te esse ortum? DA. quidnam id est?
シモン お前を知ってる者なら誰でも、これはお前の差金だと思うはずだ。ダヴォス いったい何をおっしゃってるんですか。
SI. non imperabat coram quid opus facto esset puerperae, 490
シモン 妊婦にすべきことを面と向かって言わずに
sed postquam egressast, illis quae sunt intus clamat de via
外へ出てから言うとはな。中にいる人に向かって外から大きな声で話しかけるとはなあ。
o Dave, itan contemnor abs te? aut itane tandem idoneus
ああ、ダヴォスよ、おれはお前からそんなに甘く見られているのか。
tibi videor esse quem tam aperte fallere incipias dolis?
おれはこんな見え透いたインチキで騙せるような男に見えるのか。
saltem accurate, ut metui(pass,inf) videar certe, si resciverim.
このおれをなめるなよ。おれにバレたら恐いんだぞ。
DA. certe hercle nunc hic se ipsus fallit, haud ego. SI. edixin tibi, 495
ダヴォス(傍白) 何と大旦那はこちらが何もしていないのに自分自身をペテンにかけてしまわれたぞ。シモ わしはお前に言ったな。 
interminatus sum ne faceres? num veritus? quid re tulit?(<refert)
やるなよと警告したな。恥ずかしくないのか。何が狙いなのだ。
credon tibi hoc nunc, peperisse hanc e Pamphilo?
この娘とせがれの間に子供が生まれるなんて、こんな芝居をわしが信じると思うのか。
DA. teneo quid erret et quid agam habeo. SI. quid taces?
ダヴォス(傍白) 旦那が何を勘違いしているか、おれはどうすればいいか分かったぞ。シモ なぜ黙っている。
DA. quid credas? quasi non tibi renuntiata sint haec sic fore.
ダヴォス どうして信じるなどとおっしゃるんですか。大旦那様はこんなことがあると聞いて来られたのではないのですか。
SI. mihin quisquam? DA. eho an tute intellexti hoc adsimulari? SI. inrideor. 500
シモ 誰から聞いたというのだ。ダヴォス すると、大旦那様はこれを芝居と見抜いたのですか。 シモ 馬鹿にしよって。

DA. renuntiatumst; nam qui istaec tibi incidit suspicio?
ダヴォス やっぱり聞いてきたんですね。でなけりゃ、どうして大旦那様にそんな疑念が浮かんだりしましょうか。
SI. qui? quia te noram. DA. quasi tu dicas factum id consilio meo.
シモ どうしてかって? それはわしはお前というものをよく知っているからだよ。ダヴォス それではまるで私がこれを仕組んだみたいじゃないですか。
SI. certe enim scio. DA. non satis me pernosti etiam qualis sim, Simo.
シモ いや、そうにちがいない。ダヴォス 大旦那様、あなたは私のことをまだ充分にご存じありませんね。
SI. egon te? DA. sed siquid tibi narrare occepi, continuo dari
シモ わしがか。ダヴォス だとすると、私が口を開くときはいつも
tibi verba censes. SI. falso? DA. itaque hercle nil iam muttire audeo. 505
大旦那様を騙すためだとお考えなのですね。シモ この考えが間違いだと? ダヴォス それだと、もう私は大旦那様の前では口を開くことができませんや。

SI. hoc ego scio unum, neminem peperisse hic. DA. intellexti;
シモ 一つわしにわかっていることは、ここでは誰も赤ん坊を産んではいないということだ。ダヴォス ご明察。
sed nilo setius(=nevertheless) referetur mox huc puer ante ostium.
でも、そのうちに誰かが赤ん坊がもってきて家(うち)の前に置いていきますよ。
id ego iam nunc tibi, ere(<erus), renuntio futurum, ut sis sciens,
これは大旦那様にお知らせしときますから、覚えておいてくださいよ。
ne tu hoc posterius dicas Davi factum consilio aut dolis.
あとでこれはダヴォスの策略だなんて言わないでくださいよ。
prorsus a me opinionem hanc tuam esse ego amotam volo. 510
そして私に対するあなたの偏見をきっぱりと捨てていただきたいのです。

SI. unde id scis? DA. audivi et credo: multa concurrunt simul
シモン で、そんなことがお前にどうしてわかる。ダヴォス これはうわさですが本当のことだと思います。いろんな事がいちどに起こって
qui coniecturam hanc nunc facio. iam prius haec se e Pamphilo
それを考え合わせるとこういう結論になります。まえはあの女性はパンフィロスの子を
gravidam dixit esse: inventumst falsum. nunc, postquam videt
身ごもったと言ってました。これは芝居で嘘でしょう。今度は
nuptias domi adparari, missast ancilla ilico
この家で結婚式の準備が進んでいることを知ると、すぐに世話係の女を送り出して、
obstetricem accersitum ad eam et puerum ut adferret simul. 515
産婆が呼びにやって、その時に赤ん坊が持ち来まれた。
hoc nisi fit, puerum ut tu videas, nil moventur nuptiae.
その赤ん坊を大旦那さまに見せなかったら、結婚式の邪魔をできないじゃないですか。
SI. quid ais? quom intellexeras
シモン じゃあねえ、女がそんな事を考えてることが分かったら、
id consilium capere, quor non dixti extemplo Pamphilo?
お前、どうしてすぐにせがれに教えてやらなかったんだ。
DA. quis igitur eum ab illa abstraxit nisi ego? nam omnes nos quidem
ダヴォス 私以外の誰が坊ちゃんに女と手を切らせたと思ってるんです。
scimus quam misere hanc amarit: nunc sibi uxorem expetit. 520
だって誰でも知ってるでしょう、以前の坊ちゃんの女へのみじめな惚れ込みようは。それが今では嫁をもらおうとおっしゃってるんです。
postremo id mihi da negoti; tu tamen idem has nuptias
要するにこのことは私にお任せ下さい。大旦那様は前と同じように
perge facere ita ut facis, et id spero adiuturos deos.
結婚式の準備を続けてください。きっとことはうまく運びますよ。
SI. immo abi intro: ibi me opperire et quod parato opus est para.--
シモン いいからお前は中へ入ってろ。中でわしが来るのを待つんだ、そして必要な準備をするんだぞ。(ダヴォスはシモンの家に入る)

non inpulit me haec nunc omnino ut crederem;
(独白) やつがあんなことを言ったってそれをそのまま信用する気にはなれないな。
atque haud scio an quae dixit sint vera omnia, 525
あいつの言うことが全部本当かも知れないけれど、
sed parvi pendo: illud mihi multo maxumumst
かまうものか。わしにとって一番大事なのは
quod mihi pollicitust ipsus gnatus. nunc Chremem
息子がわしにした約束の方だ。まずはクレメースさんに
conveniam, orabo gnato uxorem: si impetro,
会いに行って、嫁をくれるように頼んでこよう。それがうまく行ったら、
quid alias malim quam hodie has fieri nuptias?
今日は結婚式を挙げるには最高の日じゃないか。
nam gnatus quod pollicitust, haud dubiumst mihi, id 530
というのも、息子が約束をたがえる場合には、
si nolit, quin eum merito possim cogere.
無理やり結婚させたって構わないんだから。
atque adeo in ipso tempore eccum ipsum obviam.
ちょうどいい時にクレメースさんがあそこに来たぞ。

Simo Chremes
第3幕 第3場 シモン、クレメース(縁談を断ったのに結婚式があると聞いてやってきたクレメースに、シモンが縁談を復活するようにたのんで成功する場面)

SI. Iubeo Chremetem.CHR. o te ipsum quaerebam. SI. et ego te. CHR. optato advenis.
シモン クレメースさんにどうしてもして欲しいことがあるんだ。クレメース ああ、私もあんたを探しているところだったんだよ。シモン 私もなんですよ。クレメース いいところに来てくれた。
aliquot me adierunt, ex te auditum qui aibant hodie filiam
何人もの人が私の家に来て、あんたから聞いた話では、
meam nubere tuo gnato; id viso tune an illi insaniant. 535
今日、私の娘がおたくの息子さんと結婚するんだと。それで確かめに来たんだ。あの人達がいい加減なことを言ってるのか、それともあんたの頭がどうかしたのかを。
SI. ausculta pauca: et quid ego te velim et tu quod quaeris scies.
シモン ちょっと聞いてくださいな。そうすれば私の考えもわかってもらえるだろうし、あなたの疑問にも答えることが出来ると思うんだ。
CHR. ausculto: loquere quid velis.
クレメース じゃあ、聞かせてもらおう。あんたは何がしたいのかを言ってくれ。

SI. per te deos oro et nostram amicitiam, Chreme,
シモン クレメースさん、お願いだ。おれたちは長い付き合いじゃないか。
quae incepta a parvis cum aetate adcrevit simul,
子供のころから大人になってもずっと付き合ってきた仲だろ。
perque unicam gnatam tuam et gnatum meum, 540
お互いにお前は一人娘、おれは一人息子を育ててきた。
quoius tibi potestas summa servandi datur,
そのおれの息子を救えるかどうかはひとえにあんたの肩にかかっているんだ。
ut me adiuves in hac re atque ita uti nuptiae
そのために結婚式が予定通り行われるように
fuerant futurae, fiant. CHR. ah ne me obsecra:
私を助けて欲しい。クレメース 私に懇願などしないでくれ。
quasi hoc te orando a me impetrare oporteat.
これはあんたが懇願したからをどうなるような問題じゃない。
alium esse censes nunc me atque olim quom dabam? 545
私は娘の縁談を君に申し込んだ時と同じ気持ちだ。
si in remst utrique ut fiant, accersi iube;
結婚式を挙げるのが二人のためになるのなら、娘を迎えに行くように言ってくれ。
sed si ex ea re plus malist quam commodi
だが、それが二人にとって不幸になるのなら、
utrique, id oro te in commune ut consulas,
頼むから、みんなにとってどうすればいいかよく考えてくれ。
quasi si illa tua sit Pamphilique ego sim pater.
例えば、もし逆の立場だとして、花嫁があんたの娘でパンフィロスが私の子だとしたらどうする。

SI. immo ita volo itaque postulo ut fiat, Chreme, 550
シモン もちろん二人の幸福を望んでいるからこそ式を挙げようと言ってるんだよ、クレメースさん。
neque postulem abs te ni ipsa res moneat. CHR. quid est?
もちろん状況が変わってきたからこそお願いしているんだ。クレメース どういうことだ。
SI. irae sunt inter Glycerium et gnatum. CHR. audio.
シモン せがれは女と仲違いしたんだ。クレメース それで?
SI. ita magnae ut sperem posse avelli. CHR. fabulae!
シモン あれだけ仲の悪い二人なら別れさせられると思うんだよ。クレメース たわごとを言うなよ。
SI. profecto sic est. CHR. sic hercle ut dicam tibi:
シモン 大丈夫だ。クレメース いいことを教えてやろう。
amantium irae amoris integratiost. 555
喧嘩するたびに恋人たちの愛は深まるものなんだよ。

SI. em id te oro ut ante eamus, dum tempus datur
シモン だからこそお願いしているんだ。まだ間に合う内に、こちらから先手を打ちたいんだよ。
dumque eius lubido occlusast contumeliis,
悪口を言い合って息子の恋が弱まっている間に、
prius quam harum scelera et lacrumae confictae dolis
ずるい女の偽りの涙が
redducunt animum aegrotum ad misericordiam,
せがれの倦んだ心を同情に変えないうちに、
uxorem demus. spero consuetudine et 560
息子を結婚させてしまいたいんだ。クレメースさん、あの子も社会の慣習と
coniugio liberali devinctum, Chreme,
ちゃんとした結婚によって縛り付けられたら、
dein facile ex illis sese emersurum malis.
あの女のしがらみから容易に抜け出すことが出来ると思うんだ。
CHR. tibi ita hoc videtur; at ego non posse arbitror
クレメース それが君の考えなのか。私は君の息子が
neque illum hanc perpetuo habere neque me perpeti(耐える).
あの女とずっと暮らしていくとも思わないが、私がそれまで耐えられるとも思わないんだ。

SI. qui scis ergo istuc, nisi periclum feceris? 565
シモン 試してもみずに、そんなことがどうしてわかるんだ。
CHR. at istuc periclum in filia fieri gravest.
クレメース だが、それを私の娘で試すのは困る。
SI. nempe incommoditas denique huc omnis redit
シモン 確かにいろいろ不都合はあるが、要するに、
si eveniat, quod di prohibeant, discessio.
離婚さえしなければいいんだろ。離婚はしないさ。
at si corrigitur, quot commoditates vide:
だが、わしのせがれが生き方を改めた場合の利点がどれほど沢山あるか教えてやろう。
principio amico filium restitueris, 570
まず第一にあんたの友人である私は息子をとりもどせるし、
tibi generum firmum et filiae invenies virum.
あんたはしっかりした婿を、あんたの娘は夫を手に入れることができる。
CHR. quid istic? si ita istuc animum induxti esse utile,
クレメース わかったよ。君がそれでいいというなら、
nolo tibi ullum commodum in me claudier.
ぼくは君の幸福の邪魔をするつもりはないよ。
SI. merito te semper maxumi feci, Chreme.
シモン わしがいつもあんたを親友だと思ってきただけのことはあるよ、クレメースさん。
CHR. sed quid ais? SI. quid? CHR. qui scis eos nunc discordare inter se? 575
クレメース でもねえ。シモン なんだい。クレメース どうやって二人が仲違いしていることが分かったんだい。
SI. ipsus mihi Davos, qui intumust(=intimus est) eorum consiliis, dixit;
シモン ダヴォスがそう言ったんだ。あいつは二人が考えていることに詳しいそうだ。
et is mihi persuadet nuptias quantum queam ut maturem.
そのダヴォスが結婚式をできるだけ早めることを勧めてくれたんだ。
num censes faceret, filium nisi sciret eadem haec velle?
そうするのは息子がまさに結婚を望んでいるからこそだと思うだろ?
tute adeo iam eius audies verba.evocate huc Davom.
あんたも自分でダヴォスの言うことを聞いてみるがいい。(家の中へ)ダヴォスをここに呼びだしてくれ。
atque eccum video ipsum foras exire. 580
ほら、彼が出てくるぞ。

Davos Simo Chremes
第3幕 第4場 ダヴォス、シモン、クレメース(クレメースが変心して本当に結婚式が行われることをダヴォスが知る場面)

DA. Ad te ibam. SI. quidnamst?
ダヴォス ちょうど大旦那さまのもとに向かうところでした。シモン どうしたんだ。
DA. quor uxor non accersitur? iam advesperascit. SI. audin?
ダヴォス どうして花嫁を迎えにやらないのですか。もう夕方ですよ。シモン 聞いてくれるか。
ego dudum non nil veritus sum, Dave, abs te ne faceres idem
さっきから心配しているんだ。ダヴォス、召使いたちがよくやるように、
quod volgus servorum solet, dolis ut me deluderes
おれをペテンに掛けようとしてるんじゃないかと思ってね。
propterea quod amat filius. DA. egon istuc facerem? SI. credidi,
息子が恋を助けようとしてな。ダヴォス 私がそんなことをするとお考えですか。シモン 前はそうだった。
idque adeo metuens vos celavi quod nunc dicam. DA. quid? SI. scies; 585
お前たちが怖くてこれから言うことも言わずにいたんだ。ダヴォス どんなことですか。シモン 今から言うよ。
nam propemodum habeo iam fidem. DA. tandem cognosti qui siem?
いまはお前のことを信用しているからな。ダヴォス やっと分かってくださったんですね、私という男のことが。
SI. non fuerant nuptiae futurae. DA. quid? non? SI. sed ea gratia
シモン 実は結婚式をする予定なんかなかったんだよ。ダヴォス なんですって。しないんですか。シモン お前たちをテストするために
simulavi vos ut pertemptarem. DA. quid ais? SI. sic res est. DA. vide:
結婚式をするふりをしたのだ。ダヴォス まさか シモン これは本当の話なんだ。 
numquam istuc quivi ego intellegere. vah consilium callidum!
ダヴォス 見事ですね、私は全然わかりませんでした。実にうまい考えですね。
SI. hoc audi: ut hinc te intro ire iussi, opportune hic fit mi obviam. DA. hem 590
シモン これだけは聞いてくれ。わしがお前に家の中へ入るように言った時、都合よくこの人が会いに来たんだ。
numnam perimus? SI. narro huic quae tu dudum narrasti mihi.
ダヴォス(傍白) これはまずいことになったのかもしれん。シモン それでお前がさっきわしに言ったことをこの人に話したんだ。
DA. quidnam audio? SI. gnatam ut det oro vixque id exoro. DA. occidi.SI. hem
ダヴォス(傍白) 何を言い出すんだろう。シモン 娘さんを嫁にくれるように頼んだのさ。そして何とかOKがでたよ。ダヴォス(傍白) 畜生。シモン なんて言った?
quid dixti? DA. optume inquam factum. SI. nunc per hunc nullast mora.
ダヴォス それはよかったと申しました。シモン もうこの人は反対していないんだ。
CHR. domum modo ibo, ut adparetur dicam, atque huc renuntio.--
クレメース 私は家へ帰って準備をするように言ってくるよ。またここに戻ってきて知らせるよ。
SI. nunc te oro, Dave, quoniam solus mi effecisti has nuptias . . 595
シモン ダヴォス、この結婚式ができることになったのはお前一人の手柄だよ。だから、一つ頼みがある。
DA. ego vero solus. SI. corrigere mihi gnatum porro enitere.
ダヴォス(傍白) 私一人の手柄とはね。シモン 息子を立ち直らせるために頑張って欲しいんだ。
DA. faciam hercle sedulo. SI. potes nunc, dum animus inritatus est.
ダヴォス 精一杯やらせて頂きます。シモン 息子が女に腹を立てている今なら出来るよ。
DA. quiescas. SI. age igitur, ubi nunc est ipsus? DA. mirum ni domist.
ダヴォス 安心してください。シモン じゃあやってくれ。息子は今どこにいる? ダヴォス 家じゃないですか。
SI. ibo ad eum atque eadem haec quae tibi dixi dicam idem illi.-- DA.nullus sum.
シモン わしは息子のところに行って今言ったことを自分で伝えてくるよ。(シモン退場)ダヴォス(独白) 参ったな。
quid causaest quin hinc in pistrinum recta proficiscar via? 600
どうしたらおれは粉挽き小屋に直行せずに済ませられるんだ。
nil est preci loci relictum: iam perturbavi omnia:
懇願してどうにかなる状況ではない。ぜんぶぶち壊してしまったんだから。
erum fefelli; in nuptias conieci erilem filium;
おれが大旦那様を騙したおかげで、坊ちゃんは無理やり結婚させられることになってしまった。
feci hodie ut fierent, insperante hoc atque invito Pamphilo.
今日のことは全部おれの責任だ。大旦那様の予想に反して、坊ちゃんの意に反して。
em astutias! quod si quiessem, nil evenisset mali.
おれは策に溺れたらしい。おれが何もしなければ、こんなひどい事にはならなかったんだ。
sed eccum ipsum video: occidi. 605
ああ、坊ちゃんが出ていらした。もうだめだ。
utinam mi esset aliquid hic quo nunc me praecipitem darem!
まさに穴があったら入りたいとはこのことだな。

Pamphilvs Davos
第3幕 第5場 パンフィロス、ダヴォス(ダヴォスが次の作戦を考える場面)

PA. Vbi ille est scelus qui perdidit me? DA. perii. PA. atque hoc confiteor iure
パンフィロス 僕を無茶苦茶にした馬鹿野郎はどこだ。ダヴォス(傍白) 参ったな。パンフィロス しかし、こうなったのも仕方がない。
mi obtigisse, quandoquidem tam iners tam nulli consili sum.
僕はまったく知恵もなければ思慮もないときているんだから。
servon(servo ne) fortunas meas me commisisse futtili!
自分の運命をあんなやくざな召使に委ねるなんて!
ego pretium ob stultitiam fero: sed inultum numquam id auferet. 610
自業自得というところだ。しかし、あいつは絶対にただでは済まさないからな。
DA. posthac incolumem sat scio fore me, nunc si devito hoc malum.
ダヴォス いま罰を受けずに切り抜けたら、あとはきっと大丈夫なはずだ。
PA. nam quid ego nunc dicam patri? negabon velle me, modo
パンフィロス いったい僕はおやじになんて言えばいいんだ。結婚するのはやっぱりいやだと言おうか。
qui sum pollicitus ducere? qua audacia id facere audeam?
一度は結婚すると約束したけれど。しかし、どの面下げてそんなことが出来るというんだ。
nec quid nunc me faciam scio. DA. nec mequidem, atque id ago sedulo.
もう僕はどうしたらいいか分からないよ。ダヴォス(傍白) おれもわからないが、精一杯やるしかない。
dicam aliquid me inventurum, ut huic malo aliquam productem moram. 615
何かいい方法を見つけますとでも言っておこう。それで当分は罰を受けずに済むだろう。
PA. oh! DA. visus sum PA. eho dum, bone vir, quid ais? viden me consiliis tuis
パンフィロス やあ。ダヴォス 見つかった。パンフィロス 大将、どうなってるんだい。
miserum inpeditum esse? DA. at iam expediam. PA. expedies? DA. certe, Pamphile.
お前の悪知恵のせいで僕はひどい事になっているのが分かっているのか。ダヴォス でも何とかしますよ。パンフィロス 何とかするだって? ダヴォス そうです、坊ちゃん。
PA. nempe ut modo. DA. immo melius spero. PA. oh tibi ego ut credam, furcifer?
パンフィロス どうせ前と同じなんだろ。ダヴォス もっとうまいやり方がありますよ。パンフィロス お前の言うことを信じろというのか。この悪党め。
tu rem inpeditam et perditam restituas? em quo fretus sim,
お前がこの絶望的な状況を一気に解決できるとでも? お前を信じたばっかりに
qui me hodie ex tranquillissuma re coniecisti in nuptias. 620
平穏無事だったこの俺が今日無理やり結婚させられる破目になったのだ。
an non dixi esse hoc futurum? DA. dixti. PA. quid meritu's? DA. crucem.
きっとこうなると僕はお前に言わなかったか。ダヴォス おっしゃいました。パンフィロス この失敗の償いはどうするんだ。ダヴォス 磔にして下さい。
sed sine paullulum ad me redeam: iam aliquid dispiciam. PA. ei mihi,
ただその前に、ちょっとの間だけ落ち着いて考えさせてください。今いい考えを見つけますから。
quom non habeo spatium ut de te sumam supplicium ut volo!
パンフィロス 畜生、お前に罰を与えたいけれど、そんな余裕は今の僕にはない。
namque hoc tempus praecavere mihi me, haud te ulcisci sinit.
今はお前に仕返しをするどころか自分のことを心配するのに精一杯だ。

ACTVS IV

Charinvs Pamphilvs Davos
第4幕 第1場 カリーヌス、パンフィロス、ダヴォス(パンフィロスがカリーヌスの恋人フィロメーナと結婚するという話を聞いて抗議しに来る場面)

CHA. Hocine credibile aut memorabile, 625
カリーヌス こんなことが信じられるだろうか。
tanta vecordia innata quoiquam ut siet
誰の心にも生まれつき狂気が住みついていて、
ut malis gaudeant atque ex incommodis
悪事を楽しみ、隣人の不幸を利用して
alterius sua ut comparent commoda? ah
自分の幸福を手に入れようとする。
idnest verum? immo id est genus hominum pessumum in
これが事実なのか。こんなことは最低の人間のすることだろう。
denegando modo quis(=quibus) pudor paullum adest; 630
断るべき時には体裁をつけて断われず、
post ubi tempus promissa iam perfici,
あとで約束を果たすべき時が来ると、
tum coacti necessario se aperiunt,
今度は必要に迫られて本心を明かすのだ。
et timent et tamen res premit denegare;
その場で断る勇気がなくあとで仕方なく断ってくる。
ibi tum eorum inpudentissuma oratiost
そんな時にやつらは偉そうに言うものだ。
"quis tu es? quis mihi es? quor meam tibi? heus 635
「お前は誰だ、私と何の関係がある。なぜおれの女をお前にやる必要がある。
proxumus sum egomet mihi."
誰でも我が身がいちばんかわいいものだ」と。

at tamen "ubi fides?" si roges,nil pudet
「約束はどうなった」と聞いても、恥ずかしがりもしない。
hic, ubi opus; illi ubi nil opust, ibi verentur.
こんな時こそ恥を知るべき時なのに。ところが、恥ずかしがる必要のない時に恥ずかしがる、そういう連中なのだ。
sed quid agam? adeamne ad eum et cum eo iniuriam hanc expostulem? 640
しかし、僕はどうしたらいいんだ。あいつの家に行ってあいつに対してこの約束違反をとがめようか。
ingeram mala multa? atque aliquis dicat "nil promoveris":
そしてさんざ悪口を浴びせてやろうか。そんなことして何になるという人がいるかもしれない。
multum: molestus certe ei fuero atque animo morem gessero.
僕として充分だ。これであいつに嫌な思いをさせたら自分としては満足だ。
PA. Charine, et me et te inprudens, nisi quid di respiciunt, perdidi.
パンフィロス カリーヌス、このままいくと僕のせいで君も僕もひどい事になってしまいそうだけど、僕に悪気はないんだよ。
CHA. itane "inprudens"? tandem inventast causa: solvisti fidem.
カリ-ヌス 「悪気はない」だって?、とうとう言い訳を始めたな。約束を反故にしといて。
PA. quid "tandem"? CHA. etiamnunc me ducere istis dictis postulas?
パンフィロス 「とうとう」ってどういうことだ。カリーヌス そんなこと言って僕をごまかせると思っているのか。
PA. quid istuc est? CHA. postquam me amare dixi, conplacitast tibi. 645
パンフィロス それはどういう意味なんだ。カリーヌス 僕が彼女を愛していることを聞いた途端に君も彼女が好きになったのさ。
heu me miserum qui tuom animum ex animo spectavi meo!
君も僕と同じようにちゃんと行動するはずだと思った僕が馬鹿だったんだ。
PA. falsus es. CHA. non tibi sat esse hoc solidum visumst gaudium,
パンフィロス それは誤解だ。カリーヌス 君は今ある喜びに満足できずに
nisi me lactasses amantem et falsa spe produceres?
恋をする僕を出しぬいて、そのうえ、いつわりの希望で僕の気を持たせることにしたのかい。
habeas. PA. habeam? ah nescis quantis in malis vorser miser
もういいよ。彼女は君にやるよ。パンフィロス 彼女を僕にくれる? 君は知らないんだね。惨めな僕がどんなひどい災難に巻き込まれているか、
quantasque hic suis consiliis mihi conflavit sollicitudines 650
あのろくでなしの悪知恵のせいでぼくがどんなに悩み苦しんでいるかを。
meus carnufex. CHA. quid istuc tam mirumst de te si exemplum capit?
カリーヌス ダヴォスは君を手本にして行動しているのに、どうしてそんな変なことを言うんだ。
PA. haud istuc dicas, si cognoris vel me vel amorem meum.
パンフィロス もし僕の本当の気持ちがわかったら、君だってそんなことは言わないさ。
CHA. scio: cum patre altercasti dudum et is nunc propterea tibi
カリーヌス 分かってるよ。君はさっき父上の言いつけに逆らったので、父上は君にご立腹で、
suscenset nec te quivit hodie cogere illam ut duceres.
君を今日彼女と結婚させられないというんだろ。
PA. immo etiam, quo tu minus scis aerumnas meas, 655
パンフィロス そうじゃないだよ。君は僕の苦しみを何も知らないよ。
haec nuptiae non adparabantur mihi
僕の結婚式の準備なんかされてはいなかったし、
nec postulabat nunc quisquam uxorem dare.
誰も僕に嫁をやりたいなんて言っていなかったんだよ。
CHA. scio: tu coactus tua voluntate es. PA. mane:
カリーヌス 分かってるよ。君は自分の意志で強制結婚をするのさ。パンフィロス 待ってくれ。
nondum scis. CHA. scio equidem illam ducturum esse te.
まだ君は分かっていない。カリーヌス 分かってるよ。君は彼女と結婚するのさ。
PA. quor me enicas? hoc audi: numquam destitit 660
パンフィロス なんでそんなに僕を困らせるんだ。これだけは聞いてくれよ。
instare ut dicerem me ducturum patri;
こいつが父親に結婚すると言えと僕に要求してやめないんだよ。
suadere orare usque adeo donec perpulit.
しつこく何度も言い続けるので到頭そうしただけなんだよ。
CHA. quis homo istuc? PA. Davos . . CHA. Davos? PA. interturbat. CHA.
quam ob rem? PA. nescio;
カリーヌス 誰がそんなことを言うんだよ。パンフィロス ダヴォスさ。カリーヌス ダヴォス? パンフィロス やつが横槍を入れてくるんだよ。カリーヌス どうして。パンフィロス 知るもんか。
nisi mihi deos satis scio fuisse iratos qui auscultaverim.
ただ分かってるのは、やつの言うとおりにしたのは大失敗だったということさ。
CHA. factum hoc est, Dave? DA. factum. CHA. hem quid ais? scelus! 665
カリーヌス これは事実なのか、ダヴォスよ。ダヴォス そうです。カリーヌス ひどいな。お前どう弁解するんだ、この悪党め。
at tibi di dignum factis exitium duint!
そんなことしてただですまないぞ!.
eho dic mi, si omnes hunc coniectum(urged)in nuptias
おい、答えろ。彼に悪意を持って無理やり結婚させようとしたら、
inimici vellent, quod nisi hoc consilium darent?
誰だってそれと同じアドバイスをするんじゃないのかね。

DA. deceptus sum, at non defetigatus. CHA. scio.
ダヴォス これは見込み外れでした。でも、まだ諦めてません。カリーヌス そうだろうよ。
DA. hac non successit, alia adoriemur via: 670
ダヴォス これは失敗しましたが、別のやり方でやりましょう。
nisi si id putas, quia primo processit parum,
最初のが失敗して、もうこの災いが福に転じる可能性が
non posse iam ad salutem convorti hoc malum.
ないと坊ちゃんが思われるのでなければ。
PA. immo etiam; nam satis credo, si advigilaveris,
パンフィロス もちろん、そんなことは思わないさ。だって、わかってるんだよ。もし君がぬかりなくやれば、
ex unis geminas mihi conficies nuptias.
さぞかしもう一つ結婚式をこしらえてくるんだろう。
DA. ego, Pamphile, hoc tibi pro servitio debeo, 675
ダヴォス 私は坊ちゃんにお仕えする以上は
conari manibus pedibus noctesque et dies,
昼も夜も一日中もてる限りの力を尽くして
capitis periclum adire, dum prosim tibi;
坊ちゃんのお役に立つために、この命をかける覚悟です。
tuomst, siquid praeter spem evenit, mi ignoscere.
期待通りにいかなくても、それはご容赦頂かなくてはいけません。
parum succedit quod ago; at facio sedulo.
私のすることがうまく行かなくても、私は精一杯やってるんです。
vel melius tute reperi(命令法), me missum face. 680
それでもだめだとおっしゃるなら、私を首にして、ご自分でもっといい方法が考えて下さい。
PA. cupio: restitue in quem me accepisti locum.
パンフィロス そうしたいところだが、その前にお前が口を出すまえの状態に僕をもどしてくれないか。

DA. faciam. PA. at iam hoc opust. DA. em . . sed mane; concrepuit a Glycerio ostium.
ダヴォス そうします。パンフィロス いまやってくれ。ダヴォス(時間稼ぎをする) はい、でもちょっと待って下さい。グリュケリウムさんの家の扉ががたがた言っていますよ。
PA. nil ad te. DA. quaero. PA. hem nuncin(=nunc ne) demum? DA. at iam hoc tibi inventum dabo.
パンフィロス お前には関係がないだろ。ダヴォス 何かいい方法は・・。パンフィロス まだ考えてるのか。ダヴォス すぐにいい方法が見つかりますよ。

Mysis Pamphilvs Charinvs Davos
第4幕 第2場 ミュシス、パンフィロス、カリーヌス、ダヴォス(パンフィロスがミュシスにグリュケリウムを絶対に捨てることはないと誓う場面)

MY. Iam ubi ubi erit, inventum tibi curabo et mecum adductum
ミュシス(中のグリュケリウムに) どこであろうと、パンフィロスさまを
tuom Pamphilum: modo tu, anime mi, noli te macerare. 685
見つけてお連れしてきます。すぐですので、お嬢様はご心配なさらないでください。
PA. Mysis. MY. quis est? ehem Pamphile, optume mihi te offers. PA. quid id est?
パンフィロス ミュシスか。ミュシス どなたですか。ああ、パンフィロス様。ちょうどいい時に来てくださいました。パンフィロス どうしたんだ。
MY. orare iussit, si se ames, era, iam ut ad sese venias:
ミュシス お嬢様を愛しておられるならすぐに来て頂くようお願いしてこいとのお嬢様の仰せでございます。
videre te ait cupere. PA. vah perii: hoc malum integrascit.
若旦那様にお会いしたいとおっしゃっています。パンフィロス ああ、しまった。また別の災難が降りかかってきた。
sicin me atque illam opera tua nunc miseros sollicitari!
(ダヴォスに) こうやってお前の悪知恵のせいで僕と彼女はみじめな事になっているんじゃないか。
nam idcirco accersor nuptias quod mi adparari sensit. 690
だって、彼女は僕の結婚式の準備が進んでいることを知ったから僕を呼びに来たんだからな。
CHA. quibus quidem quam facile potuerat quiesci, si hic quiesset!
カリーヌス この男が何もしなきゃ、君もこうしたごたごたから容易に免れれていたのになあ。
DA. age, si hic non insanit satis sua sponte, instiga. MY. atque edepol
ダヴォス(カリーヌスに) 坊ちゃんはただでも怒り狂っておられるのに、それでももの足りないというなら、そうやってけしかけたらいいですよ。ミュシス その事ですよ。
ea res est, proptereaque nunc misera in maerorest. PA. Mysis,
そのためにお嬢さんは身も世もあらず嘆き悲しんでおられます。パンフィロス ミュシスよ、
per omnis tibi adiuro deos numquam eam me deserturum,
八百万の神に僕は誓うよ、ぼくが彼女を見捨てることは絶対にないって。
non si capiundos mihi sciam esse inimicos omnis homines. 695
たとえ全人類を敵に回しても僕が彼女を見捨てることはない。
hanc mi expetivi: contigit; conveniunt mores: valeant
僕は彼女に求婚して、それが叶ったんだ。彼女と僕は相性がぴったりなんだ。
qui inter nos discidium volunt: hanc nisi mors mi adimet nemo.
だから、二人の仲を裂こうとする者たちはくたばればいい。僕は死ぬまで彼女と離れることはないんだ。
MY. resipisco. PA. non Apollinis mage verum atque hoc responsumst.
ミュシス 私は一息つけましたわ。パンフィロス 神アポロンの答えだってこれ以上の真実はない。

si poterit fieri ut ne pater per me stetisse(私のせいだった) credat
親父はこの結婚式が出来ないのは僕のせいじゃないことを
quo minus haec fierent nuptiae, volo; sed si id non poterit, 700
わかってくれるといいのだが、それができなきゃ、
id faciam, in proclivi(簡単な) quod est, per me stetisse ut credat.
いっそのこと僕のせいだと思っても構わない。

quis videor? CHA. miser, aeque atque ego. DA. consilium quaero. PA.forti's!
(カリーヌスに) 僕はどう見える? カリーヌス 僕と同じぐらい不幸だな。ダヴォス 私がいい方法を考えてみましよう。パンフィロス 頼もしいやつだな。
scio quid conere. DA. hoc ego tibi profecto effectum reddam.
お前の努力はよく知っている。ダヴォス これできっとうまくいくと思います。
PA. iam hoc opus est. DA. quin iam habeo. CHA. quid est? DA. huic, non tibi habeo, ne erres.
パンフィロス よしそれで行こう。ダヴォス 準備完了です。カリーヌス なんだい。ダヴォス うちの坊ちゃんのための計画で若旦那のためではござんせん。お間違いなきよう。
CHA. sat habeo. PA. quid facies? cedo. DA. dies hic mi ut satis sit vereor 705
カリーヌス わかったよ。パンフィロス どうしようってんだ。言ってくれ。ダヴォス これをするには
ad agendum: ne vacuom esse me nunc ad narrandum credas:
丸一日かかるかも知れないので、今はお話ししている時間はないんです。
proinde hinc vos amolimini; nam mi inpedimento estis.
ですから、お二人ともこの場からお引き取り願います。お二人は今の私にとっては足手まといなのですから。
PA. ego hanc visam.-- DA. quid tu? quo hinc te agis? CHA. verum vis
dicam? DA. immo etiam:
パンフィロス 僕は彼女に会いに行こう。ダヴォス こっちの若旦那は? どちらへ行かれますか。カリーヌス 本当のことが聞きたいのか? ダヴォス もちろんです。
narrationis incipit mi initium. CHA. quid me fiet?
(傍白) こりゃ泣き言が始まるぞ。 カリーヌス ぼくには何をしてくれるんだい。
DA. eho tu inpudens, non satis habes quod tibi dieculam addo, 710
ダヴォス 厚かましい人ですね。あなたは満足しないんですか。
quantum huic promoveo nuptias? CHA. Dave, at tamen . . DA. quid ergo?
結婚式が先延ばしになって余裕ができただけでは。カリーヌス だって、ダヴォス。ダヴォス 私にどうして欲しいんですか。
CHA. ut ducam. DA. ridiculum. CHA. huc face ad me ut venias, siquid
poteris.
カリーヌス 僕が結婚できるようにしてほしいんだよ。ダヴォス 馬鹿馬鹿しい。カリーヌス(帰りながら) お前に何か出来ることがあったら僕の家まで来て欲しいんだ。
DA. quid veniam? nil habeo. CHA. at tamen, siquid. DA. age veniam. CHA. siquid,
ダヴォス どうして私が。何も出来ませんよ。カリーヌス だって、何かあるだろ。ダヴォス ははい、行きますよ。カリーヌス 何かあったら、
domi ero.-- DA. tu, Mysis, dum exeo, parumper me opperire hic.
家に居るから。ダヴォス ミュシス、僕が出てくるまでここでちょっと待っててくれ。
MY. quapropter? DA. ita factost opus. MY. matura. DA. iam inquam hic adero. 715
ミュシス 何のために? ダヴォス こうすることが必要なんだ。ミュシス 急いでね。ダヴォス ほんとに、すぐにもどってくるよ。(ダヴォス、グリュケリウムの家に入る)

Mysis Davos
第4幕 第3場 ミュシス、ダヴォス(ダヴォスがパンフィロスの赤ん坊をミュシスにシモンの家の前に捨てさせる準備をする場面)

MY. Nilne esse proprium quoiquam! di vostram fidem!
ミュシス やれやれ、世の中に変わらない物なんてどこにもないのね。
summum bonum esse erae putabam hunc Pamphilum,
パンフィロスさんはお嬢さんには最高のお相手だと思っていたのに。
amicum, amatorem, virum in quovis loco
友情、愛情、どの点をとっても欠点のない人だと思っていたのに。
paratum; verum ex eo nunc misera quem capit
ところが、お可哀想にいまお嬢さんはあの人のせいでどんな
laborem! facile hic plus malist quam illic boni. 720
に悲しんでいることでしょうか。以前の幸せは今の不幸によってあっさりとくつがえってしまったわ。
sed Davos exit. mi homo, quid istuc obsecrost?
(戸が開いてダヴォスが赤ん坊をもって出てくる) おや、ダヴォスが出てきた。ねえ、あんた、いったい何をしてるの。
quo portas puerum? DA. Mysis, nunc opus est tua
赤ちゃんをどこへ持っていくの? ダヴォス ミュシスよ、
mihi ad hanc rem exprompta memoria atque astutia.
これを手伝ってくれ、今こそ君の頭脳と機敏さを発揮する時だよ。
MY. quidnam incepturu's? DA. accipe a me hunc ocius
ミュシス 何を始めるつもりなの。ダヴォス さっさとこの子を
atque ante nostram ianuam adpone. MY. obsecro, 725
受け取ってうちの大旦那様の家の前においてくるんだ。ミュシス まあ、
humine? DA. ex ara hinc sume verbenas tibi
地べたに? ダヴォス 祭壇の榊を何本かもらって下に敷いたらいい。
atque eas substerne(imp). MY. quam ob rem id tute non facis?
ミュシス なんであんたが自分でしないの。
DA. quia, si forte opus sit ad erum iurandum mihi
ダヴォス そりゃ、おれが置いたんじゃないと大旦那様に言う時に、
non adposisse, ut liquido(adv) possim. MY. intellego:
嘘つかなくていいようにするためさ。ミュシス 分かったわ。
nova nunc religio in te istaec incessit. cedo! 730
急にそんなふうに心を入れ替えたというわけね。渡して!
(赤ん坊を受け取ってシモンの家の前に行く)
DA. move ocius te, ut quid agam porro intellegas.
ダヴォス さっさと行けよ、次にすることを教えるから
pro Iuppiter! MY. quid est? DA. sponsae pater intervenit.
しまった。ミュシス どうしたのよ。ダヴォス 悪い時に花嫁の父がやってきた。
repudio quod consilium primum intenderam.
最初に考えていた計画は変更だ。
MY. nescio quid narres. DA. ego quoque hinc ab dextera
ミュシス 何を言ってるの。ダヴォス おれはどこか右手の方から
venire me adsimulabo: tu ut subservias 735
ここに来た振りをするからね。お前は
orationi, ut quomque opus sit, verbis vide.
必要に応じておれの話に調子を合わせてくれ。
MY. ego quid agas nil intellego; sed siquid est
ミュシス 何をしたらのいいか分からないわ。
quod mea opera opus sit vobis, ut tu plus vides,
でも、あんたの方がよくわかってるから、お手伝いするために
manebo, ne quod vostrum remorer commodum.
ここにいるわ。あんたの計画の邪魔だけはしたくないもの。

Chremes Mysis Davos
第4幕 第4場 クレメース、ミュシス、ダヴォス(クレメースがグリュケリウムとパンフィロスの赤ん坊を見つけて縁談を断る決心をする場面)

CHR. Revortor, postquam quae opus fuere ad nuptias 740
娘の結婚式に必要な準備は終わったので、
gnatae paravi, ut iubeam accersi. sed quid hoc?
娘を呼び出しに来るように言うために戻ってきたんだが、これは何だ。
puer herclest. mulier, tun posisti hunc? MY. ubi illic est?
何と、赤ん坊じゃないか。あんたが置いたのか。ミュシス あの人はどこかしら?
CHR. non mihi respondes? MY. nusquam est. vae miserae mihi!
クレメース 私の質問には答えないのか。ミュシス どこにもいないわ。いやよ、どうしましょう。
reliquit me homo atque abiit. DA. di vostram fidem,
あの人は私を置いて行ってしまったわ。ダヴォス いやはや、
quid turbaest apud forum! quid illi hominum litigant! 745
広場はひどい人混みだな。なんていう騒がしさだ。
tum annona carast. (quid dicam aliud nescio.)
それに物価の高いことよ。(ほかに何を言えばいいかな)
MY. quor tu obsecro hic me solam? DA. hem quae haec est fabula?
ミュシス ねえ、どうして私を一人にしたのよ。ダヴォス(大声で) こらっ、何を馬鹿なことしてるんだ。
eho Mysis, puer hic undest? quisve huc attulit?
おい、ミュシス、この子はどこの子だ。どうしてこんなところに持ってきたんだ。
MY. satin sanu's qui me id rogites? DA. quem ego igitur rogem
ミュシス 頭がどうかしたのかね。そんなことを私に聞くなんて。ダヴォス(大声で) ほかの誰に聞くんだよ。 
qui hic neminem alium videam? CHR. miror unde sit. 750
ここにはお前しか居ないじゃないか。クレメース(独白) いったいどこの子だろう。
DA. dictura es quod rogo? MY. au! DA. concede ad dexteram.
ダヴォス おれが聞いていることに答えるんだ。ミュシス まあ。ダヴォス(小声で) もっと右の方へ行くんだ。
MY. deliras: non tute ipse . . ? DA. verbum si mihi
ミュシス ぼけてんの、あんたが自分で・・ 
unum praeterquam quod te rogo faxis(<facio pf,sub): cave!
ダヴォス 俺が聞いていることだけ言えばいいんだ。
male dicis? undest? dic clare. MY. a nobis. DA. hahae!
なにを怒鳴っている。どこの子なんだ。大きな声で言うんだ。ミュシス うちの子ですよ。
mirum vero inpudenter mulier si facit 755
ダヴォス(大声で) おやおや、驚くねえ、商売女の恥知らずなやりようは。
meretrix! CHR. ab Andriast haec, quantum intellego.
クレメース(独白) たぶんあれはアンドロスの女のところの女中だな。
DA. adeon videmur vobis esse idonei
ダヴォス(大声で) お前たちは私たちをそんなことで
in quibus sic inludatis? CHR. veni in tempore.
騙せると思っているのか。クレメース(独白) いい時に来たようだ。
DA. propera adeo puerum tollere hinc ab ianua.
ダヴォス 早く戸口からその赤ん坊を拾い上げろ。
mane: cave quoquam ex istoc excessis loco! 760
(小声で)止まれ、そこからどこへも動くんじゃない。
MY. di te eradicent! ita me miseram territas.
ミュシス(拾い上げろと言われたことに対して) 畜生、くたばっちまえ、びっくりするじゃないか。もう、わけがわからない。
DA. tibi ego dico an non? MY. quid vis? DA. at etiam rogas?
ダヴォス お前、聞こえてるのか、どうなんだ。ミュシス どうしろって言うのよ。ダヴォス わかってるだろ。
cedo, quoium puerum hic adposisti? dic mihi.
さあ、お前がここに捨てた子は誰の子なんだ。言え。
MY. tu nescis? DA. mitte id quod scio: dic quod rogo.
ミュシス あんた知らないの? ダヴォス おれが知ってるかどうかはいいんだ。聞かれたことに答えろ。

MY. vostri. DA. quoius nostri? MY. Pamphili. DA. hem quid? Pamphili? 765
ミュシス おたくの子ですよ。ダヴォス うちのだれの子だ。ミュシス パンフィロスさんの子ですよ。ダヴォス えっ、何だって、パンフィロスさんの子だって?
MY. eho an non est? CHR. recte ego has semper fugi nuptias.
ミュシス だって、そうじゃないの。クレメース(独白) だからわしはこの結婚はだめだと言ってたんだ。
DA. o facinus animadvortendum! MY. quid clamitas?
ダヴォス 何と言ういまわしき犯罪だ。ミュシス なんでそんな大きな声を出すのよ。
DA. quemne ego heri vidi ad vos adferri vesperi?
ダヴォス その子は昨日の夕方お前の家に持ってこられた子じゃないか。
MY. o hominem audacem! DA. verum: vidi Cantharam
ミュシス 恥知らず。ダヴォス 本当だ。おれはお腹の大きな婆さんが来たのを見たぞ。
suffarcinatam. MY. dis pol habeo gratiam 770
ミュシス ほんとに良かったわ、
quom in pariundo aliquot adfuerunt liberae.
出産のときにちゃんとした立会人がたくさんいて。

DA. ne illa illum haud novit quoius causa haec incipit:
ダヴォス 相手のことをよく知りもせずにあの女はこんなことをしたんだな。
"Chremes si positum puerum ante aedis viderit,
この子が家の前に置かれているのクレメースさんが見たら
suam gnatam non dabit": tanto hercle mage dabit.
娘をこの家に嫁がせるのをやめるだろうと思ったんだろうが、かまわずに嫁がせるさ。
CHR. non hercle faciet. DA. nunc adeo, ut tu sis sciens, 775
クレメース(傍白) いや、絶対に娘はやらんぞ。ダヴォス(ミュシスに) よく覚えておけ、
nisi puerum tollis iam ego hunc in mediam viam
お前がその子を拾いあげないのなら、おれがその子を道の真中まで
provolvam teque ibidem pervolvam in luto.
転ばせてやる。お前も一緒にそのぬかるみの中に転ばせてやるぞ。
MY. tu pol homo non es sobrius. DA. fallacia
ミュシス 何を言うの、この酔っ払い!ダヴォス 次から次へと
alia aliam trudit: iam susurrari audio
嘘のオンパレードだな。いまや女がアテナイ生まれだ
civem Atticam esse hanc. CHR. hem. DA. coactus legibus 780
とまで囁かれている。クレメース(傍白) なんだって。ダヴォス 坊ちゃんは法律に従って
eam uxorem ducet. MY. au obsecro, an non civis est?
彼女と結婚しなければならないと。ミュシス まあ、なんてことを、お嬢さんはアテナイ市民じゃないとでも。
CHR. iocularium in malum insciens paene incidi.
クレメース 何も知らずに馬鹿々々しい罠に危うくはまるところだった。
DA. quis hic loquitur? o Chreme, per tempus advenis:
ダヴォス いましゃべっている人は誰だろう。ああ、クレメースの旦那、いい時にいらっしゃいました。
ausculta. CHR. audivi iam omnia. DA. anne haec tu omnia?
よく聞いてください。クレメース もう全部聞かせてもらったよ。ダヴォス これを全部?
CHR. audivi, inquam, a principio. DA. audistin, obsecro? hem 785
クレメース 最初から聞いた。ダヴォス ええ、もうお聞きになったんですか。本当に?
scelera! hanc iam oportet in cruciatum hinc abripi.
この悪事のすべてを! この女を逮捕して磔の刑にすべきです。
hic est ille: non te credas Davom ludere.
(ミュシスに) これがあの方だよ。この俺をからかうのとはわけが違うんだぞ。
MY. me miseram! nil pol falsi dixi, mi senex.
ミュシス まあ、どうしましょう。私は決して嘘は申しておりません。大旦那様。
CHR. novi omnem rem. est Simo intus? DA. est.-- MY. ne me attigas,
クレメース もう全部わかっている。シモンは中にいるか。ダヴォス いらっしゃいます。(クレメース、シモンの家の中に入る)ミュシス 私に触らないで。
sceleste. si pol Glycerio non omnia haec . . 790
悪党。このことをお嬢様に全部話してやるからね。
DA. eho inepta, nescis quid sit actum? MY. qui sciam?
ダヴォス ほんとに馬鹿だな、俺たちがいま何をしたかわからないのか。ミュシス さっぱりだわ。
DA. hic socer est. alio pacto haud poterat fieri
ダヴォス あの人が花嫁の父じゃないか。ああやって何とか
ut sciret haec quae voluimus. MY. praediceres.
あの人に知ってほしいことを伝えたというわけさ。ミュシス 先に教えてくれたら良かったのに。
DA. paullum interesse censes ex animo omnia,
ダヴォス 心のままに自然にやるのと知って演技するのとでは
ut fert natura, facias an de industria (facias)? 795
全然違うことぐらいわかるだろ。

Crito Mysis Davos
第4幕 第5場 クリトン、ミュシス、ダヴォス(クリュシスのいとこのクリトンが登場する場面)

CR. In hac habitasse platea dictumst Chrysidem,
クリトン(独白) クリュシスはこの通りに住んでいたと聞いている。
quae sese inhoneste optavit parere hic ditias
彼女は恥を捨ててここでお金儲けをする道を選んだらしいのだ。
potius quam honeste in patria pauper viveret:
田舎でつつましく貧しい暮らしを続けるよりもな。
eius morte ea ad me lege redierunt bona.
彼女が亡くなったとき遺産は法的には私のものになった。
sed quos perconter video: salvete. MY. obsecro, 800
だが、くわしいことをあの人に尋ねてみよう。こんにちは。ミュシス(傍白) おやまあ、
quem video? estne hic Crito sobrinus Chrysidis?
あの人はどなたかしら。あの人はクリュシスのいとこのクリトンさんかしら。
is est. CR. o Mysis, salve! MY. salvos sis, Crito.
そうだわ。クリトン おお、ミュシス、こんにちは。ミュシス こんにちは、クリトンさん。
CR. itan Chrysis? hem. MY. nos quidem pol miseras perdidit.
クリトン クリュシスは本当に? やっぱり。ミュシス ほんとうに彼女は私たちを深い悲しみの中に置いていってしまいました。
CR. quid vos? quo pacto hic? satine(=satisne) recte? MY. nosne? sic
クリトン それでお前たちはどうしている。ここで何をしているんだ。ちゃんとやってるのか。ミュシス 私たちですか。
ut quimus, aiunt, quando ut volumus non licet. 805
好きなように出来ないときは、出来るだけのことをするしかありませんわ。
CR. quid Glycerium? iam hic suos parentis repperit?
クリトン グリュケリウムはどうしている。親は見つかったのか。
MY. utinam! CR. an nondum etiam? haud auspicato huc me appuli(やってきた);
ミュシス それができたらいいんですけど。クリトン まだなのか。じゃあ、悪い時に来たな。
nam pol, si id scissem, numquam huc tetulissem pedem.
それを知ってたら、俺はここには決して足を向けなかったんだ。
semper eius dictast esse haec atque habitast soror;
グリュケリウムはクリュシスの妹でずっと通っているから、
quae illius fuere possidet: nunc me hospitem(外国人) 810
クリュシスの遺産はグリュケリイムのものになっているはずだ。それに私のような外国人が
litis sequi quam id mihi sit facile atque utile
訴訟を起こすことがどれほど容易でどれほど有利なことか
aliorum exempla commonent. simul arbitror
ほかの人の例を見れば分かる。それに、思うに、
iam aliquem esse amicum et defensorem ei; nam fere
今ではもう彼女にも誰か支援者かパトロンがいるはずだ。というのは、
grandicula iam profectast illinc: clamitent
アテネを出た頃にはもうかなり成長していたらだ。世間はうるさいことだろうよ、
me sycophantam, hereditatem persequi 815
私のことをペテン師だとか遺産狙いのたかり屋だと。
mendicum. tum ipsam despoliare non lubet.
確かに、グリュケリウムの財産を奪って丸裸にするのは好ましくない。
MY. o optume hospes! pol, Crito, antiquom obtines.
ミュシス クリトンさんは最高のお客さんだわ。昔と何も変わっていませんのね。
CR. duc me ad eam, quando huc veni, ut videam. MY. maxume.
クリトン 彼女のところに連れて行ってくれ。彼女に会うためにここに来たんだから。ミュシス もちろんですわ。
DA. sequar hos: nolo me in tempore hoc videat senex.
ダヴォス 二人のあとをつけてみよう。いまはまだおれはあの旦那に見つかる訳にはいかない。

ACTVS V

Chremes Simo
第5幕 第1場 クレメース、シモン(赤ん坊を見たクレメースに縁談を断られたシモンがねばる場面)

CHR. Satis iam satis, Simo, spectata erga te amicitiast mea; 820
クレメース もういい、もうたくさんだ、シモン。君に対する私の友情のほどはもう分かっただろう。
satis pericli incepi adire: orandi iam finem face.
私は充分危ない橋をわたった。もう俺に頼むのはやめてくれ。
dum studeo obsequi tibi, paene inlusi vitam filiae.
君の言う通りにしているうちに、私はあやうく娘の人生を無茶苦茶にするところだったんだぞ。
SI. immo enim nunc quom maxume abs te postulo atque oro, Chreme,
シモン そんな事を言うなよ。今こそ君に最大の援助を頼みたいんだ。
ut beneficium verbis initum dudum nunc re comprobes(行動で見せる).
君の言う友情が口先だけでないことを今こそ行動で見せて欲しいんだ。
CHR. vide quam iniquos sis prae studio: dum(=as long as) id efficias quod lubet, 825
クレメース 君は自分のしつこさのためにどれほど嫌なやつになっているか分からないのか。何でも君の言うとおりにしてやっていると、
neque modum benignitatis neque quid me ores cogitas;
君は人の好意に限度があることを忘れてしまう。君は私に何を求めているのか自分でもわかっていないんだよ。
nam si cogites remittas iam me onerare iniuriis.
もしわかっていたら、こんなけしからん事で私を困らせることはとっくにやめているはずだ。
SI. quibus? CHR. at rogitas? perpulisti me ut homini adulescentulo
シモン 何がけしからんのだ。クレメース 分かってるだろ。君は、別の恋に
in alio occupato amore, abhorrenti ab re uxoria,
夢中になっている若者、結婚を嫌がっている若者に、
filiam ut darem in seditionem atque in incertas nuptias, 830
娘をやれとぼくに要求しているんだぞ。喧嘩の絶えない不安定な結婚をするために、
eius labore atque eius dolore gnato ut medicarer tuo.
娘の苦労と涙によってあんたの息子の品行を治すために娘をやれとな。
impetrasti: incepi, dum res tetulit. nunc non fert: feras.
君の説得を受け入れたときには状況が良かった。だが、いまは違う。それを君も考えて欲しい。
illam hinc civem esse aiunt; puer est natus: nos missos face.
噂では息子さんの彼女はアテナイ生まれというじゃないか。それに子供も出来ている。だからうちの娘のことはもう忘れてくれ。
SI. per ego te deos oro, ut ne illis animum inducas credere,
シモン 神かけてのお願いなのだ、奴らのことは信用しないでくれ。
quibus id maxume utilest illum esse quam deterrumum. 835
奴らにとってはうちの息子が最悪の人間であることが好都合なんだよ。
nuptiarum gratia haec sunt ficta atque incepta omnia.
やつらはこの縁談を妨害するために、こんなペテンをしているんだよ。
ubi ea causa quam ob rem haec faciunt erit adempta his, desinent.
だから縁談が妨害できないと分かったら全部やめてしまうんだよ。

CHR. erras: cum Davo egomet vidi iurgantem ancillam. SI. scio. CHR. at
クレメース そんなことはないさ。私はこの目で見たんだ、ダヴォスとグリュケリウムの女中が喧嘩しているのを。シモン そうだろうよ。
vero voltu, quom ibi me adesse neuter tum praesenserant.
クレメース 二人は本気で喧嘩していた。私が近くにいること二人とも気づかなかったほどだ。
SI. credo et id facturas Davos dudum praedixit mihi; et 840
シモン そうだろう。それはそうなるとダヴォスが前に言っていたんだから。
nescio qui id tibi sum oblitus hodie, ac volui, dicere.
そのことを今日君に言おうと思っていたんだが、なぜか忘れていたんだよ。

Davos Chremes Simo Dromo
第5幕 第2場 ダヴォス、クレメース、シモン、ドロモン(ダヴォスがグリュケリウムの家から出てくるところをシモンに見つかり捕まって監禁される場面)

DA. Animo nunciam otioso esse impero. CHR. em Davom tibi!
ダヴォス(中のグリュケリウムに対して) もう余計な心配しちゃいけないよ。クレメース(シモンへ) おや、君の家のダヴォスが出てきたぞ。
SI. unde egreditur? DA. meo praesidio atque hospitis. SI. quid illud malist?
シモン あいつどこから出てきたんだ。ダヴォス(中に向かって) ぼくとお客さんが守ってるから。シモン いったい何を悪さしてるんだろ。
DA(中に向かって) ego commodiorem hominem adventum tempus non vidi. SI. scelus,
ダヴォス こんなにうまい時に都合のいい人が来たのを見たことがない。シモン あの悪党め、
quemnam hic laudat? DA. omnis res est iam in vado. SI. cesso adloqui? 845
いったい誰のことを褒めてるんだ。ダヴォス(中に向かって) 大船に乗ったつもりでいたらいい。シモン さっさとやつに話を聞こう。
DA. erus est: quid agam? SI. o salve, bone vir. DA. ehem Simo, o noster Chreme,
ダヴォス 大旦那様だ。どうしよう。シモン よう、大将、ごきげんだな。ダヴォス 大旦那様。それにクレメースの旦那、
omnia adparata iam sunt intus. SI. curasti probe.
中の準備は全部整いましたよ。シモン よくやった。
DA. ubi voles accerse. SI. bene sane; id enimvero hinc nunc abest.
ダヴォス いつでも花嫁を呼びにやってください。シモン ご苦労さん。それですべて完了だな。
etiam tu hoc responde, quid istic tibi negotist? DA. mihin? SI. ita.
じゃあ、この質問に答えなさい。お前、そこで何をしていたんだ。ダヴォス わ、私ですか。シモン そうだ。
DA. mihin? SI. tibi ergo. DA. modo introii. SI. quasi ego quam dudum rogem. 850
ダヴォス 私ですか。シモン お前だよ。ダヴォス ちょっとこの中に入ってました。シモン 時間なんか聞いてない。
DA. cum tuo gnato una. SI. anne est intus Pamphilus? crucior miser!
ダヴォス 坊ちゃんと一緒でした。シモン 中に息子がいるのか。そんな馬鹿なことがあってたまるか!
eho non tu dixti esse inter eos inimicitias, carnufex?
おい、おまえ、二人は仲違いしたと前に言わなかったか。嘘つき。
DA. sunt. SI. quor igitur hic est? CHR. quid illum censes? cum illa litigat.
ダヴォス 仲違いはほんとです。シモン じゃあ、なぜ息子がここにいるんだ。クレメース 何をしてると思ってるんだ。きっと彼女と喧嘩してるんだろ。
DA. immo vero indignum, Chreme, iam facinus faxo ex me audies.
ダヴォス そんなことはないですよ、クレメースさん、僕から悪い知らせをお聞かせしなきゃなりません。
nescioquis senex modo venit, ellum, confidens catus: 855
誰か知らない旦那がさっき来まして、その家にいらっしゃるんですよ。頭のいい堂々とした人です。
quom faciem videas, videtur esse quantivis preti:
一目見たら分かりますが、あの人はかなり立派な人のようですよ。
tristis severitas inest in voltu atque in verbis fides.
くそ真面目な顔つきで言葉にも嘘がない。
SI. quidnam adportas( facinus)? DA. nil equidem nisi quod illum audivi dicere.
シモン いったい何が言いたいんだ。ダヴォス その方から聞いたことだけですよ。
SI. quid ait tandem? DA. Glycerium se scire civem esse Atticam. SI. hem
シモン 一体何を言ったんだ。ダヴォス グリュケリウムさんがアテナイ生まれだというのをご存知だということです。
Dromo, Dromo. DA. quid est? SI. Dromo. DA. audi. SI. verbum si addideris --Dromo ! 860
シモン 嘘つけ。ドロモンよ、ドロモンよ。ダヴォス 何ですか。シモン ドロモン シモン 聞いて下さい。シモン もう一言でも言ったら、ドロモン!
DA. audi obsecro. DR. quid vis? SI. sublimem intro rape hunc, quantum potest.
ダヴォス お願いだから、聞いて下さい。ドロモン なんの御用ですか。シモン さっさとこいつを捕まえて吊るしあげろ。
DR. quem? SI. Davom. DA. quam ob rem? SI. quia lubet. rape inquam. DA. quid feci? SI. rape.
ドロモン 誰をですか。シモン ダヴォスだ。ダヴォス 何でですか。シモン わしがそう決めたからだ。捕まえろと言ってるだろ。ダヴォス 私が何をしました。シモン 捕まえろ。
DA. si quicquam invenies me mentitum, occidito. SI. nil audio.
ダヴォス 私が何か嘘をついたのを見つけたというなら、殺されたっていいんだ。シモン お前の意見は聞いていない。
ego iam te commotum reddam. DA. tamen etsi hoc verumst? SI. tamen.
いまからもっと熱くならせてやる。ダヴォス だけどこれは本当のことですよ。
cura adservandum vinctum, atque audin? quadrupedem constringito. 865
シモン かまわん。(ドロモンに)縛り上げて厳重に監視しろ。手足を縛れ。
age nunciam: ego pol hodie, si vivo, tibi
さえ、やるんだ。今日こそ絶対にはっきりさせてやる。
ostendam erum quid sit pericli fallere,
息子が父親をだましたり召使が主人をだますことがどれほど危険なことかを。
et illi patrem. CHR. ah ne saevi tanto opere. SI. o Chreme,
クレメース そんなに厳しくしなくても。シモン おお、クレメース、
pietatem gnati! nonne te miseret mei?
なんて親不孝者な息子だ。なんて情けない父親だと思うだろ。
tantum laborem capere ob talem filium! 870
あんな息子のためにこんな苦労をさせられるとは。
age,Pamphile, exi,Pamphile: ecquid te pudet?
(パンフィロスに) おい、息子よ、パンフィロスよ、出てこい。恥ずかしくないのか。

Pamphilvs Simo Chremes
第5幕 第3場 パンフィロス、シモン、クレメース(シモンがグリュケリウムの家から出てくる息子を叱る場面)

PA. Quis me volt? perii, pater est. SI. quid ais, omnium . . ? CHR. ah
パンフィロス(グリュケリウムの家から出てくる) 私を呼んだのは誰だろう。しまった。親父だ。シモン どうなってるんだ、よりによって?
rem potius ipsam dic ac mitte male loqui.
クレメース 怒鳴りあいはいいから事実だけを話しなさい。
SI. quasi quicquam in hunc iam gravius dici possiet.
シモン こいつにはいくら厳しく言っても言い足りないんだよ。
ain(= aisne) tandem, civis Glyceriumst? PA. ita praedicant. 875
さあ、答えろ、お前の女はアテナイ市民だと言うんだな。パンフィロス みんなそう言ってます!
SI. "ita praedicant"? o ingentem confidentiam!
シモン 「みんなそう言ってます」だと? 何という生意気な奴だ。
num cogitat quid dicat? num facti piget?
この子は自分の言っていることが分かっているのか。自分のしたことを悔いているのか。
vide num eius color pudoris signum usquam indicat.
見ろこの顔を、この顔に羞恥心というものがどこにある?
adeo inpotenti esse animo ut praeter civium
この子は完全に自分を見失ってしまって、社会の規律も法律も
morem atque legem et sui voluntatem patris 880
父親の意向もまったく眼中に無いんだ。
tamen hanc habere studeat cum summo probro!
どんなに堕落してもあの女にご執心なのだ。
PA. me miserum! SI. hem modone id demum sensti, Pamphile?
パンフィロス ああ、僕は情けないよ。シモン なんだって、せがれよ、お前今頃になってやっとその事に気づいたのか。 
olim istuc, olim quom ita animum induxti tuom,
その情けないというのは、お前が欲しいと思ったものを
quod cuperes aliquo pacto efficiundum tibi,
何としても手に入れると決心した
eodem die istuc verbum vere in te accidit. 885
まさにその日のお前のことなんだよ。
sed quid ego? quor me excrucio? quor me macero?
しかし、このわしはどうなんだ。なぜこのわしが苦しんでいるんだ。
quor meam senectutem huius sollicito amentia?
こいつの愚かな行動のためにどうしてわしの老後が掻き乱されなければいけないんだ。
an ut pro huius peccatis ego supplicium sufferam?
それもこれも、こいつの不品行のためにおれが罰を受けるためなのか。
immo habeat, valeat, vivat cum illa. PA. mi pater!
いや、もう、お前は彼女とずっと暮らしたらいい。おれはもう知らん。パンフィロス お父さん。
SI. quid "mi pater"? quasi tu huius indigeas patris. 890
シモン どうしてわしに「お父さん」と呼びかけるんだ。お前にこんな父親が必要ではあるまい。
domus uxor liberi inventi invito patre;
お前は家も妻も子も父親にさからって自分で見つけてきたじゃないか。
adducti qui illam hinc civem dicant: viceris.
女がアテナイ市民であると証言する人間も連れてきた。お前の勝ちだ。
PA. pater, licetne pauca? SI. quid dices mihi? CHR. at
パンフィロス お父さん、ちょっとだけいいですか。シモン わしに何を言うことがあるんだ。
tamen, Simo, audi. SI. ego audiam? quid audiam,
クレメース シモンさん、そう言わずに、まあ、聞いてやりなさい。シモン わしが聞いてやるのか。何を聞くんだよ、クレメース?
Chreme? CHR. at tandem dicat. SI. age dicat, sino. 895
クレメース まあ、言い分を聞きましょう。シモン さあ、言え。いいぞ。
PA. ego me amare hanc fateor; si id peccarest, fateor id quoque.
パンフィロス 僕が彼女を愛していることは認めます。それで罪を犯したというのなら、罪も認めす。
tibi, pater, me dedo: quidvis oneris inpone, impera.
お父さん、僕はもうあなたに降参します。どんな事を言われても僕はそれを受け入れる覚悟です。
vis me uxorem ducere? hanc vis mittere? ut potero feram.
女と別れて結婚することをお望みなのですか。それも何とかやってみます。
hoc modo te obsecro, ut ne credas a me adlegatum hunc senem:
でも、これだけはお願いです、今から紹介する人は私の手先であるとは決して思わないで下さい。
sine me expurgem atque illum huc coram adducam. SI. adducas? PA.sine, pater.900
その人をここに紹介させて下さい。そして僕の濡れ衣を晴らさせて下さい。シモン 紹介するだって? パンフィロス お父さん、お願いです。
CHR. aequom postulat: da veniam. PA. sine te hoc exorem. SI. sino.
クレメース 正当な要求だ。認めてやりなさい。パンフィロス お願いします。シモン じゃあ、許すよ。
quidvis cupio dum ne ab hoc me falli comperiar, Chreme.
(パンフィロスが家の中に入っている間) クレメースさん、もしこれであの子がわしをペテンにかけていないことがはっきりするようだったら、何でもあなたの望み通りにしますよ。
CHR. pro peccato magno paullum supplici satis est patri.
クレメース 父親というものは息子がどんな大きな間違い犯してもすぐに許してやるものですよ。 

Crito Chremes Simo Pamphilvs
第5幕 第4場 クリトン、クレメース、シモン、パンフィロス(グリュケリウムがアテナイ生まれであることをクリトンが証明する場面)

CR. Mitte orare. una harum quaevis causa me ut faciam monet,
クリトン そんなにお願いしないでください。あなたのためでも
vel tu vel quod verumst vel quod ipsi cupio Glycerio. 905
真実のためでもグリュケリウムのためでも、何でもそのうちの一つだけの理由で充分ですよ。
CHR. Andrium ego Critonem video? certe is est. CR. salvos sis, Chreme.
クレメース アンドロス島のクリトンじゃないか。やっぱりそうだ。クリトン 元気そうだね、クレメース。
CHR. quid tu Athenas insolens? CR. evenit(it happens). sed hicinest Simo?
クレメース めずらしいな、君はアテナイに何しに来たんだ。クリトン たまたまだよ。おや、ここにいるのはシモンさんじゃないですか。
CHR. hic. CR. Simo. men quaeris? SI. eho tu, Glycerium hinc civem esse ais?
クレメース そうだ。クリトン シモンさん、私のことをお探しですか。シモン ああ、あなたでしたか、あの女がアテナイ生まれだと言っているのは。
CR. tu negas? SI. itane huc paratus advenis? CR. qua re? SI. rogas?
クリトン 違うというのですか。シモン あんたは頼まれてここに来たんでしょう。クリトン 何をですか。シモン ご存知でしょう。
tune inpune haec facias? tune hic homines adulescentulos 910
こんなことをしてただで済むと思っているのですか。立派な教育を受けた
inperitos rerum, eductos libere, in fraudem inlicis?
世間知らずの若者たちを悪事に引きずりこもうとしているのではないのですか。
sollicitando et pollicitando eorum animos lactas(誘惑する)? CR. sanun(sanus ne) es?
夢と希望を振りまいて彼らの気持ちを堕落させようとしているのではないのですか。クリトン あなたは気が確かですか。
SI. ac meretricios amores nuptiis conglutinas(結びつける)?
シモン そうやって娼婦との色恋を結婚の絆で固めようとしているのではないのですか。
PA. perii, metuo ut substet(耐える) hospes(外国人). CHR. si, Simo, hunc noris satis,
パンフィロス 畜生、この客人はこれ以上この侮辱に耐えられるだろうか。クレメース シモンさん、あなたもこの人のことをよくわかれば、
non ita arbitrere: bonus est hic vir. SI. hic vir sit bonus? 915
そんなふうには思いませんよ。この人は立派な人ですよ。シモン この人が立派な人だって?
itane adtemperate(ちょうどいい時に) evenit, hodie in ipsis nuptiis
こんなにうまい偶然があるものか。まさに結婚式がある今日この日に来るなんて。
ut veniret, antehac numquam? est vero huic credundum, Chreme.
それまでぜんぜん来なかった人がだよ。クレメースよ、そんな人を信じろっていうのかい。
PA. ni(if not) metuam patrem, habeo pro illa re illum quod moneam probe.
パンフィロス 親父のこの剣幕が恐くなけりゃ、この件ではぼくにも言いたいことがあるんだけど。
SI. sycophanta. CR. hem. CHR. sic, Crito, est hic: mitte. CR. videat qui siet.
シモン ペテン師! クリトン なんだって。クレメース クリトンよ、この人はこういう人なんだ、気にするな。クリトン この人は自分の行動に注意したほうがいい。
si mihi perget quae volt dicere, ea quae non volt audiet. 920
この人が言いたい放題言い続けるなら、この人に聞きたくないことを聞かせるまでだ。
ego istaec moveo aut curo? non tu tuom malum aequo animo feras?
(シモンに) あんたの問題が私の知ったことかね。私がどうのこうのする問題じゃないだろ。あんたは自分の災難を黙って耐えることができないのかね。
nam ego quae dico vera an falsa audierim iam sciri potest.
私がこれから言う話が嘘か本当かはすぐにわかることだ。
Atticus quidam olim navi fracta ad Andrum eiectus est
むかしアテナイの男が船で難破してアンドロス島に打ち上げられた。そのとき
et istaec una parva virgo. tum ille egens forte adplicat
一緒だったのがあの娘でまだ小さかった。全てを失ったその男がその時たまたま
primum ad Chrysidis patrem se. SI. fabulam inceptat. CHR. sine. 925
最初に助けを求めたのがクリュシスの父親だった。シモン 作り話を始めたぞ。クレメース やらせておきなさい。
CR. itane vero obturbat? CHR. perge. CR. Tum is mihi cognatus fuit
クリトン そうやって邪魔をする気なんですか。クレメース 続けて下さい。クリトン その時、アテナイの男を受け入れた
qui eum recepit. ibi ego audivi ex illo sese esse Atticum.
人は私の親類だったので、私はその家で彼からアテナイ生まれだと言うことを聞いたのだ。
is ibi mortuost. CHR. eius nomen? CR. nomen tam cito? Phania? hem
彼はそこで亡くなったよ。クレメース その男の名は? クリトン もう名前を聞くのですか?ファニアといいましたか。
perii! verum hercle opinor fuisse Phaniam; hoc certo scio,
ええと、参ったなあ。確かにファニアだったと思います。間違いありません。
Rhamnusium(northernmost town of Attica) se aiebat esse. CHR. o Iuppiter! CR. eadem haec, Chreme, 930
ラムヌス地区出身だと言っていました。クレメース これはどういうことだろう。
multi alii in Andro tum audivere. CHR. utinam id sit quod spero! eho dic mihi,
クリトン これは私だけでなくアンドロスの沢山の人が聞いたことだ。クレメース これはひょっとして。おい、聞かせてくれないか。
quid eam tum? suamne esse aibat? CR. non. CHR. quoiam igitur? CR. fratris filiam.
その娘はどうなんだい。自分の娘だと言っていたのかい? クリトン いいや。クレメース では、誰の子だと。クリトン 兄の娘だと。
CHR. certe meast. CR. quid ais? SI. quid tu ais? PA. arrige auris, Pamphile!
クレメース もう間違いない、その子は私の娘だ。クリトン 何を言うんだ。シモン 何を言うんだ。パンフィロス(独白) よく聞いておけよ、パンフィロス。
SI. qui credis? CHR. Phania illic frater meus fuit. SI. noram et scio.
シモン どうしてそう思うんだ。クレメース そのファニアは私の弟なのだ。シモン それはおれも知っている。そのとおりだ。

CHR. is bellum hinc fugiens meque in Asiam persequens proficiscitur: 935
クレメース 弟は戦火を避けて小アジアの私のあとを追ってここから旅立ったんだ。
tum illam relinquere hic est veritus.postilla hoc primum audio
その時にあの子のことが心配でここに残していけなかったんだな。そのあと、
quid illo sit factum. PA. vix sum apud me: ita animus commotust metu
弟がどうなったか今日初めて聞いたよ。パンフィロス 突然のこの驚くべき朗報に
spe gaudio, mirando tanto tam repentino hoc bono.
嬉しさと恐ろしさでどきどきして、じっとしていられない。
SI. ne(確かに) istam multimodis(副詞) tuam inveniri gaudeo. PA. credo, pater.
シモン(クレメースに) 何はともあれ、あなたの娘さんが見つかったことは喜ばしい。パンフィロス(傍白) きっとそうでしょうね、お父さん。
CHR. at mi unus scrupulus etiam restat qui me male habet. PA. dignus es 940
クレメース ただひとつ引っかかることがあってどうもすっきりしなんだが。
cum tua religione, odium: nodum in scirpo quaeris(灯心草の節を探す=無いものを探す). CR. quid istuc est?
パンフィロス(傍白) 几帳面な人らしいが、いやな人だ。それこそ贅沢な悩みだよ。
クリトン それはどんなことです?

CHR. nomen non convenit. CR. fuit hercle huic aliud parvae. CHR. quod, Crito?
クレメース 名前が合わないんだよ。クリトン たしか子供の頃は別の名前だったんだ。クレメース クリトンさん、
numquid meministi? CR. id quaero. PA. egon huius memoriam patiar meae
どんな名前だったか覚えているかい? クリトン なんだっけなあ。パンフィロス(傍白) この人の記憶力のせいで
voluptati obstare, quom ego possim in hac re medicari mihi?
僕の喜びを邪魔されてはたまるもんか。この問題で僕はやっと救われるというのに。
heus, Chreme, quod quaeris, Pasibulast. CHR. ipsa east. CR. east. 945
あの、クレメースさん、あなたが知りたいのは、パーシビュラという名前でしょう。クレメース そのとおりだ。クリトン そうだ。

PA. ex ipsa miliens audivi. SI. omnis nos gaudere hoc, Chreme,
パンフィロス 僕は彼女から1000回も聞かされましたよ。シモン クレメースよ、ぼくたち皆がこのことを喜んでいるんだよ。
te credo credere. CHR. ita me di ament, credo. PA. quod restat, pater . .
君にもう分かっているだろう。クレメース そりゃもちろん、分かっているよ。パンフィロス あと残ったことは、・・お父さん。
SI. iamdudum res redduxit me ipsa in gratiam. PA. o lepidum(nice) patrem!
シモン こんなにはっきりしたんだから、わしも鉾を納めたよ。パンフィロス なんて素敵な父親なんだろう。
de uxore, ita ut possedi, nil mutat Chremes? CHR. causa optumast;
クレメースさん、僕のものになっている妻はこのままでいいですよね。クレメース 君の権利は折り紙つきだ。
nisi quid pater ait aliud. PA. nempe id. SI. scilicet. CHR. dos, Pamphile, est 950
君の父親に異存がない限りね。パンフィロス お父さんはもちろん。シモン もちろんだ。
クレメース パンフィロス君、
decem talenta. PA. accipio. CHR. propero ad filiam. eho mecum, Crito;
持参金は10タラントだ。パンフィロス 頂戴しますとも。クレメース 娘のところへ急いで行こう。クリトンも一緒に。

nam illam me credo haud nosse.-- SI. quor non illam huc transferri iubes?
だって、彼女は私のことを知らないはずだから。シモン それより彼女にここに来てもらおうよ。
PA. recte admones: Davo ego istuc dedam iam negoti. SI. non potest.
パンフィロス それはいい考えですね。その仕事をダヴォスに言いつけていいですか。(クレメースとクリトン、グリュケリウムの家に入る)シモン それはだめだ。
PA. qui? SI. quia habet aliud magis ex sese et maius. PA. quidnam? SI. vinctus est.
パンフィロス どうしてですか。シモン ダヴォスは別のもっと大事な仕事があるんだ。パンフィロス いったいどういうことですか。シモン やつは手足を縛られてるんだよ。
PA. pater, non recte vinctust. SI. haud ita iussi. PA. iube solvi, obsecro. 955
パンフィロス お父さん、縛るなんて間違ってますよ。シモン 正しく縛れと命じてある。パンフィロス お願いだから解いてやって下さい。
SI. age,fiat. PA. at matura. SI. eo intro. PA. o faustum et felicem diem!
シモン よし、解いてやれ。パンフィロス 急いでください。シモン 私が中へ行くよ。パンフィロス よかった、よかった。

Charinvs Pamphilvs
第5幕 第5場 カリーヌス、パンフィロス(パンフィロスが自分の喜びに耽る場面)

CHA. Proviso quid agat Pamphilus. atque eccum. PA. aliquis me forsitan putet
カリーヌス(独白) パンフィロスがどうしているか見に来たんだが、おや、来たぞ。パンフィロス(独白) ほかの人は僕自身も
non putare hoc verum, at mihi nunc sic esse hoc verum lubet.
こんなことはたぶん信じていないはずだと言うかもしれないが、僕はこれを真実であると思うことにした。
ego deorum vitam propterea sempiternam esse arbitror
僕は思うんだ。神々の命が永遠に続くのは
quod voluptates eorum propriae sunt; nam mi inmortalitas 960
彼らの喜びが永遠に続くからだと。例えば、どんな悲しみもこの喜びを
partast, si nulla aegritudo huic gaudio intercesserit.
邪魔することができないなら、ぼくにも永遠の命が手に入ったことになる。
sed quem ego mihi potissumum exoptem, quoi haec narrem, dari?
ぼくはこの話をする相手として誰に一番会いたいだろう。
CHA. quid illud gaudist? PA. Davom video. nemost quem mallem omnium;
カリーヌス 何をそんなに喜んでいるんだ。パンフィロス ダヴォスが来た。彼こそ誰よりもいま会いたい人だ。
nam hunc scio mea solide solum gavisurum gaudia.
ぼくの喜びを心から分かち合ってくれるのは彼だけだから。

Charinvs Pamphilvs Davos
第5幕 第6場 カリーヌス、パンフィロス、ダヴォス

DA. Pamphilus ubinam hic est? PA. Dave. DA. quis homost? PA. ego sum.DA. o Pamphile. 965
ダヴォス パンフィロス坊ちゃんはどこへ行ったんだろう。パンフィロス ダヴォスよ。ダヴォス 誰だろう。パンフィロス 僕だよ。ダヴォス ああ、坊ちゃん。
PA. nescis quid mi obtigerit. DA. certe; sed quid mihi obtigerit scio.
パンフィロス 僕の身の上に何が起こったか知らないんだね。ダヴォス 確かに。自分の身の上に何が起こったかは知ってますが。
PA. et quidem ego. DA. more hominum evenit ut quod sim nanctus mali
パンフィロス それは僕も知ってる。ダヴォス 世の中こんなものですよ。坊ちゃんのいい知らせが私に届くよりも、
prius rescisceres tu quam ego illud quod tibi evenit boni.
私についての悪い知らせが坊ちゃんに届くほうが、早いんです。
PA. Glycerium mea suos parentis repperit. DA. factum bene. CHA. hem.
パンフィロス 僕のグリュケリウムが自分の親を見つけたんだよ。ダヴォス よございました。カリーヌス(傍白) なんだって。
PA. pater amicus summus nobis. DA. quis? PA. Chremes. DA. narras probe. 970
パンフィロス 彼女の父親は我が家の最も大切な友人だったんだ。ダヴォス 誰のことですか。パンフィロス クレメースさんだ。ダヴォス それは素晴らしいニュースですね。

PA. nec mora ullast quin eam uxorem ducam. CHA. num illic somniat
パンフィロス もう僕は彼女とすぐにでも結婚できるんだ。カリーヌス(傍白) この男は夢でも見ているのだろうか。
ea quae vigilans voluit? PA. tum de puero, Dave . . DA. ah desine!
願いが叶ったという白日夢を。パンフィロス それから、ダヴォスよ、赤ん坊のことも・・
ダヴォス ああ、そのへんにしておきなさいませ。
solus est quem diligant di. CHA. salvos sum si haec vera sunt.
あの子も運がいい子ですね。カリーヌス(傍白) これがもし本当なら僕は助かるのだが。
conloquar. PA. quis homost? Charine, in tempore ipso mi advenis.
話しかけてみよう。パンフィロス 誰だい。カリーヌスか。本当にいいところに来たね。
CHA. bene factum. PA. audisti? CHA. omnia. age, me in tuis secundis respice. 975
カリーヌス よかったな。パンフィロス 聞いたのかい。カリーヌス 全部聞いた。僕も君のしあわせの
tuos est nunc Chremes: facturum quae voles scio esse omnia.
仲間にしてくれよ。いまや君はクレメースさんは味方につけたんだね。あの人が君の望みは全部叶えてくれるはずだ。

PA. memini: atque adeo longumst illum me exspectare dum exeat. 977
パンフィロス 君のことは忘れていないさ。クレメースさんが出てくるまでもう待っていられないよ。
sequere hac me: intus apud Glycerium nunc est. tu, Dave, abi domum,
僕について来い、こっちだよ。クレメースさんはグリュケリウムの家の中にいらっしゃるんだ。ダヴォスよ、君は僕の家へ行ってくれ。
propera, accerse hinc qui auferant eam.quid stas? quid cessas? DA. eo.
そして、花嫁を迎えに行く人を急いで呼び出してくれ。何をつっ立ってんだ。何をぐずぐずしているんだ。ダヴォス 行きますよ。
ne exspectetis dum exeant huc: intus despondebitur; 980
(観客に)みなさんは彼らが出てくるまで待たないでください。結婚式は中でとり行われます。
intus transigetur siquid est quod restet. CANTOR. plaudite!
残りの次第も中で全部行われますので。全員 拍手を。

EXITVS ALTER SVPPOSITICIVS
別の結末(偽作)
PA. memini adque adeo ut uolui commodum huc senex exit foras. 977a
CH. m o 978a
CH. 979a

Pamphilvs Charinvs Chremes Davos
パンフィロス、カリーヌス、クレメース、ダヴォス

PA. Te expectabam: est de tua re quod agere ego tecum uolo. 980a
パンフィロス クレメースさん、あなたを待っていました。ご一緒にあなたのことを相談したくて。
operam dedi ne me esse oblitum dicas tuae gnatae alterae. 981a
あなたのもう一人の娘さんのことを僕が忘れているなんて言って欲しくないんです。
tibi me opinor inuenisse dignum te atque illa uirum. CHA. Ah, 982a
僕はあなたの娘さんに相応しい花婿を見つけましたよ。カリーヌス ああ、
perii, Daue, de meo amore ac uita nunc sors tollitur. 983a
参った、ダヴォス、僕の恋と僕の人生の運命がいま決まる。
CHR. non noua istaec mihi condicio est, si uoluissem, Pamphile. 984a
クレメース パンフィロス君、のぞむらくは、その人の結婚相手は知らない人ではないですね。
CHA. occidi, Daue. DA. mane. CHA. perii. CHR. id quamobrem non uolui eloquar: 985a
カリーヌス ダヴォス、おれはおしまいだ。ダヴォス 待って下さい。カリーヌス おしまいだ。クレメース そのお相手に賛成しなかったわけをお話ししましょう。
non idcirco quod eum omnino adfinem mihi nollem . . CHA. hem! DA. tace. 986a
その方を婿にしたくなかったからではないのです。カリーヌス なんだって。ダヴォス 黙って。
CHR. sed amicitia nostra quae est a patribus nostris tradita 987a
クレメース 先祖から受け継がれた私たちの友情関係が
nobis, aliquam partem studui adauctam tradi liberis. 988a
子供たちに受け継がれて発展することを望んだからです。
nunc cum copia ac fortuna utrique ut obsequerer dedit, 989a
しかし、この機会、この運命が二人の意志を尊重することを可能にした今では、
detur. PA. bene factum. DA. adi atque age homini gratias. CHA.salue, Chremes, 990a
私は娘を彼に嫁がせるつもりです。パンフィロス よかった。ダヴォス さあ、この人に感謝をなさいませ。カリーヌス こんばんわ、クレメースさん、
amicorum meorum omnium mihi amicissime. 991a
あなたは私の友人の誰よりも親切な人ですね。
quod mihi non minus est gaudio quam id quod volo 992a
私はあなたから期待して熱心に求めたものを
quod abs te expecto et summo studio abs te expeto: 993a
手に入れたことは嬉しいのですが、それと同じくらい嬉しいのは
me repperisse ut habitus antehac fui tibi. 994a
以前からあなたが僕をどう思っていたかが分かったことです。
CHR. animum, Charine, quod ad cumque applicaueris(subj.perf) 995a
クレメース カリーヌスくん、君が何に夢中になるにしろ、
studium exinde ut erit tute existimaberis(fut.pass).     996a
その熱意がどんなものであるかによって君がどんな人かは分かる。
id ita esse facere coniecturam ex me licet: 997a
これが間違っていないことは自分自身の経験から確かなんだ。
alienus abs te tamen quis tu esses noueram. 998a
君とは友人でない私だが君の人柄は知っていたんだ。
CHA. ita res est. CHR. gnatam tibi meam Philumenam 999a
カリーヌス そういうものですね。クレメース 私の娘のフィロメーナを
uxorem et dotis sex talenta spondeo. 1000a
君の妻として持参金6タラントをつけて嫁がせよう。

Terence's text from The Latin Library, adapted to the new Loeb version.

参考文献 TERENCE THE WONMAN OF ANDROS EDITED AND TRANSLATED BY JOHN BARSBY (HARVARD UNIVERSITY PRESS 2001),
TERENCE THE COMEDIES TRANSLATED BY BETTY RACICE (PENGUIN CLASSICS 1965),
Die Komödien des P. Terentius : Andreas Spengel in Google Books and archive.org.,
Aelii Donati in Andriam Terenti commentum BY Hyperdonat,
Elementary Latin Dictionary and A Latin Dictionary in Perseus.

and 手持ちのElementary Lain Dictionary.

これを開いて 目当ての文言を T のついた例文の中に探すのが一番手っ取り早い読み方で、大抵はしょっぱなに、そこになければ一番最後に載っている。

Latin Library のテクストはOxford classical text に合わせてあるが、Terentius のOCT はコンマが少なくその代わりにセミコロンが多く、また不明箇所はそのままで
一般の読解には不向きなので、Barsby の校訂したLoebのテキストに従った。


Translated into Japanese by (c)Tomokazu Hanafusa 2011.8.31-2015.7.15

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