『浮かれ女盛衰記』読み替え集

(バルザック全集第13・14巻)


1. 読み替えとして示したものはすべて意訳であって直訳でも逐語訳でもない。フランス語の文法通りというわけでもない。
2 Grand Robert等を使ってできるだけ正しい意味に到達するよう努力をしたが、読み替えのほうが正しいことを保証するものではない。
3. 全部を原文で確かめたのではなく、一見して意味不明の個所だけを原文および英訳と比べたものである。
4 他にも読みにくい個所は多々あったが、何とか読めないこともないとして省いたか、原文や英訳を見ても意味不明だったかのいずれかである。
5. 日本語が古いか、文脈上、それだけではわかりにくいために、説明を加えただけの場合もある。
6. 言い換える個所の選択はあくまで私の個人的な判断であり、一回目に読んで理解が困難だった部分を意味する。
7. バルザックを読むには今出ている最新の仏和辞典よりは、20年前の古い仏和辞典の方が役に立つ。新しい辞書にはバルザックの使った言葉は古語として排除されてしまっていることが多い。
8 本文の訳者は原文の抽象名詞が大文字で始まると何でもかんでも『』に入れる癖があるが、『』はたいてい無意味である。これは原文の単語が大文字で始まっているという合図に過ぎない。
9. 本文の訳者の訳語で「南国」というのは、フランス文学者たちの間では「南仏」を意味するようである。
10. このページは寺田透氏の訳業を批判するものではない。全部を訳すことは、その訳を部分的に読み替えるよりも、はるかに困難なことだからである。

以下の構成は、頁数 上段 下段 元の文→読み替える文となっている。
 

バルザック全集第13巻

 

第一部 遊女はどんな愛し方をするか


7上 利害心は熱烈で、『無為』そのものにすでに屈託がある。

→ それぞれが自分のことにしか興味がなく、暇つぶしに来ている人たちさえも、自分のことに熱中している。

7下 美貌の点からいえば彼はオペラ座の舞踏会に色事を求めにやって来て、ちょうどあのフラスカチ在世当時玉ころがしの賭場で運のいい目を人々が心待ちにしていたのと同じように、色事を待ち設ける特別の人間の仲間に入れて差し支えない若者であったが、見たところ彼は当夜の自分に俗っぽい確信を持っているようだった。きっとオペラ座の仮装舞踏会のお定まりの筋書きとなっている例の登場者が三人あって、自分で役を持っているものにしか分からない三位一体もどきの神秘劇の主人公であるに違いなかった。こんなことを言うのは、「私、見たわよ」といいたいばかりにやって来る若い女性にとっても、田舎から出てきたものにとっても、経験を積んでいない若者にとっても、外国人にとっても、こういう場合のオペラ座は疲労と倦怠の宮殿の観があるに相違ないからである。

→ オペラ座の舞踏会にアバンチュールを求めてやって来る男たちはかなり例外的な存在たが、彼らは昔フラスカチの店があったころルーレットで大当たりすることを期待してやってきた男たちと同じぐらいに自信満々だった。男ぶりから見れば、彼はその例外的な人間のうちに含まれていたが、実際今夜の彼の様子は鼻持ちならないほどに自信満々だった。オペラ座の仮装舞踏会の出し物の一つとなる、登場人物が三人いるミステリーの主人公役を、彼はつとめることになるのである。しかしこのミステリーは、そこで自分の役を演じている当人にしか分からないものである。つまり、オペラ座は、ただ「見てきた」といいたいだけの若い夫人たちや、地方から来た人たち、経験の浅い若者たち、外国人たちにとっては、ただ疲れるだけで退屈な宮殿でしかないのである。

8上 この点に国民の精髄は赫奕(かくえき、光り輝くさま)と現れている。自分の幸福を隠しておきたい人々はそんなものの世話にはならずオペラ座の舞踏会に出かけられるし、またどうしても中に入らなければならないわけのある仮装人物はすぐさま外にでてしまう。

→ しかし、ここではフランス国民の本当の姿が赤裸々に現れる。逢引の約束を隠しておきたい男たちは、オペラ座の舞踏会に人知れず行くことが出来るし(直訳は「オペラ座に来ずにオペラ座に行くことが出来る」仮面のおかげで来たことが知られずに行けるということ)、仕方なくこの舞踏会に来なければならない男たちは、仮面をかぶって行き、すぐさまその場から立ち去るのである。

8下 この人間は女とよろしくやっている男ではあり得なかった。それならそれでじっくりとととのえられた幸福の目標(めじるし)となる赤か白か緑の、きまった標(しるし)を何かかならずつけているべきであった。

→ この男は女との逢引のためにここに来ているはずはなかった。もしそうなら、かなり前から準備しておいた逢引の合図、赤か白か緑の何か決まった印をつけているはずだったからである。

9下 わたしの従妹(いとこ)は察しがよかっただけで、磨きをかけることを知らなかったのね。私あのサルジーンの愛人っていう人と知りあいになってみたいわ。何かあの人の生活の中で、あの人の気を引いてみる手立てになるようなことがあったら言って頂戴

→ わたしの従姉妹は、あの男のよさは見抜いたけれど、あの男を一人前にしてやることは出来なかったのね。この色男の恋人がいったい誰なのか、わたし知りたいわ。あの男のことで何か知っていることはないの。教えてちょうだい。あの男を困らせてやりたいのよ

同 まあ、あなたがご自分の身分をどう決めようとご随意ですが。

→ あなたがこのうちのどれであるかはご自分で決めていただいて結構ですが。

10上 「いや、あなたの紋章には、帝政時代の侍従徽章だった鍵の形と金の蜜蜂の模様が入っているので、ネーグルプリッス・デスパール家生まれのあなたの奥さんは、大変口惜しがっていらっしゃるじゃありませんか・・・それにくらべると、この徽章の方が由緒もあるし、またなぜ、まあもうちょっとましなものか、侯爵夫人に説明していただくといいですよ。もし御存じなければね」そうリュシアンは語気するどく言った。「私だとおわかりになったとあっては、もう、あなたにお気をもませるわけにはいかなくなってしまったわ。それにあなたのおかげで私がどんなに気がひかれていたか、それもお話し出来ないじゃないの」とデスパール侯爵夫人は声をひそめて彼に言った。夫人は自分の以前見くびった男が身につけた人もなげな態度と腹のすわった振舞にすっかり驚いていた。「それじゃ奥さん、またとない私の好運を大事にさせておいてくださいませんか。こういういわくありげに自分の立場をぼかしたまま、奥さんの気持をとらえていられるというのは、私としちゃまたとない好運ですからね」

→ 「もしご存知でないなら、そこの侯爵夫人が教えてくれますよ。なぜって、このわたしの由緒ある紋章は、あなたが持っている紋章、その侍従の鍵と帝政の金の蜜蜂の紋章よりも少し上を行くというので、ネーグルプリッス・デスパール家生まれのあなたの奥さんは、おおいに悔しがっておられるということですからね」と鋭い調子でリュシアンは言った。
「あなたにわたしのことがばれてしまったからには、もうあなたを困らすことも出来ないし、わたしがあなたを見てどんなに困っているかお話しできなくなってしまいましたわ」とデスパール侯爵夫人は声をひそめて彼に言った。夫人は自分が以前見くびった男が身につけた人もなげな態度と腹のすわった振舞にすっかり驚いていた。「それなら、わたしは神秘のべールに包まれたままでいさせてください。奥さんにわたしのことを考えて頂けるなんて、めったにないことなのですから」

11下 あんたの棒倒し遊びにまじって、棒を倒してしまうぞ。

→ おまえのなわばりに入り込んでおまえの楽しみを台なしにしてくれるぞ。

16上 「わが親愛なるリュシアン君はオウィドスの『転身』の二の舞いを始めたね。

→ 「われらが親愛なるリュシアン君はオウィディウスの『転身物語』をまた始めたようだね。

17下 あの文学科学芸術政治の精華がさ」

→ 文学でも科学でも芸術でも政治でも、どの世界でもエリートで通るあの男は」

同 フローラはローマ共和国の世継ぎになってさ、この相続のおかげで国家は負債を片づけることが出来たくらいだ。

→ フローラはローマ共和国を自分の財産の相続人にした。そのおかけでローマは負債を片づけることが出来たくらいだ。

18下 わがニノンの家には貴族連中も遊びに来たろうし、われわれとしてはそこに芸術家を呼びたかった。いやだなどといったらその罰に命取りの記事を書いてやりゃよかったんだ。そうすればニノン二世は

→ そうすれば、現代のニノンの家には貴族連中も遊びに来たろうし、われわれなら、芸術家をそこに集めもしたことだろう。いやだと言ったら、致命的な記事を書いてやるといえば、彼らも集まったはずだ。そうすれば、この二代目ニノンは

同 知らないものなしでなけりゃ生み出せないんじゃないか」

→ すべてを知り尽くしたものでなければ生み出せないんじゃないかな」

19上 「君は続きものの百スーばかりの損をしたぜ」

→ 「それを記事にすれば百スーばかり稼げるところなのに、もったいないことをしたな」

19下 君らは彼女の家の戸をこじあけて、彼女にこうしてくれと頼みたいことが・・・」

→ 君らは彼女の家の戸をこじあけることもできるし、彼女に頼みごとをすることも出来るだろうが・・・」

20下 「じゃ浮き上がったんだ。わが友リュシアンは」

→ 「じゃあ、また浮かび上がってきたんだな。わが友リュシアンは」

同 彼は君にゃとても出来ない素早さで、あることをやってのけたのだ。

→ 彼は君にはとても出来ないことを素早くやってのけたのだ。

同 あの歳で身が固まるようでは、人間狂いがでるよ。

→ 人間、あの歳で身が固まるようでは、狂いがでるよ。

21上 だから身にまとったものはそういう風に格好が整っていなかったのに、彼らは様々な見物のうちでもっとも人を動かすもの、すなわち真実の恋によって魂を入れられた女が人目に見せるそれを見分けることができたのである。

→ それ故、女たちがあの醜い衣装に身を包んでいても、彼らはもっとも感動的な場面を見逃すことがなかった。それは真の愛情によって命を吹きこまれた女が他人に見せる表情である。

21下 不仕合わせにも彼女は、名を呼ばれるのを耳にした人のようにつと頭を向けると、そこに邪念を抱く人物を認めて

→ 不幸な彼女は、自分の名前が呼ばれると、はっとしてその方向に顔を向けてしまった。そして、そこに悪意に満ちた男の姿を認めると

23上 あの魔法の散歩道でさえ

→ あの楽しい散歩道でさえ

同 そちこちの『抜け道』に見られる便法を利用しそこなった警察は

→ あちこちのわき道の活用に失敗した警察は

24下 階段の踊り場ごとに一つ一つ汚水盤が目じるしについている。

→ 階段の踊り場にたどり着いたことは、そこにある汚水桶の臭いで分かるのである。

同 この界隈の役目は、とても『商業』に向かず、ただ、その時きりのものか、または何の品位もないような、自分のものとは認めてもらえない商売の利用を待つだけが能の、この家と似たりよったりの家の相当沢山存在していることから説明できるのである。

→ この地域の存在理由は、この建物とよく似た建物がたくさんあることから容易に推測できる。こうした建物は商業には向いていず、ただ、人が白い目で見るような職業、束の間の商売、下品な職業についている人たちに使われているだけだった。

同 午後の三時に、相談をすませたところだった。その娘はどこか遊びの集まりに出かけようとして馬車に乗る前に、エステルについての気がかりを門番のかみさんに打ち明けたのだ。彼女はエステルが身動きする音をきかなかったというのである。

→ 午後三時ごろに、話をしてきたところだった。娘はパーティーに行こうとして馬車で出かけるところだったが、エステルについて気掛かりなことを門番のかみさんに打ち明けたのだ。彼女はエステルが動く気配がないというのである。

25下 オペラ座から帰った後ですべての処置をしたに違いない。

→ オペラ座から帰ってから、これらすべてをやってのけたに違いない。

同 涙でしめった鼻かみが

→ 涙でしめったハンカチが

同 拭きこまれて冷やかな部屋の赤い床は

→ 部屋の拭きこまれて冷やかな赤い床は

同 その絶望の昔ゆかしい姿は

→ 彼女の月並みな姿勢は

26下 少なくも迷えるこの生き物は、かような貧しさを富裕な青年に対する恋の伴侶としている以上、欲心を持っていないにちがいない。

→ 恋人が金持ちなのにこんなに貧しい暮らしをしているとは、この哀れな女はよほど欲がないに違いない。

同 「恋心がよみがえれば、女も間近かだ」

→ 「恋心が戻ってきた。気がついたらしい」

28上 「ああ、あの人はこんなことをしでかしはしないかとお気がついたんだわ」「いや、心配なのはあんたの生命であって、死じゃない。さあ、あんたたちの関係を説明して御覧」と彼は答えた。「じゃ、ひとこと」・・・「リュシアンはリュシアンです。二人とない美しい青年で、あらゆる生身の人間のうちで一番いい人です」

→ 「ああ、あの人はわたしがこんなことをしでかしやしないかと心配したのね」「いや、あたしが知りたいのはあんたが死ぬかどうかでなく、あんたがどんな暮らしぶりをしているかなのだ。さあ、二人の関係を説明してごらん」と彼は答えた。「一言で言えば」・・・「リュシアンはリュシアン、つまり二人といない美青年で、この世で最高の人ですわ」

28下 わたし、四月には満十九になりますが、この歳になれば手立てができるのです。

→ わたしはこの四月でまだ十九です。この歳ならまだやり直しが利くのです。

30下 それは希望はないが生命を吹き込むような愛、生命に献身の本義を植え付けるような愛、理想的な完成の域に達しようという一念からいっさいの行為を高貴にするような愛だ。

→ それは希望を捨てた愛だ。その時、愛は人生に精気を与え、その時、愛は献身の素晴らしさを知り、その時、愛は完璧な理想に近づこうと願うことで、すべての行為を高貴なものにする。

31上 彼が心のうちに残虐な嫉妬心をあたためていればそれに対する認識まで隠そうとし

→ 彼がおまえの心の中にかき立てる激しい嫉妬心さえも、彼には気づかれないようにして

32上 彼女たちは、ある点で彼女らに比較できる今日の文芸批評家に似ている。

→ 彼女たちは、今日の文芸批評家たちと似ている。彼らは、ある点で娼婦たちに譬えることが出来るのである。

33上 あんたはけさオペラ座であんたに恥辱を与えた連中と絶交したが、あれ以上きっぱり、仲間と絶交するわけには行かなかったにちがいない。

→ あんたは今朝オペラ座で、あんたに恥をかかせた連中と絶交したけれど、自分の商売仲間と手を切るとなると、あんなにきっぱりとは行かないにはずだ。

34下 この魅力あふれる女に負けまいとすることがどんなにむずかしいことかもわかった。そして、リュシアンの愛欲と、この詩人を誘惑したにちがいないものが立ちどころに推察された。かように情熱には、幾多の餌がついているものだが、そのかげに、槍のようにとがった釣針が隠されていて、これがとりわけ芸術家の高揚した魂を刺すのである。こういう情熱は、有象無象には説明がつかないけれど、想像する存在の特徴であるあの理想の美に対する渇望をかりて説明すれば、遺憾なく説明できる。かような生き物を清めるということは、罪あるものをよりよい感情に連れ戻すのがつとめの天使にやや似るということではなかろうか。想像することではなかろうか。精神の美と肉体の美の調和をはかるということはなんという好餌のいざないであろうか。成功し得た暁には、なんという自尊心の喜びを味わえることだろう。愛のほかに何の道具もないこの仕事は何と美しい仕事であろう。

→ 彼は、この女性の魅力に抵抗するのがいかに困難かを理解した。彼は突然ルシアンの愛情を理解した。そして、この詩人の魂を魅惑したに違いないものの存在を理解した。この種の情熱は、多くの魅力がある反面、特に芸術家の高貴な魂を突き刺す尖った針を含んでいる。このような情熱は俗人には理解しがたいものであるが、創造的な魂の特徴である理想の美に対する渇望によって、完璧に説明できる。それは罪人を高貴な感情に導こうとする天使の仕事にいくらか似ているのではないだろうか。このような者を清めることは、創造的なことではないだろうか。肉体的な美と精神的な美を調和させること以上に、魅力的なことはない。これに成功すること以上に、自尊心にとっての大きな喜びはない。愛よりほかに何の手段も用いることのないこの仕事以上に美しいものはないのである。

36上 不幸にも知られたことをあらわに示すようなことがあれば

→ おまえが知っていることであれ、人に知られていることであれ、おまえの不幸につながるようなことを漏らすようなことがあれば、

39上 まだ色香があるのだ。
→ 彼女にはまだ清らかさがあったのだ。

同 たとえようもない上品さを持った彼女の両の手は二番目の子供を生んだ女の手のように白く、柔らかく、透きとおっていた。

→ たとえようのなく品のいい彼女の手は、二番目の子供を産んだばかりの女の手のように、柔らかくて透き通るような白さをしていた。

40上 本能とは、やむなく課せられた必要の中に原因が横たわっている、生きた事実である。動物の変種は、かかる本能の行使の結果である。

→ 本能とは、生き生きとした現実の行為として現れるものである。そして、その行為の原因は過去に体験した必要性の中に存在する。動物にさまざまな種類があるのは、このような本能の働きの結果である。

同 不逞の小羊

→ 頑固な小羊

40下 その目差しはすさまじい悩殺の力をおよぼすだけでなく、

→ その眼差しは決してすごい魅力を持っているわけではなく、

同 彼女にそなわったものはすべて、燃える砂漠の仙女らしい彼女の性質と調和がとれていた。

→ 彼女は何から何まで、ペルシャ神話に登場する灼熱の砂漠の妖精ペリにそっくりだった。

41下 それは山上のイェフタの舞台面とは逆の舞台面だった。

→ それはイェフタの娘(土師記11)が処女のまま死ぬことを嘆いた山上の場面とは、まったく正反対だった。

同 彼女もまた心にその身をさいなむ愛欲を、異様な愛欲を抱いているのだった。

→ しかし、また彼女は、その身をさいなむ恋心を、不思議な恋心を胸に抱いているのだった。

42上 彼女が自分で自分のために作りだそうとしている新しい記憶力の努力もまたそのために役立った。というのは彼女には学ばねばならぬことと忘れねばならぬことが同じくらいあったのだ。われわれのうちには数々の記憶力が存している。肉体と精神はそれぞれの記憶力を持っている。たとえば懐郷症のごときは肉体的記憶力の病気である。

→ 新しい思い出を作ろうとする彼女の努力もまた、このために役立った。彼女には新たに覚えたいことと同じくらいにたくさんの忘れたいことがあったからである。思い出にはさまざまな種類がある。心だけでなく肉体にも思い出があるのだ。たとえば、ホームシックは、肉体の持つ記憶力がひきおこす病気である。

42下 あたかも医師と作家、司祭と政治家が猜疑などは超越したものでないかのように、科学が主題をあまりに無道徳且有害なものと見なして、検討を軽んじている情況にあっては、すべてが疑問であり、闇黒である。とはいえ死の手にはばまれたある医者が、勇敢にも研究にとりかかり、これを未完成のまま残したことはある。

→ すべてが不確かであいまいだった。しかし、このような問題を扱うことはあまりにも不道徳かつ不名誉なことだった。そんなことをすれば、医師も作家も司祭も政治家もみな疑わしい存在となってしまう。だから科学はこのような問題をあえて扱おうとはしないのである。もっとも、ある医者が勇敢にもこの問題の研究に取り組んだことはある。しかし、それも彼の死によって、未完成のままに終わった。

44上 倦厭の餌食となっているのを見て

→ 憔悴の餌食となっているのを見て

48上 マザランは、団結し、武装し、ときには凱歌をあげたこともある『有産市民』と『貴族』に排斥され、王権もそれらに追われて蒙塵しはしたが、しかしこのアンヌ・ドートリッシュの家臣は

→ 一方、マザランは、団結して武装した有産市民と貴族たちに何度も敗れて、王とともに国外に退去したが、その後このアンヌ・ドートリッジ(ルイ十四世の母)の忠臣は

49下 彼らはラファエロの轍を踏む。美しい昆虫の例にならう。彼らはFornarina(粉屋の娘)のかたえに死ぬのである。

→ 彼らはラファエロと同じように、美しい昆虫のように、フォルナリーナ(ラファエロの愛人、パン屋の娘、彼による絵が現存する。67頁に再出)のそばで命果てるのである。

51下 わしは君の利益のたとえば筋金のようなものになって上げよう

→ わしは君の利益のために、いわば筋金のようなものになって上げよう

54上 君はふとっちょのカロリーヌ・ベルフーイユおかみの貸間を知っているだろう

→ 君はふとっちょのカロリーヌ・ベルフーイユがいた貸間を知っているだろう

同 わしは、その住まいを居抜きのまま買い取らせた。

→ わしはその住まいを家具付きで買い取った。

55上 贋司祭の秘密に対して投ぜられたこの仄めかしが、もしエステルほどの忠実でないものの目にとまったら、リュシアンは永久に滅びてしまったかも知れない。

→ 贋司祭の秘密に対するこの仄めかしが、もし献身的なエステル以外の耳に入ったら、ルシアンは一巻の終わりだったろう。

56上 「女にそんな秘密を・・・」と彼はその耳にささやいた。「エステルが、女だって・・・」と『雛菊』の著者が叫んだ。

→ 「女の前でそんな秘密を・・・」とカルロスはリュシアンの耳にささやいた。「女って、エステルのことかい」と『雛菊』の詩人リュシアンが叫んだ。

同 女にはかならず、猿でありつつ同時に子供だという場合が時々あるのだ。つまり笑いたいばかりに我々を殺してしまう二色の生き物になることがな」

→ 女というものはだれでも、猿と子供を混ぜ合わせたようなものになる時があるのだ。そんなときには、かれらは面白半分に男たちを破滅に追い込んでしまう」

56下 そうすれば、家に豪勢な趣がそわるというものだ。ヨーロッパとアジアがいれば、

→ そうすれば、家に豪勢な趣がそなわるというものだ。ユーロプとアジがいれば、

57上 「情けない話だけど、ねえ、いいかい。僕をつかまえる死の手はどんな死にざまとも比較にならないんだ。もし・・・」

→ 「ああ、そうなったときのぼくの死に様は、どんな死に様とも比較にならない悲惨なものになるだろう」

58上 イタリア人の天稟をかりればオテッロの物語を作ろうと考えつくことも出来るし、イギリス人の天稟をもってすればそれを舞台にのぼせることが出来る。が、嫉妬の表現におけるイギリス、イタリアにもまさった豪壮完璧さをただ一閃の目差しに示しうる権利は自然のみが持つ。

→ イタリアの天才はオセロを物語にしたし、イギリスの天才はそれを劇にして見せた。しかし、嫉妬の感情をイタリアにもイギリスにも優るほど、見事なまでに完ぺきに一瞥の中に表現する力を生まれつき持っている者がいる。

58下 ヨーロッパはアジアと申し分のない対照をなしていた。というのは彼女は、これまでモンローズが舞台の上で競争相手に欲しいと思った腰元役の中でも右に出るもののないおとなしやかな腰元役だったのである。すんなりしていて、見たところぼんやりして、いたちのようなご面相で、鼻のねじくれたヨーロッパの顔つきを観察すると、バリの腐敗堕落に疲れた顔つき、生のジャガ薯を食って命をつなぐ、淋巴質で筋っぽく、しまりがなくてしつこい水商売の女特有の色つやの悪い顔つきを見せていた。小さな片足を突きだして、前垂れのかくしに手をつっこんだ彼女は、じっとしていてもぴちぴちしていた。

→ ユーロプはアジとは対照的だった。彼女は女優モンローズが芝居の相手役に欲しがるほどかわいらしい女中姿をしていた。細身で、一見そそっかしく、イタチのような顔に、ちょこんと付いた小さな鼻をもっていたのだ。しかしよく見ると、ユーロプはパリの退廃した生活に疲れたような表情をしていた。リンゴをかじって大きくなった女に特有の青白い顔色をしており、リンパ質で筋張っていて、見たところ弱そうだが意固地なところがあった。かわいい足を片方前に出し、両手をエプロンのポケットに突っ込んで、動かないときでもそわそわと落ち着きがなかった。

59上すべて闇の女の収容所に入った女のご多分にもれず邪悪な彼女は、親のものを盗んだかも知れなかったし、軽罪裁判所の被告席とも縁があったかも知れない。アジアは大なる恐怖を催させたが、すぐどんな女かわかってしまうような女だった。彼女はロクスタ直系の苗裔だった。

→ 彼女は、刑務所帰りの女たちの悪徳をすべて身に付けたような女で、自分の親に盗みを働いて警察のお世話になったこともあっただろう。アジは見るからに恐ろしい女だったが、その本性を見抜くことは簡単だった。彼女は毒薬の名手ロクュスタの生まれ変わりなのだ。

 
同 人に山狩りさせることの出来るような女

→ 至る所で不和の種をまいて歩くような女

59下 この方のことは、復讐を扱うのと同じように大切にお世話申し上げるのだ。

→ おまえは復讐心を大切にするだろう。それと同じぐらいにこの方のことを大切にお仕え申すのだ。

60上 わし流の御者だ

→ わしが雇った御者だ。

61上 頭の骨の突起の大きい人間には分別がある。あんたには愛欲の突起がある。

→ 人間の頭の良さが生まれつきで決まるように、あなたの恋愛の才能も生まれつきなのだ。

65上 「彼らは仕合わせだった」というこの言葉が、あらゆる恋のいきさつの結びとなっているのである。

→ 「二人は仕合わせに暮らしました」という言葉で、あらゆる恋の冒険は終わりを告げるのである。

71上 餌のない熱情を燃やすのは危険ですな。

→ 満たされない熱情に身を焦がすのは危険ですね。

72上 Ouid me continebit?

→ Quid me continebit?

73下 さあ、救命板の上で喋々喃々しておいで。

→ さあ、おまえは自分の頼みの綱である女といちゃついて来るがいい。

76上 だからすぐ鼻の先にあれを片づける時が来たので、嬉しくてたまらないのだ

→ だから、あれを片づける時がすぐ鼻の先に来たので、あんたは嬉しくてたまらないのだ

76上 『教会』

→ カトリック教会

77下 詩的にこれを具現したものを『悪魔』と呼ぶ『悪』は、このなかば女のような男に対して、取りわけ心そそるお手のものの誘惑力を働かせ、

→ 悪を詩的に表現したものが悪魔と呼ばれるものである。この悪の権化たる男は、半分女の様なこの男を、けっして抵抗できない方法で誘惑して、

78上 グランリュー家は前世紀の中葉二家に分かれた。一つは当主の公爵に娘しかなかったために、断絶のやむなきに至った公爵家、もうひとつはグランリュー子爵家で、これが宗家の称号と紋所を継承することになっていた。

→ グランリュー家は前世紀の中ごろに二つの家に分かれた。一つの家は公爵家だが、当主の公爵には娘しかないために断絶することが決まっている。もう一つの家はグランリュー子爵家であり、この家が宗家の称号と紋所を継承することになっている。

78下 『王兄殿下』

→ 王弟殿下

81下 老公爵からこの厚意にだけはあずかることは出来なかった。

→ 老公爵からこの厚意を勝ち取ることは出来なかった。

83下 例の植民地的資源

→ 植民地生まれの方法

85下 ボーヴァンやセルジーがグランヴィルさんを支持し、グランヴィルさんの意見で、司法大臣の意見が代わったのです。双方とも『裁判新聞』と、世間の非難に辟易して、引きさがったのです。

→ ボーヴァンやセルジーが支持したグランヴィルさんの意見によって、司法大臣の考えが変わったのです。侯爵夫人も大臣も両方とも『裁判新聞』と世論の非難を恐れて引き下がったのです。

86上 セリジーさんの奥さんが、お二人に、あなた方がその情報の出所をうっかり気取らせたので、このわたしの身が危うくなっているとお話しくださったのです。

→ あの人たちがその情報の出所がわたしであることを気づかせてしまったたために、わたしの身が危うくなったことを、セリジーさんの奥さんがあの人たちに話して下さったのです。

同 お父さんとお子さん二人が家であなたをもてはやせば

→ お父さんとそのお子さんたち二人がここであなたのことを褒めちぎれば

80下86上他 サン=トマ=ダカン

→ 聖トマス・アキナス教会

88下 自分でつっつくと

→ それで自分をひと突きすれば

89上 この意思表示の真実さと語調動作の純真さは、相互にくらべる以外比べようのないものだった。

→ この意思表示が真実であることは、その話しぶりや態度を見れば明らかだった。

89下 「女房が二巻物だなんて何たる損害だろう」

→ 「自分の女房が、すぐに飽きのくる薄っぺらい二巻物の書物のようだと気がつくのは、何と情けないことだろう」

93上 ある日のこと、外国人の一団がニュートンに会おうとすると、ちょうどニュートンはビューティという名の飼い犬の一匹に一生懸命薬を塗っているところだった。人も知る通り、その犬は彼の厖大な労作を烏有に帰さしめた犬だったが、彼女(ビューティは牝犬だった)に彼はただこう言ったきりだった。『ああ、ビューティ、お前にはわからんのだろう、お前が台なしにしたものがどんなものか・・・』外国人たちはこの偉人の仕事に敬意を表して立ち去った。

→ ある時、物理学者のニュートンを外国人の一団が訪れたことがあった。しかし、ちょうどその時ニュートンはビューティーという名の飼い犬に薬をぬっていて手が離せなかった。その雌犬は、彼の膨大な仕事を台なしにした時に、主人から「おまえが何を台なしにしたかはおまえには分からないからな」としか言われなかったことで有名だった。外国人たちはこの偉人の苦労に敬意を表してすぐにその場を立ち去ったという。

99下 一八一六年当時は裁判長トリ氏の冠り物と同じような、市警察隊の三角帽を

→ 一八一六年当時には、裁判長トリ氏の冠り物と同じような市警察隊の三角帽を

同 その帽子は老人には貴重なものだったが、ほんのちょっと前から、あえてさからうもののいないあのあさましい山高帽に代えられた

→ その帽子は老人には貴重なものだったが、ほんのちょっと前から、あの浅ましい山高帽に代えていた。この帽子の流行に逆らえるものなどいなかったのである。

100上 ダビッドでは、悪行にあやされ、おさまりかえったこの老人の、観察家らしい額や皮肉な口許や冷やかな目を仔細に調べるものが一人もいなかったのだ。それに彼のおさまりようと来ては、皇帝然とした腹がいわば輪廻にも似て、何度でも飛び出したというウィテリウス帝のようだった。

→ この老人は、生まれついての悪(わる)だったのだ。しかし、彼の何事も見落とさない聡明な額と皮肉に満ちた口元と冷淡な目つきに気づくものは、このコーヒー店ダビッドには一人もいなかった。しかし、彼の落ち着き払った様子はローマ皇帝ウィテリウスさながらだった。彼の堂々とした腹は皇帝然としており、まるでウィテリウスの生まれ変わりとでも言える程だったのである。

101上 その証明が必要ではなかろうか。

→ その説明が必要ではなかろうか。

同 実際、彼は、ラ・ペイラードという小さな土地を今でも持っているヴォークリューズ伯爵領在住の由緒はあるが貧乏な家族のラ・ペイラード家の分家筋の一員だった。

→ 実際、彼はラ・ペイラード家の分家筋の一員だった。この一族は今でもラ・ペイラードという小さな地所を持つ、歴史はあるが貧しい一族である。

同 その当時相当広く行われた探偵行為は

→ その当時かなり広範に実施されたスパイ行為は

101下 一八〇九年の野戦軍引揚げに際して

→ 一八〇九年の遠征からの引き上げの時に

102上 自分の使う人間を作り出す力量が自分には十分にあるという自信を抱いていた皇帝は、

→ 必要な人間の都合をつけることぐらい自分には簡単にできると信じていた皇帝は、

同 隠密の精霊

→ 無名だが有能な者たち

102下 女に関するかぎり、珍味の好きな饅頭屋と同じ立場にあったから、なおさらひどい深傷を負った。

→ 菓子屋がお菓子に目がないように、彼は女には目がなかったから、よけいにこのときの痛手は大きかった。

102下 美食、勝負事、たくましい能力を持ちながら慰み事がなくてはいられないと言った人々がだれしも惑溺する、地味な王侯のような暮らしをすること、こういうことなしではすまなかった。それにまた彼は当時まで、頭からかぶりつくような食べ方をして、決して見えを張るのではなかったが、大々と暮らしていた。というのは彼に対してもまたその友のコランタンに対しても、勘定をしてもらいたいなどというものはなかったからである。

→ 彼は美食とギャンブルなしには生きていけなかった。要するに、地味ではあったが大貴族の様な生活をしていたのだ。そういう暮らしは、権勢家や派手な娯楽を欠かせない人たちが耽溺するようなものだった。おまけに、それまでの彼は、まったく体裁を構う必要がなかったので派手な暮らし方をしていて、入ったものは全部つかってしてしまっていた。友人のコランタンや彼からお返しをあてにする人などなかったからである。

同 『社会状態』

→ 社会的な身分や境遇

103上 ルノワールの旧授業生たるかどをもって

→ かつてルノワール(101頁初出)の秘蔵っ子だったよしみで

同 彼は一人の人間を捕まえる釣針代わりに、自分の教え子に、彼を軽蔑している情人を無理に利用させたことがある。

→ この弟子が愛する女に馬鹿にされていると、ペイラードはある男を捕まえる釣り針として、彼にその女を使わざるを得ないようにしてやった。

105下 とうとう彼は、遅かれ早かれその必要が感ぜられるようになる、というのは彼のコランタンに対する曰くだが、一つの地位をお手盛りで作り出した。

→ とうとう彼は一つの職を思いついた。遅かれ早かれそのような職が必要とされるようになると、彼はコランタンに話していた。

同 王国警務総督に話をしてあったが、南国人であった統監は、提案を『庁』から提出させる必要があると考えているのであった。

→ 王国警務府の長官に話してあったが、南仏人である長官は、この提案は警視庁から提出させる必要があると考えていた。

106上 サン=トレノの町筋をたどりながら彼はこう心の中で言った。

→ 彼はサン・トレノ通りに出ると、通りに沿ってゆっくりと歩きながら、つぎようにつぶやいた。

112上 事件を研究しないうちは、良心買収の見積りを作るわけにはいきません。

→ まず事件をよく調べないといけません。それまでは買収資金がどれほどいるか見当もつきません。

112下 「率直さだけが、われわれのやり取りの出来る贈り物として少々新しいものですからな」

→ 「率直さだけが、われわれがやり取りできるただ一つ、それほど汚れていないものですからね」

114下 「それそれ、おいでなすった・・・」・・・「きのうはあんなにこわがったことを、きょうは、もしかすると実現しないんじゃないかと心配している。

「やっと分かってきたな・・・」・・・「昨日はあんなに嫌がっていたのに、今日はそれがうまく行かなかったどうしようと心配している。

同 君はあのぶおんなを隠しておくことが出来なかったじゃないか。

→ まったく、君はブス一人隠しておくことも出来ない男なのさ。

同 あのお人形が振られた役をしおおせたら、わしは確実な人間を案内につけて、ローマかマドリードへやるつもりでいる。そこどあれは好きに男狂いするだろうよ」

→ あの女は、今度の芝居が終わったら、誰か確かな人間を案内につけて、ロンドンかマドリードにやって楽しんでこさせよう」

同 「ほんのしばらくの間だけあれはわれわれのものでいるというなら、それで通そう・・・」とリュシアンは言った。「いいから、君、おもしろく遊びたまえ・・・あすになればその先また一日出来るというものだ。

→ 「あの女とのつきあいはほんのしばらくの間だから、あの女の元に帰るとするか・・・」とリュシアンは言った。「さあ、楽しんでおいで。おまえも明日になればまた一日分年をとるんだから。

115上 「目をつけられるな。それにしても誰からか。・・・」とカルロスは言った。「もうルシャール、あの身柄拘束状執行官を使っています」

→ 「われわれは見張られているぞ。それにしても、いったい誰だろう・・・」とカルロスは言った。「あの債務不履行者捕吏のルシャールがもうすでに動いています」

同 「牧場の仲間です・・・私はきのうラ・プーライユを見掛けました・・・奴はある一家をひやっこくして、五球のお鳥目を一万個手に入れたんです。・・・金無垢でね」

→ 「われわれのむしょ仲間ですよ。わたしはきのうラプラーユを見かけました。一家皆殺しにして、五万フランを手にしています・・・それも金貨で。」

116上 勇士の飲み物という獅子身中の虫さえなければ

→ 勇士の飲み物、すなわち焼酎に目がないという弱点さえなければ、

同 夜だけ飲んで、火の手の先を廻る覚悟を決めさせる

→ 酒は夜だけに限ることで損失を最小限に食い止める決心をさせる

116下 家に戻るとパカールはダンチッヒ出の腹のでっかい粘土細工みたいな女がちびちびと注ぐ黄金水をあおりつけた。

→ 家に帰るとパカールは、ダンチッヒ製の腹が突き出た娘の姿をした陶器のボトルからちびりちびりと注いで、琥珀色の酒を飲んだ。

117下 また、セリジー夫人現在のねんごろなお気に入りなのです。

→ また、現在セリジー夫人のねんごろなお気に入りなのです。

118上 小間使にはパカールと言って、別当をしている大男の仲良しがあるんですが、こいつは

→ 小間使いの女は、パカールという名前の、背の高い馬丁と仲がいいのですが、この男は・・・。

118下 ファン・ボグセック夫人の

→ ヴァン・ボグセックさんの(59頁に既出)

119上 鷹揚さの面汚しというものだ。

→ 気前のよさも、ここまでするとやり過ぎだった。

120下「失礼、奥ザン・・・」と銀行家は大声を出した。そして夫人を、二人命名別になった居室のはずれのその向こうまで連れていって、会談を間違いなく妻にきかれないようにしようとした。

→ 「じゃあ、奥さんご機嫌よう・・・」と銀行家は大きな声を出しながら、自分たちの内緒話が聞かれないように、妻を彼女の個室の中に押し込んだ。

122上 至高の時を待っているうちに財産を失う羽目になった場合にもまさって、彼は興奮してきた。

→ 至高の時を待ちながら、彼の胸は、全財産が危機に瀕した場合よりも激しく高鳴った。

124下 ラスチニャックはずいぶん前からヌッシンゲン夫人を持て余しているが、そのラスチニャックを喜ばせるために、自分は彼の代わりに一人の色女を隠すマントの役をしてやることを承知したと、な。ところがラスチニャックが隠している女(こういうとあの人はきっと笑うだろうが)、それにヌッシンゲン氏がすっかり惚れてしまって、君の様子を探るために『警察』を使おうという料簡を起こした、いいかい、君の様子をだよ、あの同郷の男たちの悪い所業にかかり合なんぞない君の様子をだよ。そこで君のグランリュー家における利益にまで累がおよぶ惧れがあるというわけだ。ついては、警視庁へ行きたいので、国務大臣をしている御主人のお口添えを頂きたいと

→ ラスチニャックはずっと前からもうヌッシンゲン夫人には飽きが来ている。おまえは彼に気に入られたくて、彼の新しい女を隠してやっている。ところがラスチニャックのこの隠し女に、ヌッシンゲン氏がひどく惚れ込んでしまった(ここはセリジー夫人が笑うところだ)。そのために、氏は警察権力を使っておまえのことを調べさせるという思い切った手段に出た。しかし、この浮気の責任はあの同郷人ラスチニャックにあるのであって、おまえには何の罪もないのだ。さらにそんなことをされたら、グランリュー家におけるおまえの評判に傷がついてしまう。ついては、警視庁に行きたいので、国務大臣をしているご主人のお口添えを頂きたいと

同 どんな見事な機械でも油のしみをつけたり、はねをかけたりするものだが、ごく当然の場合でなくちゃ腹を立ててはいけない。

→ どんな見事な機械でも、油のしみぐらいはついているものだ。さもなきゃ、きしみが出てくるからな。だから、おまえの方に完全な正義がなければ、怒りだしたれしてはいけない。

125上 当時の総監は元司法官をしていた男だった。元司法官でも警視総監になるとはなはだしく若すぎる。『法律』がしみ込んでいて、『合法性』に馬乗りになっている彼らは、火を消す任務の消防手の行動そのままの行動を警視庁が当然とらねばならない火急の場合に間々必要となる『独断専行』に、すばやく着手することが出来ない。参議院副議長たるセリジー氏のいる前で、総督は警察の不都合を実際以上に認め、職権乱用を慨嘆し、さてそれからヌッシンゲン男爵の訪問を受けたこと、その際男爵がペイラードに関して問い合わせをしたことを思い出した。

→ その時の総監は裁判官上がりの男だった。警視総督には裁判官の経験者がかなり若くして就任することになっていたのである。彼らは骨の髄まで法律がしみ込んでいて、法律の適用に対して非常に厳格だった。緊急事態における警視庁には、消火活動に当たる消防士と同じく、しばしば自由な裁量権が与えられるものだが、彼らはなかなかそこまで踏み込めないのである。彼は国務院副議長を前にして、必要以上に警察の不祥事を認め、職権乱用を嘆きながら、ヌッシンゲン男爵が訪れて、ペイラードについての調査を要求したことを思い出していた。

126下 「奴は相手をえらばず精算する、俺たちに対してさえそうだ。だが俺は仇を取ってやるぞ」

→ 「奴は自分の利益のためなら誰でもかでも売る男なのだ。おれたちさえも売ったんだ。しかしこの落とし前はさせてもらう」

127上 すぐと忠義者のコンタンソンの姿が、警察の両地霊の前に現れた。二人を彼は二個の精霊に等しく崇拝していた。

→ 一瞬の後、この忠実なコンタンソンは、二人の警察の鬼たちの前に現れた。彼はこの二人を天才として崇めていた。

127下 「ことの次第はこうなんです」とコンタンソンは始めた。「わたしゃ際限なくいろんな盛っ切りを頂戴して、その代をジョルジュに払わせた上、泥まで吐かせたんです。奴はそれで酔っ払っちまいましたが、私と来たら、こりゃ、当然底抜けのありさまなんで。男爵の奴さん、トルコの奥御殿の丸薬をつめ込んで、テーブー通りへ行ったんですよ。

→ 「今の状況はこういう具合になっています。わたしはジョルジュの奴にあらゆる種類の酒をおごらせながら、しゃべらせてきました。いま奴はいい調子ですよ。わたしも当然もうべろんべろんに酔っていますが。男爵はトルコの奥御殿の丸薬をつめ込んで、テーブー通りに行ったそうです。

128下 「わらじ虫にならなきゃならんですよ」とコンタンソンが言った。「もっともだ

→ 「わらじ虫のようにやらなきゃならないようですね」とコンタンソンが言った。「そのとおりだ

129上 「いまの文句を研究してみようじゃないか

→ 「いまの意見をよく検討してみよう

同 「ヌッシンゲンの旦那は、血をとるがいいですよ。血の管に千フラン札が入りすぎているから・・・」

→ 「ヌッシンゲンの旦那は、金を絞り取るには格好の標的ですよ。体中にお札が充満してますから。・・・

同 「コンタンソン、俺たちは行こう。おやじは・・・アード。・・・あすまで眠らせといて」「一つおききしますが、おやじさん、一体どんな奇天烈な両替商をおっぱじめるでしょうかね」とコンタンソンは玄関の降り口のところでコランタンに言った。

→ 「コンタンソン、俺たちは行こう。おやじさんは明日まで休んでもらおう」「おやじさんはなんと妙な取り引きを考えついたもんですね」とコンタンソンは戸口のところでコランタンに言った。

同 「大したもんだ。お前たちの出来具合と来ちゃ、まったく。・・お前の耳は何という耳だろう。」とコランタンはコンタンソンに言った。「たしかに『社会的自然』は、自分のやらせたい仕事になくちゃならない特質を、『種』の一つ一つに付与しているんだな。『社会』っていうのは、これまた一つの『自然』なのだ」

→ 「まったく、おまえって男は、大したやつだよ。まったく地獄耳だな」とコランタンはコンタンソンに言った。「社会の中にはいろんな種類の人間がいて、それぞれ自分の役割に必要な能力をちゃんと備えているものなのさ。まったく社会というものは自然そのものなんだよ」

130下 受領仕り候

→ 引き受けいたし候

同 『受領仕り候』という言葉は為替手形の形式であって、民事拘束の厄にあわせるのである。この言葉のために、それにうかうか署名した人間は五年の禁錮を受けるに至る。

→ 「引き受けいたし候」という言葉は為替手形で使われる言葉で、債務不履行者に身柄の拘束を課すものである。つまり、へたに署名すると禁固五年の憂き目を見ることになる。
(デトュールニがエステルに対する債権者=手形の振出人、エステルは債務者=手形り引受人=支払人、セリゼがデトュールニの代理の受取人、カルロスが支払いを立て代えた形で取り立て人となり、エステルから取り立てる)

131下 『新聞出版界』がシャルル十世の政府に対して行った闘争の際、敢然と処罰を受けたので、この男に対して自由主義政党はその埋め合わせをつけてやろうと考えていた。

→ 新聞出版界がシャルル十世の政府と戦っていたとき、この男は政府に課せられた罰に敢然として服したので、自由主義政党はこの男になんとかその埋め合わせをしてやろうとしていた。

132上 管理責任者

→ ある新聞の発行責任者

同 『広告欄』になんでも出来るし心得ないものなしだと広告を出すあの召使いによく似たものなのである。

→ 広告のちらしに「なんでも出来ます。なんでも分かります」と広告を出すたぐいの召使いによく似たものなのである。

同 セリゼ商会に関する情報を得ると、カルロスは、そこに例の財産を作ろう、しかし、・・・合法的につくろうと腹をきめているくすんだ人間を認めた。デトゥールニの真の保管者だったセリゼは、多額の寄託金を預かっており、当時それが取引所で、『値上り』を見せていたため、セリゼが銀行家と自称することは差し支えなかった。

→ セリゼ商会のことを調べてみると、その経営者はごく地味な男で、「一財産作ろう、しかし、まじめな方法で」と考えている男だということが分かった。デトゥールニが自分の財産をこのセリゼに預けていたというのは本当だった。そのおかげでセリゼは大金持ちだった。しかもそれが株式市場で値上がり基調だったため、セリゼは銀行家を気取るほどだった。

132下 彼は、このデトゥールニなる立派な人間の秘密をすっかり握ってしまって

→ 彼は、このデトゥールニの立派な協力者の秘密をすっかり握ってしまって

同 『説教』に行く清教徒にひけをとらぬほど

→ 教会に説教を聞きに行く清教徒もかくやと思われるほど

134上 この有価証券はあなたがデトュールニ氏に対して受け取りの署名をしたものだが、

→ この有価証券はあなたがデトュールニ氏の名前で受け取りの署名をしたものだが、

同 原告側の執行官

→ 告訴する執行官

同 「あいつが唯で持って行けるインド行きの船荷の代金を、私に要求するようなことがあっても、もう驚くこっちゃないぞ」

→ 「あいつがインドとの遠国取引を始められるような金を私に要求してきているのも不思議ではないわけだ」

134下 『忠実』

→ 誠実さ

同 この泥んこの魂に

→ この男の泥にまみれた心の中に、

135上 こうした強情な親族だの、実はちびちびやって行きたいのだが、その場の必要やあるいは何かいわゆる不名誉なことに当面して売りに出る情熱だのがひどく絞られるのである。

→ 強情な親族や情熱の虜となった人たちなど、日ごろは財布のひもが堅いが、よんどころない必要が出来たり、何か不名誉なことがあって、他人の言いなりになる人たちに対して、こういう方法を使って金を巻き上げるのである。

同 例の寝室の戸口で見張りをするのが目的の三十万フランの問題

→ あの寝室の入り口を通せんぼする役割を負わされたこの三十万フランの問題

135下 これは途方もなく奇態な役で、遠慮して古着屋と呼ばれているのだが、一軒はタンプル、一つはサン=マルク通りの店を二軒持った獰猛なアジアは、この役をまんまと演じおおせたものである。店は二つとも彼女の手中にある女たちによって管理されていた。

→ これは途方もなく奇妙な人間で、遠回しに古着屋と呼ばれている。見るからに恐ろしい顔をしたアジは、タンプルとヌーブ・サン・マルク通りに二軒古着屋を持っていて、自分で雇った女たちに任せているので、この役回りにぴったりだった。

同 エレーラはアジアが正装したところを見たがった。この女仲買は

→ カルロス・エレーラはアジが変装したところを見たがった。この贋女仲買は

同 と思うとアイルランド革の短靴を

→ また彼女はアイルランド革の短靴を

同 料理女らしい腹の力で跳ねっかえるいかがわしい金細工

→ この料理女の大きな腹によって拒絶された偽物の金細工

136上 子細ありげに

→ こっそりと

137上 「気を確かに持って」と言った。その言葉はさまざまな身振りと、目付きと狂乱の声をもって語られるあの言葉であった。

→ 「心配しないで」と言った。この言葉を言ったときの彼女の声と身振りと目つきは、彼女が正気を失っていることを示していた。

138上 あの少年の日の巨大な蝶々、光輝く凧が

→ 光輝く凧、あの少年の日の巨大な蝶々が

同 空に浮かんでいたものは、学校の言葉で言えば、かしいで、物凄い早さで墜落する。カルロスの話を聞いていたエステルがそれと同じだった。

→ 空に浮かんでいたものは、子供たちの言い方でいうと、トンボを切りながら、物凄い早さで墜落する。カルロスの話を聞いていたエステルの姿は、まさにこの糸の切れた凧のようだった。

144下 サンマール リシュリューの敵。イスパニアと通牒して

→ サンマール 最初リシュリューに育てられた。後に彼を裏切って、イスパニアと通牒して

146下 サント・ペラジー別荘 十九世紀まであったパリの監獄。

→ サント・ペラジー別荘 十九世紀まであったパリの債務不履行者用監獄。

150上 国王が処刑したのはラ・モット・ヴァロワとロアン枢機卿側であった。

→ 国王が処刑しようとしたのはラ・モット・ヴァロワとロアン枢機卿側であったが、失敗した。
 
 
 

第二部 老人が愛を得るにはいくらかかるか(153以下)


155上 八日この方

→ ここ一週間の間

同 自分の手で作り出した女の名、ヌリッソン夫人名義で

→ 自分の手先として働いているヌリッソン夫人になりすまして

同 この額縁

→ この環境

同 不吉な特殊相

→ 醜い特徴

155下 頭の禿げ上がった、歯欠けの、中身まで売る気でいる『出物商』

→ 「捕らえがたい好機」のように前髪だけある禿げた女、歯が欠けた女、

同 そういえるほどの老婆は、入れ物、つまり女を伴わない衣装か、さもなくば衣装のない女を買うのが習慣となっているのだ。

→ 彼女はいつも入れ物、つまり女を伴わない衣装を買うだけでなく、衣装のない女を売るのが習慣になっていた。

同 通りすがりに自分らのごく若い時分の新鮮な思い出がよごれたガラスの後ろに吊るされているそのまた向こうに、商売をしまった本物のサン=エステーヴのような老婆が顔をしかめているのを見掛けて、驚くひとも稀ではないが、そうした通りすがりのひとに身震いを起こさせる荒っぽく醜怪な物事以上に、アジアは恐ろしかった。

→ 自分の若いころの新鮮な思い出のつまった服が汚れたショーウィンドにつるされているのを通りすがりに見て、さらにその後ろに隠れて本当のサン・エステーヴのような老婆が作り笑いをしているのを見れば、誰でもはぞっとするほどすさまじい嫌悪感を感じるものだが、アジの姿はそれ以上にぞっとさせるものだった。

156上 マカク猿さえ三舎を避けるしかめ面

→ 醜いマカク猿にも勝る醜さのしかめ面

同 不名誉なことこの上ない親しみこそ、こういう女が、奔馬のような情熱や、またこういう女にすがる窮乏などからまず最初に取り上げる貢物なのだ。

→ 不名誉この上ないこの馴れ馴れしさは、こういう女が、抑えきれない情熱の虜になっている人々や、自分にすがってくる貧しい人々から最初に取りたてる税金なのだ。

156下 まあさ、お前さん、椋鳥になってみなさるかね。

→ まあ、お前さん、いつまでとぼけているつもりですか。

157上 マライ女より

→ マレー女(アジ本人)より

159下 執行官にしたってあそこへ奥さんを捕まえに来る気にはなりゃしませんよ

→ 債務不履行者捕吏にしても、あそこへ奥さんを捕まえに来る気にはなりませんよ

同 「ウージェニはあんたにゃ抜かりのないまわし者になりますよ、

→ 「ウージェニはあんたのためにすばしこく立ち回ってくれる子になりますよ。

160上 「私かね、わたしゃ元をとるだけですよ」

→ 「私かね、わたしゃ貸した金を返してもらうだけですよ」

160下 咲きほころびる

→ 花がほころびる

同 それはちょうど、偶然という遅ればせに輝く太陽に当って、結果を生み、爛漫と花を咲かせる忘れられていた種子すなわち原因と同じようなものなのだ。

→ まさにそれは、原因となるもの、すなわち忘れられていた種が、太陽の光に偶然遅ればせに当たって、絢爛な花をつけるという一つの結果をもたらしたのと同様である。

161上 「あらまあ、白髪と言って一向差し支えないのにね。だってほんとに濡れ羽色だもの、胡麻塩にしかならないようなのとはわけが違うじゃありませんか」

→ 「それは白髪って言うんですよ。そういうきれいな黒髪は胡麻塩にはならないのよ」

164上 コンタンソンは寝るにはどれほど毛氈が要るものか、なおいっそうよくその寸法をはかることが出来た。

→ コンタンソンはばったりと絨毯の上に倒れ込んだ。

166下 連中は引き取らせましょう

→ 部下たちは帰らせましょう

同 「わたしゃこれから貸手のところへ行って一笑いさせてやりましょうよ。そうすりゃ、きょうおもしろい思いをするだけのものはくれるでしょうから」

→ 「わたしゃこれから債権者を喜ばせに行ってきます。そうしたら、今日のご馳走代ぐらいは恵んでくれるでしょう」

167上 ルシャールの手で金の勘定がすむと

→ ルシャールが現金を数え終わると

同 待ちかまえていたアジアが執行官を呼び止めた。

→ 待ちかまえていたアジが債務不履行者捕吏であるルシャールを呼び止めた。

同 「あんたの手下と債権者が

→ 「差し押さえ執行官と債権者が

167下 ルシャールが金を数えている間に

→ ルシャールがカルロスに金を渡している間に

同 カルロスが執行官の部下にひまをくれてやり、鷹揚に金を払うと、

→ カルロスが差し押さえ執行官にたっぷり報酬をはずんでから首にすると、

168下 事によるとカルロスがヨーロッパをつなぎとめている利益は、自分を彼に釘付けにする仲立ちとなっていると自分で思っている利益より、奥行きの点で勝っているのじゃないかと考えたくらいだった。

→ 自分とカルロスの関係よりも、ユーロプとカルロスの関係の方が深いのではないかと考えたほどだった。

170上 十年たったら、きっと俺は同じ姿で帰って来て、お前に土砂を喰らわせてやるぞ。よしんばばっさりやられなきゃならないにしてもだ」

→ 十年たったらきっと帰ってきてお前を墓穴に放り込んでやる。たとえ、このおれが縛り首になってもだ」

170下 警察という言葉だけで、すでに統治―行政―立法という言葉の区別がつかなくなっている今日の立法者は、おびえてしまうのである。

→ すでに統治―行政―立法という言葉の区別がつかなくなっている今日、立法者は警察という言葉を聞いただけでおびえてしまうのである。

同 本能的に、なんなら大づかみにとってもいいが、わが身の危険を悟って

→ いわば一般的な意味において、本能でわが身の危険を感じて

171上 パカールには、隠居所代わりに貞節を約束してやるってな」

→ パカールには、年金代わりに、この仕事から足を洗ったまっとうな人生を約束してやる」

同 アジアが住まいに

→ アジがこの家に

171下 あれがまたここに来て料理番になれるように、まず手始めに、男爵が食ったことのないようなご馳走を出してもらいたいんだ。

→ アジがここに来てまた料理番になれるように、お前には、まず手始めに、あの男爵が食ったことのないようなまずい料理を出してもらいたいんだ。

同 他人二人ぐらいの監視はお前たちで十分出来る

→ よそ者の二人ぐらいならお前たちで十分監督できる。

172下 一つ国庫資金に三十万フラン払込みに行ってもらおう。利息を損しないようにな。

→ 利息を失わないために、国債に三十万フラン投資してきてくれ。

173下 地球上の共有財に対しては人は新しい有価証券をごくわずかしか投下しない。

→ 人が地球上の共有財産に対して新しい価値を注ぎ込むことはめったにない。

同 この一閃の秋水が

→ このようないんちきが

同 何かの事業を創立しようという人間に糸を垂れて、その企業が窒息状態に陥りたぐり寄せられるまで、そいつを水の外に引き止めておく。

→ 事業の創設者を溺れさせないためにロープを投げてやって、窒息した会社を救えるようにしてやる。

174上 そこで、被処分者にも・・めったに関与しないのだ。

→ そこで、差し押さえを食った者たちにも・・・、めったに同情しないのだ。

174下 チュルカレ

→ 銀行家チュルカレ(92頁)

同 『憲章』

→ ルイ十八世の憲章

175下 『歩き損広間』

→ 最高裁判所の待合室

同 『会社』の一名義人

→ この会社の社員の一人

同 保ツギレナガッダノタ

→ 持ちこたえられなかったのだ。

同 ウクライナの狼の心をやわらげようとする

→ ウクライナの狼の気持ちをほろりとさせようとする

175下 これが仲買人の答えだった。

→ これが配下の株式仲買人の返事だった。

同 こりゃどうも。事情を知らない小売り商人なら誰だってジャック・ファレーに信用貸ししただろうじゃありませんか。すてきな地下室があるようですよ。ついでですが、家は売り物なのです。あの男はそれを買うつもりだったのですな。

→ もちろんですよ。ジャック・ファレーに現金払いを要求するような、そんな不作法な業者はいませんよ。あの家には、すてきな酒蔵があるそうですよ。ところで、あの家は売りに出ていたもので、それをあの男が買うつもりだったのです。

176下 自分の株式仲買人を勤めていた男の遺物で一儲けする気になった彼としては、極めて楽々と負担できる支出済みの四十万フランの損失の埋め合わせをこれで付けられることになった。

→ 彼は、自分の株式仲買人をしていた男の残していった物で一儲け出来たら、それで支払い済みの四十万フランの損失を楽に埋め合わせできると考えた。

177上 『軽罪』

→ 軽罪裁判所

178上 ダルマですよ。

→ あばずれですよ。

179上 恐ろしい手に煽られて飛び立とうとする恋人をひたすら引きとめることばかり考えて

→ 恐ろしい手が忘れさせようとしている恋心をひたすら守り通すことばかり考えて

179下 彼女は当時まで非常に操正しく

→ 彼女はあの場面以降ずっと今まで非常に操正しく

180下 どぶ泥と汚辱の中を転げまわって、真実の恋の気高さと忠実とを渇望し、今やその例外性(これほど稀にしか行われない観念を表現するには言葉を作る必要があろうではないか)を実行にうつしている女優や浮かれ女の愛し方であった。

→ 泥と汚辱の中を転げまわっていたために、真実の恋の気高さと忠実さを渇望するようになり、いまやその排他的な恋(これほど稀にしか実現しない観念を表現するには新しい言葉を作るべきではなかろうか)を実行に移している、女優や浮かれ女の愛し方であった。

181上 涙を頭蓋の焦点に吸収させていた。

→ 悩みに沈んだ彼女の目からはもう涙は出てこなかった。

184上 思うに恋にこがれる老人のゆるしはただ幸福だけなのですから

→ 老人の恋が許されるのは彼がそれによって幸福になれるときだけなのですから、

185上 さてそこで、あなたに何にまれ受け取って頂くと、自分をあなたの債務者のように思うこの憐れな老人が望むところはなんでしょうか。

→ では、わたしが差し上げるものをあなたが受け取って下さるたびに、あなたにはもっとたくさん差し上げなければと感じてしまうこの哀れな老人が、あなたに求めているものは一体何でしょうか。

同 あなたから受けるものがただもう、私の情熱の捉えようとしているものそのものだという安心

→ あなたから受け取るものは、まさに私の情熱が手に入れようとしているもの以外の何ものでもないという安心

185下 あなたは払いをして下さいました。すると私には負い目が出来るのです。不名誉を引き当てにした負い目ほど犯しがたいものはございません。私にはセーヌ川に身を投げて精算する権利がないのです。

→ あなたが支払ってくれたおかげで、私はあなたに負い目を感じることになったのですね。この不名誉な負い目から逃れることは許されないのですね。わたしにはセーヌに身を投げて身を清めることさえ許されないのですね。

186上 この恐ろしいお銭(あし)をつかって、借金を払おうと思えばいつでも出来ます。でもこのお銭は片側しか良貨ではありません。

→ 誰でも人はこの恐ろしい通貨で借りを返すことが出来るものですわ。もちろん、この通貨は借り手の側にしか通用しないものですけれど。

同 例の土壇場を担保に

→ あの運命のときを担保に

188下 化粧品屋

→ 古着屋(135頁)

同 起き上がり小法師

→ 取り持ち役のランポノー氏

同 あの人のいい女は少しうきうきしているようです。

→ あの律義者が博打に手を出しているようです。

189上 何しろ死にはぐったんですからな。

→ 旦那様は、危うく死ぬところだったのですからね。

同 言葉仇に立った。

→ 反論した。

190下 アレハ心ガラ、処分ヲ受ケル気ニナッデオル。スガス、アレモヨグアル、借財ヲ消ズ方法トスデタ

→ あれは確かにわしのいいなりになる気でいる。しかし、それも借金を返してもらえるかぎりにおいてのことでしかない。

191下 お賽銭

→ チップ

同 そこですよ、そうすると、あの人は自分であんたのいい人だというでしょう。そしてパリ中の見ている前でおおっぴらに約束しますよ。

→ そうなりゃもう、あの人はあんたのいい人だと言っているようなものですよ。パリ中の人たちの見ている前で、約束したようなものです。

192上 こういった儲けは、すべて、手初めの十万フランのうちに含まれているんですよ・・・。こういう出ようをして一週間たてば、あんた、随分はかが行ってますよ。

→ こうした特典が全部あの最初の十万フランに含まれているんです。お安くしときました。こうして一週間で、かなりのところまで進めるというわけですよ。

同 エステルの身状に傷がつき

→ エステルは身を持ち崩す

193下 階段を上ってもまだ白いくらいの顔をして

→ 階段を登る間もまだ怒りのために顔面蒼白のまま

194上 彼女自身の気分の悪さを感じさせるためには

→ 自分の不幸にまた気づかせるためには

195上 しかし浮かれ女の愛は、すべて身を持ちくずした生き物の愛の例に洩れず、あんたがたを懲らしめのために生まず女にする自然には構うことなく、母となる手段とならねばならんのだ。

→ しかし、浮かれ女の愛は、あらゆる身を持ち崩した女と同じく、母となるための手段でなければならないのだ。たとえ、自然がお前たちを石女にすることによって罰したとしても。

196下 何さ、私の口ん中に歯のかわりに乾丁子が生えているかどうか、じろじろみてどうしようというのよ。

→ 何をじろじろと私のことを見ているの。わたしの口の中に歯じゃなくて丁子が生えてでもいるというの?

同 あなたのお寄越しになった料理番にお食事の支度をしてもらわないうちは、私も、おとといさし上げた付文三通をご覧になって、あなたが何度気絶なさったか、それを私に知らせようというのがあなたのおつもりだときっと思ったことでしょう。(あなたがなんとおっしゃっても、あの日私はとても気が高ぶっていたのです。情けない自分の生涯を次々に思い浮かべていたのです)でも、私アジアの本気さ加減が今は分かりました。

→ あなたがお寄越しになった料理女が一度もわたしに仕えたことのない女だったら、あなたがあの女を寄越したのは、一昨日わたしの三通の手紙を読んであなたが何度気絶したかを私に知らせるためだと思ったかもしれなくてよ。(だって仕方がないことですわ。あの日は自分の情けない人生を思って、とても神経質になっていたんですもの)でも、アジが私に忠実な女であることを私は知っています。

197下 きっと甲冑つけて、あなたの贈り物で身づくろいをして、一生あなたの快楽の道具になろうと思っている女がご覧になれますわ。

→ あなたの贈り物で身を飾って武装した一人の女、生涯あなたの快楽の道具になることを決心した女をご覧になれますわ。

198上 エステルは実にみごとな髪の毛に、いわゆる狂女好みと言って、マリーヌサンの白レースでできた帽子を、別に落ちはしないのだが今にも落ちなん風情に針でとめていた。

→ エステルは実にみごとな髪の毛に、マリーヌ産の白レースでできた帽子を、いわゆる気違い女風に、落ちはしないのだが今にも落ちそうな風情で針でとめていた。

同 鷓鴣

→ シャコ(やまうずら)

199上 ロショ・ド・カンカル亭とともに本当に味わい深い『両世界評論』を示しているただ一軒の店、ヨーロッパ人シュヴェの走りの品

→ 『両世界』誌でロショ・ド・カンカル亭とともに味わい深い真の評論の対象となっているただ一軒の店、ヨーロッパ中に知られたシュヴェの店の特産品

199下 老いたる恋の奴が家に戻った頃は夜になっていて、花束は役に立たなかった。冬シャン=ゼリゼへ行く時刻は二時から四時の間である。

→ 老いたる恋の奴が家に戻った頃には日が暮れていたので、花束は無駄になった。冬のシャンゼリゼを車でドライブするのは、二時から四時までと決まっていたからである。

同 こんな崇拝とこんな潤沢さの目標になったことがなく

→ こんな崇拝の対象になったり、こんなに贅沢な持て成しを受けたことがなかったので

同 諸君の目をある像の小指に向かわせる。それは、どれ位の長さがあるのかわからないのに、普通も小指ぐらいにしか見えないのだ。

→ 諸君はある像の小指に注目させられる。それは計り知れないほど巨大なものだが、諸君の目には自分の小指と同じぐらいの大きさに見えるのである。

200下 寝間に連れ込んだ。「ねえ、奥様。私には到底あそこには長居できませんよ。どうにもあんまり床に入りたくなりましてね」とウージェニは言った。

→ 寝室に案内した。「奥様、わたしはこの部屋には長居は出来ませんわ。ベッドに入りたくなって仕方がなくなるのですもの」とウージェニは言った。

201下 何か言葉らしいものを言いはしなくて

→ やっとこの方も言葉らしいことをおっしゃったのですもの。

同 言イダイゴドハイロイロアルヨ

→ もうたくさん言ってきたよ。

同 銀行家というものが洩らすういういしさ

→ 銀行家というものが見せる愚鈍さ

202上 偶然とは呼べないくらいこういう邂逅は予想しやすいことだったが、ちょうどその日もそれで、チュリアとマリエット、それにヴァル・ノーブル夫人が芝居に来合わせていた。

→ こういう場所では偶然の出会いというものはなく、誰に会うかは予想できることだったが、その日も劇場にはエステルの商売仲間のチュリアとマリエットとヴァル・ノーブル夫人が来ていた。

同 あの女のおかげで私たちが、ばかにされていたっていうわけ。

→ 彼女の話題でわたしたちはもううんざりしているところなのよ。

同 エステル嬢と結婚されたようですな。

→ エステル嬢とご結婚でもなさいましたか。

同 あんたに悪の足を洗わしてもらいたかった

→ あなたに苦境から救ってもらうはずだった

203下 初めから私をひとりぼっちでおこうとなさるの。

→ 初めてのデートだというのに、あなたは私を置いて帰ろうというのですか。

204上 フェレットの御奉行なみの背格好じゃなかった

→ フェレットの御奉行なみの背格好しかなかった

同 カライブ

→ カリブ人

同 六週間しかいないことになっているじゃない

→ 六週間しかいるべきじゃないそうよ。

204下 「恋にね」とチュリアは言った。「そして生きよ、だわ」

→ 「恋の炎にね」とチュリアは言った。「それも生きたままでね」

同 粗塩を振りかけた

→ 粗っぽい頓智の利いた

同 信管

→ 爆竹

205上 リュバンプレの小僧さんの色女

→ リュバンプレ君の女

同 あぶれていて歩きだ

→ あぶれていた

同 あのほとんど変質しない、それと認めやすい現実的な美によって美しいのではない女、つきつめてみれば

→ ほとんど変わることのない美しさ、誰もが認める確かな美しさを持っていない女、要するに

205下 化粧品を商う女

→ 古着屋

同 こういう彼女らの生活の満ち干を見れば、アジアがヌッシンゲンをエステルにあてがった(これも用語集の一例である)ように、実際大抵の場合取り持ち役のいる男女関係の値のいいわけはかなりはっきり説明できる。

→ 彼女らの生活のこうした浮き沈みを見れば、たいていの場合アジがヌッシンゲンとエステルをくっつけた(これも特有の用語である)ようにして生まれる男女関係が非常に高くつくことの理由が分かる。

同 一年半

→ 一年か半年

206上 被追放階級

→ 法律の保護の外にいる人々

同 舞台靴をはき帽子をかぶったその抵当

→ 自分が金を貸している女たち、編み上げ靴を履いて帽子をかぶった女たち

同 ヌッシンゲンのように、恩人を破産させながら有徳で誠実だと言われるある種の人間と、軽罪裁判所を出てきたある種の人間は、女に対して利口な誠実さをそなえている。

→ ヌッシンゲンのように、有徳で誠実だと言われる人間が恩人を破産させるのであり、軽罪裁判所を出てきた人間が、一人の女に対して器用な誠実さを持っていたりする。

206下 話の分かる男とは、性格のうちにある何の証明にもならないある種の優雅さの産物である。

→ 性格が持っているある程度の魅力が現実に何かを意味するわけではない。しかし、話の分かる男とは、そのような魅力が作り出すものである。

207上 偶然をでかそうと思って

→ 偶然を作り出そうと思って

同 テオドール・ガイヤールは到頭彼女と結婚した男だが

→ テオドール・ガイヤールは後に彼女と結婚することになる男だが

208上 よるよなかの口明けの前に

→ 夜中の鐘の最初の音が鳴るまでに

208下 あそこに行くと倹約になるわ

→ あそこに行くと倹約家になるわ

209下 ヴァルノーブル夫人は、その貞節を尊敬していて

→ ヴァルノーブル夫人は、おかみさんの立派さを尊敬していて

同 この女の化粧は、ポルト・サン・マルタン座で『リシャール・ダラントン』を見た日のように、時によっては、綺羅をつくした姿で立ち現れることの出来るくらいの支度はととのっているという、ひどく金のかかる、優美な女だった。

→ この女の化粧道具はひどく金のかかった趣味のいいもので、まだ十分に中身が充実していたので、彼女はまだ、ポルト・サン・マルタン座で「リシャール・ダラントン」を見に来た日のように、時によっては、綺羅をつくした姿で立ち現れることが出来たのである。

210上 莫大もない金もうけ

→ 莫大な金もうけ

210下 つぐみがいないときはつぐみの類いを殺す

→ ツグミがいないときは有り合せの鳥を殺す

同 この行動に非常にうがった判断を下した。

→ この事件の意味を見抜いていた。

同 すでに見た通り、この曲者は、ヌッシンゲン男爵に対して自分の意見をやんわりはナスというような苦労はしなかった。

→ すでに見た通り、このすご腕の男は、ヌッシンゲン男爵に関する自分の考えを言うのに何の遠慮もなかった。

同 銀行家の執心のとっこにとって

→ 銀行家の恋心を人質にとって、

同 この黒ん坊とのあいの子女

→ 欧州人の父とアジア人の母との混血児

同 そういうわけで、密偵道の芸術家たるこの二人は、こんど初めて、暗黒な話らしいぞと疑いをかけながら解明できない難題に出会ったのであった。

→ スパイの名人である彼らは、何らかの陰謀を嗅ぎつけながらも解けない難題に、初めて遭遇したのである。

211上 マルサックの妹、セシャール夫人の家に滞在していた。

→ マルサックにいた。自分の妹のセシャール夫人の家に滞在していたのである。

211下 また門番にもそう思い込ませようと試みた。

→ またコンタンソンにもそう思い込ませようと試みた。

212上 それより先ペイラードとコランタンは声をそろえて分かったと大声を出した。

→ ペイラードとコランタンは「それで分かったぞ」と大声で叫んだ。

同 ああいう女たちは、いい男の双六遊びに、かならずお互い同志仲間としていないと困るのだ。

→ ああいう女たちは、男遊びをするのにお互いを必要とするものなのだ。

同 黒人との混血児になったコンタンソンは、すぐさまカルロスの反対警察の外に抜け出した。

→ コンタンソンは混血に化けた途端にカルロスの秘密警察の目をくらますことができた。

同 サルチーヌおよびルノワール両氏の配下のごく下っ端の男が

→ サルチーヌおよびルノワール両氏の部下の最後の生き残りが

212下 鵠(くぐい)のような頸

→ コウノトリのような首

213上 考えのしめくくりを一心につけているところだった。それはたった今数語で言い表されものになったが

→ たった今簡単に要約した状況に対して一心に再検討を加えているところだった。

同 黒ん坊のあいの子に変装したコンタンソンが、イギリス人の召使いをしているのをパカールが見掛けましたよ

→ 黒ん坊のあいの子に変装したコンタンソンがイギリス人の召使いをしているのを、パカールが見掛けましたよ

同 あの子を連れて帰って来ました

→ エステルを連れて帰って来ました。

213下 飲み師型のイギリス人

→ 酒好きのイギリス人

同 立て場

→ 発着所

214下 それともサン・ドニからですか。

→ あるいは、サン・ドニからではありませんか。

215上 あんたに大して用はないのです。だから一遍でごたごたに巻き込まれ手がなくなりますよ。だから一遍にごたごたに巻き込まれ手がなくなりますよ。私一個としては、別にあなたあしかれとは思っておりません。・・・しかし、先に進みましょう。・・・本当のことをおっしゃい・・・」

→ 誰もあなたのことをそんな悪い人だとは思っていませんよ。一瞬のうちに、あなたは自分の立場を悪くしかねないのです。わたし個人としては、あなたには何の恨みもありませんから。さあ、本当のことを言って下さい」

215下 あの男はいま楽しみに旅行しているが、それが債権者にとっては癪の種なんだ。

→ あの男は高飛びしてしまったのです。本人はそれでいいかも知れないが、金を貸している者たちにとっては災難ですな。

216上 それが、当時普通『首斬役人』と呼ばれていた高級作業の遂行者の囲い者だったのですな。ある日のこと、芝居で、その女が止め針をつっ通したとき、当時の言い方にならって、『あいた、首斬りめ』と大声をたてたもんで、隣で、『何か思い出したことも』と女に言ったわけです。

→ その女は、一般に「首斬役人」と呼ばれていた死刑執行人の囲い者だった女でした。ある日のこと、芝居を見ていてその女がピンで指を突いたときに「あいた、この首斬め」と大声を立てると、隣の席の人が「それは御亭主のことですか」と言ったのです。

217上 「じゃあなたは総監さんの要求だったら、今の浮気にあきらめをつけますか。私の考えるところじゃ、あんたの話が真剣なものだという証拠として、これ以上たしかなものは与えられないと思いますが」

→ 「それなら、あなたは総監から命令されたら、今の浮気をあきらめることが出来ますか。それがあなたの話が本当だという最も確かな証拠となると思いますが」

218下 にんじんじゃないまでもにんじんの葉っぱにゃちがいない

→ ぼったくりとまでは言わないまでも、かなり巻き上げられるわけだ。

同 おれは総監にはいつもくさくさする。

→ おれはいつも総督にはうんざりさせられる。

219下 けれどもコランタンには「わたしの知りたかったのはこれたけでさ」

→ けれどもコランタンは「わたしの知りたかったのはこれだけでさ」

同 甲羅をへた悪党

→ 第一級の悪党

220上 もしあんたの目論見がだめになったら、何が出来るか、おれには分からないのだ。

→ もしあんたの目論見がうまくいかないと、わしは何を仕出かすか分からないぞ。

221上 ラバー

→ トランプ勝負

同 ウィスト

→ ブリッジ

221下 なんたる辛辣さ

→ なんたる皮肉

222下 両刀論法

→ ジレンマ

223下 この脅迫に答えて、カルロスは、首を切り落とす真似をしてみせ、

→ この脅迫に対する答えとして、カルロスは首を切り落とす真似をしてみせた。(この段落終わり)

同 その人によって、遊女の気持ちを何らかの生理学的箴言に従わせることがいかに困難かを立証することが出来よう。

→ そんな人がいることこそ、まさに遊女の気持ちを何らかの生理学的法則で説明することがいかに困難かの証明となるだろう。

224上 「そりゃね、私も家のおひろめはするわ。・・・」・・・それを彼女らは謝肉祭のときに男爵にそのまま伝えた。

→ でも、私は家のおひろめを謝肉祭のときにすることにしているの。・・・」・・・それを彼女らは男爵にそのまま伝えた。

224下 彼女のあざけりからは、魂の面前で肉体の演ずる、恥ずべきいとわしい役割に対して、娼婦のうちに籠る愛の天使の抱く深い軽蔑によって、彼女がどんな気持にとどめられているかがありありと感ぜられた。

→ 彼女の皮肉のこもった表情には、内面の精神状態が現れていた。彼女の心のなかでは、娼婦の中に隠れている愛の天使が、魂の目の前で肉体が演じている恥ずべき厭わしい芝居に対して深い憎しみを抱いていたのである。

226上 ユレかフィシュ製の金庫が『自然』の手品で人間に姿を変えたのならともかく、さもなくば音楽好きの女の桟敷にいてそんなにばたばたするもんじゃないわ。

→ もしあなたが、元はユレかフィシュ製の金庫で、それが自然の手品で人間に姿を変えたものならともかく、さもなければ音楽好きの女の桟敷にいてそんなにべらべらしゃべるもんじゃないわ。

同 それと同じようにいい気になったので、『宗教の腕に抱かれて』死んだって

→ それと同じ愚行がもとで宗教に飛び込んで命を落としたって

同 あんた私にどんな気を起こさせたか知っていらっしゃる。

→ あなたは私にどんなふうに見えているか知っていらっしゃる?

227下 山猫の顔は長く伸びていた。

→ 山猫は悲しそうな顔をしていた。

同 枕がみをうんと高くして

→ 枕をうんと高くして

229上 『行儀作法』を最も恐ろしい社会の掟と認めているものにとって、これほど恐るべきことはない。

→ 社交界の儀礼というものは、それを最高の社会の掟と認めているものにとつては、最も恐るべきものである。

230下 自尊心に赤恥をかかすために

→ 自尊心を押さえ込むために

231上 重しのきく人間だ

→ 力のある男だ

同 君に尊重のできるような証言を手に入れる

→ 君が信頼できるような証言を手に入れる

同 この事件には副官が仕えるということを

→ この事件の調査には優秀な部下が一人つくことを

同 山からはつか鼠が一匹飛び出すだけか

→ 大山鳴動してネズミ一匹なのか

234上 虎は、あまつさえあるに護衛を従えた一頭の獅子の獅子窟へ

→ あまつさえあるに、虎は、護衛を従えた一頭の獅子の獅子窟へ

同 道ならぬ幸福の贖いであの物凄い動乱に捉えられている

→ 道ならぬ恋の代償であるあの恐ろしい不安、つまり嫉妬に捉えられている

235下 ゴブセックとジゴネ

→ ゴブセックとジゴネ(有名な高利貸、135頁に既出)

236上 あの人のうやうやしさと来たら私にとっちゃあぶみたいでね。

→ あの人のうやうやしさに、わたしはいらいらさせられるのよ。

同 そのシナ人を

→ その屁理屈屋を

同 それにはあの男に愛されなくちゃならないわ。

→ それは無理ね。あの男は私に惚れてはいないのですもの。

236下 ワタシノ哀レノ生活ニオケル、恋イウ、ワツカノモノノタメ

→ 私の貧しい生活の中ではささいなものである恋のために

237下 あのポルト酒のつめすぎ一グロスの敬意に軽蔑されているような具合に

→ あのポルト酒の詰まった大きな袋みたいな男の恭しい振る舞いによって馬鹿にされているような具合に

238上 「例の自分のうちの窓の外側をきたなくしておく人間みたいなものね」とエステルは言った。「そうしておいて中から外で起こることを見ている。

→「それは窓の外側はくすんでいるのに部屋の中から外の様子を見ている人たちと同じことね」とエステルは言った。

238下 三重に付けた窓々の囲いはシナ産の豪奢な窓掛の襞で正体が見えなくなっていた。

→ 三重に閉じられた窓は、シナ産のカーテンのひだの向こうに隠れていた。

同 一同は、この三人の女と男たちでないかぎり到底耐えられるものでない例の盃盤狼藉の一夜を心に期していた。

→ この三人の女たちとこれらの男たちでなければとうてい最後まで過ごせないような、乱痴気騒ぎが始まろうとしていた。

同 手っ取り早く無数のロードって言ったらいいでしょう。

→ そのまま永遠にロードと言っていればいいでしょう。

239上 機械を止めるばねを押そうっていうのよ。

→ この機械を止めるにはバネを押すしかないだろう。そのバネを探しているのさ。

240下 ペイラードには、自分のうちにあるすべてのもの、才智をさえ変なものに作り変える力があるのだった。イギリスでは金銀がよそのどこよりも良質だと大抵のイギリス人は言い張る。ロンドンの市場に送り出されたノルマンディー産の雛鳥と卵から、イギリス人は、ロンドンの雛鳥と卵こそ、同じ地方から来るパリのそれらより一段とすぐれていると主張する許可を与えられるのである。エステルとリュシアンは、この完全無欠な服装言語大胆さを目のあり見て茫然としつづけた。

→ ペイラードはあらゆるものを自分の変装に取り込む能力があったのである。イギリス精神さえも彼は取り込んでみせたのである。大抵のイギリス人はイギリスの金と銀はよそのどこよりも良質だと主張する。またイギリス人は、同じノルマンディー産の雛鳥と卵でも、ロンドンの市場に送り出されたものは、パリの市場のものよりもはるかにすぐれていると、主張してもいいと思っている。エステルとリュシアンは、ペイラードが、服装やしゃべり型だけでなく、ずうずうしさまで完璧にイギリス人らしさを見せるので、驚いてしまった。

同 ビジウは、あのブリア・サヴァランがはなはだおもしろおかしく語っている勝利をかち得たものと思い込んだ。

→ ビジウは、あのブリア・サヴァランが「美味礼賛」でおもしろおかしく語っている英国に対する勝利を自分もまたかち得たものと思い込んでいた。

同 「イツデモゴザレヨ、君」と一言答えたが、それはビジウの耳にしか入らなかった。

→ 「いつでもござれよ、君」と完璧なフランス語で答えたが、それをビジウだけは聞き逃さなかった。

241上 これがイギリス人ならわが輩もイギリス人。・・・わが輩のおじさんはガスコーニュ人だ。

→ この人がイギリス人だというなら、わが輩もイギリス人ということになる。・・・わが輩のおじさんは完璧なほら吹きだ。それ以外にはあり得ない。

242上 当政府の本通告

→ われわれからのこの最後通牒

同 カット

→ 婆やのカット(106頁初出)

同 あの子はマルセイに約束してあるんだよ。

→ あの子はマルセイの元に渡すという約束ができてるんだよ。

242下 あのイスパニア人の坊主は事の諸分を心得ていやがる。

→ あのイスパニア人の坊主はよく分かっていやがる。

243上 筆札当番 

→ 文書係

243下 目下に対してははなはだ無邪気なもので

→ 自分の目下のものに対してはまったく飾るところがなく

同 私が閣下に対して致さねばならなかった反対論

→ 私が閣下のお考えに対して示そうと思っていた難点

同 八時には参れます。・・・しかし席があるでしょうかな」と彼は言いさしてサン・ドニ氏に言った。

→ 八時には・・・しかし席は取れますかな」と話を途中で切って、サン・ドニ氏に尋ねた。

244上 『本局発着所』

→ 駅馬車の中央発着所

同 帰りには二度と見られないのじゃないかと心配になるが

→ 旅の帰りにもう一度会えるとはとても思えないほどだが、

245下 ここのこの宿帳

→ ここに宿帳がありますから、

246上 この勘定でしょう。

→ それくらいはあるという勘定です。

247上 リュバンプレの土地の代金として一万二千フランの金が消えた

→ リュバンプレの土地の代金として百二十万フランの金が使われた

同 あの看板は天が下にあったものですよ。

→ あの看板は私たちで考え出したものですよ。

247下 匿名に仔細があるんでしょうか。

→ あの匿名の手紙の言う通りなのでしょうか。

同 オランダ人の跡取りの女

→ オランダ人の遺産の女相続人

248上 その息子のリュシアンの家庭教師

→ 彼女の息子リュシアンの家庭教師

248下 リュシアンが虚栄心を満足させるためにやったのは、百姓や葡萄作りの口真似をしたまでのことなのだ。

→ リュシアンは彼女の虚栄心をくすぐるために、土地の百姓やブドウ作りを真似て、彼女をマルサックの奥さんと呼んでいた。

同 彼女は、夫を、手腕はありながら栄誉ほしさの空騒ぎを放擲できる十分な謙譲さをそなえた人間として尊敬していた。

→ 彼女は夫の才能を尊敬していた。ただ彼はその謙虚さゆえに派手な名声を追いかけないだけだった。

249下 その財産に対して、エーヴ夫人は執心のていに見受けられたし、またクールトワはそのわけをちゃんと知っていた。

→ その財産にセシャール夫人は愛着を持っているようだったが、その理由をクルトワは知っていた。

同 「代訴人だって。・・・」とセシャールは叫んだ。「その言葉を聞くと、私は身震いがでるよ」「どうもありがとう」

→ 「代訴人だって?・・・」とダヴッド・セシャールは叫んだ。「その言葉を聞くと、私はいつも腹が痛くなってね」「それはありがたいことですな」

250 「うちのダヴッドはこれからも相変わらずでしょうね。いつもうっかリ屋で」

→ 「この人はこれからもこういう調子ですよ。いつもとぼけた人でね」

同 御親父(ごしんぷ)の相続の件

→ あなたのお父さまの相続の件

250下 お手のもののおびただしい鼠落としの一つを

→ お手のもののおびただしい罠の一つを

253上 同じような攻撃をこうむりながら、コランタンが居合わさず、ただコンタンソンの加勢を受けるだけで、

→ 同じような攻撃を受けている間、コランタンを欠き、味方はコンタンソンだけだったが、

同  こうしてパリ生活のごく瑣末な些事に結びついたのである。

→ ここでは、パリ生活のごく些細なことにも結びついて感じられるのだった。

253下 『番号で言われる人間』には

→ 番号で呼ばれる男たちにとって

253下 葉の茂みなどが現す甚大な利害関係を現しているのだった。

→ 葉の茂みなどが現すのと同じくらい重大な関心の対象となっていた。

254上 僕もそういう入り日のことは少々知っている。・・・地平線上のそいつは十分つづくだけだが、女の気持の中では十年つづくね」

→ 僕は日没、つまり人生の衰退期について少しぐらいは分かっているつもりだ。空の太陽の輝きは十分しか続かないが、女の熱は十年は続くものだよ」

254下 彼らの利害関係は、まさにその奔流のような生存の河床の下に隠れていて、それを知っているのは、エステル、リュシアン、ペイラード、黒人との混血児コンタンソン、それに、自分の色女の手伝いに来たパカールだけだった。

→ この劇の意味は、彼らの乱れた暮らしぶりの底深くに隠されてはいたが、エステルとリュシアンとペイラードと混血児コンタンソンと女主人の手伝いに来ていたパカールだけは知っていた。

255上 ペイラードは背後にいるコンタンソンにイギリス語でこう言いながら、紙片を渡した。「ここに俺の名を突っ込んだのはお前か」コンタンソンはこのMane,Tecel,Pharesを蝋燭の光で読むと、紙片をポケットに押し込んだ。

→ ペイラードは背後にいるコンタンソンにイギリス語で「ここを私の席に決めたのはお前か」と言いながら、紙片を渡した。コンタンソンは死の予告を蝋燭の光で読むと、紙片をポケットに押し込んだ。

255下 「じゃ君はトルトニから来たんじゃないのだな。・・・」

→ 「お前はトルトニのものじゃないだろう。・・・」

257上 彼はスリッパをはいて、夜の女のなりに似た服装をしている若い女のあとを歩いて行った。

→ 彼は、スリッパをはいて夜の女のなりに似た服装をしている若い女のあとを歩いて行った。

257下 言えはしても、お話しできることじゃないの。

→ どうなったかは言えても、何があったかはお話しできませんわ。

260上 「が、それにしても、・・・そういうことがやれるのは、悪に染まった人間ばかりだ、しょっ中、私に、博打を打ちに行く金を十フランずつくれたものだ・・・」

→ 「が、それにしても、・・・そんなことが出来るのはあんたみたいな変わりものだけだよ。しょっちゅう、私に博打を打ちに行く金をいつも十フランだけくれたっけな」

260下 警視庁に向け報告を作成させてやろう。

→ 警視庁に報告しておこう。

同 「これでよし」

→ 「おや、おや」

同 疲労に負けてしまった。

→ 疲れに身を委ねた。

262上 こういう人たちはしょっちゅう命ニ依ッテ死にますからね

→ こういう人たちは命令があれば命を捨てる人たちですからね

263上 お化粧に一万フランかけるという話しじゃない。

→ あなたの服は一万フランしたという話じゃないの。

263下 「死ぬ死ぬって言う人は、大抵自殺しないものよ。もしそれが何か・・・」とヴァル・ノーブル夫人は言った。「罪を犯すことだっていいじゃないの」

→ 「死ぬなんて言う人はめったに自殺しないものだわ。とすると、もし何か・・・」とヴァル・ノーブル夫人は言った。「犯罪に使うとでも? 馬鹿言わないでよ」

同 私にはお友達が一人あったの。随分仕合わせだったのに、その人、亡くなったの。

→  私には女友達が一人あったの。随分仕合わせだったのに、その人、亡くなったの。

同 かまわずその証文に不服を申し立てなさいよ。

→ 私だったらそんな約束無視するわよ。

同 「まあ、驚いた。それにしんみたいな話だわ。魚の中じゃにしんが一番陰謀好きなのよ」「どうしてなの。・・・」「だって、そうとは誰も知らなかったじゃない」

→ 「ええ、それはおかしいわ。ニシンは魚の中で人の目をくらますのが一番うまいって言われているけど、そのニシンが言いそうなことね」「どうしてなの」「そういうふうに言ってたら、誰にも気づかれないからよ」

265上 公正のお化けさん

→ 大泥棒さん

265下 恋の手鉤にかけられてね

→ 恋の釣り針に引っ掛けられてね

同 羊の毛は刈るがいいのよ。ベランジェはそういうことが福音書に見えていると言ってるわ。

→ 羊たち(国民)の毛は刈り取ってやればいいのよ。ベランジェは福音書にそう書いてあると言っているじゃないの。

266上 彼女はヌッシンゲン氏を振りもぎって、株式仲買人を呼び寄せ、その晩早速取引所に例の登記を売ってしまおうと思ったのである。

→ 彼女はヌッシンゲン氏を追い払って、株式仲買人を呼んで、その日のうちにもらったばかりの国債を取引所で売ってしまおうと思っていたのだ。

266下 振られた役を演じようとして払った骨折りに疲れ切って座っているところへ

→ 一芝居打ってぐったり疲れて座っているところへ

同 見るからにそれは純血種の使い走りだった。

→ その使い走りはどう見ても偽物には見えなかった。

267上 あの法衣のかげに目指す獲物がいるんだったら、おれも火に手を突っ込むんだが

→ あの法衣の下にわれわれの獲物がいることは絶対に確かだよ。

同 「いや、私たちの言うことが本当だったらどうします。・・・」

→ 「まったく、われわれの判断が当たっていることを祈りますよ・・・」

267下 この兎猟犬には、それをはやらせた近代の大詩人の名がついたが、そういうわけで、これを手に入れたことを非常に得意に思った浮かれ女は。

→ このグレーハウンドは、この犬をはやらせた同時代の大詩人の名を取ってラマルチーヌと呼ばれるようになっていた。そのためにこれを持っていることを得意がっていた彼女は

同 昔ながらのロミオとジュリエットという先祖の名を付けていた

→ ロミオとジュリエットという自分たちの先祖の名を付けた。

268上 これ、あんたに上げるから、捨てといてね。ビラを作ってよ。

→ いいこと。この犬は私があなたに上げて、あなたが迷い犬にしてしまったのよ。だから、犬を探すビラを作るのよ。

268下 褥に膝を折った。

→ クッションの上にひざまずいた。

同 だって教会でお祈りをしても、神様は、ただ私に対する私のことしかお許しにならないにちがいないんですもの。

→ だって、教会でいくらお祈りをしても、神様は私のことを決して許して下さらないと思うの。わたしが直接あの世でお会いするしかないのよ。

269上 「あなた私を愛していて。・・・」

→ 「あなたは私のことを愛しているの?・・・」

269下 行って。・・・行って。さもないと私生きてるわ

→ 行ってちょうだい。さあ、行って。さもないと私死ねないわ。

270上 ヌッシンゲン氏は月曜の昼ごろようやく家に姿を見せた。

→ ヌッシンゲン氏は月曜の昼ごろになってようやく自宅に帰った。

270下 御寮人さん

→ 男爵の新妻

同 軽業師のおじさん

→ 道化者のおじさん

同 しっしっ、アルサスの老いぼれ鳥め。あの方は、あんたが、ペストと同じくらいお好きでよ。

→ しっしっ、このアルザスの老いぼれカラス。あの人はあんたのことを愛してますよ。まるで、ペスト菌を愛するみたいにね。

同 コンナ花カ、老イポレノダメニ、生エデオッダダメスカアッダタロウガ

→ こんな花が、老いぼれのために、生えていたためしがあっただろうか。

同 かもじ

→ 付け髪

271下 懊悩ではなかった。

→ 悲しみはなかった。

同 傭人たちには少々怪しいところがあった。

→ 一同の胸に一抹の疑念がよぎった。

同 束を包んだものに目をとめて、その曰くによると、ご主人の死装束をととのえ始めた。

→ 束を包んだものに目をとめると、「わたしはご主人の死装束をととのえるわ」と言った。そして、

同 ヨーロッパのやり口はパカールの目にとまった。

→ ユーロプの策略をパカールはすぐに見抜いた。

272上 デュリュ

→ ジャック・フランソワ・デュリュ(171頁)

同 俺の肩はまだ字が入っていない。

→ 俺はまだ前科者ではなく、きれいな体だ。(76頁参照)

同 「いいか。おれがこれからちゃんと・・・」・・・死神瞞しは相手にこう言った。

→ 一方、マレー女が死神瞞し(ジャック・コラン)に対して口を切るが早いか、彼は相手にこう言った。「いいか、おれがこれからちゃんと・・・」

273下 「わしはイスパニアに大勢の敵を持っているのだ」

→ 「俺にはスペインに大勢の敵がいるからだ」

同 「さあ、貴様の屋根裏部屋をとおってイスパニアに行ったり行ったり」

→ 「それならお前の屋根裏部屋をとおってスペインへ行こうじゃないか」

同 突き上げ窓

→ 天窓

274上 「ここなんだな」と思いながら、彼は、プーロンの景勝が打ちひらける岩の上に坐った。すなわちナポレオンが禅譲の前々日、獅子奮迅の一大努力をしたいと思った場所であった。

→ 「ナポレオンが退位する前々日に最後の一大努力を夢見た運命の場所がここなんだ」と思いながら、彼はブーロンの景勝が開ける岩の上の座った。

同 轣轆(れきろく)の音

→ 車輪のきしむ音

同 車輪に制動機をつけてもらいたい

→ ブレーキをかけてもらいたい

同 後ろにいる侍僕が大型の四輪馬車を止めさせた。

→ 後ろに乗っていた侍僕が馬車を止めた。

274下 侯爵の若夫人

→ ルノンクール・ショーリユー若侯爵夫人(マドレーヌ・モルソーフ)

同 おひろいで行ってみたいの

→ 歩いて行ってみたいの

275下 密房

→ 独房
 

第三部 邪悪な道の行きつくところ(281以下)


284上 『今となっちゃ馬まかせだ』

→ 「ここから先は馬次第だ」

284下 屋根下道

→ アーケード

285上 嗷々たる

→ ごうごうたる

285下 陞進

→ 昇進

同 収監時の特殊相

→ 収監記録の詳細

同 『刑法』の持つ節約の真価が

→ 刑法の仕組みが

286上 防衛隊屯所

→ 衛兵詰め所

同 警察の留置所

→ バリ警視庁の留置所

286下 『拘置所』、『刑務所』、『拘禁所』

→ 留置所、拘置所、刑務所

同 監獄のうちにありうるのは

→ 禁固刑は

同 拘禁は体刑であり

→ 懲役刑は体刑であり

287上 『政治生活情景』

→ バルザックの人間喜劇の中の一つである『政治生活情景』

同 拱廊

→ アーケード

287下 侵害行為を犯している

→ 神聖冒涜罪を犯した犯人だと

同 ホラティウス家の末裔

→ ホラティウス兄弟の最後の生き残り

288上 荼毒(とどく、非常に苦しめること)

→ 堕落

同 作用と活発さ

→ 作用と働き

298上 車除けの杭

→ 車除けの大石

同 腹を割かれっぱなし

→ 腹をえぐられっぱなし

同 例のその名を八百屋という女あきんどが

→ いわゆる八百屋を営む女が

同 じゅが薯

→ りんご

289下 グレーブ広場

→ グレーブ広場(今の市庁舎広場)

同 屋根下道を塞いでいた八百屋はというと、例の女主の水菓子屋の店が増して行くにもかかわらず、パリ市中にその標本が今なお存しているだけ、なおさらその典型と来れば、好奇心をそそる女八百屋であった。

→ アーケードを塞いでいた八百屋は、今では非常にめずらしいタイプの八百屋である。なぜなら、八百屋の店舗数は増えたけれども、今でもこの種の八百屋はパリにいるからである。

同 着物はまるでつづれ織りだった。

→ 着物はまるで壁紙のようだった。

同 浅い靴はしかめつらをしていて、着物にひけをとらぬくらい穴のあいた顔立ちをあざ笑っているにちがいないと思われた。

→ 浅い靴はしわだらけで、まるで、着物と同じく穴だらけの姿をしている事を気にも留めていないかのようだった。

同 その上また何という胸倉か。膏薬だってこれほど汚くはなかったろう。

→ その上また何というきたないエプロンだろう。膏薬もこれほど汚れることはない。

290下 フランスの、特にパリの大変動と混ざり合っている。

→ フランス革命、特にパリの動乱と密接に結びついている。

291上 パリの人間にしても外国人にしても、また、田舎の人にしても、彼らが一日なり二日なりパリに滞留していたことがあれば、眼鏡河岸通りという河岸通りの陰気な不思議な装飾となっている、小さい物見台をいただく、三基の太い塔をわきに従えた黒い壁に目をとめなかったものはあるまい。塔のうちの二基はほとんどよりそわんばかりである。この河岸通りの始まるのはポン=トー=シャンジュの橋の下手で、ポン=ヌフの橋まで伸びている。

→ バリの人間だろうと、田舎者だろうと、外国人だろうと、誰であれパリに二日もいた人ならば、ルュネット河岸通りを飾る陰気で神秘的な建物に気づかない人はいないだろう。それは黒い城壁であって、その脇には円錐形をした三本の大きな塔が立っていて、その中の二本はまるで寄り添うように近い。ルュネット河岸通りはシャンジュ橋の南詰めに始まりポンヌフ橋で終わる。
 

同 国王広場が太子広場に一矢をむくいたのである。

→  国王広場はドーフィーヌ広場を真似たものだった。

291下 昔の『警視庁』、これは『最高法院』の類題院長の邸宅だったが、『裁判所』の管轄下にあった。

→ 警視庁は、最高法院の院長の邸宅だったものだが、かつては裁判所の管轄下にあった。

同 『勘定』奉行所

→ 会計監査院

同 『御用金』奉行所

→ 租税法院

同 君主直属の法廷

→ 最高裁判所

292上 サント=シャペルとこれら四基の塔(時計塔を含めて)によって、メロヴァンジアン朝からヴァロワ家初葉に至るまでの宮殿の周囲地、と土地登記所の役人なら言うであろう、つまり城壁は完全に確定されている。しかし、われわれにとっては、この宮殿は、その改造の結果、なお一層特別の意味で、聖王ルイの時代を現すものとなっている。

→ メロヴィング朝からヴァロア朝の初期の頃までの王宮の周囲、測量技師のいうところの区画は、サント・シャペルとこれら四基の塔(時計塔を含めて)によって、明確に区切られている。しかし、現在われわれが見る王宮は、さまざまな改変を経たもので、聖ルイ王の時代の王宮を現している。

同 ルーブルに帰還し、ここがその最初の城塞となった。

→ 最初の城塞としてすでに存在していたルーブルに戻った。

同 裁判所も本寺と同じく

→ 裁判所も教会も同じく

同 車馬はこの三基の塔の太い柱の柱頭の高さを走る

→ 車馬はこの三基の塔を下で支える太い柱の柱頭の高さを走る
 

292下 『歩き損広場』

→ 裁判所の控えの間

同 心臓が血を噴く

→ 胸が痛む

同 それと同じようにラ・コンシエルジュリーでは、同一城壁のうちに初期各種族の性格があるのをサント=シャペルのうちには聖王ルイの建築が遺っているのを目のあたり見ることが出来る。

→ それと同じように、ラ・コンシエルジュリでは一つの区画の中に初期の各王家の痕跡があるのを、また、サント・シャペルのうちには聖王ルイの建築が遺っているのを目の当たりにすることが出来る。

同 市評議会に物申そう、

→ 私は市の評議会に言いたい。

293上 バリと君主の庭園に

→ バリとその最高裁判所に

293下 古いくぐりは閉鎖され、その今日の場所、すなわち拱廊が道しるべの役をしている中庭の、時計塔とモンゴメリ塔の間に移された。左手には『鼠落し』、右手はくぐりがある。

→ 昔の入り口は閉鎖されて、現在の場所に移された。そこは時計塔とモンゴメリ塔の間で、アーケードをくぐってはいる中庭にある。その左手にいわゆる「ネヅミ取り」が、右手に監獄の入り口がある。

295上 小説家の疑念すら凍らせてしまう

→ 小説家に脱獄を示唆する気もなくさせてしまう

同 しかし、今日では証明ずみの、畏きあたりのお目こぼしがあったに違いないという確信が、妻女の献身を減少させることはなかったにせよ、少なくも不成功の危険を減少させている。

→ しかし、この脱走には、畏きあたりのお目こぼしがあったことが今日では証明されている。それによって、彼の妻の脱獄に対する貢献の大きさが減少することはないが、失敗の危険性が減ったのは確かである。

同 『くぐり』を越えてもなお、壮麗な幾本もの柱に飾られ、モンゴメリー塔と銀貨塔が並び立つ堅固な壁にかこまれた円天井の広間に行きつくには、幾段も階段を降りねばならない。

→ 入り口を過ぎてから円天井の広間に行きつくには、幾段も階段を下りねばならない。その広間の堅固な壁はモンゴメリー塔と銀貨塔にはさまれていて、壮麗な柱に飾られている。

295下 彼らの寝室も寝具もいわゆる『古金貨』の寝室寝具と変わったところはない。この名はおおかた、かつて、囚人たちが週に一枚ずつこの居所の代として支払った金貨に基くものと思われるが、

→ 彼らの寝室も寝具も自費独房(ピストル)のものと大差ない。このピストルという名称は、おそらく、かつて囚人たちが部屋代として週に一枚ずつ金貨(ピストル)を支払ったことに基づくものと思われるが、

296上 それは、銀貨塔とモンゴメリー塔に平行して面会所の周囲を巡り、王妃やエリザベート夫人の地下牢や、密房と呼ばれる独居房へと案内する、光の当たらぬ。怪しい、背を曲げた、みるからに恐ろしいあの人像柱が目につくため、一入見慄いを催させずにはいない。

→ それ以上にぞっとさせられるのは、銀貨塔とモンゴメリー塔に平行して存在する地下の洞窟を見たときである。アーチ型の天井をしたその洞窟は暗やみの中にあって神秘的な恐ろしさをもっている。その洞窟は、面会室の周りを巡って、王妃マリー・アントワネットとエリザベト夫人のいた牢獄と、いわゆる秘密の独房に通じているのである。

同 身支度の作業が行われたのは、

→ 死刑囚の身支度は、

296下 いかにも胆汁質らしく

→ 冷静に

同 私が、罪人なら一番恐れるにちがいないこと、来るとすぐ判事さんの前に出るということを、ご恩だと思ってお願いしていると。

→ 私が犯人なら最も恐れること、つまり判事が来られたら是非ともすぐに判事の前に引きだされることを望んでいると。

297上 ともかくも非常に健康な、

→ ともかくも非常に衛生的な

同 無関心らしい様子のかげに隠した常習的な曖昧さ

→ 無関心な表情の下に隠したいつもの曖昧な態度

298上 刑務所は、一七八九年の革命が犯した罪の一つであった。

→ 監獄は一七八九年の革命の犯罪性を示すものの一つであった。

同 そこで人は、上流階級の人々が『司直』の手にかかったと見てとらわれる精神的な物凄い苦悩を別にすれば、この権力の行動には、思いもうけぬだけなお一層大きい優しさと簡素さがそなわっていると確言できる。

→ それゆえ、上流階級の人々が司直の手にかかったときに感じる恐ろしい精神的苦痛はともかくとして、司直の取る行動は予想以上の優しさと簡潔さに満ちていると言うことが出来る。

298下 彼らがわれから身を委ねる感情の重さが、生活の付属品からその通常の意味を剥ぎ取ってしまう。

→ 彼らを包み込む重苦しい気持ちのために、彼らにとっては日常の細々としたことなどはどうでもよくなってしまうのである。

299上 幅三四分の帯

→ 幅三四行分の帯

300上 哲学者、博愛主義者、政治記者がたえずあらゆる社会的力を削減しようと努めている現在、わが国の法律が予審判事に許容している権利は、あえて言えば、目の玉の飛び出る程の、あの権利によって正当とされるものであるだけになお一層恐るべき攻撃の的となっている。

→ 哲学者、博愛主義者、政治記者がたえずあらゆる社会的権力を削減しようと努めている現在、われわれが法によって予審判事に与えている権力は攻撃の的となっている。予審判事の権力が言うならば途方もなく大きいために、この攻撃は正当性を得てますます激しさの度を加えている。

300下 わが国刑法全体の支えとなっているこの柱石が

→ わが国刑法全体の支えとなっているこの柱石、すなわち予審判事の権力が

同 予防検束は恐るべきものではあるが、必要な、社会に対するその危険はまさにその偉大さそのものによって相殺せられる底の権能の一つである。

→ 逮捕とは恐るべき、しかし無くてはならない権力の行使である。その社会的な危険性は、その社会的な重要性によって相殺されているのである。

同 一制度を破壊し、他の基礎の上にそれを再建してみるという。大革命以前のように、司法界に対する莫大な財産保証を要求してみるという。しかしそういうことが信ぜられるだろうか。そういうことから『社会』の心象を作り上げ、これを侮辱すべきだとするようなことがあってはならない。

→ この制度を破壊するのもよい。他の基礎の上にそれを再建するのもよい。大革命前のように、司法界に対する莫大な財産保証を要求するのもよい。しかし、なんであれそれを信じてやらねばならない。その制度によっていったん一つの社会を作り上げたなら、その制度を決して軽視することがあってはならない。

同 昔の『拘置所』を回復することである。

→ 拘置所を改善することである。

同 拘置人の境遇に関する公衆の意見に深甚な変革を及ぼすようでなければならない。

→ 拘置人の立場に対する大衆の見方を一変させるようなものでなければならない。

301上 ところが習俗というものは、法律をその実施の仕方によって判断する。

→ ところが大衆は、法律をその実施の仕方によって判断する習性を持っている。

同 やがてわかることだが、こういう理由によって、あの伝達が無かったら徒刑囚を破滅させたことだろうと思われる企図が失敗に帰すのである。

→ やがて見るように、これと同じ理屈で一つの作戦が失敗する。実際、この作戦は、連絡を受けていなかった徒刑囚を破滅させたのである。

301下 恐怖の三大原因によって生ぜしめられる事柄に慄然とするだろう。

→ 恐怖をもたらすこの三つの要因がもたらすものによって慄然とさせられる。

同 君寵がますます厚かった、アランソン

→ 君寵がますます厚かった。アランソン

302下 デュ・シャトレの奥さんは、あの方に、リュシアンという男は実の妹さんとお母さんをあやうく殺すところだったのだから、いくら死んでも死に足りない程だと言ったそうよ。

→ デュ・シャトレ夫人は「リュシアンはわたしの妹と母を殺しかけたのだから、いくら死んでも死に足りない男だ」とあの方に言ったそうよ。

同 「私たちは毎日毎日人に立ちこえたことをしているよ。自分たちの義務を果たすことによってね」

→ 「わたしたちは人目をひくような仕事を毎日しているんだよ」

303下 あなた方はただ検事さん一人に恩をお着せになるのじゃありません。あの方、この事件では御自分の意見はお出しになれない立場にいらっしゃるのです。そのほかに、あなたのおかげで、いま亡くなりかかっているある一人の女の方、というのはつまり、セリジーの奥さんのことですけれど、あの方の命が助かるというわけなのです。ですもの、あなたが後援者に不自由することはございませんでしょう。

→ あなた方はこれで、この事件にご自分の意見をお出しになれない検事さんのお役に立てるだけではありません。いま死にそうになさっているセリジーの奥さんをも助けてあげることになるのです。そうなれば、あなた方は後援者に不自由することはないでしょう。

305上 こういう例外は、いつも人に知られぬだけに否定可能にはちがいないものの、家庭の唯中における二個の気象の間で遂行される闘争の形に一から十まで左右されている。さて、カミュゾ夫人は一から十まで夫を支配していた。

→ こういう例外的な事態は、たとえ起こったとしても誰にも知られないから簡単に否定されてしまうであろう。しかし、それが起こるかどうかは、この二人の夫婦のうちのどちらが夫婦喧嘩に強いかということに全面的にかかっている。しかも、この家ではカミュゾ夫人が夫を完全に尻に敷いていたのである。

305下 不当ニ愚ロウセシコトニツキ

→ 不当ニ利用セシコトニツキ

307上 リュシアンとその朋輩なる徒刑囚はコワニャールより長期にわたり世間体を維持したるも

→ リュシアンとその仲間の囚人が世間体を維持した期間は、コワニャールよりも長期にわたったが

309上 ジャンティはサヴォワ家のルイーズがサンプランセイに渡した受領証を売りつけた

→ ジャンティは、サヴォワ家のルイーズが出した釈放命令をサンプランセイに売りつけた

同 予審判事付き録事書記は、墓場とみごとな優劣争いをしている。

→ 予審判事付き書記は、墓よりも立派に沈黙を守るのである。

311下 健康もいいし、良心もきれいだという

→ 体は元気だし、意識もしっかりしているという

313下 罪悪の世界の真を想察したのだった。

→ 犯罪の世界における真実を見抜いていたのだ。

同 この現象以下の、残余の顕著な業績は、才能に負うものだ。

→ 他のあらゆる行為は、それがいかにすぐれたものであっても、この最高のレベルの下に位置するかぎり、後天的な技量に依存したものである。

同 進退きわまったジャック・コランは、野心家のカミュゾ夫人と、リュシアンが呑み込まれた恐るべき破局の打撃によって恋慕の情を目覚めさせられたセリジー夫人に顔を合わせたのである。

→ 進退きわまったジャック・コランは、野心家のカミュゾ夫人、および、リュシアンが飲み込まれた恐るべき破局の打撃によって恋慕の情を目覚めさせられたセリジー夫人と、期せずして意見が一致したのである。

314上 そのための助力を廊下に響く監視人の靴音が彼のうちにひきおこした、酔わんばかりの喜悦の情が与えてくれた。

→ 廊下に響く監視人の靴音を聞いて陶酔にも似た喜びを感じた彼は、勇んで変装に取りかかった。

314上 そこで人々は満々たる水面を、家並に沿って、河に向かって傾斜している通りを縫って、舟行することが出来た。

→ そのために、大水のときは、舟は家並に沿って進んで、河に向かって傾斜している通りに直接こぎ着けることが出来た。

314下 ラ・ロメットと小間物売りとの間柄は、ちょうど、ほかでもない資金叔母さんたちと、困っている、自称きちんとした女性たちとの間柄、つまり十割高利の金貸しとまったく同じことだった。

→ ラ・ロメットと古着屋との関係は、この古着屋である「元手おばさん」(133頁参照)すなわち十割の高利貸と、困窮したいわゆる立派な女性たちとの関係とまったく同じだった。

315上 おしゃらく

→ おしゃれ

315下 キングズドッグ

→ 彼女が連れている狆(チン)

同 法服でこの広間の掃き掃除をしながら、ちょうど大殿様相互のように、大弁護士を洗礼名で呼んだりしている事件のない弁護士のほかに、最終の審理に廻されはしたものの、最初の審理ときまった事件の弁護士がもし待たせるようだったら弁護に立つ望みもないでもない唯一つの事件のことで鶴首して待つ、代訴人に身心ささげた辛抱強い青年もときどき見受けられた。

→ この広間には、依頼人のない弁護士達が、法服の裾を地面にすって歩きながら、貴族階級に属するように見せたくて、大貴族たちのように、主任弁護士を洗礼名で呼んでいるのが見られるが、そのほかに、代訴人に仕える辛抱強い若者たちも見受けられた。この若者たちは、一番最後に審理される予定のたった一つの事件のために待っているのだが、最初の事件を担当する弁護士が遅刻して、事件の審理が早まる可能性があったのである。

316上 丸一日家にいたばかりで

→ いつも私どもの家にいるのですが

317下 例の実物のよく知れた裁判書類を一瞥するだけで満足していた。

→ その種の書類のことはよく知っていたので、彼はこの裁判所の書類にはちらっと見ただけだったのである。

同 一体運というやつはどこに行って巣をつくるもんだか

→ まったく幸運というやつはどこに隠れているか知れたものではない。

318上 尊敬の念に哺まれ

→ 尊敬の念に哺まれ(はぐくまれ)

319上 男爵夫人を掴まえて密房収監中の拘置人と外部の人間との連絡をすっかり遮断した憲兵班長の献身行為のせいで、きわめて安全な空隙もできていた。

→ 憲兵班長が、独房収監中の拘置人と外部の人間との連絡を遮断するために、献身的に男爵夫人を掴まえていたおかげで、夫人の安全を確保するための十分な空間ができていた。

320下 ヌリッソン夫人はそれを小間使たちとの関係で知っていたのである。

→ ヌリッソン夫人はそれを彼女たちの小間使たちとのつきあいから知ったのである。

同 「小間物を商う女でございます。

→ 「古着屋でございます。

321下 悪鬼羅刹

→ 悪鬼羅刹(あっきらせつ)

322上 劫をへた

→ 年功を積んだ

322下 しかし誰もセリジー夫人と勘定をつけたものはないのだから、

→ しかし誰もセリジー夫人を尊敬していない以上は、

323上 貞節な夫人のわけのわからぬ失敗の原因となる

→ 貞節な夫人が不思議な破滅をしてしまうことの原因となる

同 それから真剣な恋が身を委ねてはあのように多くの歓喜を味わうあの弛緩の時期が来た。

→ それから、真剣な恋人が大喜びで膝を屈する卑屈な時期がやって来た。

324上 「かわいそうな子ね。あの子はそんなことをしたのね。私、あの子が好きだ。・・・」

→ 「かわいそうな女の子ね。あの子はそんなことをしたのね。私、あの子が好きだわ。・・・」

324下 予審判事室の位置も関係なしとしない。その選択はわざとなされたものではないにせよ。『偶然』が『司直』を妹扱いしたことはみとめなくてはならない。

→ 予審判事室の位置はそれなりの意味があるのだ。その位置が意図的に選ばれたものでないのなら、偶然の好意に感謝せねばなるまい。

325下 カスタン

→ カスタン(293頁に既出)

同 宸翰(しんかん)

→ 王の直筆の手紙

328上 厄病除けの酢

→ カトル・ヴォルール社の酢

328下 なぜ、リュシアンの書類を全部と言っていい位お持ちになるのか私には分かりません。

→ なぜ、リュシアンの書類のほとんど全部を押収されたのか、私には分かりません。

同 カミュゾはその微笑を受けとると、といっていいくらいという言葉のおよぶ範囲がわかった。

→ カミュゾは相手に笑われたことから、「ほとんど」という言葉の意味を悟った。

329上 「が、もしあなたがジャック・コランで、あの人は情を知って、脱獄した徒刑囚、涜神の罪人の仲間になっていたのだとすると、裁判所が疑いをかけている犯行の一つ一つが、単に確からしいという以上のことになるのです」

→ 「が、もしあなたがジャック・コランで、リュシアン・シャルドンはそれを承知の上で、脱獄囚であり神を冒涜する男の仲間になったのだとすると、彼にかけられているあらゆる容疑はいよいよもって濃厚ということになります」

330上 清況

→ 情況

同 まったくナポリのファルネーゼ宮のヘラクレースからあの巨大な誇張をのぞいたのがこれだった。

→ それは、まさにナポリのファルネーゼ宮のヘラクレスそのものだと言ってもそれほど言い過ぎではなかった。

331下 ラ・コメット

→ ラ・ロメット

332上 マラ

→ マラー

同 小間物商

→ 古着屋

同 またあなたの叔母が、あなたの受けた教育と、彼女がいろいろな人間の不行跡のいけにえを提供していたため、その人たちのところへ出入りしては授かっていた庇護のおかげで、あなたをある銀行に手代として勤めさせることができたが、

→ またあなたの叔母は、あなたに教育を受けさせて、その上、いろいろな人間の放蕩三昧に対して犠牲者を提供することで確保した縁故を使って、あなたをある銀行に手代として就職させることができたが、

同 その物思いが彼に、本当にびっくりしたような様子を与えた。

→ その物思いのおかげでジャック・コランは、意外なことを聞いて本当にびっくりしたような表情になった。

333上 その気持の動きは、自分を取り調べる予審判事の同情にあまり期待していなかったジャック・コランの目についた。

→ ジャック・コランは、予審判事の同情にはほとんど期待していなかったので、判事のこの気持の動きに驚いた。

336下 私をあんなに高いお金を出して買ったあの怪物のヌッシンゲンの奴、私が自分で自分をあの男の持ち物と思う日にはあすという日はないと知っていながら、

→ あんなに高い金を出して私を買ったあの怪物のヌッシンゲンは、私が自分をあの男の物だと認める日が来たら最後、私には明日という日がないことを知りながらも、

337下 おジャガを口にくわえて

→ リンゴを口にくわえて

338上 いい型をつけましょう。

→ ポーズを取りましょう

338下 そして魂は、お針子たちにリットル桝一杯の炭の力をかりさせる熟慮のうちに、治療の手段を見つけるのです。

→ そして魂は、思い詰めたお針子女たちが頼る最後の手段、あのリットル桝一杯の炭火を使った中毒死のうちに、治療の手段を見つけるのです。

339上 この子が、五六百万の遺産を嗣いだとしましょう。

→ この娘が、五六百万の遺産を嗣いだとしましょう。

339下 ちんころ

→ 狆(チン)

同 私が何か考え込んでいると思って、あなたは私の気を紛らすために、ばかなことをなさったわ。

→ 私が憂うつそうにしているのを見て、私の気を紛らそうと、わたしに悪ふざけをしかけてきたわね。

340上 身の上を嘆くお針子はいつも私、ぞっとするほどいやでした。

→ めそめそするお針子を見ると、わたしはいつも嫌な気がしたものです。

同 どんなになみなみした愛と一緒に

→ どんなに豊かな愛とともに

同 私がこの象牙にはめ込もうと力めた愛をそこから取り出して

→ 私がこの象牙の像に込めようとした愛を、ここから取り出して、

同 死んだ女が施しを乞う

→ 死んだ女がお情けを求める

同 もしあの晩ヌッシンゲンが、私に、あなたを愛したのと同じように自分を愛してくれる気になったら、二百万やると言ったのをばかな人たちが聞いたら、その人たちは私の死をどんなに雄々しく思うようになるか、あなたにはおわかりにならないでしょう。私があの男に対する言葉を守って、あの男のせいで往生したと知ったら、あの男はまんまと泥棒にあったことになるでしょう。あなたが呼吸していらっしゃる空気を呼吸し続けるために、私は、何もかも試みました。私はあのずんぐりした泥棒に言ってやりました。―今もそうしてもらいたいとおっしゃったけれど私にそういう愛され方をしたいとおっしゃるなら、私、もう決してリュシアンに会わないと約束してもようございますわ。

→ あなたは理解できないでしょうけど、昨晩ヌッシンゲンが私に「君がリュシアンを愛したのと同じように私を愛する気になったら、二百万フランやる」と言ったことを知ったら、私の死を限りなく英雄的行為だと思うような馬鹿な人たちもいるのですよ。あの男は私がことば通りに彼のためで死んだことを知ったとき、わたしはあの男をとんでもないペテンにかけたことになるんですもの。わたしはこれからもあなたと共に生き続けるために、できることをすべてやってみたのです。わたしはあの太った悪党にこう言いました。「あなたの言うように愛してあげましょうか。もう二度とリュシアンに会わないって約束してあげましょうか」

340下 あの人のために、私に、二百万下さる。・・・駄目だよ。あの人の渋面をご覧になったら。

→ あの人のために、私に二百万くださる?・・・まったく、それに対するあの人の渋面をお目にかけたかったわ。

同 いやは聞きたくないでしょう。

→ 何もおっしゃらなくても結構よ。

同 あなたの髪に、私のように分け目をつけてあげるのは一体誰でしょう。

→ 私がしたのと同じようにあなたの髪に分け目をつけてあげられる人が一体どこにいるでしょう。

341上 熱に浮かされた陽気さだし、盲目の愛情の最後の努力ではあったけれど、陽気には違いない調子で書かれた自殺の遺書を見るのはあとにも先にもこれきりだったので、読み終える頃になると、判事の胸は嫉妬心の動きに緊めつけられた。

→ この手紙を読み終えるころには、判事の心は嫉妬心に悩まされていた。これほど楽しそうに書かれた自殺者の手紙を読んだのは初めてだった。もちろん、それは熱に浮かされた陽気さであり、盲目的な愛が見せる最後のあがきに過ぎなかったのだが。

342上 「あなたに、その金は見つかるかも知れないと言ったからと言って、私がわが身を危うくしたに等しいなどとはお考え下さらんように」

→ 「金は出てくるかも知れないとわたしが言ったからといって、私が悪事に関っていると思ってもらっては困ります」

342下 容儀を身に付けた

→ 身のこなしを装った

344下 カミュゾは、まだ身分の確定されていない拘置人から、リュシアンに対する訊問が行われた場合、行く手の地平線に湧く懸念の雲を認めさせられれば認めさせられるほど、その訊問を必要とした。

→ カミュゾは、まだ何者かもわからないような拘置人から、リュシアンに対する訊問を行えばきっと不吉なことが起きるぞと言われると、よけいに是非ともリュシアンを訊問してみる必要があると思った。

345上 彼はガラスを太鼓を叩くように叩きながら、大河のような推測の流れに身をゆだねていた。

→ 彼は窓ガラスを軽くたたきながら、奔流のように流れる推理の中に身を委ねていた。

同 供御を捧げる司祭

→ 供物を捧げる司祭

同 例の玉の番をしに

→ 不測の事態に備えるために

345上 金がまるまる見つかるようにして見せようという約束

→ 金を見つけだしてやると約束したこと(342上参照)

346上 カミュゾは、ありとあらゆる犯行を推定しておきながら、拘置人が犯していたたった一つの犯行、すなわち、リュシアンに有利な贋遺書のわきを通りすぎてしまった。

→ カミュゾは、ありとあらゆる犯罪を想定したが、この容疑者が犯した唯一の犯罪、すなわち、リュシアンために遺書を偽造したという犯罪には思い至らなかった。

346下 予防拘置

→ 未決拘留

347下 それが予審のわなにかかり、非業の死を遂げるのだ。

→ 彼が予審の罠にかかった場合には命はないだろう。

348上 告訴陪審

→ 起訴陪審

同 告訴陪審に巻き戻された場合の最終訴訟はどうかというと、これは、陪審員の協力をまたずに、王国裁判所に帰属するものとされる。

→ 最終審について言えば、もし起訴陪審を復活させるとすると、それは陪審員の参加しない王国裁判所に属することになるだろう。

349下 ある文句の糸口を切ろうとして、判事はそう言った。

→ 何かを言おうとして判事はこう言った。

351上 彼はいま、自分らの立場を獅子のような勇気をもって、間然するところのない巧妙さをもって防禦したあの、恩人ではなく、共犯者である人間を裏切ったのである。

→ 彼は自分の命の恩人を裏切ったのではなかった。彼は、自分たちの立場を獅子のような勇気をもって、間然するところのない巧妙さをもって防禦してくれた自分の共犯者を裏切ったことになるのである。

同 その場のリュシアンは、首切り台からはずれた屠殺場のけだものに似ていた。

→ そこにいたリュシアンは、屠殺場の首切り人が殺しそこねた獣に似ていた。

351下 ロワイエ・コラールの栄光は、一つには、強制された感情に対する自然な感情の不断の勝利を広く示したこと、たとえば宿所提供の掟のごときは、司法上の宣誓の効力など無にしてしまうほどの拘束力を持つに違いないと主張することによって、誓約優先の根拠を支持したことにある。彼はこの理論を、フランスの議政壇上で、公衆の前に吐露した。勇敢に陰謀の加担者達を称揚し、社会の兵器廠から一定の情況を目当てにして引き出される圧制的な法律より、友情に従うほうがむしろ人間的であるということを示した。

→ ロワイエ・コラールの功績の一つは、強制された感情よりも自然の感情の方が常に優位に立つことを主張したことである。たとえば人を歓待すべきであるという掟が、司法上の宣誓を無効にするほど強い拘束力を持っていると主張して、先行する宣誓の重要性を擁護した。彼はこの理論をフランスの演壇から全世界に向けて発表した。彼は大胆にも陰謀の加担者たちを擁護したのである。社会の兵器庫から情況に応じて取り出される高圧的な法律に従うよりも、友情に従うほうが人間的であると言ったのである。

同 リュシアンは、口をつぐんで、ジャック・コランに自己防衛させておく義務を彼に課している連帯の法を、しかも自分の損失において、無視したのである。

→ リュシアンは連帯の掟にしたがって、自分は口をつぐんで、ジャック・コランに自分の防衛を任せておくべきだったのだ。ところが、彼はこの掟を無視して、自ら墓穴を掘ったのである。

352上 出来てしまった自分の不幸のために台座を作る人間

→ 完成した自分の破滅の台座をつくる人間

353上 ジャック・コランのありの姿、青銅の人となったのである。

→ ジャック・コランと同じく、冷徹なる青銅の人となったのである。

同 思想の生命現象

→ 人の心の動きが見せる現象

353下 保護拘置

→ 未決拘留

同 これらすべての居所、というのは種族固有の言葉を用いる必要から言うのだが、それらは

→ 総称的な言葉を使うなら、これらすべての居所は、

同 最高裁判所の年齢の関係で

→ 最高裁判所の年数の関係で

355下 古最高法院

→ 歴史ある最高法院

356下 グランヴィル氏はカミュゾ氏にこう言いたいところだったのだ。

→ グランヴィル氏はカミュゾ氏に次のように言おうとしたのである。

同 この祝辞めく言葉を用いたときほど彼が意思鮮明だったことはこれまでになかったろう。カミュゾの腹の中が寒くなった。

→ しかし、このお世辞には彼の真意が明確に現れていた。カミュゾは心の底からぞっとした。

357上 さらにこのリュシアンの愛人が、昔、壁石色のマントが男たちに対して持っていた関係と同じ関係を女たちに対して持つ化粧を、有無を言わさずさせていた。

→ さらに、アジは、かつて男たちが着た灰色のマントに相当する服装を、リュシアンの愛人に有無を言わさずさせていた。

357下 みなこの壮麗きわまる王者の権を享けに来たいと思うだろう。

→ どの女もみなこの壮麗きわまる王権を手にするためにパリに来たいと思うだろう。

358上 宣言されるという見透しと、死の間で思いまどうことはありません。

→ 宣言されるくらいなら、わたしは迷わず死を選びます。

360上 人気ものの女性

→ この今をときめく女性

360下 この方、あのぬりたくりをまたおやりになれば。こわいようなぬりたくりだけど

→ この方がもう一度この嫌ななぐり書きをお作りになればよろしいのです。

同 あなたが誰であるか、司法界がもう、見て見ぬふりをすることもありうることですよ。

→ あなたが誰であるかを無視することもあるのですよ。

365上 最初エヴァに火花が投げかけられてからこっち、この系統のうちには、悪魔の息で火が吹きおこされて来ましたが、あなたはアダムの血をこの系統によってひいているのです。

→ あなたはアダムの血のこの系統を引いているのです。悪魔はこの血筋に属して、その火を絶やさないように息を送り続けているのです。その火の最初の火の粉を浴びたのはあのエヴァでした。

365下 しかし僕としては、生活の勘定はついています。だから僕はあなたの政略の盤根錯節から首を引き抜いて、それを滑り結びに結んだ僕のネクタイの輪につっ込むことも出来ます。

→ そして僕は、この暮らしで散々な目に合いました。だから、僕はあなたの政略という錯綜した結び目から僕の首を引き抜いて、それをネクタイの滑らかな結び目の中に滑り込ませることが出来るのです。

366下 伊達男としての才智が、詩人らしい信頼から生じた結果をどうにか、消滅させる範囲内で、自分の共犯者にこうむらしめた、罪悪の償いをつけたのである。

→ 信じやすい詩人が犯した過ちを、世慣れた伊達男の才知で相殺できるならと、彼は共犯者に対して与えた損害の埋め合わせをしたのである。

367上 壁の厚さだけリュシアンから離れていたために、

→ 壁の厚さのためにリュシアンには届かなかったので、

同 半円土壽型の

→ 半円筒型の

371上 「ねえ君、僕はこれから君に書き取ってもらいたいことがあるんだがね。・・・

→ そこで若い秘書はマソールに対してこう言った。「ねえ君、僕はこれから君に書き取ってもらいたいことがあるんだがね。・・・

371下 そう言って弁護士は次のように書いた。

→ そう言って弁護士マソールは次のように書いた。

372上 かようにして、人生の最大の事件までが、ともかくも真実な『パリ雑報』欄に反訳せられるのである。

→ 誰もが知っているように、この人生最大の事件は、多少信用できるパリの新聞の三面には、このような形で掲載されたのである。

同 最大多数も

→ 最大多数の人たちも

同 同時に、『牢獄』の下劣な人間たちの姿と、もっとも身分高い人物たちの姿とを混ぜ合わせることによって、リュシアンの生涯があんなにも異様に紛糾させてしまった、目下停止中の、多岐多端な関心事に解答を与えることができるはずである。

→ 同時に、リュシアンの出世によって、最も高貴な人たちと監獄の中の最も卑しい者たちが付き合うようになったことで混乱を来したさまざまな利害関係を、いまだ未解決のままに置かれているそれらの利害関係を、解決することができるはずである。
 
 

バルザック全集第14巻 

 

第四部 ヴォートラン最後の化身


9上 人物をもよく入れた。

→ 人物を充分満足させた。

同 この職は、それ自身すでに一財産であるが、これを立派に持ち耐えるには一大財産が必要であった。

→ この職は、それ自身すでに一財産であるが、この職を立派にこなすには最初から一財産持っている必要があった。

9下 金銭を全般的な社会的保証としている今日では、司法官は、昔のように、大財産を所有しなくてもすむ。

→ 今日では、金銭が全般的な社会的保証であるにも関らず、司法官は、昔のように、はじめから一財産の所有者でなくてもよくなっている。

10上 国璽尚書

→ 法務大臣

13上 事件を王国裁判所に移して、改めて予審をするために、贔屓の評定官の体面を損なう惧れのあることをするわけはないじゃないの。

→ 事件を王国裁判所に移して、評定官に改めて予審をさせるのじゃないかしら。

14上 よしんば、裁判所がこの訴訟の審理裁判権は自分の方にあると主張しても、これはもう永久に既得権のある事実となって、判事にせよ評定官にせよ、およそ司法官たるもの、ほうり出すわけには行かないんだ。

→ よしんば、王国裁判所がこの訴訟の裁判権は自分の方にあると主張しても、これが既定の事実であることに変わりはなく、判事にせよ評定官にせよ、およそ司法官たるものがこの事実をほうり出すわけには行かないんだ。

15上 ジャック・コランは、牢獄の所有する財産の保管者なんだ。

→ ジャック・コランは、牢獄の囚人たちの所有する財産の保管者なんだ。

15下 自分たちを告発した人間に対する厄介払いの仕方は知っているでしょう。

→ 自分たちを裏切った男を片づける方法は知っているでしょう。

19上 譎怪な

→ 譎怪(けっかい)な=怪しい

同 もしこの罪深い生の結末がリュシアン・ド・リュバンプレの末期に伴わなかったら、

→ もしリュシアン・ド・リュバンプレの死だけ描いて、この罪深い男の結末を描かなかったら

19下 どんな逆巻く波でも、どんな高く聳える波でも、流れの速度のために、ともに歩む渦の中心部の反逆にめげぬ力を持っている水の塊にのしかかられて、そのたくましい萌芽を消されてしまわない波はない。

→ どんな逆巻く波でも、どんな高く聳える波でも、必ず、そのたくましい波頭は大きな水の塊の下に消えてしまう。この水の塊は、流れの速さのために、自分の中に起こった波の反逆にめげぬ力を持っているのである。

同 七年この方、わが身を放擲していたのである。

→ 七年この方、自己を顧みることがなかったことがわかるはずだ。

20下 ぶな貂(てん)

→ ぶな貂(胸白貂)→ 狡猾な女

同 救命板

→ 頼みの綱

21下 マキ

→ マキ(コルシカの低木地帯の住民)

28下 その暗い廊下はここで終わっていて・・・禁錮囚はここを

→ その暗い廊下はこの階段で終わっていて・・・禁錮囚はこの階段を

29上 その称号

→ その題名

同 ここに囚人たちは、第三の拱門の空間におさまり、巨大な牢格子によってしきられて二条になっている通路の形づくる物凄いくぐりを通ってやって来る。

→ 囚人たちは、ここへ巨大なくぐり門を通ってやって来る。その門は、第三のアーチのなかに含まれていて、その下を、巨大な柵によってしきられて二筋になった道が通っている。

29下 こういう用心は、あの汚れのない想像力が、それまで知らずにいた醜怪事を反省させる結果、返って堕落するに至る出来合いの良心検討に似ている。

→ こういう用心は、告解の前に行うお決まりの良心の究明に似ている。それによって、汚れを知らなかった人間が、知りもしない非道について検討する結果、返って堕落するのである。

同 重罪裁判所の劇がみんなの精神に取りついている。

→ 誰もみな重罪裁判所の芝居をすることに熱中していた。

30上 はたして相手が悔悟していないかどうか、命惜しさに白状しなかったかどうか、知らないのだ。

→ ひょっとして相手は罪を悔い改めて、命惜しさに自白してしまったのではないかも、分からないのである。

30下 羊とは目明しのことである。

→ 羊とは警察のスパイのことである。

同 大盗

→ 大盗(たいとう)=大泥棒

31下 受地主上がりの

→元の徴税請負人の

同 放免囚

→ 前科者

32上 お構い破りをやってのけ

→ 追放令を破っており

32下 物名集

→ 命名法

33上 あかだめ

→ 淦だめ(船底の汚水のたまる部分)

33下 旧君主制組織の境界と新司法の国境とに設けられたこの機械

→ 旧制度の君主制の終点と新司法制度の始点の間に置かれたこの機械

34上 生というかわりのaffe

→ 人生という代わりのaffe

同 頭がまだ自分らの肩の上に乗っているとき、頭についていうラ・ソルボンヌという名詞は、セルバンテスとかイタリアの物語作者やアレチノのような、最も古い小説家の間で問題となっているこの言葉の古い起源を示している。

→ ラ・ソルボンヌという名詞は、肩から切り離されていない頭について言うが、この言葉がセルバンテスやイタリアの物語作家やアレチノのようなかなり昔の小説家によって言及されていることから、この特殊言語の起源はかなり古いことがわかる。

35上 この世界に対するサン=ジェルマン街

→ 泥棒たちの世界にとってのサン=ジェルマン街

35下 一八一六年、あれほど多くの生存を問題化した平和の結果、『大ファナンデル』という結社につづめられ

→ 戦争が終わって、多くの人々の生活が怪しくなってきた一八一六年に『大ファナンデル』という名の結社に再結成され、

36上 またそこから狼坊やとその昔の仲間の間で、ある種の談合も生じていて、司法官たちはこれに気を使い始めていた。

→ またそこから狼坊やとその昔の泥棒仲間の間にある種の妥協も生じていて、司法官たちはこれを心配し始めていた。

37上 かような鷹揚なメドールの徒が

→ 彼ら、気前のいいメドールたちが

37下 ただきぬいとしか愛していなかった。

→ ただ絹糸、つまり自分しか愛していなかった。

同 ジャック・コランにつけさせるべき勘定があったが、そうは言ってもはっきりさせるのはかなりむずかしい勘定だった。

→ ジャック・コランに預けている金があったが、それを実際に払わせるのはかなり困難だった。

同 自分の仲間と警察の注意を九年の間まぬがれれば、『大ファナンデル』憲章の条項にもとづき、自分の委託者の三分の二の遺産を相続できるという確信に近いものが、ジャック・コランにはあった。

→ ジャック・コランは、九年の間、自分の仲間たちと警察の目から逃れていたことによって、『大ファナンデル』憲章の条項にもとづき、自分はすでに委託者の三分の二の遺産を相続しているという、確信に近いものを持っていた。

同 刈られてしまったファナンデルに対して行った支払いを口実とすることもできはしないだろうか。

→ ギロチンにかかったファナンデルたちに金を支払ったことにして言い抜けすることも出来たのではないだろうか。

38上 軽い犯罪で手に入れた三十万フランの銀貨のうちから、おそらく当時、十万フランばかり出せば、ジャック・コランは肩の荷が下ろせたろう。

→ ジャック・コランは、三十万フランもの金を着服していたが、おそらく当時なら、十万フランばかり返せば、債務から解放されたことだろう。

同 ラ・プーライユは、もとより、かなり扱いやすいにきまっていた。

→ ラ・プーライユは、それほど厳しく金の返還を求めてこないはずだった。

38下 と看守は腹の中で言った、死神瞞しが

→ と看守は腹の中で言った。(改行) 死神瞞しが

39上 いのしし

→ いのしし(牧師)

40下 これは、彼らが勝手に中断した先の判決による十年の刑と一つにはされないはずだった。

→ これには、彼らが勝手に中断した先の判決による十年の刑が含まれることはないだろう。

同 しかし『一万』はその秘密を守っていて、

→ しかし『一万』に属する男ラ・プーライユはその秘密を守っていて、

41下 籠手

→ マニクル(籠手、こて)

42上 まもなく叔母さんが処刑されるんで

→ まもなくあいつの叔母さん(かわいがっていた男の子)が処刑されるんで

同 ある主要な行政施設の所長が言ったあの大層な言葉を

→ ある大きな刑務所の所長が言ったうまい言い方を

42下 ハーオ。

→ おお。

同 奴の横殴り

→ 奴の女

同 いのしし

→ 牧師

同 フィリップを塗りたくった

→ フィリップを盗んだ

43上 嘲

→ 嘲(あざけり)

43下 あいつはねむらされる。

→ あいつはばらされる。

44上 一つことを言った。

→ 同じことを繰り返し言った

46上 そう言うと典獄は戻っていったが、徒刑囚と囚人たちが好奇心を動かしてはいるものの、この司祭を完全に没交渉の態度で見守るのにびっくりしてしまった。

→ そう言うと典獄は戻っていったが、徒刑囚と囚人たちがこの司祭に対して好奇心を見せたもの、完全に無関心な様子で司祭を見ていたのにはびっくりしてしまった。

46下 女郎の深み(穴ぐら)をざぶざぶやったのは奴だ。おれたちの五球のお鳥目をたねに、おれたちのぎょを料ろう(おれたちをこわがらせよう)と思ったというわけなんだ。

→ 女郎の深み(ねぐら)から金を巻き上げたのは奴だぜ。やつらは、おれたちの五フラン金貨のせいで、おれたちをどやしつける(おれたちをこわがらせて)つもりだったんだ。(上巻115頁参照)

47上 奴の持ってく荷になれよ

→ 奴の玉になれよ

同 お前、板はってるのか(笑っているのか)

→ お前、からかってるのか(冗談を言ってるのか)

48下 ただ彼らの武勲の舞台の上だけである。

→ ただ彼らの仕事場の中だけである。

同 監獄に入った後でこういう特異な人間が人間らしいのは、偽装と緘黙のおかげであり、この緘黙は、彼らが禁錮の長さのために粉砕され、引きさかれ果てたとき、最後の瞬間まで降伏しない。

→ 監獄の中では、こういう特異な存在も人間らしいのは、しらばっくれたり秘密を守ったりすることのおかげである。たとえ彼らが禁錮の長さのために押しつぶされ引きさかれても、最後の瞬間が来るまでは、彼らは決して秘密を漏らさないのである。

49下 立派な詰め箆

→ 立派な詰め箆(へら)

同 束ねられてお突きを食う

→ 束ねられてお突きを食う(死刑になる)

50上 詩がすぐれて想像力を驚かすに適した、この社会的な主題の、『死刑囚』を手中におさめたのである。かつて詩は崇高なものであって、散文には現実以外の資源がなかった。

→ 詩は、社会的なテーマである『死刑囚』を手に入れたのである。このテーマは想像力を刺激するのに非常に適している。かくて、詩は崇高なものとなったが、散文には現実以外に材料がなかった。

50下 孤独というものは、これを精神界の生みの子たるその観念によって満たす天才者か、またはこれが天上の陽の光に照らされ、神の息吹と声によって霊活ならしめられているのを見る、神の業の静観者でなければ、住むにたえないものである。

→ 孤独の中に暮らせる者は、精神世界の娘である観念によってこれを満たすことのできる天才か、あるいは、神の業についての瞑想者、つまり孤独の世界が天上の陽の光に照らされて神の息と声によって生命を得る様子を見ることができる者であって、それ以外にはない。

同 それは苦患の無限倍である。肉体は神経系によって無限に接触するのであって、それは精神が思惟によって無限に参入するのに似ている。

→ この苦しみは無限につづくことによって倍加する。無限に近づくと、精神は思考に異状をきたし、肉体は神経に異状をきたすのである。

同 この不吉な情況はある場合、たとえば政治において、こと一王朝一国家に関するようなとき、巨大な割合をとるに至る。

→ この極限情況は、政治の世界で一王朝一国家の興亡に関わるような場合には、とてつもなく大きな意味を持ってくる。

51上 その正面はとっつきの中庭で

→ それは一番めの中庭に向かって開いており

51下 ひつじ

→ ひつじ(警察のスパイ)

同 絶対緘黙の上着で身を包み、

→ 絶対に自白しない決心という衣で身を覆って、

同 すでにこれほど広がってしまった情景の結末に当たって、長い余談をすることは不可能である。しかしこの余談を提供するのは、その恐るべき勢力によって、いわばゴリオ爺さんを幻滅に、幻滅をこの研究に結びつけている脊椎のごときジャック・コランを取り巻く興味以外のものではない。そうでなくても、現在、テオドール・カルヴィを召喚した法廷の陪審員たちに多くの不安を引き起こしているこの暗晦な主題は、読者の想像力がこれを発展させることだろう。

→ 話はすでにクライマックスに近づいており、ここで長い脱線をする余裕はないので、ジャック・コランに関ることだけに話を限ることにしたい。ジャック・コランは、いわば大きな脊椎であり、その大きな影響力によって、『ゴリオ爺さん』を『幻滅』に、『幻滅』をこの『研究』に結びつけているからである。また、テオドール・カルヴィを裁いた陪審員たちにとっていま大きな心配の種となっているこの難しい裁判については、読者も想像がつくと思う。

52下 町場

→都会

同 素石

→石材

53下 後家さんのピジョー

→ この寡婦ピジョー(初出)

54下 マドレーヌ

→ マドレーヌ(43頁に既出)

同 カルヴィは一言も前言に反することを言わなかった。

→ カルヴィの発言は首尾一貫していた。

55上 反面、これらの品は

→ しかし、これらの品は

同 放免囚からはこれ以上のことを

→ この前科者からはこれ以上のことを

同 ピジョー後家の身内の男とその妻は不幸にも逮捕された。

→ 不幸にも、ピジョー後家のこの親戚の男とその妻が逮捕された。

56上 サンソンさん

→ サンソンさん(49下に既出)

56下 ジュリアンさん

→ ジュリアンさん(初出)

同 シャルロ

→ シャルロ(死刑執行人)

同 この渾名は一七八九年の大革命に由来する。この名は深い反響を起こさせた。

→ この渾名は一七八九年の大革命のときに始まったものである。この名前を聞いて一同はひどく動揺した。

57上 麩(ふすま)の中でくしゃみする

→ ぬかの中でくしゃみする(ギロチンにかけられる)

同 弱ったような風をし、身振りでラ・プーライユに腕を求めた。

→ 倒れそうになって、ラ・プーライユに腕を貸して欲しそうにした。

同 とナポリタスは司祭の目をラ・プーライユ向けさせ、

→ とナポリタス(49頁に既出)は、司祭に腕を貸しながら、ラ・プーライユを指して言った。

同 あのソルボンヌを、奴の手からどろんさせてやりたいんだ

→ あのソルボンヌを、奴の手からどろんさせてやりたいんだ(あの頭を奴の手から救いたいんだ)

同 あれの持ち上がりのせいでね

→ あれの持ち上がり(半ズボン)のために!

57下 おれたちは、うまくあたりをつけたものさ。 

→ おれたちの思ったとおりだ。

58上 このサンソンは、同姓を名乗る最後の処刑者、というのはこの人物は最近罷免されたからだが、その父親に当たる人で、ルイ十六世を処刑した人物の子であった。

→ このサンソンは、この名前を持つ最後の処刑者の父親だった。というのは息子の方は最近解任されていたからである。その父親がルイ十六世を処刑した人物の子であった。

58下 大兵

→ 大兵(だいひょう、大男)

60下 竃

→ 竃(かまど)

64下 クロッタ夫妻

→ クロッタ夫妻(31頁、40頁参照)

65上 お前のような境遇のものにいい助言をしたって、死人に吸い物をやるみたいなものだな

→ いい考えがあるんだが、お前のような立場の者に与えるのは、死人にスープを飲ますみたいなものだな

同 蠱惑の目差し

→ 誘惑するような眼差し

同 町場者

→特権市民(ブルジョア)

同 ラ・プーライユの素直さは、盗賊というものが盗むという自然法の浸透をいかにこうむっているか、その証拠だった。

→ ラ・プーライユの素直さは、盗賊たちが盗むという自然の権利の存在をいかに深く信じているかを示していた。

65下 それだけでもうなんかだ。・・・

→ それだけでもすごいことだ。・・・

66上 よくつもってみろ。

→ 考えてみろ。

同 モイーズの後家

→ モーゼの後家

66下 いやお前は淋的の湯をくぐって鍛え直されたんだな。

→ そうだったのか。お前はラゴノールのおかけで鍛え直されていたのか。

同 土砂をかけられる

→ 土砂をかけられる(ギロチンにかかる)

同 であれは何をもさっているんだ。

→ で、あの女は何をして食ってるんだ。

同 あいつらはおれにお給仕しやがったんだ。

→ あいつらはおれを売りやがったんだ。

67上 ミスロク

→ ミスロク(芝居、43頁)

同 ぴしゃりをやめてもらうにゃ

→ 窮地から脱したけりゃ

67下 球というのはこうだ。

→すべてを話そう。 

同 赤ん坊

→ 赤ちゃん(55頁)

同 お前、おれの旅支度をしてくれるだろう。

→ お前は、おれの仕事をやり易くしてくれたよ。

同 おれをしん底から信用すればどれほど得が行くか見てみろというのだ。

→ おれを心から信用すればどれほど得かよく考えてみろ。

68上 首の座に直ったって

→断頭台の首の穴に入ってても

同 饐える

→ 饐える(すえる、酸っぱくなる)

同 気づかずにすんじゃうようなすっ堅気の娘

→ 気づかずにすむくらいに真面目な暮らしぶりの娘

68下 マドレーヌの仕事をお前が背負い込むことさ

→ マドレーヌの仕事をお前がしたことにするのさ

同 お前もう鼻をならしているな。おれの手に差し出口をしようてんだな。

→ お前いやだというのか? おれの賭けに口出しをしようてのか?

同 メグ

→ メグ(神)

同 牧場へヴィオックに行きさえすりゃいいんだ。金を握ったら、おれは一面だってお前のソルボンヌを人にくれようとは思わない。

→ 牧場へヴィオック(刑務所暮らし)に行きさえすりゃいいんだ。もし金がこっちにあるなら、おれはお前の首のためにを一フランだって出そうとは思わないところだ。

69上 彼はラ・フォルスの友だちに自分の共犯者たちのことを話さず、ただ彼らの意見を聞くだけだったので、自分の数々の犯罪を検討した結果、ひどく希望をなくし、ぴしゃりやられてしまったこの人間たちの智慧ではこういう計画までは思いつかなかったのだ。

→ 彼はラ・フォルスの友だちには自分の共犯者たちのことを話していなかった。彼らの意見を聞いても、自分の犯した罪のことを考えると、まったく希望が持てなかった。ぴしゃりやられてしまった(投獄されている)連中だけの知恵ではこういう計画は思いつかなかったのだ。

同 リュファールとゴデはもう婚礼をしたのか。奴らは、奴らの山吹色のやつをもういくつかは風に当てたのか

→ リュファールとゴデはもう楽な暮らしをしているのか。奴らは、奴らの山吹色のやつ(金)をもういくつかは風に当てたのか(取り出したのか)

同 奴らはすっかり血を浴びて赤くなるだろう

→ 奴らはギロチンにかかって全身に血を浴びて赤くなるだろう

同 奴らにひっぱられた正直な男

→ 奴らによって警察に引っ張られた無実の男

同 おれはお前の財産を、

→ おれはお前の財産を使って、

70下 あいつはラ・プーライユの束ねの時に、一緒に有罪を言い渡される。そしてそれから一年陰にいたあとで密告と引き換えに赦免される。

→ 彼女はラ・プーライユの束ね(裁判)の時に、一緒に有罪を言い渡されることになる。そしてそれから一年のあいだ日陰(刑務所)にいたあとで密告と引き換えに赦免されるだろう。

同 危険が、この男にある荒々しい力を与え、それによって彼は社会と闘う術を身につけた。

→ 危険が、社会と闘うことのできる荒々しい力をこの男の中によみがえらせていたのだった。

71上 今度は生き身の人間ではなく、唯の物をつかって、最後の化現を試みる

→ 今度は生き身の人間ではなく、唯の物として、最後の化現(けげん、人々を救うために姿を変えて現れること)を試みる

同 そこで、今日では、ただ受け入れがたい本当らしくもないことによる他驚異すべき物事の得ようはないので、その驚異をこの罪深い人生の意外な結末から少々失わせることになるには違いないが、ジャック・コランとともに検事長の部屋に踏み込む前にまず・・・

→したがって、この罪深い生涯の意外な結末からその不思議さ(不思議さのために最近では信じがたい話ばかりが作られている)を少々損なうことになるけれども、ここではジャック・コランとともに検事長の部屋に踏み込む前に、まず・・・

同 特に真実が、御苦労にも小説的になってくれる場合、

→ 特に真実をそのまま描けば充分に小説になってくれる場合、

同 特にパリでは、社会的自然が、それこそ多くの偶然、それそこ気紛れな景況の紛糾を内部に蔵しているため、案出者の空想力はたえず後手を引くものだ。

→ 社会という名の自然、特にパリのような場所では、身勝手な憶測が自由に飛び交い、偶然は乱舞しており、それに追いつくことは作家の想像力をもってしても永久に不可能である。

71下 アメリー・セシル・カミュゾは、チリオン家の出ではあったけれども、急いでこのことは言いたいと思うが、半分がた成功した。これはこと化粧に関しては、二倍の間違いということではなかろうか。・・・

→ アメリー・セシル・カミュゾは、チリオン家の出ではあったが、先回りして言うなら、彼女の成功は中途半端なものだった。これはおしゃれに関しては、二重の失敗ということではなかろうか。・・・(?)

同 もっとも有利な条件を持った人間、判事、すなわち家に出入りする親しい人間をとりあげてもらいたい。

→ その男が仮に、最も有利な条件のもとにある男、判事、すなわち裁判所の内情に精通した者であるとしよう。それでも

72上 司法の長は襲撃の的となるだろう。

→ 司法の長はあらゆる攻撃の的となるだろう。

同 特別、即座の面接の目的は、前から競争相手の手に握られていない場合、障害であり開くべき扉である、あの中間介在勢力のどれかの評価にゆだねられることになる。

→ 特別に急に面会を求める目的は何か、それがまず中間に存在する有力者の評価にゆだねられる。それは、あらかじめ自分のライバルの手に握られていない場合でさえも、一つの障害であり、開くべき扉となる。

同 ところが女は、これは他の女に会いに行く。

→ ところが女たちはというと、彼女たちはほかの女のもとに直接会いに行けるのである。

同 この婦人と、ある大臣が勘定をつけねばならないことになっていた。

→ そして、ある大臣は、この夫人の言いなりになるのだ。

同 国王シャルル十世の旧侍従長

→ 国王シャルル十世の大奥の元の侍従長

73下 ディアーヌ

→ ディアーヌ(モーフリーズ公爵夫人)

75下 人間が楽しみのために首をくくるなんて滅多にないことです

→ 誰も好き好んで首をくくらないものです

同 時にとっての作り顔

→ うわべを繕った深刻そうな顔

76下 素馳っこさ

→ 素馳っこさ(すばしっこさ)

77下 確かにこの二日間は、一生のあいだ、ものを言いますわ。

→きっとこの二日間は人生の中の大切な日になると思いますわ。

78上 破滅するというのは、立派なことよ

→自分を見失うのは素敵なことなのよ

同 私たちより、負ける機会がずっと多いわけですもの

→ 私たちより、殿方の誘惑に負ける機会がずっと多いわけですもの

78下 この最後の言葉は女のすべて、時代と国のいかんを問わぬ女というものだった。

→ この最後の言葉は、すべての女、時代と国のいかんを問わぬすべて女を象徴していた。

同 凡庸な男を出世させるということ、これは女にとっても国王にとっても、あれほど多くの名優を誘惑する、根本がどこにあるかといえば、一つの愚作を何度でも演じてみせるということに存する快楽を、われとわが身に与えることである。利己主義の陶酔である。

→ 凡庸な男を出世させるということ、それは女にとっても国王にとっても、大きな喜びである。この喜びは、俳優にとっては一つの愚作を百度でも上演してみせることであり、非常に多くの名優を引きつける。それは、まさにエゴイズムの陶酔である。

79上 つきつめれば、まあ権能のどんちゃん騒ぎのお祭りと言ったところだ。

→ それは一種の権力の乱用である。

83下 足踏まえのある

→足まである長い

同 朝着のズボン

→ モーニングのズボン

84上 あの方にお見せする手紙なり、いや、これは、一面、私から内閣議長にお返しできるようなものがいいのですが、でなきゃ、非常に押しのきく紹介者が私に必要なので・・・。

→ あの方にお見せする手紙か、非常に押しのきく紹介者が私には必要なのです。手紙はあとで私から国務院議長にお返ししておきます。

同 アンリ・ド・ルノンクール

→ アンリ・ド・ルノンクール・ショーリュー公爵

同 かくて、社会の上下において一つに結びあった雑多な利害が、ことごとく必要にみちびかれ、司直はグランヴィル氏、家庭はコランタン、それから、この恐るべき相手を向こうに廻して、粗野な精力の形で社会悪を形象するジャック・コラン、というこの三人の人間を代表して、検事長室で相会することになった。

→ かくして、社会の最下層から最上層まで様々な利害が複雑に絡み合った揚げ句に、その全てがやむを得ず、検事長室で衝突することになった。その利害を代表するのは、司直を代表するグランヴィル氏、家庭を代表するコランタン、そしてこの二人が対決する恐るべき相手、野蛮なエネルギーによって社会悪を代表するジャック・コランである。

85上 牢獄と黠詐(かつさ)を敵として結集された司直と自由裁量の決闘とはまたなんたる決闘だろう。牢獄、それは打算と熟慮を無に帰し、いかなる手段をもよしとし、肆意に具わる偽善を持たず、すき腹の利益と、飢餓の血なまぐさく、迅速な抗議を醜怪な姿で象徴する大胆さの象徴である。

→ 牢獄と狡猾、それに対する司法と高圧的な正義、この両者の間で行われる決闘とは、なんたる決闘であろう。牢獄、それは大胆さの象徴である。この大胆さは、反省も熟慮も捨て去り、どんな手段も正当化し、高圧的な正義に具わる偽善を持たず、空き腹の利益を醜怪な形で表現している。この大胆さこそは、飢餓がひき起こすてっとり早い血まみれの抗議である。

同 可能なかぎり狭隘な空間の中にぶちまけられた社会状態と自然状態の恐るべき問題ではなかろうか。

→極めて狭隘な空間の中で繰り広げられる自然状態と社会状態との恐ろしい争いではなかろうか。

同 要するに、あまり弱い権力の代表者が粗野な暴徒に対して行う反社会的な妥協の、恐るべき、生ける絵姿であった。

→ 結局これは、力を持たない権力の代表者が野蛮な暴徒の代表者の前に膝を屈して、社会の利益に反して行った、恐ろしい妥協を生々しく描いたものである。

85下 ところでまた、この、裁判所の慣例に従っていうと、読み上げはこういう意味なのである。

→ しかもこの告知は、裁判所の慣例に従えば、次のような意味なのである。

同 カミュゾはちょっとある仕草をした。

→ カミュゾは会釈した。

86上 人間界の物事の上に神の手が重くのしかかって、高貴な心情に真っ向から切りつけるのを感じた裁判官は、ここの、この自分の机に向かって坐り、ひややかに、

→ 人間界の出来事の上に神の手が関っているのを感じ、またその神の手が高貴な精神の持ち主の上に直接関ってくるのを感じる裁判官が、この自分の机に向かってすわり、ひややかに、

同 法の庖丁で、ほんのつかの間、縫い合わされている二つの生存なのです。

→ 法という名のナイフが、皮肉にも、ほんのつかの間、縫い合わすことになる二つの生存なのです。

89上 小間物商の店

→古着屋

89下 そうするとわれわれは、徒刑囚だということを認めることになります。それではリュシアンの思い出をそこないましょう

→ それではわれわれは、彼を徒刑囚だと認めることになります。そんなことになれば、リュシアンの名声は台なしですよ。

91上 これがあなたにとって見せしめになるように願いますよ。

→ これはあなたにとっての戒めにしてください。

91下 それにしても、密房と私どもの間には隙間があります。

→ それにしても、独房と私たちとの間には距離がありすぎます。

92下 国内戦争

→内乱(フロンドの乱)

95上 もしわたしが物質主義者でなければ、私は私じゃありません。

→ もしもわたしが唯物主義者でなければ、私はもはや私ではなくなってしまうでしょう。

96上 審問官のような目

→取り調べ官の眼差し

同 この深い、完全な、司法官もよみがえらせられなかった個人性の放棄によって、この男の恐るべき言葉の立証ははっきり出来ていたため、

→ 司法官が掻き立てようとした自我を、この男は完全に心の底から放棄してしまったのである。それはこの男の恐るべき言葉に嘘のないことを明確に証明していた。そのため、

96下 ちょうど彼に生きることを妨げた連中は、男でも女でも、誰かれなく、憎悪の念をもって追いつめてやろうと思っているのと同じことで。

→ それは、わたしが、彼の人生の邪魔をした連中なら、男でも女でも、誰であろうと、憎悪の念をもって追いつめてやろうと思っているのと同じことなのです。

同 そんなことをすれば徒刑囚だなどということが、この私によってなんでしょう。

→ そんな気持の私にとって、一人の徒刑囚の命などどれほどの意味があるでしょう。

同 私の目から見た徒刑囚なんて者は、

→ 私の目から見れば徒刑囚の一人や二人は、

同 私はイタリアの山賊と同じで、敢為の人間です。

→ 私はイタリアの山賊と同じで、敢為(かんい、困難に屈せずやり通す)の人間です。

97下 両国では、われわれには魂が、何かあるものが、われわれのあとに生き残り、永久に生き永らえるわれわれの姿が、具わっていると思われているのです。

→ 両国の人たちは、われわれには魂か何かあるものが具わっていて、それがわれわれの姿となって、われわれのあとに生き残って永久に生き続ける、と思っているのです。

同 年鑑編纂者

→分析家

同 人の命を動揺させる人間どもに高い値段で償いをつけさせるのは、無神論者の国か哲学者の国です。

→ 人の命を損なった者に高い代償を払わせるのは、神を信じない国か哲学者の国です。

同 カルヴィ

→ テオドール・カルヴィ

98上 私は札をとりもどして、ふんぞりかえります。

→ 私は広げてしまったカードをとりあげて、胸の前に持つことにしましょう。

100下 御諚

→おことば

102下 刈られてしまった

→ギロチンにかかった

同 土砂をかけられた

→ 土砂を浴びせられた(断頭台で首を切られた、42頁)

103上 いかいこと

→とっても

102上 私の名付け子という触れこみで、自分のうちにいる

→ 私の名付け子という触れこみで、彼女(赤毛)のうちにいる

103下 あたしの名付け子

→ あたしの名付け子(プリュダンス=ユーロプ)

同 それから数分すると、赤毛が大喜びしたことには、一台の辻馬車の中にヨーロッパ、というかあるいは以前彼女がエステルに仕えていた時分の名を捨てさせるなら、プリュダンス・セルヴィアンとパカールと、ジャック・コランとその叔母とが勢ぞろいし、馬車は死神瞞しによってイヴリー番所まで行けと命令を与えられた。

→ それから数分すると、ヨーロッパ、あるいはエステルに仕えていた時の名をやめるなら、プリュダンス・セルヴィアンと、パカールとジャック・コランとその叔母が、一台の辻馬車の中に全員乗り込んだので、赤毛は大変喜んだ。そして馬車は死神瞞しの命令によってイヴリー門に向かって走り出した。

104上 ジャクリーヌ

→ ジャクリーヌ(コラン)

105上 莫連者

→ 莫連者(あばずれ女)

105下 おれはもっといいことをしてやる。

→ それだけじゃないぞ。

106上 その荷物の運搬についちゃ、嘲(警察)の同意がいりますよ。

→店の譲渡には、嘲(警察)の許可が要りますよ。

同 包みを

→ 金の包みを

106下 取り消し命令がないかどうかは、叔母御がそこで言うだろう。是非万事先を読んでもらいたい。

→ 命令の取り消しがないかどうかは、叔母御がそこで連絡する。あらゆる場合に備えておかないといけないからな。

107上 あいつを眠らせる必要があるんだ

→ あの女を眠らせる必要があるんだ

同 あれはいまから五日後には、逮捕されるはずだ

→ あの女(淋的、68頁参照)はいまから五日後には、逮捕されるはずだ

108下 「ほらこれで手紙三通」装束の裏に鋏のとどめの刃を入れるとすぐジャクリーヌはそう言った。

→ 「手紙三通はここにあるよ」自分の服の裏地にハサミを入れ終えるとジャクリーヌ・コランはそう言った。

109上 緊められちまえば

→ 緊められちまえば(刑務所に入れられたら)

同 クロッタ盗難事件

→ クロッタ盗難事件(31頁、41頁、64頁参照)

109下 パリーユリ町

→ ラ・バリーユリ通り

同 この肝をひやす階段を見て、ヴェルサイユ宮殿の階段をふさがんばかりだった扈従、冠り物、大きく張りでた裳に包まれたマリア・テレサの娘が、ここを通って行ったのだと考えると、心臓がしめつけられる。

→ この肝をひやす階段を見て、ヴェルサイユ宮殿の階段を扈従、冠り物、大きく張りでた裳でふさがんばかりにしたマリア・テレサの娘が、ここを通って行ったのだと考えると、心臓がしめつけられる。

110下 狼坊やはそこで叫び声を立てるのには、あまりにも強者すぎた。

→ 狼坊やはここで叫び声を立てるほど無能ではなかった。

同 なぜ検事長室へ行っちゃいけないんだ。

→ それより、検事長室へ行こうじゃないか。

116上 あんたの呼び名は『国家』だ。下男の呼び名が主人の名と同じなのと同じでね。

→ あんたは自分のことを「国家」と呼べばいい。これは、召使いが自分のことを主人の名前で呼ぶのと同じことですよ。

116下 それに、あの奥さんがたの手紙を全部私に返してくれられるのですか

→ それに、奥さんがたの手紙は全部私に渡してくれるのですね。

同 私はあれを、書いた人たちのために恥ずかしく思っています

→ 私はあんな手紙を書いた女たちが恥ずかしいですよ。

118下 私にかけられた鎖は、いつまでも私の全ての行為に極印を打つでしょう。どんな有徳な行為にしてもです。

→ 私にかけられた鎖は、私の全ての行為に永遠に前科者の刻印を打つことでしょう。それがどんな有徳な行為であろうと同じことです。

同 警戒心を保ちつづけ、この警戒心の正しいことを自分自身に証明して見せるために何でもやります。

→ 社会は前科者に対して警戒心を捨てません。そして、この警戒心の正しいことを自ら証明するためには何でもやりかねません。

119下 もしあなたが私の要求に応ぜられないのなら、私は自分で自分の頭に一発ぶっ込み、あなたのために邪魔な自分を片づけるのに必要な勇気や人生嫌悪よりもっと大きな勇気と人生嫌悪を持っております。・・・私は旅券をもってアメリカに渡り、孤独の中で暮らせます。私には、未開人を未開人たらしめる条件はすべて揃っています。

→ 万一あなたが私の要求を入れてくださらない時には、私は自分で自分の頭に一発ぶっ込み、邪魔な私をあなたの前から片づけるくらいの覚悟はあります。私はこの世には何の未練もありなせん。・・・なんなら、旅券をもってアメリカに渡って、孤独の中で暮らしてもいいのです。私には、未開人として暮らす条件はすべて揃っているのです。

121上 それはまたどうしてですか

→ どうすればいいのですか

同 あなたはカルヴィの死刑を軽減して・・・

→ あなたはカルヴィの死刑を軽減して・・・(97・98頁参照)

122下 私は、雇い人たちを問い詰められましたので 

→ 私は、雇い人たちを問い詰めることができましたので

123下 一揖(いちゆう)した

→ 一礼した

同 がこの事件の重要さとジャック・コランの告白の種類のために、彼は、セリジー夫人を治癒させるという約束を忘れていた。

→ しかし、この件の重要さとジャック・コランの告白の性質のために、彼はセリジー夫人を治すという約束(116・117頁)を実行させる件はすっかり忘れていた。

126上 そいつは運が強いね

→ そいつは危険だね

126下 別にそうするがものはないさ

→ それは簡単だ。

同 私はここでずっと臭いあらせいとうの中にいはしたけれど、時間を無駄にはしなかったよ

→ 私はこの花の中にずっといて時間を無駄にしていたわげではないのよ。

同 金髪マノン

→ 金髪マノン(54頁)

同 今夜はあたしたちのものだね

→ 今晩には見つかるね。

同 じゃ、たんまりあるんだろうね

→ じゃ、たんまり稼げるんだろうね

127上 はたらいてくれ

→ がんばろうぜ

128上 まあこういったものなのだ、これがおれたちの運命と、人民の運命を決める人間なんだ。

→ おれたちの運命と、国民の運命を決める人間とは、ここにいるこういう連中なんだ。

128下 検事長も大臣も、公爵夫人の手紙か、小娘どもの手紙か知らないが、思慮分別があったら、理性を欠くときよりかえって正気でないに違いない女の理性のために、揃ってめくらになって、何もかもねじ曲げちゃってる

→ たかが公爵夫人の手紙のために、たかが小娘の手紙のために、そして、正気を失っている時より正気でいるときの方がはるかにいかれている女を正気に戻すために、検事長と大臣が、揃いも揃って目が見えなくなって、そこら中をのたうち回っているのだ。

誤字脱字に気づいた方は是非教えて下さい。

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